連載「学びの意思決定——行動経済学・社会学・認知心理学から考える」全50回の第31回です。学習の仕方の目次を見る
テストが返ってきて「ケアレスミスが多かった」と言う。この一言で片づけると、次も同じことが起きます。誤りには種類があり、種類ごとに原因も対処も違うからです。産業安全の分野では、この分類が半世紀にわたって精緻化されてきました。
ここから10回は、学習科学と指導設計の知見を扱います。第3ブロックが頭の中のしくみだったのに対し、ここではその制約を踏まえて、練習をどう組み立てるかを扱います。最初に置くのが、誤りの分類です。誤りの種類が分からなければ、練習の設計もできません。
要点(結論から)
- 意図していない行為をしてしまう誤りはスリップと呼ばれる。計画は正しく、実行がずれる。
- 手順を飛ばす、忘れる形の誤りは、記憶の失敗によるものとして区別される。
- 計画そのものが間違っている誤りはミステイクであり、練習量では解決しない。
結論——「ケアレスミス」は3つに分かれる
- 意図していない行為をしてしまう誤りはスリップと呼ばれる。計画は正しく、実行がずれる。
- 手順を飛ばす、忘れる形の誤りは、記憶の失敗によるものとして区別される。
- 計画そのものが間違っている誤りはミステイクであり、練習量では解決しない。
- 3つは原因が違うため、対処も違う。まとめて「注意不足」と扱うと、どれも直らない。
- 実務的には、答案の誤りをこの3つに仕分けるところから始める。
理由——誤りの分類はどう作られたか
意図と行為のずれ
ノーマンは、行為のスリップを収集し、理論的に整理しました。スリップとは、意図していない行為を行ってしまう誤りです。
Norman DA. Categorization of action slips. Psychological Review. 1981;88(1):1-15.
彼の枠組みでは、行為の系列は親スキーマと多数の子スキーマで表されます。複数の行為スキーマが同時に活性化しうるため、似た手順のあいだで取り違えが起きる。それぞれのスキーマは発火条件と活性の値を持ち、条件が合ってしまうと、意図していないほうが動き出します。
勉強の場面に直すと、こうなります。手順は分かっているのに、似た手順が動いてしまう。 展開と因数分解を取り違える、符号の処理を1つ前の問題の形で行う。これらは理解の問題ではありません。
誤りを体系として扱う
リーズンは、それまで別々に扱われてきた誤りの研究を統合し、多様な誤りの型に共通する認知過程を同定しました。
Reason J. Human Error. Cambridge University Press. 1990.
この仕事が示した重要な点は、誤りは個人の不注意ではなく、認知の仕組みから予測できる形で起きるということでした。技術の分野では、この理解なしに安全を高めることはできない段階に達していると述べられています。
学習でも同じです。誤りを性格の問題として扱うかぎり、対処は「気をつける」しかありません。仕組みから起きるものとして扱えば、条件を変えることで減らせます。
具体例——答案の誤りを3つに仕分ける
| 種類 | 中身 | 典型例 | 対処 |
|---|---|---|---|
| 実行のずれ | 計画は正しいが、行為がずれた | 符号の写し間違い、単位の付け忘れ | 手順の外部化、確認の型 |
| 記憶の失敗 | やるべき手順を飛ばした | 検算を忘れる、条件を見落とす | チェックリスト、順序の固定 |
| 計画の誤り | そもそも方針が違う | 使う公式を間違える、設問の要求を誤読 | 理解の修正、型の整理 |
この仕分けが重要なのは、3行目だけが学習内容の問題だからです。1行目と2行目は、内容を理解していても起きます。したがって、理解を深める勉強をいくら重ねても減りません。
今日からできること
- 間違い直しのときに、3つのどれかを書く。 記号で十分です。実行、記憶、計画。
- 実行のずれには、書き方の型を作る。 符号を先に書く、単位を最初に書く。手順を変えれば減ります。
- 記憶の失敗には、確認の場所を固定する。 「大問の最後に必ず単位を見る」。場所が決まっていないと実行されません。
- 計画の誤りだけを、勉強し直す対象にする。 ここが本当の弱点です。
- 仕分けの結果を数える。 どの種類が多いかで、対策の優先順位が決まります。
学年で変えるところ
- 小学生——実行のずれが多い時期です。書く欄を広く取る、途中式を残すといった形式の工夫が効きます。
- 中学生——3種類が混在します。仕分けの習慣をここで作ると、以後の復習が効率化します。
- 高校生——計画の誤りが成績を左右します。ただし、実行のずれによる失点も無視できない量になるため、両方を数える必要があります。
似た手順ほど、取り違えやすい
ノーマンの枠組みで重要なのは、複数の行為スキーマが同時に活性化しうるという点です。発火の条件が似ていれば、意図していないほうが動き出します。
この性質は、第27回で扱った干渉と同じ形をしています。似ているものどうしが競合する。記憶では取り違えとして、行為ではスリップとして現れます。
勉強で取り違えが起きやすい組み合わせは、ある程度決まっています。展開と因数分解、微分と積分、能動と受動、加法と減法の符号処理。いずれも、手順の大部分が共通していて、一部だけが違います。
対処は2つあります。第一に、分岐点を明示すること。「ここで、どちらの手順に入るかを決める」と紙の上に印を作ります。第二に、直前に確認する動作を入れること。手が動き出す前に、どちらをやるのかを声に出す、あるいは書く。どちらも、自動的な発火の前に一拍置く工夫です。
逆に効果が薄いのは、「気をつけよう」と念じることです。念じている内容は、手が動き出すときには意識から外れています。第1回で扱った現在バイアスと同じで、決意は必要な瞬間には残っていません。
誤りを数えると、優先順位が決まる
3つの分類を導入したら、次にやることは数えることです。直近の答案3回分を仕分けて、種類ごとの失点を集計します。10分で終わります。
結果は、たいてい予想と違います。「計画の誤り」だと思っていたものが、実は実行のずれだったり、その逆だったりします。第3回で述べたとおり、自分についての推定は記録で更新するほうが確実です。
集計が出たら、最も失点の大きい種類から手をつけます。ここで、種類ごとに対策の費用が違うことに注意してください。実行のずれは、書き方の型を変えるだけなので費用が小さく、効果が早く出ます。計画の誤りは、内容の学び直しが必要で、時間がかかります。
短期の試験が近いなら、費用の小さいほうから着手するのが合理的です。長期の学力を上げたいなら、計画の誤りに時間を割く。同じ集計から、時期に応じて別の判断が出せます。
「ケアレスミス」という語の問題
この語には2つの問題があります。第一に、原因を注意力に帰属させること。注意力は変えにくいので、対処が「次は気をつける」に固定されます。第二に、異なる種類の誤りを1つにまとめてしまうことです。
第14回で扱ったラベルの話と同じ構造です。変えられないものに原因を置くと、打つ手が消えます。逆に、手順や形式に原因を置けば、変えられる対象が生まれます。
実際、産業の現場では、人の注意力に頼らない設計が標準になっています。手順を固定する、確認の場所を決める、間違えにくい形にする。同じ発想は、答案の書き方にも使えます。
注意に頼らない設計にする
産業安全の分野で確立している考え方の一つは、人の注意力を安全の最後の砦にしないというものです。人は必ず誤ります。誤ることを前提に、誤っても大事に至らない仕組みを作る。
この発想は、答案の書き方にそのまま移せます。いくつか例を挙げます。
- 途中式を消さない。 消してしまうと、どこでずれたかが追えません。追えない誤りは、次に生かせません。
- 答えを書く場所を先に確保する。 余白が足りずに詰めて書くと、実行のずれが増えます。
- 単位と符号の位置を固定する。 いつも同じ場所に書く習慣にすると、無いことが目立ちます。
- 設問の要求に印を付ける。 「すべて選べ」「小数第2位まで」。読み落としは記憶の失敗として頻出します。
いずれも、注意力を要求していません。形式を決めているだけです。だからこそ、疲れていても、時間が足りなくても働きます。第7回で扱ったデフォルトの考え方と同じで、何もしなければそうなる状態を作るのが要点になります。
練習と本番で、誤りの種類は変わる
練習では出なかった誤りが、本番で出ることがあります。原因の多くは、時間の圧力と緊張によって使える資源が減ることにあります。
このため、練習の段階で誤りの種類を把握していても、本番ではもう1種類増えると考えておくほうが安全です。増えやすいのは、実行のずれと記憶の失敗です。計画の誤りは、本番だから増えるという性質のものではありません。
対処としては、時間を計った状態で誤りを数えるのが確実です。第24回で述べたとおり、練習の条件を本番に近づけると、本番で出る誤りが練習でも出ます。出れば、対策が打てます。
誤りの量は、状態によって変わる
実行のずれと記憶の失敗は、疲労と時間の圧力で増えます。これは能力の問題ではなく、使える資源が減ることによると説明されます。第21回で扱った容量の話とつながります。
したがって、対策には2つの方向があります。一つは、資源を増やす方向——睡眠、休憩、時間の余裕。もう一つは、資源が少なくても成立する手順を作る方向です。後者のほうが、本番で確実に働きます。
具体的には、確認の手順を考えなくてもできる形にしておきます。「見直す」は考える必要がありますが、「単位を丸で囲む」は考えずにできます。疲れた状態で残るのは、後者のほうです。
よくある失敗——同じ誤りを「またやった」で終える
間違い直しで最も多い失敗は、正しい答えを書いて終えることです。これでは、誤りの種類も、起きた条件も記録されません。
記録すべきは、次の3つです。何を間違えたか、どの種類か、どういう状況だったか。 3つ目が特に重要で、時間が足りなかったのか、疲れていたのか、最後の1問だったのか。条件が分かると、対策が具体になります。
そして、同じ種類の誤りが繰り返されているなら、それは偶然ではありません。手順に構造的な弱点があります。第27回で扱った取り違えの地図と同じで、繰り返しは情報です。
保護者ができること——「どの種類?」と聞く
答案を一緒に見るとき、内容が分からなくても使える問いがあります。
- 「分かってたのに間違えた? 分からなかった?」——実行・記憶の失敗と、計画の誤りを分ける最初の質問です。
- 「分かってたなら、どこでずれた?」——実行のずれの箇所を特定します。
- 「同じ間違い、前にもあった?」——繰り返しの検出です。
この3つで仕分けができます。そして、「ケアレスミスだね」と言わないことが最も重要です。その一言で、対処可能な情報が失われます。
誤りは、試験の外でも同じ形で起きる
この分類は、答案に限らず使えます。提出物を出し忘れる、持ち物を忘れる、約束の時刻を間違える。いずれも、実行のずれか記憶の失敗として説明できます。
家庭でよく問題になる「何度言っても忘れる」は、ほとんどが記憶の失敗です。意欲や態度の問題として扱うと対処が消えますが、記憶の失敗として扱えば、外部化という手が残ります。持ち物を前夜に玄関へ置く、提出物を1か所にまとめる。第7回で扱った環境設計と同じ考え方です。
この見方の利点は、責める必要がなくなることです。誤りは仕組みから起きるので、仕組みを変えれば減ります。減らなければ、仕組みの変え方が足りていないだけで、そこにも次の手があります。
誤りの種類は科目をまたいで現れる——ケアレスミスの正体
誤りの種類を仕分ける考え方は、計算問題だけのものではありません。たとえば社会の用語を書く場面では、似た名前の制度を取り違える誤りと、覚えていたのに漢字を書き間違える誤りが混ざります。前者は知識の整理の問題であり、後者は出力の精度の問題です。同じ「間違い」という言葉で呼んでいても、次に打つ手はまったく変わります。
英語の長文を読む場面でも同じことが起きます。単語の意味を取り違えたのか、意味は分かっているのに時間が足りずに読み飛ばしたのかで、対策は別物になります。時間帯を変えて解き直すと、朝は正解していた問題が夜には落とすことがあります。これは理解の誤りではなく、状態による誤りだと考えられます。
理科の実験レポートのように、手順と結果を書く場面も同様です。手順の順序を入れ替えて書いてしまう誤りは、内容の理解ではなく、手順の記憶の取り出し方の問題であることがあります。道具の名前を混同する誤りも、この分類に入ります。科目ごとに呼び方は違っても、誤りの構造には共通する型があると考えられます。
分類が作業になってしまう——種類分けで満足する
誤りを仕分けると決めても、実際に答案を前にすると手が止まることがあります。どの種類に入るか迷う問題が必ず出てくるためです。迷った末に分類を後回しにすると、答案はそのまま机の隅に積まれていきます。まずは迷ったものに印だけをつけて先に進むほうが、全体を見渡しやすくなります。
もう一つのつまずきは、分類したことで満足してしまうことです。仕分けは原因を探すための入口であり、それ自体が対策ではありません。分類の結果を見て、次にどの種類を減らすかを一つだけ選ぶところまで進めると、行動につながりやすくなります。夜遅くに分類作業をすると、判断が雑になることがあります。
また、分類の枠を細かくしすぎると、かえって続かなくなります。最初は大きな枠で始め、必要になったときに分け方を増やすほうが現実的です。分類の表をきれいに作ることよりも、次の一回の演習で何を変えるかを決めることのほうが、結果につながると考えられます。
この記事で言えないこと
誤りの分類は、産業安全や認知心理学の枠組みから来ています。教科の答案に現れる誤りが、この分類にきれいに収まるとは限りません。実際には、複数の要因が重なっている場合が多くあります。
また、分類しただけで誤りが減るわけではありません。分類は対策の入口であって、対策そのものではありません。仕分けた後、種類ごとに手順を変える作業が要ります。
当塾の立場
誤りを3つに仕分ける、記録する、条件を書く。いずれも紙と鉛筆でできます。塾は必要ありません。
武蔵野個別指導塾では、間違い直しの際に種類を本人に言わせる手順を置いています。正解を書き写すだけの直しでは、次に生きません。加えて、実行のずれが多い生徒には、内容ではなく書き方の型を変える提案をします。理解の指導と、手順の指導は別の作業だと考えています。
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出典
- Norman DA. Categorization of action slips. Psychological Review. 1981;88(1):1-15.
- Reason J. Human Error. Cambridge University Press. 1990.

