塾という制度を社会学から見る——シャドウ・エデュケーション|武蔵野個別指導塾が薦める学習の仕方

連載「学びの意思決定——行動経済学・社会学・認知心理学から考える」全50回の第16回です。学習の仕方の目次を見る

塾や予備校は、教育社会学ではシャドウ・エデュケーション(影の教育)と呼ばれます。学校制度の形に合わせて姿を変え、学校の外側に広がる私的な教育のことです。この呼び名には、価値判断は含まれていません。ただ、学校が変われば塾も変わるという関係を指しています。

この回は、塾を運営している立場から、塾について書きます。都合のよいことだけを書くと役に立たないので、研究が示している限界も含めて整理します。利用するかどうかを決めるのは家庭であり、判断材料は正確であるべきだからです。

要点(結論から)

  • シャドウ・エデュケーションには、遅れを取り戻す補充型と、さらに先へ進む伸長型がある。
  • 米国のデータでは、東アジア系の生徒は伸長を目的として商業的な講座を利用する傾向が強く、そこから最も利益を得ていた。
  • 同じ「塾に通う」でも、目的が違えば効果も違う。利用率だけを比べても意味がない。

結論——塾は「補習」と「伸長」で性格がまったく違う

  • シャドウ・エデュケーションには、遅れを取り戻す補充型と、さらに先へ進む伸長型がある。
  • 米国のデータでは、東アジア系の生徒は伸長を目的として商業的な講座を利用する傾向が強く、そこから最も利益を得ていた。
  • 同じ「塾に通う」でも、目的が違えば効果も違う。利用率だけを比べても意味がない。
  • 日本では、シャドウ・エデュケーションと社会的不平等の関係が継続的に研究されてきた。費用を払える家庭とそうでない家庭の差は、制度の外側で生じる。
  • 家庭の判断としては、何を外部化するのかを先に決めることが要点になる。

理由——研究は塾をどう見てきたか

目的によって効果が変わる

ビョンとパクは、米国の全国調査データを用いて、SAT対策という形のシャドウ・エデュケーションを分析しました。商業的な対策講座と個人指導という2つの形式について、利用率・目的・効果を人種民族別に比較しています。

Byun SY, Park H. The Academic Success of East Asian American Youth: The Role of Shadow Education. Sociology of Education. 2012;85(1):40-60.

結果として、東アジア系の生徒は伸長を目的として商業的な対策講座を利用する傾向が最も強く、そこから最も利益を得ていました。同じサービスを、遅れの補充として使う場合とは、目的も結果も異なっていたことになります。

この区別は、家庭の判断にそのまま使えます。「塾は効果があるか」という問いは、そのままでは答えられません。何のために使うのかで、期待できることが変わるからです。

制度と不平等の関係

エントリッヒ(Entrich)は、日本におけるシャドウ・エデュケーションと社会的不平等の関係を体系的に扱っています。学校制度の形と、私的な教育の広がり方は連動しており、日本の受験制度のもとで塾が果たしてきた機能を、制度の側から分析しています。

Entrich SR. Shadow Education and Social Inequalities in Japan. Springer. 2018.

この視点から見ると、塾の利用は個人の選択であると同時に、制度が生み出す需要への反応でもあります。入試の形式が変われば、塾の内容も変わります。総合型選抜が広がれば、その対策を掲げる塾が現れる、という具合です。

具体例——「何を外部化するか」で選ぶ

塾を選ぶとき、多くの家庭は形態(集団か個別か、大手か個人か)から考えます。しかし判断の順序としては、先に決めるべきことがあります。家庭と学校でできない部分はどこか、という切り分けです。

外部化したいもの 向いている形 家庭でできる代替
分からない箇所の解消 質問できる個別指導 学校の質問時間、友人
学習の場と時間の確保 自習室、決まった曜日の授業 図書館、家庭内の時間割
進度の管理と締切 宿題と確認がある形 家庭での週に一度の確認
入試情報と経路 情報を持つ進路指導 学校の進路指導、一次情報
先取りや発展 伸長を目的とした講座 市販教材と自習

右列を見ると分かるとおり、多くの項目には家庭でできる代替があります。塾が独自に持っているのは、主として継続的に同じ人が見ていること情報の蓄積です。

判断の手順

  1. 目的を1つに絞る。 補充なのか伸長なのか、場の確保なのか情報なのか。複数を同時に期待すると、評価ができなくなります。
  2. 家庭でできる代替を先に試す。 試してから外部化すると、何が足りなかったかが分かります。
  3. 効果を測る指標を、通い始める前に決める。 「成績が上がる」ではなく、「この単元の正答率」「質問できた回数」。第4回で扱った撤退基準と同じです。
  4. 費用を、時間の費用も含めて数える。 通塾時間は学習時間から引かれます。往復の時間も計上します。
  5. やめる条件を先に決めておく。 決めていないと、サンクコストが判断を縛ります。

学年で変えるところ

  • 小学生——学習習慣の形成が中心で、補充・伸長の区別より「続く形かどうか」が重要になります。
  • 中学生——定期テストと入試という2つの目的が混ざります。どちらを優先するかを明示しないと、教材も進度も中途半端になります。
  • 高校生——情報の価値が最も高くなる時期です。内容の指導だけでなく、経路の情報を持っているかどうかで差が出ます。

なぜ「影」と呼ばれるのか

この分野で影という比喩が使われるのは、私的な教育が学校制度の形をなぞって現れるからです。学校で試験が重視されれば試験対策が現れ、内申点が重視されれば内申対策が現れます。影は本体が動けば動きます。

この見方には、実務的な含意があります。入試制度が変われば、塾の内容も変わるべきであるということです。総合型選抜の面接が必須化されれば、必要な準備は変わります。旧来の講義形式をそのまま続けている塾は、影としての形が古いままだということになります。

家庭が塾を見るときも、この観点が使えます。その塾が提供している内容は、いま本人が受ける入試の形と対応しているか。対応していない部分に費用を払っていないか。制度が変わる時期には、ここを確認する価値があります。

もう一つ、影という比喩は、学校が本体であることも示しています。学校の授業時間は、塾のそれよりはるかに長い。塾に通っている生徒でも、学習時間の大半は学校と家庭にあります。外部化できるのは一部であって、中心ではありません。

通塾の時間費用を数える

塾の費用は、月謝だけではありません。通う時間、その前後の待ち時間、移動の疲労。これらはすべて、学習に使えたはずの資源です。第8回で扱ったとおり、時間は数えないかぎり存在しないのと同じ扱いになります。

実際に数えてみると、往復の移動が積み上がる場合があります。週に数回の通塾であれば、移動だけでまとまった時間になります。その時間で自習ができるかどうかは、通う場所と本人の状態で変わります。移動中に単語帳を開ける生徒もいれば、着いた時点で疲れている生徒もいます。

判断としては、次の問いが役に立ちます。その時間を自習に充てた場合と比べて、通うことで何が増えるのか。 質問できる相手が増える、締切が増える、情報が増える。増えるものが言えるなら、費用に見合う可能性があります。言えないなら、まず家庭での設計を試す番です。

この問いは、塾を否定するためのものではありません。目的が明確な利用と、なんとなくの継続を分けるための問いです。

費用が払える家庭とそうでない家庭

シャドウ・エデュケーションの研究が繰り返し扱ってきたのは、不平等の問題です。学校教育は制度として無償あるいは低額で提供されますが、その外側にある教育は家庭の支出に依存します。したがって、制度の外で差が生じます。

この事実は、塾を運営する側が黙っておくべきことではないと考えます。むしろ、次の2点を明示するほうが誠実です。

第一に、塾でしかできないことは、実はそれほど多くない。この連載でも、各回の末尾で「家庭でできること」を先に書いてきました。それは方針というより、研究を読んだ結果です。効果が確認されている手立ての多くは、費用をかけずに実行できます。

第二に、費用対効果は測れる。塾に通うことは投資であり、投資である以上、何にどれだけ効いたかを確認する権利が家庭にあります。測れない形で契約を続けることは、双方にとって望ましくありません。

学校をどう使うかが先にある

塾の議論をするとき、見落とされやすいのが学校の使い方です。学習時間の大半は学校にあり、教材も進度も評価も学校が持っています。ここを使い切らないまま外部化すると、費用に対して得られるものが小さくなります。

学校で使い切れていないことは、たいてい次の3つです。

  1. 質問する時間。 授業後や休み時間に質問できる余地は、多くの学校に残っています。使われないのは、質問の型を知らないか、聞くと評価が下がると思っているかのどちらかです。第13回で扱ったとおり、どちらも技術と環境の問題です。
  2. 提出物の扱い。 評定に直結する部分でありながら、出し方の作法が共有されていないことがあります。締切、様式、直し方。確認すれば分かることが多く、確認しないまま点を落とす例が目立ちます。
  3. 進路指導の情報。 学校は最も多くの進路情報を持っています。ただし、こちらから具体的に聞かないかぎり流れてきません。面談の前に質問を1つ用意しておくだけで、得られる情報が変わります。

これらを使い切ったうえで残る不足が、外部化の対象になります。順序を守ると、塾に何を頼むべきかが自動的に絞られます。逆に、学校の使い方が定まらないまま塾を足すと、同じ内容を二重に扱うことになり、時間だけが減ります。

よくある失敗——不安で契約し、不安で続ける

塾の選択で最も多い失敗は、目的が「不安の解消」になっていることです。周囲が通い始めた、成績が下がった、受験が近づいた。これらは通塾のきっかけにはなりますが、目的ではありません。

目的が不安である場合、効果の測定ができません。不安は主観なので、いつまでも解消されないか、通っているという事実だけで一時的に和らぎます。どちらの場合も、学習の内容とは無関係に契約が続きます。

対処は、通い始める前に指標を決めることです。「3か月後に、この単元の正答率が7割を超える」。指標があれば、効いているかどうかを判断できます。第10回で扱ったとおり、行き詰まったときに足すべきものは、費用ではなく情報です。

保護者ができること——目的と指標を、紙に1行で書く

塾を検討するとき、次の3つを紙に書いてから問い合わせをすると、判断が大きく変わります。

  1. いま困っていることを1行で。 「数学の文章題で式が立たない」。教科名だけでは粗すぎます。
  2. 期待する変化を1行で。 「定期テストの大問3で部分点が取れる」。順位や偏差値ではなく、観察できる形にします。
  3. 判断する時期を1行で。 「3か月後に見直す」。期限を決めておくと、サンクコストに引きずられません。

この3行は、塾側にとっても有益です。何を期待されているかが明確であれば、指導の設計ができます。逆に「とにかく成績を上げてほしい」という依頼は、何をもって成功とするかが共有されないまま進みます。

習い事や部活動でも同じことが起きる——学校の裏側で形を変える

学校の外側に広がる私的な教育という見方は、塾や予備校だけに限った話ではありません。ピアノや水泳といった習い事、地域のスポーツクラブ、あるいは部活動の外部コーチも、学校制度の形に合わせて姿を変えてきた私的な教育だと考えられます。学校の授業が変わる、部活動の位置づけが変わる、入試の仕組みが変わる。そうした変化のたびに、外側の場も役割を調整してきました。

たとえば、平日の夕方に英語の教室へ通う場面を思い浮かべてください。学校の進度に合わせて復習をするのか、学校では扱わない会話の練習をするのかで、同じ教室でも性格がまったく変わります。前者は補習、後者は伸長です。どちらが良い悪いではなく、学校が何を担い、何を外へ出すかによって、通う意味が変わるという関係があります。

この見方は、習い事を選ぶときにも役に立ちます。曜日や時間帯、道具の準備、送り迎えの負担といった条件を並べるだけでは、その場が学校とどう噛み合っているかは見えてきません。学校で足りている部分と足りていない部分を先に確かめておくと、外側の場に何を期待しているのかが、少しずつ言葉になっていくことがあります。

目的が途中で入れ替わる——補習のつもりが競争になる

この記事の考え方をもとに塾を選ぼうとすると、途中でつまずくことがあります。最初は「学校の授業についていくため」と決めていたのに、通い始めてしばらくすると、いつのまにか「まわりの子より先に進むため」に目的が入れ替わってしまうのです。目的が変われば、選ぶべき教材も、宿題の量も、通う曜日も変わります。ところが本人も家族も、目的がすり替わったことに気づかないまま、同じ契約を続けてしまうことがあります。

つまずきは、机の上にも現れます。学校の宿題と塾の宿題が同じ夜に重なり、どちらも中途半端になる。塾のテキストを開く時間はあるのに、学校の教科書を開く時間が消えていく。こうした場面では、どちらの目的を優先しているのかを、一度立ち止まって確かめる必要があります。

避けたいのは、不安をきっかけに契約を更新してしまうことです。模試の結果が届いた夜、返却された答案を見た直後など、気持ちが動きやすい時機は決まっています。そうした時機を避けて、落ち着いた時間帯に、当初の目的がまだ生きているかを確認する。目的と指標を紙に書いておくのは、この確認をしやすくするための工夫だと考えられます。

この記事で言えないこと

ビョンとパクの研究は米国のSAT対策を対象としたもので、日本の塾に同じ結果がそのまま当てはまるわけではありません。制度が違えば、シャドウ・エデュケーションの形も効果も変わります。この点は、シャドウ・エデュケーション研究そのものが強調してきたところです。

また、この記事は「塾に通うべきか」を決めるものではありません。目的の切り分け方と、効果の測り方を示したにとどまります。家庭ごとに、費用、時間、通学の負担、他の選択肢との比較は異なります。

当塾の立場

ここまで書いてきたとおり、家庭でできる代替がある項目は少なくありません。まずそちらを試していただくことを勧めます。試したうえで足りなかった部分がはっきりすれば、外部に頼む範囲も明確になります。

そのうえで武蔵野個別指導塾が提供しているのは、主として3つです。継続して同じ担当が見ること質問できる相手が確実にいること進路の要件を一次情報で確認して示すこと。効果の判断材料として、指導の記録は開示できる形で残しています。目的と指標を先に共有していただければ、それに沿って設計します。

出典

  1. Byun SY, Park H. The Academic Success of East Asian American Youth: The Role of Shadow Education. Sociology of Education. 2012;85(1):40-60.
  2. Entrich SR. Shadow Education and Social Inequalities in Japan. Springer. 2018.

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