【連載第10回・最終回】統合——家計はどこに、いくら払うべきか。この連載は、その額に答えられない

家計はどこに、いくら払うべきか

前回は、家計が費用と自分の子について、事実と違うことを信じている例と、情報の渡し方によって動くものと動かないものが分かれることを見ました。第9回「家計はなぜ払いすぎ/払わなすぎるのか」です。情報を渡すだけでは動かない。手伝うと動く。同じ手を全国規模にすると、また動かなくなる。表題の「払いすぎ/払わなすぎ」は問いであって、読者の家計が払いすぎている、あるいは払わなすぎている、という答えではありませんでした。

最終回の表題は、「どこに、いくら払うべきか」です。9回のあとで、金額の答えが来る、と読まれるかもしれません。来ません。この連載は、「いくら払うべきか」に答えられません。答えられない理由を述べ、代わりに何が言えるのかを示すのが、この回です。9回かけて積み上げたのは、金額の答えではありません。判断の手続きです。「結局これが正解でした」という締め方はしません。

結論を先に言います。支出がどこへ行っているかは、測れます。公立中学校の年間支出のうち、学校外活動費は全体の65.6%です [3]。大学学部(昼間部)の学生1人あたり年間費用のうち、授業料は全体の47.6%です [4]平均の収益率も、測られています。大卒収益率は概ね6〜7%で安定的に推移している、と述べられています [5]。高校卒と大学・大学院卒の生涯賃金差は約7,500万円、という値もあります [5]。ただし著者は、すべての大卒者が平均的な収益を享受しているわけではない、と留保しています [5]「いつ払うか」については、モデルがあります。Cunha、Heckman、Lochner、Masterov の論文です [1]。これはモデルであって、実証の結果ではありません。効果の大きさを、費用と規模拡大の可能性なしに読む基準もあります。Kraft の論文が、その欠けを指摘しています [2]。測れるものと、モデルの含意と、読めないものを分けたあとでも、家計が払うべき円の値は出ません。出ないことが、この回の本体です。

第3回「塾にかけた金は、成績を上げるのか」で確認したとおり、塾の効果は非決着です [6]。書誌事実のみで、この回でも再説明しません。効果が非決着の対象について、払うべき額を書くことはできません。混線させません。

1. 答えられない、と先に書く

「いくら払うべきか」に答えるには、少なくとも次が要ります。何に対する、誰の、どの規模の、どの時点の、いくらなのか。9回は、そのうちのいくつかを分けてきました。分けた結果として、円の値が一つに収束した、ではありません。分かれた、です。

第1回「教育費は、どこへ消えているのか」が見せたのは、支出の行き先です [3]。公立中学校の年間支出542,450円のうち、学校教育費は150,761円、学校外活動費は356,018円で、全体の65.6%です。学校の外へ、過半が出ています。行き先の地図です。地図の上の一点を、「正しい額」として読む材料には、なっていません。

第2回「見えない教育費」が見せたのは、大学の費用の内訳です [4]。大学学部(昼間部)の学生1人あたり年間費用は1,824,700円、うち授業料は869,200円で、全体の47.6%です。授業料は半分に届きません。4年間は1,824,700円 × 4 = 7,298,800円(およそ730万円)です。幼稚園から高校まで15年間すべて公立の約614万円を、大学4年間だけで上回ります。上回る、という比較です。大学に730万円を払うべきだ、という文ではありません。幼稚園から高校までに614万円を払うべきだ、という文でもありません。

平均の収益率を、払うべき額の根拠にする読みもあります。北條雅一の論文は、大卒収益率は概ね6〜7%で安定的に推移している、と述べています [5]。労働政策研究・研修機構調べ(2016)による高校卒と大学・大学院卒の生涯賃金差は約7,500万円です [5]。大きい差です。ただし著者の留保は、そこにあります。すべての大卒者が平均的な収益を享受しているわけではない。平均を、自分の子の収益として使うことはできません。平均を、自分の家計が払うべき額の根拠として使うこともできません。第1回で公開した値の、第1回の留保のままです。この回で外しません。

「いつ払うか」を、早いほど良い、に短縮する読みもあります。Cunha ほかの論文は、生涯の早い時期に投資することの収益は高い、と述べています [1]。同時に、早い時期の投資は、後の時期の投資が続かなければ生産的ではない、とも述べています [1]。片方だけを残すと、モデルの含意が切れます。切れないように両方を書くのが、第4節です。加えて、これはモデルであって、実証の結果ではありません。モデルの含意を、払うべき月の指定として使うことはできません。

「効いた」を、払う根拠にする読みもあります。Kraft の論文は、効果量の解釈に、研究の特徴・プログラムの費用・規模拡大の可能性における重要な差が、考慮に入れられていない、と述べています [2]。第9回で見たのは、地域で効いたナッジが、全国規模では効かなかった、という並びです [8] [9]。効いた、の一言では、費用も規模も落ちます。落ちたまま円の値を出すことは、この連載の範囲ではできません。米国の効果量を、日本の金額に換算することもしません。

したがって、この段階で先に置くのは次です。どこに払っているかは書ける。いくら払うべきかは書けない。書けない理由は、データが足りないから、だけではありません。測れているものが、行き先と平均とモデルと、設計ごとの到達であって、家計の規範的な額ではない、からです。第2節以降は、その測れているものを、一度ずつ置きます。置いた先で、円の答えを合成しません。

2. 支出はどこへ行っているか

日本の数値は、第1回と第2回で公開済みの実額だけを使います。新しい計算はしません。730万円が614万円を上回る、という比較は、第2回で既に書いた比較です。この回でも、その比較だけを使います。

文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」です [3]。公立中学校の年間支出は542,450円。うち学校教育費は150,761円。学校外活動費は356,018円で、全体の65.6%です。学校に払っている額より、学校の外に払っている額の方が大きい。第1回の表題「どこへ消えているのか」の、実額です。

学校外活動費の比率は、校種でも違います [3]。公立幼稚園54.2%、公立小学校70.0%、公立中学校65.6%、公立高等学校(全日制)41.1%。小学校で最も高く、高等学校で最も低い。学校の外の比重は、校種で一本ではありません。

私立との対比も、比率と金額で向きが違います [3]。公立小学校70.0%に対し私立小学校40.7%、公立中学校65.6%に対し私立中学校27.1%。比率だけを読むと、私立は学校の外が薄い、に見えます。ただし金額は私立が大きい。私立小学校の学校外活動費は709,667円で、公立の2.8倍です。比率が低いことと、払っている円が小さいことは、同じではありません。どこに、の地図は、比率だけでも、金額だけでも、足りません。

学年別の山もあります。公立の学校外活動費です [3]

  1. 小1は21.7万円(補助学習費8.1万円)。
  2. 小6は30.8万円(同18.7万円)。
  3. 中1は27.8万円(同17.2万円)。
  4. 中2は34.1万円(同24.9万円)。
  5. 中3は44.6万円(同39.0万円)。
  6. 高1は19.5万円。
  7. 高3は31.9万円。

中3が山です。中3の内訳は、補助学習費39.0万円、その他の学校外活動費5.6万円です [3]。学校外の大半が、補助学習費です。私立の最大は、小学校第6学年の約89万1千円です [3]。学年で山が違う。中3の補助学習費の厚みと、私立小学校第6学年の最大は、同じ「学校の外」でも、位置が違います。いつ厚くなるか、の観察です。いつ厚くすべきか、の指定ではありません。

人口規模別の差もあります。公立中学校の学校外活動費です [3]。10万人未満は29.3万円、10万人以上30万人未満は36.8万円、30万人以上100万人未満は36.2万円、100万人以上・特別区は43.4万円。最小と最大の差は14.1万円、1.48倍です。公立小学校では18.5万円から35.5万円、1.9倍です。同じ公立でも、人口規模で違います。住んでいる場所の観察です。都市部の家計が払いすぎている、地方の家計が払わなすぎている、という文ではありません。第9回の表題を、この差に代入しません。

15年間の総額は、すべて公立で約614万円です [3]。幼稚園から高等学校までです。大学は入っていません。大学は次節です。

ここまでが、第1回の実額です。言えるのは、次です。公立中学校では、支出の65.6%が学校の外に出ている。学校外の比率は校種で違い、私立との対比では比率と金額の向きが違う。学年では中3が山で、補助学習費39.0万円がその大半を占める。人口規模でも差がある。15年間すべて公立で約614万円。言えないのは、次です。学校の外に65.6%を払うべきだ。中3に44.6万円を払うべきだ。100万人以上・特別区に43.4万円を払うべきだ。観察された行き先と、払うべき額は、同じではありません。

3. 大学の費用は、授業料ではない

独立行政法人日本学生支援機構「令和4年度学生生活調査」です [4]。大学学部(昼間部)の学生1人あたり年間費用は1,824,700円。うち授業料は869,200円で、全体の47.6%です。授業料は、年間費用の半分に届きません。第2回の表題「見えない教育費」の、実額です。

内訳は、こう分かれます [4]。学費計1,147,300円(授業料869,200円、その他の学校納付金136,800円、修学費49,900円、課外活動費23,700円、通学費67,700円)。生活費計677,400円(食費158,400円、住居・光熱費177,500円、保健衛生費50,700円、娯楽・し好費133,000円、その他の日常費157,800円)。構成比は、学費62.9%、生活費37.1%です。

生活費の最大項目は住居・光熱費177,500円で、食費158,400円を上回ります [4]。これに通学費67,700円を足すと245,200円です。住むことと通うことが、食費を上回る。授業料869,200円の隣に、住居と通学だけでも245,200円がある。大学の費用を授業料で代表させると、この隣が落ちます。第2回が見せたのは、その落ちです。

4年間は、1,824,700円 × 4 = 7,298,800円(およそ730万円)です [4]幼稚園から高校まで15年間すべて公立の約614万円を、大学4年間だけで上回ります。15年と4年です。上回る、という比較です。大学の方が長い、ではありません。大学の方が短い年数で、大きい。どこに、の地図の、時間の向きです。大学に730万円を払うべきだ、という規範ではありません。614万円が足りない、という文でもありません。

第1回の学校外と、第2回の授業料以外は、同じ「見えていない行き先」です。公立中学校では学校外が65.6%、大学では授業料が47.6%にすぎない。どちらも、名目の行き先——学校、授業料——が、支出の全体ではない、という観察です。観察を、払うべき配分の指定に読み替えることはできません。学校外を減らせ、とも、授業料以外を削れ、とも、この連載は書いていません。

4. 「いつ払うか」は、モデルの話である

Cunha、Heckman、Lochner、Masterov の論文です [1]。表題は “Interpreting the Evidence on Life Cycle Skill Formation.” 生涯のスキル形成についての証拠を解釈する、という表題です。NBER Working Paper 11331、2005年です。

この論文は、子どもの発達の経済モデルを提示する論文です。要旨自身が、膨大な実証文献からの証拠を解釈するための理論的枠組みを提供することが、その論文の目的だ、と述べています [1]これはモデルであって、実証の結果ではありません。この回の本文でも、先にそう書きます。実験で確かめた結果として、以下を置かない。モデルの含意として置く。その区別が、この節の本体です。

分析の中心にあるのは、子ども時代には複数の段階がある、という概念です [1]。一つの子ども時代ではありません。段階があります。段階がある、という概念の上に、自己生産性(self-productivity)と人的資本投資の補完性(complementarity)を定式化します。両者は合わさって、乗数過程を通じてスキルがスキルを生む理由を説明します。スキルがスキルを生む。乗数過程です。一度の支出が、一度の結果で終わる、という形ではありません。

スキル形成は、生涯にわたる過程です [1]。胎内で始まり、生涯を通じて続く、と述べられています。始まりは就学ではありません。塾でもありません。胎内です。終わりは、高校でも大学でもありません。生涯を通じて続く。いつ払うか、を就学期のカレンダーだけに置くと、この過程の両端が落ちます。落ちる、というのはモデルの含意です。日本の通塾カレンダーを、この論文が測った、ではありません。

この過程で家族が果たす役割は、学校が果たす役割よりはるかに重要である、と述べられています [1]。家族と学校の、役割の大きさの話です。これもモデルの含意です。学校に払うな、家族に払え、という実証の結果ではありません。この連載の第1回が見せたのは、公立中学校の支出の65.6%が学校の外に出ている、という実額です [3]。学校の外と、家族の役割は、同じではありません。学校外活動費の行き先を、家族の役割の大きさとして読むことはできません。モデルの含意と、学習費調査の実額を、足して一つの文にしない。

大人としての成功にとって重要なスキルと能力は複数ある、と述べられています [1]。能力は受け継がれるものでもあり、作られるものでもある。生まれか育ちかという伝統的な論争は、科学的には時代遅れである、と述べられています。受け継がれる、と作られる、の両方です。どちらか一方に短縮しない、というのが著者の文です。この連載が、生まれと育ちを測った、ではありません。モデルが、その論争を時代遅れだ、と述べている、という範囲です。

自己生産性と補完性を、要旨の文のまま置きます [1]

  1. 自己生産性: 生涯のある段階でのスキルの獲得は、後の段階でのスキルの獲得を高める。
  2. 補完性: 早い時期の投資は、後の時期の投資の生産性を高める。
  3. 補完性のもう一つの側面: 早い時期の投資は、後の時期の投資が続かなければ生産的ではない。

1点目と2点目だけを読むと、早い時期に払え、になります。3点目を足すと、話は切れます。早い投資は、後の投資が続かなければ生産的ではない。早い時期の投資は、後の時期の投資の生産性を高める。同時に、後が続かなければ、その早い投資は生産的ではない。両方です。「早ければ早いほど良い、だから早期教育に金を使え」という短縮は、3点目を落とします。この回は、その短縮をしません。1点目も2点目も3点目も、モデルの含意です。実験で確かめた結果として、早期に払え、とも、あとを続けろ、とも、書きません。

この補完性が、早期投資について公平性と効率性のトレードオフが存在しない理由を説明する、と述べられています [1]。説明する、です。日本の教育費の公平と効率を、この連載が測ってトレードオフが無いと確かめた、ではありません。モデルが、補完性から、その理由を説明する、という範囲です。生涯の早い時期に投資することの収益は高い、とも述べられています。高い、です。円の値は、要旨のこの箇所にはありません。米国の効果量を日本の金額に換算する操作も、しません。

不十分な早期投資の補正は、自己生産性と補完性の双方の帰結として、困難であり、非常に費用がかかる、と述べられています [1]。困難であり、非常に費用がかかる。あとから取り返す話は、安い、ではありません。これもモデルの含意です。補正の費用の円は、この論文の要旨にありません。日本の中3の補助学習費39.0万円 [3] を、不十分な早期投資の補正の実額として読むことはできません。学年の山の観察と、モデルの含意は、層が違います。足しません。

保護者の面談で出やすい形は、「早いほど良いと聞いたので、今から厚くする」「もう遅いと聞いたので、今は足さない」です。Cunha ほかの論文は、早い時期の収益は高い、と言っています [1]。後が続かなければ生産的ではない、とも言っています。今から厚くする、の判断を、1点目と2点目だけで支えることはできません。もう遅い、の判断を、補正は困難だ、だけで支えることもできません。モデルは、段階があり、自己生産性があり、補完性があり、後が続くことが早い投資の生産性の条件だ、と言っています。条件を落とすと、モデルの含意が、標語になります。標語を、この回の答えにしない。

5. その効果は、その費用に見合うか——規模でも残るか

Kraft の論文です [2]。表題は “Interpreting Effect Sizes of Education Interventions.” 教育介入の効果量を解釈する、という表題です。Educational Researcher 49巻4号、2020年です。

効果量の読み方の一般的な解説は、すでに「教育研究をどう読むか——因果推論と効果量の作法」と「教育経済学——同じ費用で何が一番効くのか」が扱っています。この回では繰り返しません。重複させません。この回で使うのは、費用と、規模拡大の可能性を、解釈に組み込むという点に限ります。

研究者は通常、半世紀以上前に Jacob Cohen が提案した基準を当てはめて効果量を解釈している、と述べられています [2]。しかし、Cohen の基準では小さいとされる効果が、現場に基づく介入の大半の効果と比べれば大きい。これらの基準はまた、研究の特徴・プログラムの費用・規模拡大の可能性における重要な差を考慮に入れていない。基準が、費用を見ない。規模拡大の可能性を見ない。見ないまま、「大きい/小さい」が決まる。著者は、社会科学全般に適用できる効果量の解釈のための5つの広い指針を提示します。さらに、標準化された学力の結果を伴う教育介入の因果研究という特定の種類の研究について、新しい経験的基準を持つ、より構造化された枠組みを提案します。これらの道具は、研究の特徴・費用・規模拡大の可能性を、効果量の政策的重要性を解釈する過程に組み込むための実践的な方法を与える、と述べられています。

5つの広い指針の中身は、この回では展開しません。一般解説は既存記事に譲ります。残すのは、次だけです。効果の大きさを、費用なしに読まない。規模拡大の可能性なしに読まない。Cohen の基準が考慮に入れていない、と著者が述べた2点のうち、この回が使うのもその2点です。研究の特徴も、著者の文には入っています。この回の使い方は、費用と規模拡大の可能性に絞ります。

第9回との接続は、規模の側です。Bird ほかの研究は、全国規模および州規模のキャンペーンを、2つの無作為化対照試験で試し、合わせて80万人超の学生に到達しました [8]。援助の受給にも大学在学にも、全体としても、いかなる部分集団についても、効果は見いだされませんでした。Page ほかの研究は、全国標本約1万人のショートメッセージを試しました [9]。再提出が一部で早まったが、持続せず、援助にも継続にも到達にもつながりませんでした。地域で効いたナッジが、全国規模では効かなかった。第9回の並びです。Kraft の論文が、規模拡大の可能性を解釈に組み込め、と述べていることと、向きは同じです [2]。同じだからといって、Bird ほかと Page ほかを、Kraft の論文の実例として証明したことにはなりません。接続です。同一視ではありません。

費用の側は、こう使います。効果が観察されても、そのプログラムの費用を見なければ、政策的重要性の解釈は終わらない、というのが Kraft の論文の指摘です [2]。この回は、その指摘を、日本の学習費の実額に換算しません。米国の効果量を、日本の金額に換算しません。6〜7%の収益率 [5] と、Kraft の論文の効果量の話を、掛けて円にする操作もしません。新しい計算はしません。指摘の使い方は、面談の問いにします。その効果が、その費用に見合うか。その手が、その規模でも残るか。答えの円は、問いの先に置きません。

H&R Block 実験では、支援と情報で大学2年修了が8ポイント、28%から36%になりました [7]。情報だけを受け取った家庭には、改善が生じませんでした。8ポイントを、日本の授業料869,200円 [4] に掛けて、見合うかどうかを出す操作はしません。米国の効果量を日本の金額に換算しない、の具体です。8ポイントは、その実験の、その指標の、その対象の到達です。円ではありません。

保護者の面談で出やすい形は、「効くと聞いたので払う」「小さいと聞いたので払わない」です。Kraft の論文は、半世紀以上前の基準で小さいとされる効果が、現場に基づく介入の大半と比べれば大きい、と言っています [2]。同時に、費用と規模拡大の可能性を見なければ、政策的重要性の解釈は足りない、とも言っています。効く、小さい、の二値では、費用も規模も落ちます。第9回の全国規模の2本は、規模を上げると到達が残らないことがある、という一次証拠です [8] [9]。残らないことがある、を、日本の通塾の費用対効果の値にはしません。問いにする、までです。

6. 第3回から第9回で、金額以外に分かれたこと

第1回と第2回は、行き先の実額でした。第4節と第5節は、いつか、と、効果を費用と規模で読むか、でした。残る第3回から第9回は、金額の答えを出さないまま、判断の前提が分かれた回です。再説明はしません。各回の到達だけを、最終回の束ねとして置きます。数値は、各回で公開済みのものだけです。

第3回「塾にかけた金は、成績を上げるのか」です。塾の効果は非決着です [6]。Bray の2014年の論文の、書誌事実のみです。学力は上がるが精神健康は下がるという報告もあります。効く前提で、塾にいくら払うべきかを書くことはできません。非決着のまま、最終回に持ち込みます。この回で決着させません。

第4回「奨学金は、進学を変えるか」です。奨学金が効くのは、「制約を緩めるから」とは限りません。誘因として働きうる。足りない額を足せば動く、という形だけではない。制度の効き方の話です。家計が奨学金でいくら足りるべきか、の値は、第4回にも、この回にも、ありません。

第5回「返済という負担は、卒業後の選択を変えるか」です。返済負担は、卒業後の選択を変えます。1,000ドルの借金が、持ち家を4か月遠ざけます。進学のときの費用の話が、卒業後の持ち家の話になる。払ったあとの層です。1,000ドルを、日本の円に換算しません。4か月を、日本の住宅市場の値に読み替えません。米国の効果量を日本の金額に換算しない、の、もう一つの具体です。

第6回「授業料が変わると、誰が動くのか」です。価格は進学を動かします。援助1,000ドルあたり3.7〜4.2ポイント、受給資格で3〜4ポイント。誰が動くか、の話です。1,000ドルあたりのポイントを、日本の授業料869,200円 [4] に掛けて、何人が動くかを出す操作はしません。新しい計算をしません。価格が動かす、という到達と、動くべき人数の指定は、同じではありません。

第7回「無償化は誰に届いたか」です。誰に届くかは、設計が決めます。HOPE は進学率を7.0〜7.9ポイント上げ、同時に格差を広げました。届いた、と、格差が広がった、が同時です。進学率が上がったことを、良い設計の証拠だけとして残すことはできません。援助額を1ドルも増やさない事前確約が、出願を26%から68%、進学を12%から27%にしました。額を足していない。届け方の設計です。額の答えではなく、届き方の話です。第7回の事前確約がなぜ効いたように見えるかは、第9回の解釈であって、検証された説明ではありません。この回でも、その解釈を検証済みにはしません。

第8回「教育費と、子どもの数」です。きょうだい数と質のトレードオフは、4本が3通りの答えを出しており、決着していません。子の数を減らして一人あたりを厚くすべきだ、とも、そうではない、とも、この連載は書けません。決着していない対象について、人数の正解を書かない。第8回のままです。

第9回「家計はなぜ払いすぎ/払わなすぎるのか」です。情報を渡すだけでは動かない。手伝うと動く。同じ手を全国規模にすると、また動かなくなる。H&R Block 実験は、支援と情報で大学2年修了が8ポイント、28%から36%になりました [7]。情報だけを受け取った家庭には、改善が生じませんでした。Bird ほかは、80万人超の全国・州規模キャンペーンで、受給にも在学にも、全体でもいかなる部分集団でも効果なし、でした [8]。文面・届け方・時期・1対1助言の違いも効きませんでした。Page ほかは、全国標本約1万人のショートメッセージで、再提出が一部で早まったが、持続せず、援助にも継続にも到達にもつながりませんでした [9]。Dizon-Ross の研究は、明瞭な成績情報で親の信念は更新され投資が調整される、と述べています [10]。成績の良い子の就学は増え、悪い子の就学は減る。マラウイの就学です。日本に一般化しません。払いすぎの診断値は、第9回に無く、この回にもありません。

9回を束ねると、行き先は見える、平均の収益率はあるが全員のものではない、塾の効果は非決着、奨学金は制約緩和とは限らない、返済は卒業後を変える、価格は誰かを動かす、届くかは設計が決める、きょうだい数は決着していない、情報だけでは動かない、になります。束ねた先に、円の答えはありません。あるのは、判断のときに落とさないための切れ目です。切れ目を、手続きとして次節に置きます。

7. では何が言えるのか

「いくら払うべきか」には答えられません。代わりに言えるのは、判断のときに、何と何を分けて見るかです。金額の正解ではありません。確かめ方です。

  1. 名目の行き先と、実際の行き先を分ける。公立中学校の支出の65.6%は学校の外です [3]。大学の年間費用のうち授業料は47.6%です [4]。学校に払っている、授業料を払っている、で全体を代表させない。住居・光熱費177,500円は食費158,400円を上回り、通学費67,700円を足すと245,200円です [4]。見えていない行き先を、先に言葉にする。
  2. 観察された額と、払うべき額を分ける。中3の学校外活動費44.6万円、15年間すべて公立の約614万円、大学4年間のおよそ730万円は、観察です [3] [4]。730万円が614万円を上回る、という比較も、観察の比較です。観察を、規範に読み替えない。
  3. 平均と、自分の子を分ける。大卒収益率は概ね6〜7%、生涯賃金差は約7,500万円です [5]。すべての大卒者が平均的な収益を享受しているわけではない。平均を、払うべき額の根拠にしない。
  4. 「いつか」を、早いほど良い、に短縮しない。Cunha ほかの論文は、早い時期の投資の収益は高い、と述べ、同時に、早い投資は後の投資が続かなければ生産的ではない、と述べています [1]。これはモデルであって、実証の結果ではありません。早い、と、後が続く、の両方を残す。
  5. 効果を、費用と規模なしに読まない。Kraft の論文は、Cohen の基準が、プログラムの費用と規模拡大の可能性を考慮に入れていない、と述べています [2]。第9回は、地域で効いたナッジが全国規模では効かなかった、と述べています [8] [9]。効いた、の一言で払う根拠にしない。米国の効果量を日本の金額に換算しない。
  6. 効くかと、届くかを分ける。誰に届くかは設計が決めます。HOPE は進学率を7.0〜7.9ポイント上げ、同時に格差を広げました。援助額を1ドルも増やさない事前確約が、出願26%から68%、進学12%から27%になりました。額を足す話と、届け方の話は、同じではありません。
  7. 情報と、支援と、規模を分ける。情報だけを受け取った家庭には改善が生じませんでした [7]。支援と情報では、8ポイント、28%から36%になりました。80万人超の全国・州規模では、受給にも在学にも効果は見いだされませんでした [8]。同じ「知らせる」でも、到達が違います。
  8. 決着していないものを、決着したことにしない。塾の効果は非決着です [6]。きょうだい数と質のトレードオフは、4本が3通りの答えを出しています。決着していない対象について、金額の正解を書かない。

8点は、円の値ではありません。落とすと、表題の「いくら」に、早い答えが載る、という切れ目です。早い答えを載せずに、切れ目だけを残す。それが、9回のあとに最終回が言える範囲です。読者の家計が、この8点のいずれかを落としている、という文ではありません。落としうる、という手続きです。落としている、と決めつける話ではありません。

家族が果たす役割は学校が果たす役割よりはるかに重要である、という Cunha ほかの論文の文も、この8点の外に置きます [1]。モデルの含意です。8点のどれかに足して、家族に払え、という答えを作らない。学校外活動費の65.6% [3] を、家族の役割の実額として読むことも、しません。

8. 一次証拠と日本の実額を、一度だけ表にする

ここまでを、一度だけ表にします。数値は、この連載で公開済みのもの、およびこの回の2本の要旨にあるものだけです。無い箇所は、空欄にせず、言える範囲のまま書きます。

何を見たか 到達 「いくら払うべきか」にはならない理由
第1回。文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」 [3] 公立中学校の年間支出542,450円。学校外活動費356,018円=全体の65.6%。15年間すべて公立で約614万円。中3の学校外は44.6万円(補助学習費39.0万円)。人口規模で14.1万円・1.48倍 行き先と学年の山と地域差の観察であって、払うべき額の指定ではない
第2回。JASSO「令和4年度学生生活調査」 [4] 年間1,824,700円。授業料869,200円=47.6%。4年間で7,298,800円(およそ730万円)。730万円は614万円を上回る。住居・光熱費177,500円は食費158,400円を上回る 授業料以外が見える、という観察であって、大学に730万円を払うべきだという文ではない
第1回。北條(2018) [5] 大卒収益率は概ね6〜7%。高校卒と大学・大学院卒の生涯賃金差は約7,500万円。すべての大卒者が平均的な収益を享受しているわけではない 平均は全員のものではない。平均を払うべき額の根拠にしない
Cunha、Heckman、Lochner、Masterov(2005) [1] 子ども時代には複数の段階がある。自己生産性と補完性。スキルがスキルを生む。早い時期の収益は高い。早い投資は後が続かなければ生産的ではない。補正は困難で非常に費用がかかる。モデルであって、実証の結果ではない 「早いほど良い」に短縮できない。円の値も、日本の通塾カレンダーも、この論文は測っていない
Kraft(2020) [2] Cohen の基準は、研究の特徴・プログラムの費用・規模拡大の可能性を考慮に入れていない。費用と規模拡大の可能性を、解釈に組み込む道具を提示する 効果量の一般解説はこの回の仕事ではない。米国の効果量を日本の金額に換算しない
第3回。Bray(2014) [6] 塾の効果は非決着。書誌事実のみ。学力は上がるが精神健康は下がるという報告もある 効く前提で、塾にいくら、を書けない
第4回〜第6回 奨学金は制約緩和とは限らない。1,000ドルの借金が持ち家を4か月遠ざける。援助1,000ドルあたり3.7〜4.2ポイント、受給資格で3〜4ポイント 効き方・卒業後・誰が動くか、であって、払うべき額ではない。米国の値を日本の円に換算しない
第7回 誰に届くかは設計が決める。HOPE は進学率を7.0〜7.9ポイント上げ、同時に格差を広げた。援助額を1ドルも増やさない事前確約が、出願26%→68%・進学12%→27%。なぜ効いたように見えるかは第9回の解釈であって検証された説明ではない 届き方の設計であって、額の正解ではない。進学率の上昇だけを残さない
第8回 きょうだい数と質のトレードオフは、4本が3通りの答え。決着していない 人数の正解を書けない
第9回。H&R Block、Bird ほか、Page ほか、Dizon-Ross [7] [8] [9] [10] 支援+情報で8ポイント(28%→36%)。情報だけでは改善なし。80万人超で受給にも在学にも効果なし。約1万人のショートメッセージは持続せず援助にも継続にも到達にもつながらず。明瞭な成績情報は、良い子の就学を増やし悪い子の就学を減らす(マラウイの就学。日本に一般化しない) 払いすぎの診断値ではない。H&R Block 実験を正解にしない。マラウイを日本の通塾に代入しない

10行は、同じ「教育費」ではありません。行き先の実額、平均の収益率、モデルの含意、効果量の読み方、非決着、制度の効き方、返済、価格、届き方、きょうだい、情報と支援と規模。測っているものが違う。到達先を、「いくら」の一つの値に畳むと、表は1列で足ります。足らないから、3列にしています。

家計にとっての含意は、一般論ではありません。「正しい額を出せば、払いすぎと払わなすぎは解消する」は、どの回の、どの到達を見ているかを言わない限り、評価になっていません。見ているのが学校外の65.6%なのか、授業料の47.6%なのか、6〜7%の収益率なのか、モデルの補完性なのか、8ポイントなのか。渡しているのが情報なのか支援なのか確約なのか。マラウイの就学なのか、そうではないのか。そこまで具体化してはじめて、この連載の一次証拠と実額が、自分の話になります。自分の話にするときも、読者の払い方が間違っている、という形にはしません。置いているのは、行き先は見える、平均は全員のものではない、モデルは短縮できない、効果は費用と規模なしに読めない、届くかは設計、情報だけでは動かない、決着していないものがある、という範囲です。

9. 【反証】この回が言えないこと

第一に、「いくら払うべきか」には答えていません。答えられない理由を述べ、代わりに判断の手続きを示した、というのがこの回です。公立中学校の学校外活動費356,018円も、大学4年間の7,298,800円も、観察された実額です [3] [4]。払うべき額ではありません。結局これが正解でした、という締め方はしていません。

第二に、Cunha ほかの論文は、モデルであって実証の結果ではありません [1]。膨大な実証文献からの証拠を解釈するための理論的枠組みを提供することが、その論文の目的です。子ども時代の複数の段階、自己生産性、補完性、スキルがスキルを生む、家族の役割、能力は受け継がれも作られもする、早い時期の収益は高い、補正は困難で非常に費用がかかる。いずれもモデルの含意です。この連載が実験で確かめた結果として書いていません。日本の通塾の時期を、この論文が測った、とも書いていません。

第三に、「早いほど良い」には短縮していません。早い時期の投資は、後の時期の投資の生産性を高める。同時に、早い時期の投資は、後の時期の投資が続かなければ生産的ではない [1]。3点目を落として、早期教育に金を使え、と書くことはできません。補正は困難であり非常に費用がかかる、を、もう遅い、の根拠として単独で使うこともできません。

第四に、Kraft の論文は、費用と規模拡大の可能性の2点だけに使っています [2]。効果量の読み方の一般解説は、「教育研究をどう読むか——因果推論と効果量の作法」と「教育経済学——同じ費用で何が一番効くのか」に譲っています。5つの広い指針の中身は展開していません。Cohen の基準の数値も、書いていません。

第五に、米国の効果量を日本の金額に換算していません。8ポイントを授業料869,200円に掛けていません [7] [4]。1,000ドルあたり3.7〜4.2ポイントを、日本の円にしていません。1,000ドルの借金が持ち家を4か月遠ざける、を、日本の住宅の月数にしていません。6〜7%と7,298,800円を掛けていません [5] [4]。新しい計算はしていません。730万円が614万円を上回る、という比較だけは、第2回で既に書いた比較として使っています。

第六に、日本の数値はすべて第1回・第2回で公開済みの実額です [3] [4]。合成・平均・丸めによる新しい数値は作っていません。542,450円から150,761円を引いた値も、書いていません。65.6%を三分の二に丸めてもいません。

第七に、読者の払い方が間違っている、とは書いていません。行き先が見えることと、払い方が間違っていることは、別です。人口規模で14.1万円の差があることと、都市の家計が払いすぎていることも、別です [3]。第9回の表題は問いであり、この回の表題も問いです。答えの診断は、どちらにもありません。

第八に、割引の話は書いていません。この塾に割引制度は一切ありません。

第九に、塾の効果は非決着のままです [6]。Bray の2014年の論文は書誌事実のみです。この回のモデルも、Kraft の論文の費用と規模も、塾の効果の証拠ではありません。通塾を増やす根拠にも、減らす根拠にも、していません。

第十に、第7回の事前確約がなぜ効いたように見えるかは、第9回の解釈であって、検証された説明ではありません。出願26%から68%、進学12%から27%は、第7回の到達です。Bird ほか・Page ほかとの差の読みは、解釈です。解釈を、検証された機構として書いていません。

第十一に、Dizon-Ross の研究はマラウイの就学の実験です [10]。日本の家庭の通塾判断の話ではありません。成績の良い子の就学は増え、悪い子の就学は減る。日本に一般化しません。第8回のきょうだいの話に代入しません。

第十二に、きょうだい数と質のトレードオフは決着していません。4本が3通りの答えです。子の数についての正解は、第8回にも、この回にも、ありません。

第十三に、HOPE は進学率を7.0〜7.9ポイント上げ、同時に格差を広げました。届いたことを、善いことだけとして残していません。誰に届くかは設計が決める、の具体です。設計の正解を、HOPE にも、事前確約にも、置いていません。

第十四に、H&R Block 実験を正解にしていません [7]。支援と情報で8ポイント、28%から36%。情報だけでは改善なし。Bird ほかと Page ほかは、独立した大規模実験で、どちらも効果を見いだしていません [8] [9]。手伝うと動いた実験があることと、手伝いを含む手がいつでも効くことは、同じ命題ではありません。地域で効いた手を全国の正解にしない、というのが第9回の並びです。最終回でも、その並びを正解の所在に読み替えません。

第十五に、家族が果たす役割は学校が果たす役割よりはるかに重要である、はモデルの含意です [1]。学校に払うな、という文ではありません。学校外活動費の65.6%を、家族の役割の実測として読んでいません [3]

第十六に、すべての大卒者が平均的な収益を享受しているわけではない、という留保を外していません [5]。6〜7%も、約7,500万円も、平均です。自分の子の収益ではありません。払うべき額の根拠ではありません。

10. 実務——面談で使える3つの問い

  1. いま見えている金額は、学校の中ですか、外ですか。大学なら、授業料ですか、住居ですか。公立中学校の年間支出542,450円のうち、学校外活動費は356,018円で全体の65.6%です [3]。大学学部(昼間部)の年間費用1,824,700円のうち、授業料は869,200円で47.6%です [4]。住居・光熱費177,500円は食費158,400円を上回り、通学費67,700円を足すと245,200円です。名目の行き先で全体を代表させると、学校の外と、授業料以外が落ちます。見えている数字がどの層の話かを先に分けると、次に確認する先が変わります。中3の学校外44.6万円のうち補助学習費は39.0万円です [3]。学年の山を、払うべき月の指定として使う必要はありません。山がある、という観察として置く。15年間すべて公立の約614万円と、大学4年間のおよそ730万円は、730万円の方が上回ります。上回る、という比較です。どちらを払うべきか、の値ではありません。
  2. 「早い時期」の話と、「あとが続く」話を、両方見ていますか。効いたという話は、その費用と、その規模でも残る話ですか。Cunha ほかの論文は、早い時期の投資の収益は高い、と述べ、同時に、早い投資は後の投資が続かなければ生産的ではない、と述べています [1]。これはモデルであって、実証の結果ではありません。早いほど良い、に短縮しない。今から厚くする、もう遅い、のどちらも、片方だけではモデルの含意を使い切っていません。Kraft の論文は、Cohen の基準がプログラムの費用と規模拡大の可能性を考慮に入れていない、と述べています [2]。効果量の一般的な読み方は既存記事に譲ります。面談で残すのは、その効果がその費用に見合うか、その手がその規模でも残るか、です。Bird ほかは、80万人超の全国・州規模で、受給にも在学にも効果を見いだしませんでした [8]。Page ほかは、約1万人のショートメッセージが、援助にも継続にも到達にもつながりませんでした [9]。地域で効いた手が全国では効かないことがある。米国の効果量を日本の金額に換算はしません。問いにする、までです。平均の収益率6〜7%と生涯賃金差約7,500万円も、すべての大卒者が平均的な収益を享受しているわけではない、という留保つきです [5]。平均を、この家計の払うべき額にしない。
  3. 足りないのを、額だと考えていますか。届き方だと考えていますか。情報だと考えていますか。支援だと考えていますか。そもそも、決着している話だと考えていますか。第7回の HOPE は、進学率を7.0〜7.9ポイント上げ、同時に格差を広げました。誰に届くかは設計が決める。援助額を1ドルも増やさない事前確約が、出願26%から68%、進学12%から27%になりました。額を足していない。なぜ効いたように見えるかは、第9回の解釈であって検証された説明ではありません。H&R Block 実験は、支援と情報で8ポイント、28%から36%になりました [7]。情報だけを受け取った家庭には改善が生じませんでした。案内を足すのか、横で記入するのか、出し手が名指しで拘束力ある額を先に出すのかでは、確認する先が違います。第3回の塾の効果は非決着です [6]。第8回のきょうだい数は、4本が3通りの答えで決着していません。決着していない対象について、金額の正解を先に置かない。Dizon-Ross の研究では、明瞭な成績情報で、成績の良い子の就学は増え、悪い子の就学は減りました [10]。情報が動く向きは、一つではありません。ただしマラウイの就学であり、日本の通塾判断ではありません。日本に一般化しません。それでも、情報を足せば望んでいる方向にだけ動く、という前提は、この一次証拠と両立しません。動く向きを、足す前に言葉にしておく。面談で先に置くのは、その確認です。

それでも塾に通いたい方へ

当塾は講師1名に生徒1名の完全個別指導で、武蔵境駅から徒歩30秒です。事前診断テストと入塾前カウンセリングは無料で、割引制度は設けていません。支出の行き先が見えているか、平均を自分の子の話にしていないか、「早いほど良い」に短縮していないか、効いたという話を費用と規模なしに読んでいないか、足りないのを額だけだと考えていないか、決着していないものを決着したことにしていないか、ということを整理することは、カウンセリングの場でご一緒にできます。入塾されるかどうかとは切り離してお受けしています。第3回で述べたとおり、塾の効果は非決着です [6]。通う判断の前提に、効果の確定を置きません。いくら払うべきか、の値も、この場では出しません。出さないことが、この連載の最終回の範囲です。

まとめ

  1. 第1回「教育費は、どこへ消えているのか」。公立中学校の年間支出542,450円のうち、学校外活動費は356,018円で全体の65.6%。校種で比率は違い、私立との対比では比率と金額の向きが違う。学年では中3が44.6万円(補助学習費39.0万円)と山になる。人口規模で最小と最大の差は14.1万円・1.48倍。15年間すべて公立で約614万円 [3]。行き先の地図であって、払うべき額ではない。
  2. 第2回「見えない教育費」。大学学部(昼間部)の年間費用1,824,700円のうち、授業料は869,200円で47.6%。学費62.9%、生活費37.1%。住居・光熱費177,500円は食費158,400円を上回り、通学費67,700円を足すと245,200円。4年間は7,298,800円(およそ730万円)。幼稚園から高校まで15年間すべて公立の約614万円を、大学4年間だけで上回る [4]。授業料以外が見える、という観察であって、730万円を払うべきだという文ではない。
  3. 第3回「塾にかけた金は、成績を上げるのか」。塾の効果は非決着。Bray(2014)は書誌事実のみ。学力は上がるが精神健康は下がるという報告もある [6]。効く前提で、塾にいくら、を書けない。
  4. 第4回「奨学金は、進学を変えるか」。奨学金が効くのは、「制約を緩めるから」とは限らない。誘因として働きうる。足りない額を足せば動く、という形だけではない。
  5. 第5回「返済という負担は、卒業後の選択を変えるか」。返済負担は卒業後の選択を変える。1,000ドルの借金が持ち家を4か月遠ざける。米国の値を日本の円に換算しない。
  6. 第6回「授業料が変わると、誰が動くのか」。価格は進学を動かす。援助1,000ドルあたり3.7〜4.2ポイント、受給資格で3〜4ポイント。誰が動くか、であって、動くべき人数の指定ではない。
  7. 第7回「無償化は誰に届いたか」。誰に届くかは設計が決める。HOPE は進学率を7.0〜7.9ポイント上げ、同時に格差を広げた。援助額を1ドルも増やさない事前確約が、出願26%→68%・進学12%→27%。なぜ効いたように見えるかは、第9回の解釈であって検証された説明ではない。
  8. 第8回「教育費と、子どもの数」。きょうだい数と質のトレードオフは、4本が3通りの答えを出しており決着していない。人数の正解は無い。
  9. 第9回「家計はなぜ払いすぎ/払わなすぎるのか」。情報を渡すだけでは動かない。手伝うと動く。同じ手を全国規模にすると、また動かなくなる。H&R Block 実験は、支援+情報で大学2年修了が8ポイント(28%→36%)。情報だけを受け取った家庭には改善が生じなかった [7]。Bird ほかは80万人超で、受給にも在学にも、全体でもいかなる部分集団でも効果なし [8]。Page ほかは約1万人のショートメッセージで、持続せず援助にも継続にも到達にもつながらず [9]。Dizon-Ross は、明瞭な成績情報で良い子の就学を増やし悪い子の就学を減らす。マラウイの就学であり、日本に一般化しない [10]。払いすぎの診断値は無い。
  10. 最終回。Cunha ほかの論文は、モデルであって実証の結果ではない。早い時期の収益は高い。同時に、早い投資は、後の投資が続かなければ生産的ではない [1]。「早いほど良い」に短縮しない。Kraft の論文は、Cohen の基準が費用と規模拡大の可能性を考慮に入れていない、と述べる [2]。効果量の一般解説は既存記事に譲る。米国の効果量を日本の金額に換算しない。北條(2018)は、大卒収益率は概ね6〜7%、生涯賃金差は約7,500万円と述べ、すべての大卒者が平均的な収益を享受しているわけではない、と留保する [5]この連載は「いくら払うべきか」に答えられない。9回かけて積み上げたのは、金額の答えではなく、判断の手続きである。

出典

本文中の番号に対応します。書誌を確認し、列挙した数値・文献・表現の範囲だけを挙げています。結論に反する記述も、同じ基準で載せています。新規の書誌は 2026-09-15 に OpenAlex で実測確認済みです。日本の数値は、本連載第1回・第2回で既に公開した実額です。第3回から第9回の既出は、再説明せず参照だけです。

  1. 【生涯のスキル形成・モデルであって実証ではない】Cunha, Flávio; Heckman, James J.; Lochner, Lance; Masterov, Dimitriy V. (2005). Interpreting the Evidence on Life Cycle Skill Formation. NBER Working Paper 11331. DOI: 10.3386/w11331(子どもの発達の経済モデル。理論的枠組みであって、実証の結果ではない。早い投資は後の投資が続かなければ生産的ではない
  2. 【効果量・費用と規模拡大の可能性】Kraft, Matthew A. (2020). Interpreting Effect Sizes of Education Interventions. Educational Researcher 49(4): 241–253. DOI: 10.3102/0013189X20912798(本回では費用と規模拡大の可能性の2点だけに使用。効果量の一般解説は既存記事へ)
  3. 【学習費調査・第1回】文部科学省「令和5年度子供の学習費調査」(本連載第1回で公開済みの実額。一字一句そろえる。新しい計算をしない
  4. 【学生生活調査・第2回】独立行政法人日本学生支援機構「令和4年度学生生活調査」(本連載第2回で公開済みの実額。1,824,700円 × 4 = 7,298,800円(およそ730万円)。730万円は614万円を上回る、という比較は第2回で既に書いた比較
  5. 【学歴収益率・第1回】北條雅一(2018)「学歴収益率についての研究の現状と課題」『日本労働研究雑誌』No.694, 2018年5月, pp.29-38。大卒収益率は概ね6〜7%。労働政策研究・研修機構調べ(2016)による高校卒と大学・大学院卒の生涯賃金差 約7,500万円。すべての大卒者が平均的な収益を享受しているわけではない
  6. 【塾の効果の非決着・第3回・書誌事実のみ】Bray (2014). DOI: 10.1007/s12564-014-9326-9(本連載第3回。書誌事実のみ
  7. 【H&R Block・第9回】本連載第9回で詳述。支援+情報で大学2年修了が8ポイント(28%→36%)。情報だけを受け取った家庭には改善が生じなかった
  8. 【全国・州規模ナッジ・第9回】Bird ほか。本連載第9回で詳述。80万人超の全国・州規模キャンペーン。受給にも在学にも、全体でもいかなる部分集団でも効果なし。文面・届け方・時期・1対1助言の違いも効かず
  9. 【全国標本ショートメッセージ・第9回】Page ほか。本連載第9回で詳述。全国標本約1万人。再提出が一部で早まったが、持続せず、援助にも継続にも到達にもつながらなかった
  10. 【マラウイ・親の信念・第9回】Dizon-Ross。本連載第9回で詳述。明瞭な成績情報で親の信念は更新され投資が調整される。成績の良い子の就学は増え、悪い子の就学は減る。マラウイの就学であり、日本に一般化しない

連載「教育費は、家計に何をするのか」(全10回)

教育費を、労働経済学・教育経済学・公共経済学の実証研究から検討する全10回の連載です。学歴の「返り」ではなく、家計の「支払い」の側だけを扱います。

関連する既存記事

author avatar
宮川 涼 Founder
早稲田大学大学院文学研究科哲学専攻修士号修了、同大学大学院同専攻博士課程中退。日本倫理学会員 早稲田大学大学院文学研究科にてカント哲学を専攻する傍ら、精神分析学、スポーツ科学、文学、心理学など幅広く研究に携わっている。

関連記事

PAGE TOP
お電話