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発達障害・学習障害・ADHD・ディスレクシアのある子の学習対策——研究が「効く」と示したことと、受験までの組み立て|武蔵野個別指導塾

よくあるのは、学校の面談で「支援が必要かもしれません」と言われて帰ってきた夜、保護者が検索窓に診断名を打ち込み、出てくるのが療育の案内と「治る」の広告ばかりで、受験までの道筋がどこにも書いていない、という場面です。面談で渡された紙には「校内委員会」「個別の指導計画」といった言葉が並び、家に帰って読み返しても、来年の定期テストや3年後の入試とどうつながるのかが見えません。
この特集で答えるのは、その「つながり」です。発達障害・学習障害・ADHD・ディスレクシアのある子の学習について、研究が「効く」と示したこと、「効かない」と示したこと、「まだわからない」こと。その3つを、いまの学年から受験本番までの時間軸の上に置き直します。治るか治らないかの話はしません。どの指導にどれだけの時間を使えば、読み・書き・計画・試験の時間配分がどれくらい動くのか。研究が測ってきたのはそこで、受験までに要るのもそこです。
言葉を先に整える——ADHD・限局性学習症・ASD、そして「併存」
診断名は3つの群に分けて考えると見通しがよくなります。ADHD(注意欠如・多動症)は、注意の持続と衝動の抑制、行動の切り替えの困難が中心です。限局性学習症(LD)は、知的な発達に遅れがないのに、読み・書き・計算のどれかが年齢に見合って伸びない状態で、そのうち読みの困難がディスレクシアです。ASD(自閉スペクトラム症)は、対人関係と興味の偏り、感覚の過敏や鈍さが中心で、学習の場面では「計画を立てて実行する」実行機能のつまずきとして現れることが多いです。
3つは別々の診断ですが、1人の子に重なることが珍しくありません。ADHDの子に読みの困難が重なる、ASDの子に注意の困難が重なる。だから、診断名が1つ付いたからといって、対策もその1つの名前の分だけ、とはなりません。塾で見るのは診断名ではなく、どの指示で手が止まるかです。「教科書の38ページを開いて、3番の問題を解いて、終わったら答えを見て直して」という3段の指示のどこで止まるのか。読めずに止まるのか、順番を忘れて止まるのか、始めること自体に腰が上がらないのか。止まる場所が違えば、打つ手も違います。
数字も整えておきます。文部科学省が2022年に行い2023年に公表した調査では、通常の学級に在籍して学習面または行動面に著しい困難を示す児童生徒は、小・中学校で推定8.8%、高等学校で2.2%でした。前回の2012年調査では小・中学校が6.5%で、10年で2ポイント以上増えています。この8.8%のうち、校内委員会で「支援が必要」と判断されていたのは28.7%です。

図1のように読んでください。8.8%は、担任の教員が「この子は困難を示している」と回答した割合であって、医師の診断を受けた子の割合ではありません。35人の学級なら3人前後に相当しますが、その3人全員に診断名が付いているわけではなく、逆に診断を受けている子が教員の回答に入っていないこともあります。校内委員会で支援が必要と判断された28.7%という数字は、「気づかれているが、まだ組織としての支援に乗っていない子」が7割いることを示しています。面談で「支援が必要かもしれません」と言われたお子さまは、この7割から3割へ移ろうとしている段階にいる、と読むのが正確です。高校の2.2%が小・中学校より小さいのも、困難が減ったからではなく、高校の教員の回答の仕方や、進路の違いが影響していると考えるのが自然です。
研究の「効く」をどう読むか
ここから先、研究の結果を引きます。読むのに要る約束を3行で書きます。効果量とは、介入を受けた群と受けなかった群の差を、ばらつきの大きさで割った数字です。おおよそ0.2が小さい差、0.5が中くらいの差、0.8が大きい差とされ、0.3なら「クラスの真ん中にいた子が、上から4割の位置に動く」程度の違いです。小さい差でも、何十人分を集めて確かに出るなら、現場で使う価値があります。
ただし、研究は盛りがちです。Toffalini ら(2021年)が発達の障害への治療研究を系統的に見直したレビューでは、平均の効果は0.38程度と控えめで、しかも小さな標本で多くの指標を測る研究ほど効果が大きく報告されやすい、という偏りが見つかりました。Scammacca ら(2013年)が4年生から12年生の読みの介入82研究を集めた分析でも、全体の平均では0.49と出るのに、標準化された検査に限ると0.21にとどまり、近年の研究ほど効果が小さく出ていました。測り方と比較条件が改善されたからで、昔の研究が優れていたからではありません。
だから「劇的に治る」とは書きません。以下で「効く」と書くときは、「複数の試験を集めて、小さいか中くらいの差が確かに出た」という意味です。「効かない」と書くときは、「集めても差が確かに出なかった」という意味で、「害がある」とは違います。

図2のように、この特集で引く主な効果量を並べました。棒の長さは値に比例しています。どれも中くらいまでで、大きい差を示す棒はありません。それがいまの時点の研究の正直な姿で、1年後に別の分析が出れば数字は動きます。
ADHDのある子の学習対策——研究が確かめたこと
学校での介入は、行動だけでなく成績にも効く
Yegencik ら(2025年)が、1980年から2024年までに学校で行われた無作為化比較試験22件(4歳から18歳、1,962人)を集めた分析では、学校での介入はADHDの症状全体と不注意を小さいながら確かに減らし、学業成績を0.37程度(小から中)上げていました。社会的スキルにも効果が出ています。DuPaul ら(2012年)が1996年から2010年の60研究を集めた以前の分析でも、学校での介入は行動と学業の両方に中程度の効果を示していました。ADHDの対策というと行動の落ち着きばかりが語られますが、研究は「学業そのものが動く」ことを確かめています。
ただし、どちらの分析も対象は学校の中の介入で、担任や支援員が教室で行う形です。塾の1対1にそのまま移せる保証はなく、以下はその「読み替え」です。
何が効いているのか——先回り・結果・自己調整
Gaastra ら(2016年)が教室での介入を集めた分析では、介入を4つに分けています。先行子操作(指示の出し方や座席、課題の提示の仕方を先に変える)、結果操作(できたことへの即時の強化)、自己調整(自分で目標を立て、記録し、振り返る)、そしてその組み合わせ。どの型も、課題から外れる行動と授業を妨げる行動を減らしていました。
1対1の指導に置き換えると、先行子操作は「3段の指示を1段ずつ出す」「問題を1問ずつ見せる」「終わりの時刻を最初に見せる」です。結果操作は「解けた瞬間に、何ができたかを言葉で返す」こと。自己調整は「今日の目標を自分で1行書き、終わりに丸をつける」ことです。塾で効くのは、この3つを講師が同時に回せる点にあります。教室で35人を相手にする担任には難しいことが、1対1なら最初の10分で組み立て直せます。
宿題と整理は、短い介入で動く
Langberg ら(2017年)は、ADHDのある中学生288人を無作為化し、学校のメンタルヘルス担当者が宿題と整理の技術を教える短い介入(HOPSとCHIEF)の効果を調べました。1回の面談は平均20分未満、選択科目の時間から抜き出して行われ、宿題の問題と整理の技術について保護者の評価が大きく改善し、6か月後まで追跡されています。DuPaul ら(2021年)は、高校生186人の無作為化比較試験で、整理整頓と学業の技術を1学年かけて教える介入(Challenging Horizons Programの高校版)を調べ、6か月後の整理の技術・宿題の遂行・学業の機能に小から中の改善を見ています。成績への効果は小さいものの、何もしなかった群に比べて下がり方が緩やかでした。
この2つの研究が示すのは、「宿題ができない」を性格や意欲の問題として扱う必要はない、ということです。宿題を書き留める場所を1つに決める、持ち物を帰る前に3点確かめる、机に戻る前に次にやる1行を書く。そういう具体的な技術が、20分の面談でも身につきます。
家庭との連絡カード
Iznardo ら(2020年)が、日々の行動報告カード(学校での目標の達成を毎日カードに記し、家庭に持ち帰る仕組み)の7研究272人を集めた分析では、教室での行動に効果が出ていました。塾での読み替えは、授業の終わりに「今日できたこと」を1行、保護者に見える形で残すことです。叱る材料ではなく、できたことの記録として積む。カードの中身は「静かにしていた」ではなく「3問を自分で始めた」「見直しで1つ見つけた」のように、学んだことを書きます。落ち着いていることと学んでいることは別で、記録するのは後者です。
運動、読み、デジタル——効くが、限界もある
Li ら(2025年)が学齢期のADHDの子への身体活動の無作為化比較試験19件を集めた分析では、実行機能のうち切り替えと作業記憶に効果が出ており、抑制には確かな差が出ていませんでした。頭を使う種類の運動のほうが効いていました。Chan ら(2022年)がADHDの子への読みの介入18研究564人を集めた分析では、読みの介入は読みの力を確かに上げており、解読と音韻の指導を30時間以上含む介入は、ADHDの子に対する確立した実践の基準を満たしていました。ADHDに読みの困難が重なるとき、読みの指導は「ついで」ではなく主役になります。
デジタルの介入については、Wong ら(2023年)の無作為化比較試験19件の分析と、He ら(2023年)の31研究の分析のどちらも、不注意には小さな効果、実行機能にはそれより大きな効果を見ています。一方で研究の質にばらつきがあり、効果がどれだけ持つかは確かめられていません。Kates と LaFreniere(2025年)が中学生への学校介入の文献を見直したレビューでも、中学生を対象にした研究そのものが少なく、長期の追跡が足りないことが課題として挙げられています。アプリや教材を使うこと自体は妨げになりませんが、「これを入れれば解決」とは研究は言っていません。
ディスレクシア・読み書きの困難——「どの方法か」より「どれだけか」
確認されているのはフォニックス
Galuschka ら(2014年)が、読みの障害のある子と若者への無作為化比較試験22件・49の比較を集めた分析では、効果が統計的に確認されたのはフォニックス、つまり文字と音の対応を明示的に教える指導だけでした。色つきのレンズ、聴覚の訓練、運動の訓練などは、効果が確認されませんでした。読みの困難に対して「目を鍛える」「耳を鍛える」「体を動かす」といった回り道の方法が広く売られていますが、研究が確かめたのは、読むことそのものを直接、明示的に、順序立てて教えることです。
用量がものを言う
Hall ら(2022年)は、幼稚園年長から5年生のディスレクシアまたはそのリスクのある子への読みの介入52件・6,053人を集めて分析し、全体で0.33程度(小から中)の効果を見ました。ここで大事なのは、介入の総時間数が多いほど効果が大きかったことです。Boucher ら(2023年)が3年生から12年生の重い単語読みの困難への介入22研究を集めた分析でも、全体の効果は0.14程度と小さいものの、総時間数が多いほど効果が上がっていました。
つまり、方法の選び方で差がつく以前に、時間の量で差がつきます。週に1回の短い時間では足りない子がいる、ということを率直に書いておきます。ただしそれは「たくさん通えば治る」という意味ではなく、「同じ方法でも、量が足りなければ差が出ない」という意味です。塾で組み立てるときに最初に決めるのは、週に何分を読みの指導に充てられるか、家庭で何分を音読に使えるか、という時間の設計です。
年長になっても効く
「小さいうちに手を打たないと手遅れ」という言い方がありますが、研究はそれを支持していません。Killingly ら(2025年)が4年生から12年生の読みの困難への介入106研究・156,981人を集めた分析では、全体の効果は0.21程度と小さいながら、読解・語彙・単語の学習・それらの組み合わせの介入は年長の生徒にも効いており、学習障害のある生徒と英語以外の言語背景の生徒には特に効いていました。Yi ら(2026年)が中高生(半数は学習障害)への単語読みの介入34研究・2,718人を集めた分析でも、解読・読解・綴りに0.30程度の効果が出ています。流暢さ(速く滑らかに読む力)には効果が出ておらず、単語を丸ごと形で覚えさせる方法は効かない傾向でした。
中学生・高校生で読みの困難に気づいた家庭にとって、これは大事な知らせです。遅すぎることはない。ただし、効くのは解読と理解であって、速さではない。入試で読む速さが要るなら、速さそのものを鍛えるより、配慮(時間延長)で補う組み立てになります。
読解には背景知識と方略
Filderman ら(2021年)が3年生から12年生の読解介入64研究を集めた分析では、効果は0.59程度(中くらい)と、単語の読みの介入より大きく出ています。効果が高かったのは、文章の題材についての背景知識を教えることと、読み方の方略(要点を先に探す、わからない語の前後を読む、段落ごとに1行でまとめる)を教えることでした。文字が読めるようになることと、文章がわかることは別の段階で、後者には知識と手順が要ります。入試の国語・英語・社会の長文で問われるのはこちらで、塾の国語の時間の多くは、ここに使われます。
動機づけと組み合わせる
Lovett ら(2020年)は、読みに困難のある中学生514人の無作為化比較試験で、読みの指導と動機づけの指導を組み合わせた100時間から125時間のプログラム(PHAST)を調べました。解読に0.78程度(大きい差)、単語の認識と読解にも中くらいまでの効果が出て、「自分は読めるようになる」という自己効力感にも0.61程度の効果があり、1年後も伸び続けていました。長く続く介入では、技術と同時に「できる」という感覚を扱わないと、途中で生徒が降りてしまいます。この研究は、時間数と動機づけの両方を備えた介入が、中学生でも大きく動かせることを示した例です。
綴りは規則の理解、丸暗記は効かない
Galuschka ら(2020年)が綴りの介入34試験を集めた分析では、フォニックス、正書法の規則(どの位置にどの文字が来るか)、形態素(語の部品の意味)の指導が中から大の効果を示し、丸暗記の方略は効果が確認されませんでした。英単語のスペルを「書いて覚える」だけでは、ディスレクシアのある子には届きにくい、ということです。語の部品に分けて、意味と音を結びつけて覚える指導に切り替えます。
証拠が足りない方法もある
名前が広く知られている方法でも、研究の裏付けが足りないものがあります。Stevens ら(2021年)がオートン・ギリンガム法の研究を集めた分析では、基礎スキルへの効果は0.22程度と正の方向でしたが、統計的には確かめられませんでした。効かないとまでは言えませんが、「この方法だから効く」とも言えない。方法の名前ではなく、その中身が明示的・系統的で、時間数が足りているか、で判断します。
日本語への当てはめ
ここまでの研究はほぼ全部が英語圏のもので、日本語の読み書きに同じ数字がそのまま当てはまるとは限りません。ひらがなは文字と音の対応が英語より規則的で、漢字は別の仕組みで覚えます。フォニックスの考え方が日本語ではそのまま使えない場面があります。この点は、既存の記事「読み書きの困難——「日本にディスレクシアは少ない」は本当か」で詳しく扱っていますので、関連する記事の節からお読みください。
ASDと実行機能——計画・整理は訓練できる
訓練は効く。ただし「他の場面に広がるか」は未確定
ASDのある子の学習でつまずきやすいのは、計画を立てる、持ち物を整える、予定の変更に対応する、といった実行機能です。Pasqualotto ら(2021年)が23歳までの実行機能の訓練19研究を系統的に見直したレビューでは、多くの介入が実行機能と症状の改善に有効でした。一方で、訓練していないスキルへ効果が広がるか、長く持つかの証拠は限られていました。Tamm ら(2023年)は、知的障害のない自閉症の中学生47人の無作為化比較試験で、学校での小グループの訓練(AIMS)を調べ、計画・整理・物の管理といった学業上の実行機能に小から中の効果を見ています。
塾での読み替えは、「予定表の書き方」「持ち物の確かめ方」「わからなくなったときに講師に出す合図」を、授業の中で毎回同じ手順で練習することです。訓練したことは身につく。訓練していないことには広がりにくい。だから、入試で要る手順(受験票・時計・筆記用具の確認、問題冊子の最初の1分の使い方)は、その手順そのものを練習します。
伸び方は定型発達と同じ
Yeung ら(2024年)が、ASDのある人518人と定型発達の人3,558人の縦断研究14件を集めた分析では、ASDのある人の実行機能は全体として低いものの、年齢とともに伸びていく速さは定型発達と同じでした。差は縮まりませんが、開きもしません。この結果は「訓練しても無駄」ではなく、逆に「早くから訓練すれば、その分だけ前に進む」と読むのが筋です。中学生で気づいても、高校生で気づいても、そこから伸びます。
運動は実行機能に効く
Liang ら(2021年)が運動介入7研究を集めた分析では、ASDのある子の実行機能全体に0.34程度の効果が出ており、切り替えと抑制にも効いていました。作業記憶には確かな効果が出ていません。Wang ら(2025年)が運動療法の無作為化比較試験16件を集めた分析でも、実行機能に0.41程度の効果と持続が見られ、作業記憶は改善していません。体を動かすことが、計画や抑制の力を底上げする。覚えておく量そのものは増えない。この2つを分けて理解しておくと、運動を勧めるときに期待の置き方を間違えません。
訓練が効きやすいのは、むしろ特性のある子
Shepard ら(2022年)が青年への実行機能の訓練26研究を見直したレビューでは、定型発達の青年では効果が小さいか無いのに対し、ASD・ADHD・行為障害のある青年では2件を除いて中から大の効果が出ていました。「特性があるから訓練しても仕方がない」という考え方は、研究の結果と逆です。伸びる余地が大きい子ほど、訓練が効きます。
受験と合理的配慮——時間延長は万能ではなく、練習してから使う
配慮の証拠は、思われているほど厚くない
受験の場面でまず話に出るのが、試験時間の延長や別室受験といった配慮です。Lovett と Nelson(2020年)が68文献を系統的に見直したレビューでは、配慮はADHDへの最も一般的な対応でありながら、多くの配慮はADHDの生徒に特有の利益を示す証拠を持っていませんでした。例外は読み上げで、年少のADHDの子には2件の無作為化実験で利益が出ています。レビューの結論は、配慮は証拠のある介入と一緒に行うか、介入が効かなかった後に使う、というものです。
時間延長については、Sireci ら(2005年)のレビューが「時間延長は全ての生徒の成績を上げる傾向がある」と示しています。障害のある生徒の伸びは相対的に大きいものの、障害のない生徒も伸びる。つまり延長は、障害のある生徒だけを助ける道具ではなく、「時間が足りない全員」を助ける道具です。Jansen ら(2018年)がADHDのある大学生30人と対照30人で行った実験では、延長された時間は使われたものの、成績は上がりませんでした。時間を与えれば点が上がる、とは限らないのです。
使わない子が半数、使えば伸び、使わなければ下がる
では配慮は意味がないのか。そうではありません。Bernard と Witmer(2025年)がアメリカの全国学力調査(2017年・8年生)のADHDのある生徒のデータを分析したところ、時間延長の資格がある生徒のうち、実際に延長を使った生徒は半数未満でした。Wei と Zhang(2023年)が同じ調査の学習障害のある8年生の数学を分析した研究では、延長を受けて使った生徒は高得点、延長を受けたのに使わなかった生徒は低得点という対照が出ています。延長を受けた生徒は時間の圧迫感が低く、数学への興味も高かった。最も成績がよかったのは50%の追加時間を受けた群でした。
この2つの研究が示す組み立ては明快です。配慮は、申請して終わりではなく、使い方を身につけてから本番に持ち込むものです。延長された時間で何をするか(見直しに回すのか、飛ばした問題に戻るのか、最初の読みをゆっくりにするのか)を決めていない生徒は、時間が余っても使えずに終わります。Ogut ら(2025年)が全国学力調査の操作記録を分析した研究では、時間延長の利用は障害のある生徒の成績向上と結びつく一方、読み上げや数式エディタは一部の生徒には気を散らすものにもなっていました。配慮は「あるだけ全部使う」ものでもなく、その子に合う配慮を選び、慣れるまで練習するものです。

図3のように、順番は「止まる指示を見つける」「配慮を練習する」「出願前に申請する」「本番で使う」です。申請だけが先に立つと、本番で初めて延長時間を経験する、という最悪の形になります。
共通テストの申請——診断書・出願前・当年度の案内
大学入学共通テストでは、障害等の種類や程度にかかわらず、必要な配慮事項を申請できます。申請には医師の診断書が要り、配慮の内容によっては審査に時間がかかるため、出願前の申請が求められます。発達障害に対する配慮の例としては、別室受験、試験時間の延長、拡大問題冊子、チェック解答(マークではなくチェックで答える方式)などが大学の案内に挙がっています。細かな条件は年度ごとに変わるので、大学入試センターが公表するその年度の「受験上の配慮案内」で必ず確かめてください。2027年度の共通テストは2027年1月16日・17日(追・再試験は1月23日・24日)で、出願は2026年9月15日に始まり、受験案内と受験上の配慮案内はその前の6月19日に公開されました。翌年度も同じ頃に動くと見て、高校2年生の冬には案内の公開時期を控えておきます。
配慮を使う受験生は増えています。大学入試センターの研究紀要に載った研究報告では、2015年から2024年の間に全志願者は12%減ったのに、受験上の配慮の利用者は67%増えていました。配慮の申請は特別なことではなくなっています。
大学ごとに診断書の期限と書式が違う
個別の大学の出願でも配慮を申請できますが、診断書の条件が大学ごとに違います。たとえば早稲田大学は2026年7月1日以降に発行された診断書を求め、共通テスト用の診断書の写しでも受け付けています。明治大学は申請日から3か月以内に発行された所定の書式の診断書を求めています。「共通テスト用に1枚取ったから足りる」とはならないことがあり、受ける大学の数だけ期限と書式を確かめる必要があります。医療機関の予約は数か月先になることも多いので、高校3年生の春には、受ける可能性のある大学の配慮のページを全部見て、診断書をいつ何枚取るかの表を作ります。
塾での組み立て——1年の時間軸に置く
ここまでの研究を、1対1の指導でどう使うか。順番にします。
まず、止まる指示を見つけます。最初の数回の授業で、講師は教えるより先に観察します。3段の指示のどこで手が止まるか、文章を読むときに目がどこで戻るか、問題を解き始めるまでにどれだけ時間がかかるか、間違いを直すときに何を見ているか。診断名は入口に過ぎず、見るのは止まる場所です。保護者から診断書や検査の結果を見せてもらえれば参考にしますが、それが無くても始められます。
次に、短い区切りと自己管理を入れます。Gaastra ら(2016年)の先行子操作・結果操作・自己調整を、授業の型にします。1回の授業の最初に「今日やること」を本人が1行で書き、10分前後の区切りごとに1問か1段落を終え、終わるたびに何ができたかを講師が言葉で返し、授業の終わりに自分で丸をつける。Langberg ら(2017年)が20分未満の面談で宿題と整理の技術を身につけさせたように、技術は短くても身につきます。宿題の書き留め方、持ち物の確かめ方、机に戻る前の1行は、毎回同じ手順で繰り返します。
そのうえで、用量を確保します。読みの困難がある子には、Hall ら(2022年)と Boucher ら(2023年)が示した「時間数が効果を決める」を正面から受け止めます。塾の時間だけで足りないなら、家庭での音読や語彙の時間をどう作るかを、保護者と一緒に設計します。フォニックスの考え方で英語の文字と音の対応を明示的に教え、綴りは語の部品で覚え、読解には背景知識と読み方の方略を入れる。丸暗記と速読は後回しです。
受験学年の1年前には、配慮の練習を始めます。模試や塾の中のテストで、時間延長を仮に設けて、延長分で何をするかを決めて使ってみる。別室の静かな環境と、普通の教室とで、点の出方がどう違うかを測る。読み上げが助けになるのか気を散らすのかを試す。この段階で、その子に本当に要る配慮と、要らない配慮がはっきりします。Bernard と Witmer(2025年)が示した「資格があっても半数が使わない」を、自分の子に起こさせない準備です。
出願前の申請は、高校3年生の春から夏に動きます。受ける大学の配慮のページを全部読み、診断書の期限と書式を表にし、医療機関の予約を取る。共通テストの申請は出願前に済ませ、年度の案内で細部を確かめる。ここは講師が代わりにできない部分ですが、表を作って一緒に見ることはできます。
結び
8.8%は診断の数ではなく、気づきの数です。気づかれた子のうち、支援に乗っているのは3割で、残りの7割はまだ道筋のないまま検索窓の前にいます。研究が示したのは、劇的な治り方ではなく、明示的な指導と足りる時間数と練習済みの配慮が、小さいか中くらいの差を確かに生む、ということです。その差は、入試の本番で「延長された時間を見直しに使えた」という形で現れます。治るかどうかを待つ夜より、止まる指示を1つ見つける午後のほうが、受験には近い。
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- リセマム(2026年5月20日)大学入試センターの公表を伝える記事(2027年度共通テストの日程・受験案内の公開) https://resemom.jp/article/2026/05/20/86119.html
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