単語は知っているのに、選択肢が選べない
英検の筆記には、短い文の空所に語や熟語を補う語彙の問題があります。上の級に進むほど、選択肢の単語の意味はすべて知っているのに、どれが入るか決められないという経験が増えます。make a decision は言えても、reach a decision や come to a conclusion で迷う。原因の多くは、単語の意味ではなく「どの語とどの語が一緒に使われるか」の知識にあります。
この「語と語の結びつき」を、研究ではコロケーション(collocation:よく共起する語の組み合わせ)、より広く定型表現(formulaic sequences)やチャンクと呼びます。この記事では、チャンクで覚えることに本当に利点があるのか、日本人学習者はどこでつまずくのか、どう覚えると身につくのかを研究から整理します。単語1語ずつの覚え方は既存記事で扱いましたので、ここでは2語以上のまとまりだけを扱います。問題形式は改訂されることがあるため、最新の公式情報もあわせてご確認ください。
一言でいうと(この記事の結論)
定型表現は、新しい語の組み合わせより速く処理されるという「処理の利点」が、35研究のメタ分析で確認されました(効果は小〜中) [1]。
日本人学習者は、日本語と対応しないコロケーションで誤りが多く反応も遅く、英語圏での経験を積んでもその差は残りました [2]。
——ただし、読むだけで自然に身につく量は小さく、明示的に注意を向けないと多くは習得されません [11] [12]。
- 定型表現の処理の利点は、ほとんどの種類で確認され、効果量は小〜中でした [1]。
- 日本語と構成が異なるコロケーションは、日本人の学習者にとって誤りが多く遅い [2]。
- 定型表現に気づかせる授業を受けた群は、面接で「より熟達している」と評価されました [5]。
- 日本人学習者85人の発話で、分かりやすさと語の適切さは、結びつきの強い語の組み合わせの使用に強く左右されました [6]。
- 多読教材を下線つきで読むと、読むだけより多くのコロケーションを習得しました [9]。
- 【反証】明示的な指導の効果は、遅延テストで低下しました [14]。
- 【反証】読んで聞いた物語を語り直しても、表現の再利用はごくわずかでした [12]。

1. チャンクには「処理の利点」があるか
「チャンクで覚えると速く使える」という主張の根拠は、定型表現が、ばらばらの語の組み合わせより速く読まれ、判断されるという心理言語学の知見です。
2023年のメタ分析は、オンライン課題(読む速さや判断時間を測る課題)を使った英語の35研究・130効果量・1,981人を統合しました [1]。
- ほとんどの下位類型で、定型表現は新しい語の組み合わせより処理が速かった。効果量は小〜中
- 母語話者でも第二言語話者でも、句の頻度や結びつきの強さの幅全体で利点が見られた
- 課題の明示性(「これは定型表現か」を意識させるか)が利点を調整したのは、第二言語話者だけ
第二言語でのチャンク化を理論的に整理したレビューは、第二言語の学習者は入力の統計的な規則性に対する感受性が低く、定型表現の蓄えも小さいため、処理が遅く、会話の理解が妨げられ、特有の誤りが出やすいと述べています。そして、深く定着した母語の表現が、第二言語のまとまりを語ごとに分けて捉えさせ、定型表現に含まれる文法要素から注意をそらす可能性を指摘しています [16]。
2. 日本人学習者のつまずき——日本語と対応しない組み合わせ
コロケーション研究で最も一貫した知見の一つが「一致性(congruency)」の効果です。母語に直訳の対応がある組み合わせ(一致)と、ない組み合わせ(不一致)で、習得の難しさが違います。
日本人を対象にした研究は、英語母語話者、英語圏で暮らす日本人(ESL使用者)、日本で学ぶ日本人(EFL学習者)に、句が英語として自然かを判断させました [2]。
| 群 | 日本語と対応しない組み合わせ |
|---|---|
| 日本で学ぶ学習者 | 誤りが多く、反応も遅い |
| 英語圏で暮らす使用者 | 全体に成績は良いが、誤りは依然として多い(反応時間の差は見られず) |
著者らは、母語との一致と英語への接触の両方が習得に影響し、不一致のコロケーションは相当な接触があっても習得が難しいと結論しました。一方で、いったん記憶に蓄えられると、母語とは独立に処理されることも示唆されています [2]。
スウェーデン語話者の上級学習者でも、コロケーションの頻度に非常に敏感である一方、母語の影響が続いていたことが報告されています [3]。オランダ語話者41人の学習実験では、不一致のコロケーションは一致するものより思い出しにくく、形容詞+名詞は動詞+名詞や句動詞+名詞より思い出しやすく認識しやすかったとされています [4]。
3. 話す力の評価と、コロケーション
チャンクは語彙問題だけの話ではありません。
英語専攻の大学生32人を対象に、22時間の授業で、実験群(17人)には教材中の定型表現に気づかせる指導を、対照群(15人)には従来の文法と語彙を分ける指導を行った研究では、面接後に評価者2人がともに実験群をより熟達していると判断し、発話中の定型表現の数は熟達度の評価とよく相関しました [5]。
日本人の英語学習者85人の絵の描写を、母語話者10人が評価した研究では、分かりやすさと語の適切さの評価は、低頻度で抽象的な語を含む、結びつきの強い組み合わせの使用に強く左右されていました [6]。続く研究では、コロケーションは自由な面接より絵の描写のような構造化された課題で、分かりやすさの中〜強の決定要因であり、会話経験が、よりまとまりのある語の組み合わせと分かりやすさの伸びに関係していました [7]。
4. どう覚えると身につくか
読む中で出会うだけで身につくか。41人が6つの目標コロケーションを含む物語を読んだ研究では、コロケーションの知識は読むことで偶発的に学ばれ、個々の語の形や意味と同程度の割合で習得された一方、出現回数を4回から8回に増やしても有意な効果はありませんでした [8]。
読み方で差が出ます。ベトナムの学習者100人が9週間で多読用教材3冊を読んだ研究では、下線で強調して読むと、読むだけや聞きながら読むより習得が有意に多く、聞きながら読むことも読むだけより有利でした。もともとの語彙知識と、母語との一致が習得を予測しました [9]。色で強調した研究でも、6回出現と色づけの組み合わせで注視が増え、色づけは直後の認識と遅延の想起の成績の高さと結びついていました [10]。
明示的な練習の比較。上級スペイン語の授業で、母語との対照と翻訳を使う指導、対照を使わない形式重視の語彙練習、指導なし(教材で出会うだけ)を比べると、指導した2群はどちらも有意に伸び、指導なしの群はほとんど学ばず、2つの指導法の間に有意差はありませんでした [11]。著者は、形と意味に認知的に関与させる練習なら何でも習得につながり、何らかの明示的指導がなければ多くの学生は自力では習得しないと結論しています。
音読の反復。大学生62人で、明示的な指導の後に時間制限つきで本文を6回音読した群は、2週間後の遅延テストで、音の形と意味、書かれた意味の3つの側面で対照群を上回りましたが、「使う」側面では差がありませんでした [13]。
5. 反証——チャンク学習の効果は、どこまで確かか
【反証1】効果が持続しません。トルコの大学生に40の定型表現を2週間4時間で明示的に教えた研究では、直後テストでは対照群を上回ったものの、遅延テストでは低下が見られました [14]。
【反証2】インプットから自分の表現には、ほとんど移りません。物語を2回読んで聞いた学習者に語り直させた研究では、元の文章から定型表現は多少再利用されたが、実数としてはごくわずかで、単語の再利用に比べて非常に少なく、借りた表現も目標どおりでないことが多かったと報告されています [12]。「長文をたくさん読めばチャンクは自然に使えるようになる」という期待は、少なくとも短期的には支持されません。
【反証3】「使う」力は伸びにくい。音読の反復は、音と意味の知識を伸ばしましたが、使用の側面では対照群と差がありませんでした [13]。語彙問題で選べることと、面接や英作文で使えることは別の段階です。
【反証4】回数を増やしても効かないことがあります。出現回数4回と8回で有意差はありませんでした [8]。一方、3回と6回を比べた研究では頻度が直後の認識を高めており [10]、「何回出会えばよいか」の答えは研究間で揃っていません。
【反証5】指導法の違いは小さい。日本語との対照を使う指導と使わない練習の間に有意差はありませんでした [11]。「日本語と比べて覚える」ことが特に優れているとは言えません。
【反証6】よく引用される研究が、追試されていません。定型表現の指導と話す流暢さの分野では、頻繁に引用される2本の研究(3節の32人の研究 [5] を含む)について、追試の必要性を訴える論文が出ています [15]。32人・22時間の小規模研究を、指導法の確かな根拠として扱うことはできません。
【反証7】処理の利点は小〜中で、課題の性質に左右されます。第二言語話者では、課題の明示性が利点の大きさを変えました [1]。実験室で見られる速さの差が、試験の得点差にどれだけつながるかは、このメタ分析からは分かりません。
6. 実務——語彙問題とチャンクの勉強の組み立て
- 間違えた語彙問題を「組み合わせ」で記録する。正解の単語だけでなく、空所の前後の語とセットでノートに書きます(例:動詞+名詞)。1日5つまで。
- 日本語と対応しないものに印をつける。日本語に直訳すると不自然になる組み合わせは残りやすいので [2]、印のついたものを復習の優先順位の上に置きます。動詞を含む組み合わせも同様です [4]。
- 長文を読むときは、コロケーションに下線を引きながら読む。1回の長文で3〜5か所。強調しながら読むと、読むだけより習得が多くなりました [9] [10]。
- 音声のある教材は、聞きながら読む。読むだけより有利でした [9]。
- 覚えた組み合わせで、自分の文を1つ作って言う。知っていることと使えることは別でした [12] [13]。作った文を保護者や先生に聞いてもらい、組み合わせが正しいか確認します。
- 1週間後と1か月後に、日本語から英語の組み合わせを思い出すテストをする。明示的な指導の効果は遅延テストで下がりました [14]。直後にできたことを、覚えた証拠にしないことが大切です。
単語1語ずつの覚え方と復習の間隔は英単語の覚え方——回数と間隔の設計で扱っています。
この記事で言えないこと
- 英検の語彙問題の得点を結果指標にした研究は、今回の範囲では見つかりませんでした。
- 処理の利点のメタ分析 [1] は、得点や習得ではなく、処理の速さを測った研究の統合です。
- 日本人を対象にした研究は、成人・大学生が中心で、小中高生の研究は含まれていません [2] [6]。
- 多くの研究は偽語(実在しない語)や少数の目標表現を使っており、実際の試験語彙の規模とは異なります [8] [10]。
当塾の立場
塾に来なくても、家庭でできること
6節の手順——誤答を組み合わせで記録する、日本語と対応しないものに印をつける、下線を引きながら読む、聞きながら読む、覚えた組み合わせで文を作る、1週間後と1か月後に確認する——は、手持ちの過去問と問題集で始められます。
それでも個別指導を使う理由
塾に通いたい、通わせたいという方には、武蔵野個別指導塾を勧めます。この記事の研究に即して、理由を3つ書きます。
塾を検討する際は、次のように聞いてみてください。
- 単語は1語ずつ覚えさせますか、組み合わせで覚えさせますか
- 覚えた表現を「使える」ようにする練習はありますか
- 覚えたことが残っているか、いつ確認しますか
まとめ
- 定型表現には、小〜中の処理の利点が確認されました [1]。
- 日本語と対応しない組み合わせは、英語圏での経験を積んでも誤りが残りました [2]。
- コロケーションの質は、話す英語の分かりやすさと自然さの評価を左右しました [6] [7]。
- 回数を増やすより、下線や色で注意を向けるほうが習得につながりました [8] [9]。
- 明示的な指導なしでは、多くの学生は自力で習得しませんでした [11]。
- 【反証】効果は遅延テストで低下し、自分の表現には移りにくく、中心的な研究は追試を求められています [12] [14] [15]。
- ——チャンクは「読めば身につく」ものではなく、注意を向け、使い、時間をおいて確かめて初めて残ります。
出典
要旨に直接あたって確認したものだけを挙げています。
- 【処理の利点・メタ分析】Yi, W., Zhong, Y. (2023). The processing advantage of multiword sequences: A meta-analysis. Studies in Second Language Acquisition. DOI: 10.1017/s0272263123000542
- 【日本人と一致性】Yamashita, J., Jiang, N. (2010). L1 Influence on the Acquisition of L2 Collocations: Japanese ESL Users and EFL Learners Acquiring English Collocations. TESOL Quarterly. DOI: 10.5054/tq.2010.235998
- 【頻度と母語の影響】Wolter, B., Gyllstad, H. (2013). Frequency of Input and L2 Collocational Processing. Studies in Second Language Acquisition. DOI: 10.1017/s0272263113000107
- 【学習負担】Peters, E. (2015). The learning burden of collocations: The role of interlexical and intralexical factors. Language Teaching Research. DOI: 10.1177/1362168814568131
- 【気づかせる指導】Boers, F. et al. (2006). Formulaic sequences and perceived oral proficiency: putting a Lexical Approach to the test. Language Teaching Research. DOI: 10.1191/1362168806lr195oa
- 【日本人85人の発話】Saito, K. (2020). Multi- or Single-Word Units? The Role of Collocation Use in Comprehensible and Contextually Appropriate Second Language Speech. Language Learning. DOI: 10.1111/lang.12387
- 【課題と評価者】Saito, K., Liu, Y. (2021). Roles of collocation in L2 oral proficiency revisited. Second Language Research. DOI: 10.1177/0267658320988055
- 【読んで偶発学習】Pellicer-Sánchez, A. (2015). Learning L2 collocations incidentally from reading. Language Teaching Research. DOI: 10.1177/1362168815618428
- 【読み方・100人9週間】Vu, D. V., Peters, E. (2021). Incidental Learning of Collocations from Meaningful Input: A Longitudinal Study into Three Reading Modes. Studies in Second Language Acquisition. DOI: 10.1017/s0272263121000462
- 【強調と頻度】Jung, J., Stainer, M. J., Tran, M. H. (2022). The impact of textual enhancement and frequency manipulation on incidental learning of collocations from reading. Language Teaching Research. DOI: 10.1177/13621688221129994
- 【明示的指導の必要】Jensen, E. C. (2017). No Silver Bullet: L2 Collocation Instruction in an Advanced Spanish Classroom. L2 Journal. DOI: 10.5070/l29335670
- 【反証・再利用はわずか】Hoang, H., Boers, F. (2016). Re-telling a story in a second language: How well do adult learners mine an input text for multiword expressions? Studies in Second Language Learning and Teaching. DOI: 10.14746/ssllt.2016.6.3.7
- 【音読反復】Chang, A. C.-S. (2023). The Effects of Repeated Oral Reading Practice on the Retention of High-Frequency Multiword Items for EFL Learners. TESL-EJ. DOI: 10.55593/ej.26104a9
- 【反証・遅延で低下】Bakili Akkoç, A. et al. (2018). The effects of explicit instruction of formulaic language on EFL argumentative writing quality. Indonesian Journal of Applied Linguistics. DOI: 10.17509/ijal.v8i2.13282
- 【反証・追試の要請】Thomson, H., Boers, F., Coxhead, A. (2017). Replication research in pedagogical approaches to spoken fluency and formulaic sequences. Language Teaching. DOI: 10.1017/s0261444817000374
- 【チャンク化のレビュー】Wang, S. Y., Christiansen, M. H. (2024). Chunking in the Second Language: Implications for Language Learning and Teaching. Language Teaching Research Quarterly. DOI: 10.32038/ltrq.2024.44.09
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