連載「学びの意思決定——行動経済学・社会学・認知心理学から考える」全50回の第17回です。学習の仕方の目次を見る
「友達に影響されて勉強しなくなった」「良い環境に入れば変わる」。周囲の影響については誰もが何かを信じていますが、実際に測るのは難しい仕事です。仲の良い者どうしは元々似ているので、影響なのか、似た者が集まっただけなのかを区別できないからです。
そこで研究者は、人が無作為に割り当てられる場面を探しました。そして得られた結果は、二つの意味で意外でした。ピア効果は確かに存在する。しかし、その知識を使って「最適な集団」を設計した実験は、助けようとした相手の成績を下げたのです。
要点(結論から)
- ルームメイトが無作為に割り当てられる環境では、学業上の努力の水準に周囲の影響が見られた。
- 一方、専攻の選択のような大きな決定には、同じ影響は見られなかった。効くところと効かないところがある。
- 過去のデータから推定した効果に基づいて最適な集団を設計した実験では、対象とした学生の成績が下がった。
結論——影響はある。ただし、設計して狙うと外れる
- ルームメイトが無作為に割り当てられる環境では、学業上の努力の水準に周囲の影響が見られた。
- 一方、専攻の選択のような大きな決定には、同じ影響は見られなかった。効くところと効かないところがある。
- 過去のデータから推定した効果に基づいて最適な集団を設計した実験では、対象とした学生の成績が下がった。
- 理由は、設計された集団の中で学生が意図された相手を避け、より同質な小集団を作ったことにあった。
- 実務的な含意は、集団を上から設計するより、本人が誰と過ごすかを自分で選べるようにするほうが確実だということである。
理由——無作為割当が可能にした測定
ルームメイトを無作為に決める大学
サセルドーテは、新入生のルームメイトが無作為に割り当てられる大学のデータを使い、ピア効果を推定しました。誰と同室になるかが偶然で決まるため、結果の差を影響として読むことができます。
Sacerdote B. Peer Effects with Random Assignment: Results for Dartmouth Roommates. The Quarterly Journal of Economics. 2001;116(2):681-704.
結果として、学業上の努力の水準や、社交団体への加入といった行動には、はっきりした影響が見られました。一方で、専攻の選択のような大きな決定には影響が見られませんでした。
この対比は実務的に重要です。日々の行動——どれくらい勉強するか、どこで過ごすか——は周囲に強く引かれます。しかし、人生の方向を決めるような選択は、同室者の影響では動かない。周囲の影響を心配するとき、どちらの話をしているのかを区別する価値があります。
「最適な集団」を設計したら、逆効果だった
次の研究が、この分野で最も示唆に富みます。キャレルらは、士官学校の新入生を対象に、過去の無作為割当データから推定した非線形のピア効果を使って、学力下位の学生の成績が最大になるように集団を設計しました。
Carrell SE, Sacerdote B, West JE. From Natural Variation to Optimal Policy? The Importance of Endogenous Peer Group Formation. Econometrica. 2013;81(3):855-882.
結果は、助けようとした学生に対して負で有意な効果でした。設計は裏目に出ました。
著者らが示した理由は明快です。設計された集団の中で、学生たちは意図された相手との交流を避け、より同質な小集団を自分たちで作りました。上から与えられた集団の構成は、実際に誰と過ごすかを決められなかったのです。
この結果は、教育政策だけでなく、家庭の判断にも効きます。「良い集団に入れれば良い影響を受ける」という前提は、集団の中で本人が誰と過ごすかを決めているという事実を飛ばしています。
具体例——環境を変えるとき、何が変わるのか
| 変えられるもの | 実際に効きやすいか | 注意点 |
|---|---|---|
| 所属する集団(学校・クラス) | 間接的 | 中で誰と過ごすかは本人が決める |
| 一緒に勉強する相手 | 直接的 | 本人が選べる。数人で足りる |
| 過ごす場所 | 直接的 | 自習室、図書館など。第7回の環境設計と同じ |
| 行動が見える範囲 | 強い | 誰に見られているかで行動が変わる(第20回で扱う) |
上から与えられる1行目より、本人が選べる2行目と3行目のほうが確実に効きます。キャレルらの結果は、1行目だけを操作することの限界を示しています。
今日からできること
- 一緒に勉強する相手を1人だけ決める。 多くは要りません。同じ時間に同じ場所にいる相手が1人いれば、行動は安定します。
- 相手は「同じ努力の水準」で選ぶ。 学力ではありません。サセルドーテの結果で影響が出たのは、努力の水準でした。
- 場所を共有する。 会話を共有する必要はありません。同じ自習室にいるだけで行動は引かれます。
- 進路の決定は、周囲と切り離して考える。 大きな選択に周囲の影響が出にくいという結果は、裏を返せば「友達が行くから」で決めるのは例外的な判断だということです。
- 合わないと感じたら、集団ではなく相手を替える。 学校やクラスは替えにくくても、誰と過ごすかは調整できます。
学年で変えるところ
- 小学生——遊びと学習の相手が同じであることが多い時期です。切り分けるより、学習の場面を短く区切って作るほうが現実的です。
- 中学生——努力を見せることへの抵抗が強くなります。この点は第20回で詳しく扱います。相手選びは、この抵抗の少ない相手を探す作業でもあります。
- 高校生——自習室や図書館など、場所を選べる自由度が上がります。誰と過ごすかを自分で設計できる時期です。
「影響」と「似た者が集まっただけ」を区別する
ピア効果の研究が無作為割当にこだわるのは、日常の観察では影響と選択を区別できないからです。勉強する生徒どうしが友人になるのか、友人だから勉強するようになるのか。観察からはどちらとも言えません。
この区別は、家庭の判断にも直接効きます。「あの子と付き合うようになってから成績が下がった」という観察は、ほとんどの場合、時間の前後関係しか示していません。成績が下がった時期に、居心地のよい相手が変わった、という順序もありえます。
実務的には、原因を特定しようとするより、いま何が起きているかを行動で捉えるほうが早い。何時間机に向かっているか、どの教科が止まっているか、提出物が出ているか。これらは測れます。測れるものを測って対処するほうが、原因の特定を待つより確実です。
また、影響が実在する場合でも、それは一方向ではありません。サセルドーテの研究が示したのは、同室者どうしが互いの行動水準に影響し合う関係でした。本人が影響を受ける側であると同時に、与える側でもある。この見方は、本人にとっても意味を持ちます。
誰に見られているかで行動が変わる
ピア効果の経路のうち、最も操作しやすいのは可視性です。誰が自分の行動を見ているかによって、同じ人の行動が変わります。第2回で扱った柔らかいコミットメント装置が効いたのも、破ったことが他人に見えるからでした。
この性質は、良い方向にも悪い方向にも働きます。努力が評価される集団の中では、勉強している姿を見せることに抵抗がありません。逆に、努力が軽んじられる集団では、勉強を隠すようになります。同じ生徒が、集団によって正反対の振る舞いをすることになります。
ここが、第20回で扱う主題につながります。周囲の影響を考えるとき、学力の水準よりもその集団が何を評価するかのほうが効くことがあります。そして、評価の基準は集団ごとに違うので、場所を変えるだけで行動が変わる場合があります。
自習室や図書館が機能するのは、この点も大きい。そこにいる全員が勉強しているので、勉強していることが目立ちません。行動を隠す必要がない場所を1つ確保することは、関係を組み替えるより簡単で、しかも効き目があります。
設計が外れた理由から学べること
キャレルらの実験の失敗は、教育に限らない一般的な教訓を含んでいます。人は割り当てられた関係を、そのまま受け入れないということです。
この性質は、家庭の介入にも当てはまります。「あの子と一緒に勉強しなさい」という指示は、指示した相手との交流を増やすとは限りません。むしろ、指示されたこと自体が回避の理由になることがあります。
実務的には、選択肢を用意して選ばせるほうが確実です。第6回で扱った選択過多の話と同じ形で、候補を2つに絞って本人に選ばせる。自分で選んだ関係は、避けられにくくなります。
もう一つの教訓は、推定された効果をそのまま政策に使うことの危うさです。過去のデータで観測された関係は、介入によって人の行動が変われば成り立たなくなります。この論文が経済学の枠を超えて引用されるのは、その一般性のためです。
相手は1人でよい、という設計
周囲の影響を活かそうとするとき、集団を作ろうとすると失敗しやすくなります。人数が増えるほど、予定を合わせる手間が増え、雑談の比率が上がり、続かなくなるからです。
実務的には、相手は1人で足ります。条件は3つだけです。第一に、同じ時間に同じ場所にいられること。第二に、努力の水準が近いこと。学力ではありません。第三に、互いに教え合う義務を負わないこと。教え合いを前提にすると、片方の負担が偏って続かなくなります。
この3条件を満たす相手は、友人である必要すらありません。同じ自習室に同じ時間に来る人がいれば、それだけで行動は安定します。会話がなくても、可視性は働きます。
逆に、避けたほうがよいのは、互いの進度を報告し合う関係です。最初はうまくいきますが、差がついたときに片方が抜けます。比較の基準が相手になってしまうと、第15回で扱った自己評価の問題がそのまま入り込みます。並んで座るが、比べない。これが最も長続きする形です。
よくある失敗——「友達のせい」で説明を終える
成績が下がったとき、原因を交友関係に求める説明はよく使われます。しかし、この説明には2つの問題があります。
第一に、検証できない。友人関係を変えても成績が変わらなければ、別の原因が見つかりますが、そのときには時間が経っています。第二に、介入できる部分が少ない。交友関係を大人が直接操作するのは難しく、しかも副作用が大きい。
代わりに見るべきは、行動の記録です。いつ、どこで、何をしているか。周囲の影響は、この記録を通じて現れます。「金曜の夜だけ勉強時間がゼロ」といった形で見えれば、対処は交友関係の否定ではなく、その時間帯の設計になります。
保護者ができること——関係ではなく、場面を調整する
周囲の影響を心配する保護者に対して、研究から言えることは限られています。それでも、次の3つは実行可能です。
- 一緒に勉強する場面を作る提案をする。 交友関係を否定するのではなく、別の場面を追加します。「図書館で一緒にやったら?」という形です。
- 相手を評価しない。 友人についての否定的な評価は、そのまま本人への否定として受け取られます。関係の情報が家庭に入ってこなくなります。
- 大きな決定は、別の場で話す。 進路の話を、交友関係の話と同じ場面でしない。研究が示すとおり、両者は別の経路で決まっています。
教室の席順や班分けでも同じことが起きる——隣の影響を測る
周囲の影響を測る難しさは、友人関係に限った話ではありません。教室の席順、班分け、清掃の担当、部活動のグループ。学校の中には、誰と誰が同じ場に置かれるかを決める仕組みがいくつもあり、そのどれもが行動に影響しうると考えられます。ただし、仲の良い者どうしが自然に同じ班を選ぶ場合もあり、影響と選択を分けるのは簡単ではありません。
たとえば、数学の授業で隣の席になった相手が、分からないところを質問してくる場面を思い浮かべてください。質問される側は、説明の仕方を考えるうちに、自分自身の理解が整理されることがあります。これは相手の性格の効果というより、質問するという場面が置かれたことの効果だと考えられます。席順を変えるだけで、同じ生徒の行動が変わる可能性があるのです。
この見方は、家庭での学習環境を考えるときにも当てはまります。誰かと一緒に机に向かう場面では、一人で黙々と進める場面とは、集中の続き方が違ってくることがあります。相手が誰かという属性よりも、その場で何が起きているかに目を向けると、見え方が変わってきます。
場面を変えても元に戻る——環境を替えただけでは続かない
環境を変えれば行動も変わる、という考えを実行に移すと、思わぬところでつまずきます。席替えや班替えをした直後は、たしかに様子が変わったように見えます。ところが数週間もすると、以前と同じ姿勢に戻ってしまうことがあります。場面の効果は、置かれた瞬間だけでなく、その場が続くかどうかにも左右されるためだと考えられます。
つまずきは、時間帯にも現れます。放課後の教室で集中できていた生徒が、同じ教室でも朝の時間帯には別の様子を見せることがあります。逆に、家では進まなかった英単語の暗記が、図書館の静かな席では続くこともあります。どの場面が効いているのかは、実際に試してみるまで分からないことが多いのです。
もう一つのつまずきは、変化を本人の性質として受け取ってしまうことです。「あの場に置けば変わる」と期待したのに戻ってしまうと、今度は「やはり本人が変わらないからだ」という説明に落ち着きがちです。しかし、効果が続かなかった原因は、場面の設計や継続の条件にあることも少なくありません。一度の結果で結論を出さず、場面を変えながら確かめていく姿勢が助けになることがあります。
この記事で言えないこと
ここで挙げた2つの研究は、いずれも米国の大学生・士官候補生を対象としています。中高生の教室で同じ構造が成り立つ保証はありません。特に、居住を共にする環境と、日中だけ同じ教室にいる環境では、影響の経路が異なります。
また、ピア効果の推定は方法に強く依存します。無作為割当が使える場面は限られており、そうでない場面では、影響と選択の区別が難しくなります。「周囲の影響は大きい」という一般論を、特定の子どもに当てはめて判断するのは避けてください。
当塾の立場
一緒に勉強する相手を1人決める、場所を共有する、進路は切り離して考える。いずれも費用はかかりません。
武蔵野個別指導塾が担えるのは、同じ時間に同じ場所で勉強する場面を、確実に作ることです。誰と組ませるかを設計することはしません。キャレルらの結果が示すように、上から設計した関係は避けられます。用意できるのは場面と時間であって、関係そのものではないと考えています。
関連する記事
- 能力別編成は誰の利益になるか——ピア効果と習熟度別指導の実証——編成の効果を扱っています。
- 学級経営の実証——効いているのは雰囲気ではなく時間——集団の運営の側面です。
- 他人と比べてしまうとき——比較への対処の実践編です。
出典
- Sacerdote B. Peer Effects with Random Assignment: Results for Dartmouth Roommates. The Quarterly Journal of Economics. 2001;116(2):681-704.
- Carrell SE, Sacerdote B, West JE. From Natural Variation to Optimal Policy? The Importance of Endogenous Peer Group Formation. Econometrica. 2013;81(3):855-882.

