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帰国子女の中学受験・高校受験・大学受験——帰国後6か月で変わり始める言葉と、要項の読み方、学力の組み直し|武蔵野個別指導塾

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帰国が半年後に決まった日から

よくあるのは、辞令が出て帰国が半年後に決まり、現地校の宿題を英語で片づけている子の横で、保護者が日本の学校の要項を開いて「帰国後3年以内」「在留1年以上」の数え方で手が止まる、という場面です。要項の 1 行は短いのに、「継続して」なのか「通算で」なのか、起算日は入試の日なのか入学の日なのか、読めば読むほど問いが増えます。その横で宿題を片づけている子は、いまのところ何も困っていません。困り始めるのは、たいてい帰国してからです。

この特集は、その「帰国してから」を 4 つの面に分けて見ていきます。制度(出願資格と要項の読み方)、言葉(英語の維持と日本語の組み直し)、心(帰国後の揺れと、話せる場)、学力(算数・数学の用語、理科・社会の空白)の 4 つです。そしてこの 4 つを、中学受験・高校受験・大学受験の 3 つの受験に置いて、どの受験でも同じことと、受験ごとに違うことを分けて書きます。帰国子女の受験は学校ごと・年度ごとに要項が変わるので、ここに書く出願資格の例にはすべて年度と要項名を添え、最新の要項で確かめることを前提にしています。

帰国子女とは誰か——言葉の成り立ちと、変わり続けた像

「帰国子女」という言葉は、親の転勤で海外に住み、日本へ戻ってきた子どもを指す分類として、1960 年代から教育と政治の場で使われてきました。Hansen(2000 年)が帰国子女という分類の成り立ちをたどった事例研究は、日本の入試が「暗記した事実を再生する」ことを求める型である以上、似た内容を別の焦点で学んできた子は競争で不利になる、と書いています。だからこそ、いまでは多くの学校に帰国生向けの入試と受け入れの体制があります。ただ同じ研究は、この分類に「英語が流暢で、意見をはっきり言い、日本語と習慣に問題がある」という期待がついて回ることも指摘しています。期待は学校にも社会にもほぼ例外なくあり、本人がそれに当てはまるかどうかとは関係なく働きます。

この像は、時代とともに動いてきました。Fry(2007 年)が日本の帰国子女と海外子女に関する主張を整理した理論的な論文と、同じ著者の 2009 年の教育政策の論文は、帰国子女の像が「教育難民」「文化的に曖昧で、社会的に周縁化され、学力で遅れた子」から、1980 年代以降に「二言語・二文化の素養を持つ国際的な子」へと転じた経緯を描いています。Goodman(2012 年)は 50 年分の認識の変化を、「かわいそう」から「恵まれている」へという題で追いました。Fry は英国での自身の調査から、不利だという主張も能力があるという主張も、どちらも誇張か誤解を含んでいた、と結論しています。

つまり帰国子女は、「英語ができる子」でも「かわいそうな子」でもありません。どちらの像も、周りがその時代の都合で貼ったものです。Kanno(2000 年)がカナダから日本へ戻った 4 人の帰国子女を 3 年間追った語りの研究は、北米では英語が多数派の言葉で日本語が少数派の言葉、帰国後はそれが逆転する、と書いています。多数派の言葉はその社会に参加する鍵、少数派の言葉は自分が周りと違うことの印、と子どもたちは二つの言葉に別の意味を与えていました。帰国子女の受験を考えるとき、この「どちらの像にも乗らない」ところから始めるのが、子どもの側から制度を見る出発点になります。

研究が示す帰国後の難しさ——年齢・性別・時間

帰国後に何が難しいのかは、いくつかの研究が数で示しています。Tamura と Furnham(1993 年)は、1 年以上の海外滞在から戻った 6〜18 歳の子ども 1,941 人と、海外経験のない対照群 1,354 人、合わせて 3,295 人に質問紙調査を行いました。女子は友人関係の難しさと、心身の症状が多く出ました。年長の子ほど日本での生活への不満、友人関係の難しさ、心身の問題が多く、7〜9 歳では帰国生と対照群の差が小さい一方、10〜15 歳では海外経験が良い方向に働く面も見られました。滞在が長いほど日本での生活への不満と友人関係の難しさは増え、複数回の海外経験がある子には不安や抑うつの訴えが多くありました。30 年以上前の日本の調査で、測り方は質問紙 1 つですから、そのまま今の子に当てはめることはできません。ただ「年長ほど、滞在が長いほど難しい」という向きは、高校受験・大学受験で帰国する子の時間の設計を考えるうえで、いまも参考になる暫定の知見です。

適応は一度きりの出来事ではなく、長い過程です。Moriyoshi(2001 年)は、小中学生の帰国生 48 人とその母親などに 3〜4 か月おきに 1 年間面接し、中学生 71 人への質問紙調査と、2 人の 3 年間の事例研究を重ねました。受け入れる側(日本の教師や生徒)は適応を一直線の過程と描きがちでしたが、帰国生自身は「大きな葛藤なし」「早い時期に葛藤が出る」「初めは葛藤し後で落ち着く」「初めは落ち着き後で葛藤する」という 4 つの型のどれかを通っていました。受け入れる側の期待と、本人が実際にいる場所とのずれが、負担を足していたという指摘は重いものです。「もう半年たったのだから慣れたはず」という周りの見立てが、本人には追加の重荷になるからです。

対立の中身を言葉にした研究もあります。Ford(2009 年)は帰国生 5 人の語りから、集団志向、いじめと被害、アイデンティティ、教室でのやり取りの型という 4 つの主題を取り出しました。教室で手を挙げて意見を言う型と、黙って聞く型の違いは、英語ができるかどうかとは別の難しさです。Enloe と Lewin(1987 年)が帰国者 21 家族・子ども 40 人を調べた研究では、ほぼすべての子が帰国後に一連の問題を経験したものの、多くは 1〜2 年で解消し、ただ文化的なアイデンティティの問題は長く残る、という結果でした。同じ研究は、数年たっても子どもは英語の力を保っていたこと、そして親が口で言うだけでなく実際に動く支援をしたときに、英語を続ける意欲が保たれたことも報告しています。

帰国後の揺れは、日本だけの現象ではありません。Černigoj(2025 年)は、再入国ストレスに関する 55 の研究の系統的レビューと、45 か国の高校生の留学生 1,485 人を 18 か月追った縦断調査を合わせた学位論文で、再入国ストレスの有病率を研究によって 40〜92% と報告しています。受容の対処(起きていることを受け止める構え)は低いストレスを、回避の対処は高いストレスを予測し、集団主義と文化的な同質性が高い国へ戻る子ほどストレスが高くなっていました。Lee と Lee(2024 年)が英語圏で学んで韓国へ戻った 12〜16 歳の 12 人に面接した研究では、帰国後は学業、厳しい校則、社会的な再統合に苦労し、海外経験への偏見がそれを強めていました。学位論文と、12 人の面接という小さな規模の研究で、日本の中高生にそのまま重ねることはできませんが、東アジアの受験と校則の文化に戻る子の難しさとして読む価値はあります。

もう一つ、見落としやすい知見があります。Gaw(2000 年)が海外経験のある米国の大学生 66 人を調べた研究では、逆カルチャーショックが強い学生ほど適応と人づきあいの問題を多く報告し、しかも支援サービスの利用が減っていました。困っている子ほど、助けを求める窓口から遠ざかる、ということです。帰国した学生 285 人を調べた Fanari ら(2021 年)は、自分の経験を話すこと(自己開示)の一部の次元が逆カルチャーショックの予測因子になることを示し、Smith と Kearney(2016 年)が米国のサードカルチャーキッズの大学生に面接した研究では、「聞いてほしい」という願いと、同じ経験を持つ仲間と組む傾向が語られました。だから、受験の準備と同じくらい、海外のことを普通の顔で話せる場があるかどうかが、帰国後の 1 年を左右します。

言葉は帰国後 6 か月で変わり始める

保護者が最初に気づく変化は、たいてい言葉です。「あんなに話せていた英語が、半年で出てこなくなった」という親の逸話は多いのですが、大規模な実証は少ない、と筑波大学の講義資料(平井・2014 年)は書いています。その資料が引く Tomiyama(1999〜2000 年)の追跡は、8 歳で帰国した 1 人の子を長く追ったもので、帰国後 6 か月で最初の喪失の兆しが現れ、4 年後も受容(聞く・読む)と産出(話す・書く)の能力は残ったものの、流暢さは落ちていました。1 人の追跡ですから一般化はできませんが、「6 か月」という目安は、帰国後の時間の設計を考えるときの最初の目印になります。

個人差はとても大きい、という知見も並べておく必要があります。立命館大学の紀要に載った研究は、日本人帰国生の言語喪失の個人差を 6 年にわたって追い、複雑で動的なシステムとして言語の変化を捉える理論を検証しました。同じ年齢で同じ年数を海外で過ごしても、失う速さも残り方も子どもによって違います。Kubota ら(2021 年)が日英バイリンガルの帰国児童を帰国直後と 1 年後に調べた縦断研究では、集団全体では日本語も英語も語りの構造に大きな変化はなかった一方、個人のレベルでは、帰国後も英語に触れ続けた子ほど英語の語りの細部(語彙の多様さや文の密度)をよく保っていました。日本語の側は、帰国時の年齢と二つの言葉の相対的な力が、その後の発達を左右していました。Ikeguchi(1996 年)が帰国生の大学生 40 人と高校生 34 人の英語力を自己評価と客観テストで比べた研究でも、大学生は自分の力が落ちたと感じ、それは聞く・話すのテストで裏づけられ、帰国から時間がたつほどその傾向が強まっていました。

図1 帰国から受験までの時間軸、6か月で言葉の変化の兆し、3年で出願期限の壁

図1のように、帰国からの時間軸には 3 つの目印があります。6 か月で言葉の変化の兆しが出ること、1〜2 年で多くの子の生活上の問題が落ち着くこと、そして 3 年で多くの学校の帰国生入試の出願期限が閉じることです。この 3 つを一枚に置くと、英語をどう扱うかの答えが見えてきます。英語を「得意だから放っておいてよい科目」ではなく、「維持する科目」として、毎日の接触の中に置くことです。Kubota らの研究が示したとおり、帰国後に英語へ触れ続けたかどうかが、1 年後の英語の細部を分けました。英語の資格試験を帰国後の早い時期に 1 回受けておくのは、力を測るためというより、英語に触れる予定を生活に埋め込むためです。英検などの資格試験の使い方は、別のページに書いてあります。

日本語の側は、「話せるのに書けない」から始まります。帰国子女の児童の語彙を調べた紀要の調査では、同学年の一般の児童より理解度が明らかに低い語があり、その語にはコロケーション、つまり語と語の結びつきの理解が要るものが目立ちました。「手を焼く」「気が置けない」のように、一語一語はわかっても組み合わせの意味が取れない、という型です。対象は児童なので中高生にそのまま当てはめることはできませんが、語彙の穴が「難しい漢字」ではなく「結びつき」に出るという指摘は、学力の組み直しの順番を決めるときに役立ちます。

言葉と学力の関係を大きな規模で見た研究もあります。Borgonovi と Ferrara(2020 年)は、PISA に参加した 15 歳 21,618 人のデータで、家で話す言葉と授業の言葉との距離(言語距離)が大きいほど、読解・数学・理科の成績が低いことを示しました。一方、学校への所属感とは関係が見られませんでした。成績への不利は、12 歳以降に移住した子、家庭の経済的な背景が有利な子、早い段階で進路を分ける教育制度の国の子で、より強く出ていました。移民の子を対象にした調査で、日本の帰国生に直接当てはまるものではありませんが、「年長で言葉を切り替えた子ほど、教科の成績に出る」という向きは、高校・大学の帰国受験で日本語の学び直しに時間を割く理由を補強します。

中学受験(帰国生入試)——出願資格の型と例外

中学の帰国生入試で最も多い出願資格の型は、「海外の学校に 1 年以上在籍(在住)し、帰国後 3 年以内」です。女子聖学院中学校の 2027 年度の要項は、原則として海外の教育機関に 1 年以上通学し、かつ帰国後 3 年以内、と定めています。淑徳中学校の帰国生入試の案内は、保護者の海外勤務に伴い 1 年以上在留し、帰国後 3 年以内、としたうえで、3 年を入試日から数えると明記しています。この「入試日から起算」という一語が、冒頭の場面で保護者の手が止まった理由です。入学日から数えるのか、出願日から数えるのか、入試日から数えるのかで、受けられる年度が 1 年ずれることがあります。

例外もあります。山脇学園中学校の 2026 年度の帰国生入試は、2026 年 3 月末までに帰国予定の人も対象に含めています。つまり帰国前に受験できる学校がある、ということです。辞令が出て半年後に帰国する家庭にとって、これは準備の順番を変える情報です。帰国してから探し始めるのではなく、海外にいるうちに要項を読み、帰国前受験ができる学校を候補に入れるかどうかを決められます。一方で、「1 年以上」の数え方には「継続して」と「通算で」の違いがあり、芝浦工業大学附属の海外在住者向けの入試(2026 年 7 月公開の案内)のように、出願時点で海外の学校に連続して 1 年半以上在籍し、海外に在住していることを求める学校もあります。この型は「帰国後 3 年以内」の型とは別の設計で、帰国後に受ける入試ではなく、海外にいる間に受ける入試です。

図2 出願資格の3つの型、1年以上在籍と帰国後3年以内、継続1年9か月以上、外国の高校に2年以上

図2のように、出願資格の型は大きく 3 つに分けられます。中学・高校に多い「1 年以上在籍、帰国後 3 年以内」の型、条件が厳しい学校の「継続して 1 年 9 か月以上」の型、大学に多い「外国の高校に 2 年以上」の型です。ここに挙げた例はいずれも、その年度のその要項の記述であり、翌年度に同じとは限りません。出題の型(作文・面接・英語・算数など)も学校ごとに違いますから、断定はせず、志望校の最新の要項でその年の科目と配点を確かめることを前提にします。

中学受験で帰国生入試を使う子に起きやすいのは、算数の「言葉の壁」です。海外の学校で割合や分数の計算はできていても、「割合」「比」「速さ」「およその数」といった日本語の用語と、問題文の読み方が別のものとして立ち上がります。日本の中学入試の算数は、計算力より文章の読解と図への置き換えを問うことが多いので、英語で学んだ算数の知識を日本語の問題文につなぎ直す時間が要ります。これは能力の問題ではなく、用語の置き換えという作業の問題です。

高校受験——同じ型でも条件が厳しい学校がある

高校の帰国生入試の出願資格は、中学と同じ「1 年以上・帰国後 3 年以内」の型が多いのですが、条件が厳しい学校があります。早稲田大学高等学院の 2026 年度の帰国生要項は、海外在留期間が継続して 1 年 9 か月以上であることを求めています。「1 年以上」で候補に入れていた学校が、要項を読むと「1 年 9 か月」だった、という形で、半年あまりの差が出願資格そのものを分けます。帰国が半年後に決まった家庭なら、海外の在籍期間が出願の時点で何か月になるかを、月の単位で数えておく必要があります。

公立高校の帰国生枠は、都道府県で仕組みが違います。東京都の場合は都の案内で、枠を置く学校と出願の条件を確かめるのが確実です。ここでは具体の校名や枠の数は挙げません。年度で動くうえ、資料として確かめられる範囲を超えるからです。

高校受験の帰国生は、Tamura と Furnham の調査が示した「年長ほど難しい」の年齢帯に入ります。中学生で帰国した子は、受験の準備と同時に、日本の中学校の集団の型(Ford の 4 主題で言えば集団志向と教室でのやり取りの型)に初めて出会います。Lee と Lee の韓国の研究で 12〜16 歳の子が挙げた「厳しい校則」の難しさも、この年齢帯に重なります。だから高校受験の帰国生には、中学受験より長い助走と、受験以外の話ができる場が要ります。

大学受験——「外国の高校に 2 年以上」の型と総合型選抜

大学の帰国生入試の出願資格は、大学ごとに違い、年度で変わります。多いのは「外国の高等学校に 2 年以上継続して在籍し、卒業した(または卒業見込みの)者」という型です。中学・高校の「1 年以上」より長く、しかも「高校の課程で」という限定がつくことが多いので、中学生のうちに帰国した子は、大学の帰国生入試の資格を満たさないことがあります。その場合は、一般選抜か、総合型選抜・学校推薦型選抜の中で海外経験を評価する枠を使う、という道になります。どの大学にどの枠があるかは、必ずその年度の募集要項で確かめます。

英語の資格試験は、大学の帰国生入試と総合型選抜のどちらでも、出願の条件や評価の材料として使われることが多いものです。ここで、前の節の「英語を維持する科目に置く」という話がつながります。帰国後に英語へ触れる予定を生活に埋め込んでおいた子は、高校 2 年・3 年で資格試験の点を揃えるときに、落ちた流暢さを取り戻す時間を節約できます。総合型選抜は、志望理由書と面接で「海外で何を考えたか」を言葉にする選抜ですから、帰国子女の経験そのものが材料になります。ただし、Hansen の研究が指摘した「暗記した事実の再生」を求める型の入試を一度は通る必要があることも、同時に見ておきます。一般選抜の国語・数学・理科・社会の土台を捨てて総合型選抜だけに絞るのは、選択肢を狭めます。海外で育てた考える力は捨てず、その型を一度は通る。両方を持つのが、大学受験の帰国生の設計です。

要項を読む 5 点

出願資格の文は短く、しかも学校ごとに言葉が少しずつ違います。要項を開いたら、次の 5 点を順に確かめます。

1 つ目は、在留期間の数え方です。「継続して」なのか「通算で」なのか。一時帰国で日本の学校に数か月通った期間を、継続とみなすのか、切れたとみなすのか。要項に書かれていなければ、学校に問い合わせて、答えを日付と担当者の名前とともに控えます。

2 つ目は、帰国後の年数の起算日です。入試日から数えるのか、入学日から数えるのか、出願日から数えるのか。淑徳中学校の案内のように入試日からと明記している学校もあれば、書いていない学校もあります。

3 つ目は、「在籍」と「在住」の違いです。海外の学校に在籍していた期間と、海外に住んでいた期間は、一致しないことがあります。現地の学校の学年の切り替わりと、日本の学年の切り替わりの間に空白があるときに差が出ます。

4 つ目は、英語などの資格試験の扱いです。出願の条件なのか、加点なのか、科目の免除なのか。有効期限があるか、どの試験が認められるか。

5 つ目は、出題の型です。作文・面接・英語・算数(数学)のどれが課されるのか、日本語で書くのか英語で書くのか、面接は保護者も同席するのか。これは学校ごとに違うので、ここでは「要項で確かめる」としか書きません。

この 5 点を、志望校ごとに一枚の表にして、年度と要項名と確かめた日付を添えておくと、翌年度に要項が変わったときに差分がすぐにわかります。

学力の組み直し——4 つの柱と心の受け皿

帰国後の学力は、「遅れている」のではなく「別の形で積まれている」ものです。だから組み直しが要ります。図3のように、柱は 4 つあり、その下に心の受け皿があります。

図3 学力の4つの柱、日本語、英語の維持、算数数学の用語、理科社会の空白と、心の受け皿

1 本目の柱は日本語です。多くの帰国生は日本語を話せます。話せるのに書けない、というところから始まります。漢字は、海外で日本語の補習校に通っていた子でも、書く量が少ないので手が止まります。語彙は、前に書いたとおり、難しい漢字より「結びつき」に穴が出ます。作文は、英語で身につけた「主張を先に、理由を後に」という型を、日本語の作文の型にどう置き換えるかという問題です。英語の型を捨てる必要はなく、日本語の型を一つ足す、という考え方で進めます。そして内容は年齢相応にします。中学 2 年生に小学 3 年生の教材を渡すと、本人は「自分はできない子だ」と受け取ります。語彙が小学生の水準だからといって、考える内容まで小学生に戻す必要はありません。秋田大学の紀要に載った齋藤ら(2015 年)の研究は、帰国子女の学校適応の支援を構造として整理し、日本語の支援を段階的に行う必要と、手厚い支援が帰国子女学級など一部の場に限られている現状を指摘しています。普通の学校に戻った子ほど、学校の外に段階的な日本語の場が要る、ということです。

2 本目の柱は英語の維持です。ここまで書いてきたとおり、帰国後 6 か月で喪失の最初の兆しが出て 4 年後には流暢さが落ちていたこと、帰国後に触れ続けた子ほど英語の細部を保つこと、帰国から時間がたつほど大学生は聞く・話す力の低下を感じることが、それぞれ別の研究で示されています。だから英語は、週に 1 回まとめて勉強する科目ではなく、毎日 20 分でも触れる科目として置きます。読む本、見る動画、書く日記、話す相手。形は何でもよく、切らさないことが要点です。Enloe と Lewin の調査が示したとおり、親が口で「英語を続けなさい」と言うより、実際に本を買って一緒に読むといった動く支援のほうが、子どもの意欲を保っていました。

3 本目の柱は算数・数学の用語の置き換えです。海外の算数・数学で学んだ概念は、多くの場合そのまま使えます。使えないのは言葉です。「約分」「通分」「比例」「一次関数」「因数分解」という用語と、日本の問題文の読み方を、概念に貼り直す作業です。ここは比較的短い期間で埋まります。概念があるので、用語の対応表を作りながら日本の問題を解けば、数か月で追いつく子が多いというのが現場の見立てです。ただし、日本の中学入試の算数のように、概念より問題文の読解と図への置き換えを問う型は、日本語の読解の柱と一体で進める必要があります。

4 本目の柱は理科・社会の空白です。海外の学校では、日本の地理・歴史・公民はほぼ扱いません。理科も、扱う単元の順番と重さが日本と違います。この空白は「忘れた」のではなく「学んでいない」ので、埋める作業は新しく学ぶ作業です。だからこそ、本人の責任ではないと最初に伝えます。中学受験なら小学校の理科・社会の全範囲、高校受験なら中学 3 年分、大学受験なら高校の選択科目のうち受験で使う分を、どこから埋めるかを一緒に決めます。

4 本の柱の下にあるのが、心の受け皿です。Černigoj の研究が示した「受容の対処が低いストレスを予測する」という知見と、Gaw の研究が示した「困っている子ほど支援から遠ざかる」という知見、そして Smith と Kearney の面接に出た「聞いてほしい」という願いを、受験の準備の中にどう置くかという問題です。塾は学校でも家でもない第三の場所です。1 対 1 の授業なら、海外のことを普通の顔で話せます。「向こうではどうやって解いていた」という話が算数の用語の置き換えの入口になり、「向こうの学校では手を挙げて意見を言うのが普通だった」という話が、日本語の作文の型を考える入口になります。海外の経験を「受験に関係ない昔話」として扉を閉めるのではなく、学力の組み直しの材料として机の上に置く。それが 1 対 1 でできることです。

進め方は、帰国からの時間を軸に組みます。帰国後の最初の 6 か月は、英語の接触を切らさないことと、日本語の「書く」を毎回少しずつ入れることを優先し、算数・数学の用語の置き換えを並行します。この時期に理科・社会の空白を一気に埋めようとすると、日本語の読解がまだ追いつかず、暗記だけが残ります。6 か月から 1 年は、日本語の作文の型と語彙の結びつきを厚くしながら、理科・社会を志望校の出題範囲に合わせて埋めていきます。1 年を過ぎたら、志望校の要項の出題の型に合わせた演習に入ります。もちろんこの順番は暫定の目安で、Moriyoshi の研究が示した 4 つの適応の型のどれを本人が通っているかによって、速くも遅くもなります。「初めは落ち着き、後で葛藤する」型の子が、1 年たってから学校へ行きづらくなることもあり、そのときは受験の予定を一度止めて、話せる場を優先します。

結び

辞令が出て帰国が半年後に決まった日に、保護者ができることは、要項の 5 点を表にすることと、帰国後の英語の接触を生活に埋め込む予定を立てることの 2 つです。帰国してからできることは、日本語を「話せるのに書けない」から組み直し、算数・数学の用語を貼り直し、理科・社会の空白を埋め、そして海外のことを普通の顔で話せる場を確かめることです。研究が示す知見はどれも暫定で、1 人の追跡や数十人の面接に基づくものも多く、日本の今の子にそのまま当てはまるとは限りません。それでも「年長ほど難しい」「6 か月で言葉が変わり始める」「困っている子ほど助けから遠ざかる」という 3 つの向きは、受験の時間の設計を変えるだけの重さを持っています。

帰国後の 6 か月は、言葉が失われ始める時間ではなく、どの言葉を残し、どの言葉を組み直すかを選べる最初の時間です。

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参考文献

帰国後6か月で、言葉は変わり始めます。

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宮川 涼 Founder
早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。

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