連載「学びの意思決定——行動経済学・社会学・認知心理学から考える」全50回の第18回です。学習の仕方の目次を見る
「上の子は手がかからなかったのに、下の子は全然違う」。きょうだいの違いは、どの家庭でも話題になります。そして「きょうだいが多いと1人あたりにかけられる資源が減る」という説明も、広く受け入れられています。
ところが、ノルウェーの全人口データを使った研究は、この通説に修正を迫りました。きょうだい数と学歴には負の相関がある。しかし出生順を考慮に入れると、きょうだい数の効果はごくわずかになる。効いていたのは、人数ではなく順番だったということです。
要点(結論から)
- きょうだい数と子どもの学歴には負の相関がある。しかし相関は因果ではない。
- 出生順を統制する、あるいは双子の出生を操作変数として使うと、きょうだい数の効果はごくわずかになる。
- 一方、出生順そのものには有意な効果が残った。
結論——効いているのは「人数」より「順番」だった
- きょうだい数と子どもの学歴には負の相関がある。しかし相関は因果ではない。
- 出生順を統制する、あるいは双子の出生を操作変数として使うと、きょうだい数の効果はごくわずかになる。
- 一方、出生順そのものには有意な効果が残った。
- パーソナリティへの出生順の影響については、大規模なデータを用いた検討が行われている。通説ほど単純ではない。
- 家庭での含意は、人数を嘆くことではなく、下の子に対して省略されがちな手順を意識的に補うことである。
理由——相関が消えるまでの手順
まず相関がある
ブラックらは、ノルウェーの全人口を長期にわたってカバーするデータを用いて、家族の人数と出生順が子どもの学歴に与える影響を分析しました。
Black SE, Devereux PJ, Salvanes KG. The More the Merrier? The Effect of Family Size and Birth Order on Children’s Education. The Quarterly Journal of Economics. 2005;120(2):669-700.
出発点は、よく知られた相関です。きょうだいが多い家庭の子どもほど、学歴が低い傾向がありました。ここまでは通説どおりです。
ところが、統制すると消える
問題は、この相関が何を意味するかです。きょうだいが多い家庭は、他の面でも平均的な家庭と異なります。そして、きょうだいが多ければ、後から生まれる子の割合も自然に高くなります。
そこで著者らは、出生順の指標を入れ、さらに双子の出生を操作変数として用いました。双子が生まれると、家族の人数は親の意図とは無関係に増えます。この偶然を使うと、人数の効果だけを取り出せます。
結果、家族の人数の効果は無視できる程度まで小さくなりました。代わりに、出生順が有意な効果を持っていました。つまり、もともとの相関の多くは、人数そのものではなく、後から生まれた子の比率が高いことによって生じていたことになります。
性格についてはどうか
出生順といえば、「長子は責任感が強い」「末子は社交的」といった性格の話が定番です。この点について、ローラーらは大規模なデータを用いて出生順とパーソナリティの関係を検討しています。
Rohrer JM, Egloff B, Schmukle SC. Examining the effects of birth order on personality. Proceedings of the National Academy of Sciences. 2015;112(46):14224-14229.
この系統の研究が示してきたのは、性格に関する通説の多くが、家庭内の比較——同じ家の中で「上の子は〜」と語る習慣——に由来している可能性です。異なる家庭を横断して大規模に比較すると、期待されるほど明確な差は得られにくくなります。
具体例——下の子に何が省略されるのか
出生順に効果があるとして、その経路は何でしょうか。家庭の実感としては、次のような違いが挙がります。
| 場面 | 第一子のとき | 下の子のとき |
|---|---|---|
| 学習習慣の導入 | 手順を一から一緒に作る | 「見て覚えるだろう」と省略されやすい |
| 質問への対応 | 時間をかけて説明する | 上の子に任せることが増える |
| 進路の情報 | 一から調べる | 上の子の経験を流用する |
| 期待の伝え方 | 明示的に伝える | 比較の形で伝わりやすい |
4行目には注意が要ります。「お兄ちゃんはできたのに」という言い方は、期待を伝えているつもりで、第14回で扱ったラベルを貼っています。しかも、比較の基準が家庭内に固定されるため、第15回で扱った自己評価の問題も同時に起こります。
今日からできること
- 下の子にも、手順を一から教える。 見て覚えているように見えても、実際には手順の細部は伝わっていません。
- 進路の情報を、その子のために調べ直す。 制度は数年で変わります。上の子のときの情報は、そのままでは使えないことがあります。
- きょうだいを比較する言葉を使わない。 事実として学力差があっても、それを比較の形で言う必要はありません。
- 上の子に教える役を固定しない。 一時的には有効ですが、上の子の学習時間を削ります。役割ではなく、たまの手助けにとどめます。
- 1人ずつと話す時間を作る。 短くて構いません。きょうだいがいる場では話せないことがあります。
学年で変えるところ
- 小学生——学習習慣の導入が最も省略されやすい時期です。上の子のときと同じ手間をかける価値があります。
- 中学生——上の子と同じ学校・同じ教師という状況が生じます。先入観が持ち込まれやすいので、面談で「この子について」と明示的に話す価値があります。
- 高校生——進路の情報を流用しがちな時期です。入試制度は変わるため、一次情報での確認が必要になります。
双子を使う、という発想
この研究で使われた手法は、教育研究の読み方を学ぶうえで良い例になります。知りたいのは「きょうだいの人数が学歴に与える影響」ですが、人数は家庭が選んでいるので、人数の多い家庭と少ない家庭は他の面でも違います。単純に比べると、人数以外の違いが混ざります。
そこで使われたのが、双子の出生です。双子が生まれると、家族の人数は親の計画とは無関係に1人増えます。この「偶然の増加」を利用すれば、人数だけが違う比較に近づけます。
こうした工夫は、教育の実験ができない場面で広く使われています。無作為に生徒を割り当てることは、多くの場合できません。だから研究者は、制度の変更、抽選、地理的な境界、偶然の出来事といった自然に生じた無作為性を探します。
読み手として覚えておくとよいのは、次の一点です。ある主張を読んだとき、その研究は何を比べたのかを確認する。比較の相手がはっきりしていない主張は、相関の言い換えであることが多い。第6回でメタ分析の読み方に触れましたが、個々の研究についても同じ点検が効きます。
家庭内の資源は、時間と注意である
出生順の効果を説明する仮説の一つは、家庭内の資源配分です。ここでいう資源は、主に親の時間と注意を指します。金銭は分け合えますが、時間は同時に2人に使えません。
この見方に立つと、家庭でできることがはっきりします。総量を増やすのは難しくても、配分は調整できます。実務的には、次の形が現実的です。
- 短い時間を、確実に1人ずつに割り当てる。 長い時間をまとめて取るより、10分を確実に確保するほうが続きます。
- 学習の場面で、同時に2人を見ない。 同時に見ると、質問の多い側に時間が寄ります。曜日や時間帯を分けます。
- 情報は、その子のために取り直す。 進路や制度の情報は、共有できるように見えて、実際には対象によって変わります。
いずれも、きょうだいの人数を変えることはできないという前提のうえで、配分だけを動かす工夫です。ブラックらの結果が示したのは、人数そのものの効果は小さいということでした。だとすれば、注目すべきは配分のほうになります。
なぜ「相関が消える」話が大事なのか
この回は、結論そのものより方法が重要です。相関があることと原因であることは違う。この違いを飛ばすと、家庭の判断が誤った方向に向かいます。
たとえば「きょうだいが多いと学力が下がる」という相関だけを見ると、人数についてどうにもならない悩みが生まれます。しかし、統制した結果が示したのは、人数そのものの効果は小さいということでした。悩む対象が変われば、打てる手も変わります。
同じ構造は、教育の話題のあちこちにあります。「習い事をしている子は成績が良い」「朝食を食べる子は成績が良い」。いずれも相関としては観測されますが、家庭の他の条件を反映している部分が大きい。第6回でも触れたとおり、数字を見たら「何と比べたのか」「他に何を統制したのか」を確認する習慣が、判断の精度を上げます。
よくある失敗——順番を性格の説明に使う
出生順に効果があるという結果は、「長子だから責任感がある」という説明を裏づけるものではありません。研究が扱っているのは、平均としての学歴や特性の差であり、目の前の子どもの性格を説明するものではありません。
家庭内で出生順を性格の説明に使うと、第14回で扱ったラベルとして働きます。「下の子だから甘えん坊」という説明は、行動の原因を変えられないものに置きます。変えられないものに原因を置くと、対処が消えます。
使い方としては逆で、省略されやすい手順を思い出すためのチェックリストとして使うのが適切です。「この子には、上の子のときにやった説明をしただろうか」。この確認だけで十分です。
保護者ができること——「1人目として」扱う場面を作る
下の子に省略が起きるのは、親の愛情の問題ではありません。経験があるぶん、手順を飛ばせてしまうという構造の問題です。したがって、意識的に補うしかありません。
- 学習の手順を、その子と一緒に作り直す。 上の子の方法をそのまま渡さず、白紙から作ります。同じ結論になっても、作る過程に意味があります。
- 進路の相談を、別の機会に行う。 きょうだいをまとめて話すと、比較が前提になります。
- 上の子の記録を、下の子の基準にしない。 同じ時期に同じ点数である必要はありません。比較の基準は、その子自身の過去に置きます。
そして、上の子についても一点あります。きょうだいの面倒を見る役割が固定されると、自分の学習時間が削られます。手伝ってくれたことに対しては、役割としてではなく、その都度の行為として扱うほうが公平です。
加えて、この回の知見は「一人っ子のほうが有利」という主張でもありません。人数の効果が小さいという結果は、多い側にも少ない側にも同じように当てはまります。きょうだいの有無は、学習の条件としては大きな要因ではない、というのがここでの読み方です。家庭の中で実際に差を作っているのは、手順を教えたかどうか、情報を取り直したかどうかという、日々の作業の側にあります。
転校や習い事の途中入会でも同じことが起きる——順番が資源を分ける
きょうだいの順番をめぐる見方は、家族の中だけに閉じた話ではありません。転校してきた生徒、途中から入会した習い事のクラス、新しく加わった部活動のメンバー。あとから加わる立場には、最初からいる立場とは違う条件が重なります。前の場で身につけたやり方が通用しないこともあれば、説明を省かれて当然のように扱われることもあります。
たとえば、転校してきた生徒が新しい学校の英語の授業を受ける場面を思い浮かべてください。前の学校では当たり前に使っていた単語帳の使い方が、今の学校では別のやり方に置き換わっていることがあります。周囲はすでにそのやり方に慣れているため、説明は省略されがちです。ここで起きているのは、能力の差ではなく、前提の共有が遅れて始まったことによる差だと考えられます。
この見方は、家庭内の役割を考えるときにも当てはまります。上の子が最初に経験した手順は、下の子にはすでに整えられた状態で渡されます。逆に、下の子が最初に経験する場面は、上の子にはなかったものです。順番そのものが何かを決めるというより、どの時点で何が省略されたかに目を向けると、見え方が変わってきます。
順番を理由に説明が止まる——きょうだい差を一言で片づける
この記事の考え方を家庭で使おうとすると、途中でつまずくことがあります。下の子の様子を見て「下の子だから仕方ない」と口にした瞬間、その先の観察が止まってしまうのです。順番は説明の出発点にはなりますが、説明の終点にしてしまうと、目の前の具体的な困りごとが見えにくくなります。
つまずきは、机の上にも現れます。下の子が算数の宿題でつまずいているとき、上の子が使っていた教材をそのまま渡しても、同じようには進まないことがあります。上の子が最初に経験した試行錯誤の過程が、下の子には省略されているためです。同じ教材でも、そこに至るまでの道のりが違えば、必要な手助けも変わってきます。
避けたいのは、順番を性格の説明に使ってしまうことです。「上の子は慎重」「下の子は大胆」といった言い方が、その子の実際の行動を覆い隠してしまうことがあります。順番から予想される姿と、目の前の姿が食い違ったときこそ、観察をやり直す合図だと考えられます。予想を手放して、その子が何を経験してきたかに目を向けると、見え方が変わってきます。
この記事で言えないこと
ブラックらの研究はノルウェーのデータに基づいています。教育制度も家族の形も異なる日本に、同じ大きさの効果が当てはまる保証はありません。特に、出生順の効果の経路(親の時間配分、家庭内の資源、教育費)は社会によって異なります。
また、平均としての効果は、個々の家庭の判断材料としては弱いものです。出生順の効果が統計的に有意であっても、個人差のほうがはるかに大きい。ここで示したのは、家庭の中で起きやすい省略に気づくための視点であって、子どもの見立てを決める材料ではありません。
当塾の立場
手順を一から教え直す、比較の言葉を使わない、1人ずつ話す時間を作る。いずれも家庭でできます。
武蔵野個別指導塾では、きょうだいで通っている場合でも、記録と指導方針を完全に分けています。上の子の情報を下の子の前提にしないためです。同じ家庭でも、つまずく場所も、必要な手順も違います。「上の子はこうだったから」という説明を、指導の側が持ち込まないようにしています。
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出典
- Black SE, Devereux PJ, Salvanes KG. The More the Merrier? The Effect of Family Size and Birth Order on Children’s Education. The Quarterly Journal of Economics. 2005;120(2):669-700.
- Rohrer JM, Egloff B, Schmukle SC. Examining the effects of birth order on personality. Proceedings of the National Academy of Sciences. 2015;112(46):14224-14229.

