見積もりはなぜ外れるのか——計画錯誤を記録で直す|武蔵野個別指導塾が薦める学習の仕方

連載「学びの意思決定——行動経済学・社会学・認知心理学から考える」全50回の第3回です。学習の仕方の目次を見る

試験前に計画表を作る。ワークを1日10ページ、5日で仕上げる。ところが実際には3日目で半分も終わっていない。この「見積もりが必ず外れる」現象には名前がついています。計画錯誤です。そして重要なのは、これが不注意な人だけに起きるものではないという点です。過去に何度外したことがある人でも、次の見積もりはまた短くなります。

計画が守れないとき、多くの家庭で議論になるのは「やる気があったかどうか」です。しかし研究が示しているのは、もっと手前の話です。計画を立てる瞬間に、人は自分の過去を使っていない。使っていないものは、反省しても改善しません。

この記事では、見積もりの外れ方に一定の型があること、そしてその型を利用して見積もりを直す具体的な手順を扱います。

要点(結論から)

  • 人は自分の所要時間を短く見積もる。ところが他人の所要時間は短く見積もらない。ここに手がかりがある。
  • 見積もりのとき、頭の中では「これからの筋書き」が走っている。過去に同じ課題で何時間かかったかは、ほとんど参照されていない。
  • 過去を思い出させると、楽観は小さくなる。ただし、過去の記憶そのものも実際より短くなっていることが分かっている。

結論——自分の見積もりは直せない。使う材料を変える

  • 人は自分の所要時間を短く見積もる。ところが他人の所要時間は短く見積もらない。ここに手がかりがある。
  • 見積もりのとき、頭の中では「これからの筋書き」が走っている。過去に同じ課題で何時間かかったかは、ほとんど参照されていない。
  • 過去を思い出させると、楽観は小さくなる。ただし、過去の記憶そのものも実際より短くなっていることが分かっている。
  • だから対策は「気をつける」ではなく、記録した実測値を材料にすることになる。記憶ではなく記録である。
  • 実務的には、似た課題の実績の分布から予測する方法(参照クラス予測)を、自分の勉強に縮めて使う。

理由——見積もりの現場で何が起きているか

自分にだけ甘い、という非対称

ビューラーらの研究は、学生に卒業論文などの完成時期を予測させ、実際の完成日と比べました。予測は一貫して楽観的でした。ところが同じ課題について他人の完成時期を予測させると、その偏りは出ませんでした。

Buehler R, Griffin D, Ross M. Exploring the “planning fallacy”: Why people underestimate their task completion times. Journal of Personality and Social Psychology. 1994;67(3):366-381.

この非対称は決定的です。もし原因が「課題を甘く見ている」ことなら、他人の課題でも同じ甘さが出るはずです。出ないということは、原因は課題の側ではなく、自分について考えるときの視点の側にあります。

実際、この研究では声に出して考えさせる手続き(思考発話)を使い、予測中に何を考えているかを記録しています。学生の注意は、ほぼ「これからどう進めるか」という筋書きに向いていました。前回のレポートに何日かかったか、といった過去の情報はほとんど登場しません。そして研究4では、過去の経験を思い出して結びつけるよう明示的に指示すると、楽観的な偏りが消えました。

ところが、その「過去の記憶」自体が短い

それなら過去を思い出せばよい、と言いたくなります。ここに二段目の落とし穴があります。ロイらの総説は、人が過去の出来事の所要時間そのものを系統的に短く記憶していると指摘しました。

Roy MM, Christenfeld NJS, McKenzie CRM. Underestimating the Duration of Future Events: Memory Incorrectly Used or Memory Bias? Psychological Bulletin. 2005;131(5):738-756.

つまり、私たちは過去を正しく思い出したうえで楽観しているのではなく、思い出した過去がすでに短い。記憶に頼るかぎり、見積もりは構造的に短くなります。結論は単純です。記憶ではなく記録を使う。ストップウォッチと紙の記録は、この一点で意志より強い。

大きな計画でも同じことが起きている

この偏りは個人の勉強に限りません。フリウビヤは、公共事業の費用や需要の予測が体系的に外れることを示し、対策として参照クラス予測を提唱しました。自分の計画の内側を精密に考えるのではなく、似た事業が実際にどうなったかという分布から予測する方法です。

Flyvbjerg B. Curbing Optimism Bias and Strategic Misrepresentation in Planning: Reference Class Forecasting in Practice. European Planning Studies. 2008;16(1):3-21.

ビューラー、グリフィン、ピーツによる後年の総説は、計画錯誤の原因を認知面だけでなく、動機づけや社会的な要因も含めて整理しています。人は他人に見せる計画ほど楽観的に語る、という側面もあるということです。

具体例——見積もりを記録で置き換える

中学生がワークを1日10ページ進める計画を立てたとします。この「10ページ」はどこから来たか。ほとんどの場合、残りページ数を残り日数で割っただけです。自分が1ページに何分かかるかは入っていません。

作り方 材料 典型的な結果
割り算で作る 残りページ数と日数 3日目で崩れ、計画表が机から消える
気持ちで作る 「今回は本気を出す」 初日だけ達成し、2日目に反動が来る
記録で作る 先週1ページにかかった実測の分数 ページ数は減るが、最後まで残る

今日からの手順

  1. まず1ページだけ、時間を測って解く。 見積もりの前に実測を1つ作ります。5ページ測れれば十分ですが、1ページでも無いよりはるかに良い材料です。
  2. 実測の値を1.5倍して使う。 記憶が短くなる分と、途中で起きる中断の分を最初から織り込みます。倍率の根拠は各自の記録で更新してください。最初は1.5から始めて、外れ方を見て直します。
  3. 予定は「ページ数」ではなく「時間」で書く。 30分でどこまで進むかは日によって変わりますが、30分机に向かうことは日によらず実行できます。
  4. 外れたら、計画ではなく倍率を直す。 ここが最も重要です。守れなかった計画を同じ形で作り直すと、同じ場所でまた崩れます。
  5. 他人に見積もらせてみる。 同じ課題を友人や保護者に「どれくらいかかると思う?」と聞くと、たいてい自分の見積もりより長い答えが返ります。その差が、自分の楽観の量です。

学年で変えるところ

  • 小学生——分単位の見積もりは難しいので、「1回に何問」で測ります。タイマーを見せて、10分で何問進んだかを一緒に数えるところから始めます。
  • 中学生——定期テストの範囲は毎回似ているので、参照クラスが作りやすい時期です。前回のテスト勉強に実際に何日かかったかを記録しておくと、次回の材料になります。
  • 高校生——受験勉強では課題の種類が増え、1冊を終える所要時間の幅が大きくなります。問題集ごとに「1単元にかかった時間」を記録し、残りを掛け算で出すと、無理な計画が事前に見えます。

よくある失敗——計画表を作ること自体が目的になる

計画錯誤の厄介なところは、計画を立てる作業が気持ちよいことです。色分けした表を作り終えた時点で、達成感が先に来ます。ところがその表は、実測を一つも含んでいません。

見分け方は簡単です。その計画表に数字の根拠が1つでも書いてあるか。 「1ページ8分・50ページ・実測の1.5倍で10時間」と書かれていれば、それは見積もりです。「毎日10ページ」しか書かれていなければ、それは願望です。願望は守れなかったときに自己嫌悪を生みますが、見積もりは外れたときに次の材料を生みます。

もう一つの失敗は、崩れた計画を丸ごと捨てることです。捨てると記録も消えます。崩れた計画こそ、次の倍率を決める材料になります。線を引いて残し、実際にかかった時間を横に書き足してください。

保護者ができること——「間に合うの?」を数字の質問に変える

計画が崩れている子どもに、保護者がかけがちな言葉は「それで間に合うの?」です。この質問には根拠を求める響きがありますが、実際には不安を伝えているだけで、材料を増やしていません。聞かれた側は「間に合う」と答えるしかなく、その答えはまた筋書きから作られます。

同じ心配を、材料の増える形に変えることができます。次の3つは、どれも30秒で終わる質問です。

  1. 「1ページ何分だった?」——実測を引き出す質問です。答えられないなら、まだ材料が無いということが分かります。それ自体が有益な情報です。
  2. 「残りは何ページ?」——分子と分母を本人に言わせます。掛け算をした瞬間に、無理があるかどうかは本人に見えます。
  3. 「前回のテスト勉強は何日かかった?」——過去を参照させる質問です。ビューラーらの実験で楽観が消えたのは、まさにこの操作を入れたときでした。

注意点が一つあります。この3つの質問は、答えが出た後で叱るために使わないことです。「ほら、間に合わないでしょう」と続けると、次からは実測を隠すようになります。数字を出すと責められる、と学習した子どもは、記録そのものをやめます。数字は、量を減らすか開始を早めるかを決めるための材料であって、責任を追及する証拠ではありません。

見積もりが外れること自体は失敗ではありません。外れ方が毎回同じ方向で、しかも記録されていないことが問題です。方向が分かれば補正できます。補正が効き始めると、計画表は「守れなかった約束の一覧」から「自分の実力の記録」に変わります。

年号の暗記と作文の下書き——見積もりが狂う二つの現場

この記事で扱った考え方は、ページ数の多いワークだけでなく、暗記や作文にも当てはめられます。たとえば英単語を覚える場面を考えます。今日の範囲を決めて机に向かっても、似たつづりの語が混ざり、覚えたつもりが翌朝には抜けていることがあります。覚えるという作業は、眺める時間ではなく、思い出せるかどうかを確かめる時間で決まるため、見積もりが短くなりやすいと考えられます。

作文でも同じです。書き始める前は、構成を決めてから書けば早く終わると考えます。ところが実際には、書き出した一文が次の一文を呼び、途中で構成そのものを組み替えることがあります。この往復の時間は、書き始める前には見えにくい部分です。結果として、予定していた時間帯を過ぎても原稿が残る、という事態が起きます。

こうした場面で使えるのは、作業の量ではなく、確かめる回数を先に決めておく方法です。単語なら範囲を区切って思い出す回数を決める、作文なら書き直す回数を決める。回数は時間ほど膨らみにくいため、見積もりの外れ幅を小さくできることがあります。

記録が作業に変わる——表を埋めることが目的になる

この記事の内容を試すとき、つまずきやすいのは、記録を取ること自体が目的になってしまう場面です。たとえば、実際にかかった時間を細かく書き残そうとすると、書き方の形式を整えることに意識が向き、勉強そのものの時間が削られます。記録は見積もりを置き換えるための材料であり、整った表を作ること自体が目的ではないと考えられます。

もう一つのつまずきは、記録を取る期間が短すぎることです。一日や二日の記録では、その日の体調や予定の影響が大きく、傾向として読めません。数日分がたまって初めて、どの作業にどれだけ時間がかかりやすいかが見えてきます。逆に、記録を長く続けすぎると、取ること自体が負担になり、途中で止まりやすくなります。

避けたいのは、記録と計画表を同時に作り直すことです。両方を一度に変えると、うまくいかなかった原因が記録の側にあるのか計画の側にあるのか分からなくなります。まずは実際にかかった時間だけを残し、その後に計画の立て方を見直す順序のほうが、判断しやすいと考えられます。

この記事で言えないこと

ビューラーらの実験は大学生が中心で、日本の中高生を対象にした再現研究は多くありません。楽観の大きさが同じとは限らないので、倍率は各自の記録で決める必要があります。1.5という数字はここでの出発点であって、研究が示した定数ではありません。

また、見積もりを正確にすれば成績が上がる、という話ではありません。正確な見積もりは、無理な計画を事前に捨てるために役立ちます。何を勉強するかという中身の判断は別の問題です。時間が足りないと分かった後で、範囲を削るのか、開始を早めるのかは、この記事の外側にあります。

最後にもう一点。参照クラス予測は、似た事例が十分に集まって初めて使える方法です。初めて取り組む種類の課題(初めての小論文、初めての模試)には、比べる相手がありません。その場合は、見積もりを出すこと自体をあきらめ、最初の1回を「計測のための回」と割り切るほうが合理的です。1回目は遅くて当たり前で、その遅さが2回目以降の材料になります。

当塾の立場

時間を測る、記録を残す、倍率で補正する。この3つは道具も費用も要りません。ストップウォッチとノートがあれば今日から始められます。塾に通う必要はまったくありません。

ただし、記録は一人だと続きにくいものです。武蔵野個別指導塾では、宿題を出すときに担当が所要時間を一緒に見積もり、次回その実測と突き合わせる手順をとっています。外れた場合に直すのは生徒の姿勢ではなく、出す量のほうです。見積もりの精度は、突き合わせた回数だけ上がります。

出典

  1. Buehler R, Griffin D, Ross M. Exploring the “planning fallacy”: Why people underestimate their task completion times. Journal of Personality and Social Psychology. 1994;67(3):366-381.
  2. Buehler R, Griffin D, Peetz J. The Planning Fallacy: Cognitive, Motivational, and Social Origins. Advances in Experimental Social Psychology. 2010:1-62.
  3. Roy MM, Christenfeld NJS, McKenzie CRM. Underestimating the Duration of Future Events: Memory Incorrectly Used or Memory Bias? Psychological Bulletin. 2005;131(5):738-756.
  4. Flyvbjerg B. Curbing Optimism Bias and Strategic Misrepresentation in Planning: Reference Class Forecasting in Practice. European Planning Studies. 2008;16(1):3-21.

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