連載「学びの意思決定——行動経済学・社会学・認知心理学から考える」全50回の第30回です。学習の仕方の目次を見る
図を描くと分かる、という経験は誰にでもあります。ただし、図なら何でもよいわけではありません。同じ図でも、置き方によっては理解を助けず、かえって邪魔をします。認知心理学は、この「助ける図」と「邪魔する図」の境目を、かなり具体的に示してきました。
第3ブロックの最後に、図と言葉の組み合わせ方を扱います。ここまで扱ってきた容量の制限、深い処理、手がかりの設計が、すべてこの主題に集まります。
要点(結論から)
- 人は、絵の情報と言語の情報を、別々の系統で処理していると考えられている。
- それぞれの系統は、一度に処理できる量に限界を持つ。第21回で扱った容量の制限が、両方に当てはまる。
- 意味のある学習は、図と言葉の表象を結びつける能動的な処理を含む。
結論——図と言葉は別の経路。だから組み合わせると強い
- 人は、絵の情報と言語の情報を、別々の系統で処理していると考えられている。
- それぞれの系統は、一度に処理できる量に限界を持つ。第21回で扱った容量の制限が、両方に当てはまる。
- 意味のある学習は、図と言葉の表象を結びつける能動的な処理を含む。
- したがって、図と言葉を併用すると有利になるのは、両者が結びつく形になっているときに限られる。
- 実務的には、図と説明を離さない・重複させすぎない・自分で描くの3点が要点になる。
理由——2つの経路という考え方
二重符号化
パイヴィオは、言語的な表象と非言語的(イメージ的)な表象を区別し、両者が相互に結びつきながら認知を支えるという理論を提示しました。
Paivio A. Dual coding theory: Retrospect and current status. Canadian Journal of Psychology. 1991;45(3):255-287.
この枠組みの実務的な含意は明快です。同じ内容を2つの形式で符号化しておけば、取り出す経路が2本になる。片方から出てこなくても、もう片方から出てくる可能性があります。第24回で扱った手がかりの話と直接つながります。
ただし、両方の経路に容量の限界がある
メイヤーとモレノは、マルチメディア学習の理論を3つの仮定にまとめました。図と言語で別々の処理系を持つこと(二重チャネル)、各チャネルが一度に処理できる量には限界があること、そして意味のある学習は両者を結びつける能動的な処理を含むことです。
Mayer RE, Moreno R. Nine Ways to Reduce Cognitive Load in Multimedia Learning. Educational Psychologist. 2003;38(1):43-52.
3つ目の仮定が重要です。図と言葉を並べただけでは足りません。結びつける処理が起きて初めて、学習になります。そして、その処理にも容量が要ります。
ここから、図が邪魔になる条件が導けます。図と説明が離れていると、視線を往復させながら両方を保持する必要が生じます。保持に容量を使えば、結びつける処理に回す分が減ります。
具体例——効く図と、効かない図
| 形 | 何が起きるか | 評価 |
|---|---|---|
| 図の隣に短い説明がある | 視線の往復が少なく、結びつけやすい | 効く |
| 図が前頁、説明が次頁 | 保持に容量を使う | 効きにくい |
| 図の内容を、文章がそのまま繰り返す | 同じ情報を二重に処理する | 無駄が生じる |
| 装飾的な挿絵 | 内容と関係のない処理が起きる | 邪魔になりうる |
| 自分で描いた図 | 生成の作業が伴う | 効く |
最後の行が、実務的には最も重要です。与えられた図を眺めるのと、自分で描くのとでは、起きている処理が違います。第29回で扱った生成効果が、ここでも働きます。
今日からできること
- 説明を読んだら、図を自分で描く。 正確である必要はありません。関係が表れていれば足ります。
- 図には、その場で短い言葉を書き込む。 図と言葉を離さないための最も簡単な方法です。
- 図と文章が同じ内容なら、片方でよい。 二重に処理する必要はありません。
- 装飾的な図に時間をかけない。 色分けやイラストは、内容と対応していなければ処理の負担になります。
- 覚えたい事項を、図の位置と対応づける。 位置は取り出しの手がかりになります。
学年で変えるところ
- 小学生——文章題では、図を描くこと自体を手順として教えます。描ければ解けることが多くあります。
- 中学生——理科と社会で図表が増えます。教科書の図を写すのではなく、見ずに描いてみる練習が効きます。
- 高校生——抽象度が上がり、図にしにくい内容も増えます。それでも、関係を線で結ぶ程度の図なら描けます。
どういう図を描けばよいのか
「図にしてみて」と言われて手が止まる生徒は多くいます。描き方に型があることを知らないためです。実際には、勉強で使う図はいくつかの型に限られます。
- 量を表す図。 線分図、面積図、グラフ。数量の関係を空間に置き換えます。文章題で最も使われる型です。
- 順序を表す図。 矢印でつなぐ流れ図。手順、因果、時系列。社会や理科で有効です。
- 分類を表す図。 枠で囲む、階層に並べる。用語の整理に向きます。
- 対応を表す図。 2つの列を線で結ぶ。英語の構造、対比の構造に使えます。
この4つを知っているだけで、たいていの内容は図にできます。逆に、型を知らないまま「自由に描いて」と言われると、装飾的な絵になりがちです。
選び方の目安は、扱っている関係が何かを考えることです。数量なら1、流れなら2、まとまりなら3、対応なら4。迷ったら、まず2の矢印で書いてみると、たいていの関係は表せます。
図から言葉へ、言葉から図へ
2つの経路を使うということは、往復ができるということでもあります。そして往復の両方向に、それぞれ別の効果があります。
言葉から図への変換は、関係の把握を要求します。どの要素がどう結びついているかを決めないと、線が引けません。理解の確認としては、こちらが厳しい方向です。
図から言葉への変換は、説明の練習になります。グラフや図表を見て、何が起きているかを文で言う。入試でも問われる形式であり、第29回の生成の観点からも有効です。
実務的には、両方向を使います。教科書の説明を図にする。次に、その図を見ずに説明し直す。この往復で、2つの経路が互いの手がかりになります。片方が出てこないとき、もう片方から辿れる状態が作れます。
試験の場面でも、この往復は使えます。思い出せない内容があるとき、言葉で探すのをやめて、図の形を思い出そうとする。位置や形は、言語とは別の手がかりとして残っていることがあります。
自分で描く図が効く理由
与えられた図を見るとき、私たちは完成した関係を受け取っています。受け取るだけなら、処理は浅くて済みます。一方、自分で描くには、何と何が関係しているかを決める必要があります。
この「決める」作業が、第25回で扱った意味に関わる処理そのものです。どの要素を入れ、どれを省き、どう並べるか。判断が入るぶん、処理は深くなります。
加えて、描けない箇所がその場で分かります。関係が理解できていなければ、線が引けません。文章を読んでいるときには気づかない不明点が、図にしようとすると見つかる。第29回で述べた説明の効果と同じ構造です。
図の出来栄えは問題になりません。人に見せるためのものではないからです。きれいに描こうとして時間をかけるのは、装飾に容量を使うことになり、目的から外れます。
ノートの取り方への含意
この回の知見は、ノートの取り方に直接効きます。板書を写すだけの作業は、多くの場合、言語の経路だけを使い、しかも浅い処理で済んでしまいます。
改善は難しくありません。写したあと、余白に図を1つ描く。 関係が線で表せるなら、それで十分です。時間は1分もかかりません。
もう一つ有効なのは、図と言葉を同じページに置くことです。教科書の図をノートに写す際、説明を別のページに書くと、後で見返したときに往復が発生します。同じ面に置いておけば、結びつけやすくなります。
なお、手書きとタイピングの比較については別の研究群があり、結論は単純ではありません。ここで述べているのは形式の優劣ではなく、図と言葉の両方を使い、かつ結びつけるという点です。
第3ブロックのまとめ——10回は1つの手順に収束する
ここで第3ブロックを閉じます。10回で扱ったのは、容量の制限、切り替えの費用、まとまりの形成、手がかりの一致、処理の深さ、位置の効果、干渉、既有知識、生成、そして図と言葉でした。
数が多く見えますが、実務に落とすと重なります。次の1つの手順が、複数の原則を同時に満たします。
- 範囲全体から、できなかった項目を選ぶ(第27回の干渉対策)。
- 答えを見る前に、白紙に自分の言葉で書く(第29回の生成、第24回の手がかり、第25回の深い処理)。
- 関係を図にして、言葉を書き込む(第30回の二重符号化)。
- 区切って、最後は確実にできることで終える(第26回の位置、第9回の終わり方)。
原則の数だけ作業を増やす必要はありません。一つの練習の形を整えるだけで、複数の原則が同時に働きます。逆に言えば、この形から外れた練習——眺める、写す、解説を先に読む——は、複数の原則を同時に外していることになります。
よくある失敗——色とレイアウトに時間をかける
ノートを美しく作ることに時間をかける生徒は少なくありません。色分けは、内容の区別と対応していれば有効ですが、多くの場合は装飾に近くなります。
判定は簡単です。その色分けに規則があるか。 「定義は青、例は緑」のように規則があれば、色は情報になります。規則がなく、見た目のために使われているなら、処理の負担を増やしているだけです。
同じことが、図の装飾にも当てはまります。内容と関係のない絵や飾りは、そこに注意を引きつけます。注意が向けば容量を使い、その分だけ本体の処理に回せる量が減ります。
保護者ができること——「図にしてみて」と言う
内容が分からなくても使える介入があります。図を描かせることです。
- 「図にするとどうなる?」と聞く。 描ければ理解しています。描けなければ、そこが不明点です。
- 絵の上手さに触れない。 目的は表現ではなく関係の把握です。
- 描いた図を説明させる。 図と言葉を結びつける作業になります。
3つ目が特に有効です。図を描き、それについて話す。この2つが組み合わさると、2つの経路が同時に使われ、しかも結びつける処理が起きます。
「図が得意な人」という話ではない
図と言葉の話をすると、しばしば学習スタイルの議論と混同されます。「視覚型の人は図で、聴覚型の人は音で学ぶべきだ」という考え方です。この主張には検証上の問題が多く指摘されてきました。
ここで述べているのは、別の話です。誰にとっても、図と言葉の両方を使い、結びつけるほうが有利になりうるという主張です。個人の型に合わせて片方を選ぶのではなく、両方を使います。
この区別は実務的にも意味があります。「自分は図が苦手だから文章で覚える」という判断は、使える経路を1本に減らします。苦手だと感じるのは、多くの場合、図の型を知らないだけです。前述の4つの型を知っていれば、描けるようになります。
歴史の流れを整理するとき——図の置き方で理解が変わる
図と言葉を組み合わせるという考え方は、歴史の流れを整理するときにも当てはまります。年表を眺めるだけでは出来事の並びは追えても、それぞれの関係は見えにくいことがあります。そこに簡単な図を添えると、対立や連鎖の形がつかみやすくなることがあります。
たとえばある時代の出来事をまとめる場面を考えます。人物と出来事を線で結ぶ、勢力の広がりを矢印で示す、変化の前後を左右に並べる。こうした図は、言葉だけで書かれた説明を補う役割を果たします。図を見ながら説明を読むと、同じ文章でも頭に入りやすくなることがあります。
また、図から言葉へ戻る向きも助けになります。自分で描いた図を見ながら、その内容を文章で説明してみる。この往復は、理解の抜けを見つける手がかりになることがあります。図を描くこと自体が目的ではなく、言葉との行き来を通して内容を確かめる作業だと考えられます。
図を描くことに時間を取られる——描くことが目的になる
図を描くという工夫は、実行の段になると、時間の使い方でつまずきやすいものです。きれいにまとめようとするほど、内容の理解から離れ、見た目の整えに意識が向いてしまいます。結果として、図はできたのに内容が残っていないという場面が生じます。
たとえば理科の単元をまとめる場面を考えます。色分けや配置にこだわっているうちに、肝心の仕組みを確認する時間が削られてしまいます。ノートが整っていく達成感はありますが、その達成感が理解の深まりと一致しているとは限りません。整った図ほど、見返すときに内容を思い出しにくいこともあります。
また、図を描く対象を広げすぎると、どの単元でも同じ作業を繰り返すことになり、負担が大きくなります。すべてを図にするのではなく、言葉だけでは追いにくい箇所に絞るほうが続けやすいと考えられます。描く前に、何を確かめたいのかを一言で決めておくことが助けになることがあります。
この記事で言えないこと
マルチメディア学習の研究は、教材の設計を対象としたものが中心です。生徒が自分でノートに図を描く場面に、同じ原則がそのまま当てはまるかは、直接には検証されていません。ここでの記述は、理論からの妥当な展開であって、直接の実験結果ではありません。
また、二重符号化の理論には、表象の性質をめぐる長い論争があります。図と言葉が本当に別系統なのかについては、異なる立場も存在します。実務的な指針としての有効性と、理論としての決着は、別の問題です。
当塾の立場
自分で図を描く、図に言葉を書き込む、描いた図を説明する。いずれも紙と鉛筆だけでできます。
武蔵野個別指導塾で多く使う指示は「図にしてみて」です。解法を説明する前に、まず本人に関係を描かせます。描けない箇所が、指導すべき地点になります。第29回で述べたとおり、先に説明してしまうと、この情報が得られません。そして描けたときには、多くの場合、説明を足さなくても解けます。
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出典
- Paivio A. Dual coding theory: Retrospect and current status. Canadian Journal of Psychology. 1991;45(3):255-287.
- Mayer RE, Moreno R. Nine Ways to Reduce Cognitive Load in Multimedia Learning. Educational Psychologist. 2003;38(1):43-52.

