映像授業を毎日見ているのに、模試になると手が止まる。保護者から「ちゃんと受講しているのに伸びない」という相談を受けるとき、画面の前での過ごし方を聞くと、たいてい同じ答えが返ってきます。「最初から最後まで、止めずに見ている」。
映像授業の最大の利点は、止められること、戻せること、速度を変えられることです。ところが多くの生徒は、その3つを一度も使わずに、教室の授業より受け身の状態で画面を眺めています。それでは、生の授業より条件が悪くなります。
この記事では、再生速度をどこまで上げてよいか、どこで止めて何をするか、見終わったあとに何分かけて何をするかを、数値のある研究に当たりながら手順にします。反転授業の研究にも触れますが、それを家庭学習にそのまま当てはめられない理由も書きます。
この記事の結論
- 上手な講義は「分かった感じ」を強くしますが、それは学べたこととは別です。同じ内容を上手に話した場合と、下手に話した場合を比べた実験では、学習量の自己評価は上手なほうが高かったのに、実際のテストの成績は変わりませんでした。
- 再生速度は 1.5 倍までなら、成績への代償は小さい。24本の研究から 110 の効果量をまとめたメタ分析の結論です。それより速くすると不利が出ます。
- 止める場所を先に決めておく。動画の中に問いを埋め込む実験では、注意も成績も上がりました。自分で止めて問いに答えるのは、その代用です。
- 見終わったら、何も見ずに再現する時間を必ず取る。視聴時間のおよそ3割を、この工程に回してください。
- 反転授業の効果は「家で動画を見ること」から来ているのではありません。教室側で何をするかが本体です。家庭学習だけを取り出して同じ効果を期待しないでください。
見て分かった気になるのは、話が上手だからです
映像授業の講師は、話がうまい。それが商品価値だからです。ところが、その上手さは、理解しているという感覚を強めても、理解そのものを強めるとは限りません。
トフトネス(Toftness)らは、31分の講義動画を2種類つくりました。片方では講師が身ぶりを使い、声に抑揚をつけ、動きまわり、適切な間を取ります。もう片方では、同じ講師が原稿を読み上げ、演台にかがみこみ、ほとんど目を合わせません。内容は同じです。
Toftness AR, Carpenter SK, Geller J, Lauber S, Johnson M, Armstrong PI. (2018). Instructor fluency leads to higher confidence in learning, but not better learning. Metacognition and Learning.
結果は題名のとおりです。上手な講義のほうが「自分はよく学べた」という判断は高くなり、実際の学習は良くなりませんでした。流暢さは、学べた量ではなく、学べた気分を動かしたということです。
もうひとつ、画面の前では自分の注意が切れていること自体に気づきにくくなります。Bühler らが87名の学生の視聴中に15回の確認を入れた研究では、上の空になっていた場面のうち、本人がそれに気づいていたのは 60% でした。残りは、気づかないまま画面を見ていたことになります。
ここから、この記事全体の前提が出ます。視聴中の自分の感覚を、学習の指標にしない。指標は、あとで何も見ずに再現できるかどうかだけです。
再生速度をどこまで上げてよいか
速度を上げることについては、数値のある結論が出ています。
Tharumalingam T, Roberts BRT, Fawcett JM, Risko EF. (2025). Increasing video lecture playback speed can impair test performance: a meta-analysis. Educational Psychology Review.
24本の研究から 110 の効果量を集めて分析した結果、再生速度を上げると内容テストの成績は下がりうるが、その代償は 1.5 倍以下では小さく、多くの場合は統計的に有意ではありませんでした。テストの形式や講義の長さによって結果が変わることを示す証拠も見つかっていません。
もう少し速い領域を調べた研究もあります。チェン(Chen)らの4つの実験では、2.5 倍でもテストの成績は損なわれませんでしたが、著者らは2 倍を超えることは勧めないと明記しています。また、スライドや講師の映像といった視覚的な要素があるほうが有利で、それは速い速度で処理するときにとくに当てはまりました。
実務上の基準は次のようになります。
| 状況 | 速度の目安 | 理由 |
|---|---|---|
| 初めて習う単元 | 1.0 倍 | 速度を上げる余裕は、知識がある側にしかない |
| 一度習った内容の復習 | 1.25 倍から 1.5 倍 | 代償が小さい範囲 |
| すでに解けるが確認したい | 1.5 倍 | ここが上限と考える |
| 初見の難所・証明・文法の説明 | 1.0 倍に落とす | 速度は一定にしなくてよい。落とす操作も使う |
速度を上げる目的は、時間を節約することではなく、浮いた時間を再生テストに回すことです。速く見て、そのぶん早く動画を閉じるなら、上げた意味はありません。
リース(Rees)らが468名の学生に 1x から 2x までの速度と字幕の有無を組み合わせて調べた研究のように、条件を細かく分けた検討も進んでいますが、速度を上げても大丈夫だと一般化できる段階ではありません。自分で試して、再生テストの結果で決めてください。
どこで止め、止めて何をするか
動画の中に問いを埋め込むと何が起きるかは、実験で調べられています。リウ(Liu)とジア(Jia)は、90名を対象に、再生速度(1.0 倍・1.25 倍・1.5 倍)と、動画の前に問いを置くかどうかを組み合わせ、視線の動きも測りました。
Liu R, Jia H. (2025). Effects of instructional video playback speed and pre-embedded questions on learning. Asia Pacific Education Review.
あらかじめ問いを置いた条件では、動画の本筋への注意が高まり、学習成績も上がりました。市販の映像授業にこの仕掛けが無いなら、自分で作るしかありません。手順は次のとおりです。
- 再生する前に、テキストの見出しから問いを3つ書く。「今日は何が分かれば合格か」を、動画を見る前に決めます。これが埋め込みの代用です。
- 説明の切れ目で止める。目安は、講師が「では次に」「ここまでが」と言った直後です。時間で区切るより、内容の切れ目で区切るほうが有効です。
- 式変形や解法の最初の一手が出る直前で止める。止めて、自分ならどう始めるかを声に出します。ここが最も差がつく操作です。
- 講師が問いを出した直後は必ず止める。「さあ、どうしますか」と言われたら止めて考える。止めずに答えを聞くのは、答えを見ながら問題を解くのと同じです。
- 止めた回数を記録する。1本あたり3回を下回っていたら、受け身で見ています。
逆に、戻して見直すのは1回までにしてください。同じ場面を何度も見ると、流暢さの錯覚だけが強くなります。分からないときは戻すのではなく、テキストの該当箇所を読むほうが確実です。
見終わったあとの再生テスト
視聴の途中や前後に小テストを入れると、注意がそれることが減り、学習が改善するという研究があります。ウェルハフ(Welhaf)らは195名の学生を対象に、途中にテストを挟む条件と、途中に復習を挟む条件を比べました。ジョウ(Zhou)らは298名を対象に、講義全体を通して問いを配置する方式を検証しています。
Zhou SS, Taylor AG, Tuer A, Breithaupt S, Pan S, Wammes JD. (2026). Concurrent testing improves attention generally and selectively during video lectures. Journal of Educational Psychology.
家庭で使える形にすると、次の手順になります。視聴時間のおよそ3割を、この工程に取ってください。30分の動画なら10分です。
- 動画を閉じる。画面を見ながらでは意味がありません。タブも閉じます。
- 白紙に、今見た内容を思い出して書く。順番も見出しも自分で決めます。3分から5分。
- 視聴前に書いた問い3つに答える。答えられなければ、その問いに印をつけます。
- テキストを開いて、抜けた部分だけ確認する。全部読み直さない。抜けた箇所に印をつけます。
- その場で1問、対応する問題を解く。解けなければ、動画を見た意味はまだ生じていません。
- 印のついた問いだけ、翌日にもう一度答える。動画は見返しません。
この6工程のうち、飛ばしてはいけないのは1番と5番です。画面を閉じること、そして手を動かして1問解くこと。この2つが無いと、映像授業は「見た」という記録だけを残して終わります。
映像授業のノートの取り方
生の授業と違い、映像授業は止められます。したがって、書きながら聞く必要がありません。むしろ書くことと聞くことを分けるほうが有利です。
- 再生中は書かない。聞くことに集中します。書きたくなったら止めます。
- 止めたときにだけ書く。そのかたまりで何が言われたかを、1行か2行にまとめます。講師の言葉ではなく自分の言葉で書きます。
- 板書の画面は、書き写さずに撮るか、テキストのページ番号を控える。映像授業のテキストには、たいてい同じ図が載っています。
- ページの左を空けておき、視聴後の再生テストで答えられなかった問いをそこに書く。ノートを、後で使える問題集にします。
- 講師が「ここは試験に出る」「よく間違える」と言った箇所だけ、言葉のまま書く。この種の情報はテキストに載っていません。
なお、講師の顔が画面に映っているかどうかは、気にしなくてかまいません。アン(Ahn)とチャン(Chan)による2つの事前登録された実験では、講師の姿が映っていることは、集中の度合いにも学習にも全体として影響しませんでした。ただし、自分の好みに合った形式のほうが、集中していると感じる傾向はありました。感じ方が変わるだけで、結果は変わらないということです。
反転授業の研究から言えること、言えないこと
「家で動画を見て、教室で演習する」という反転授業は、多くの研究が積み上がっています。大学教育を対象にした大規模なメタ分析を見てみます。
Bredow CA, Roehling PV, Knorp AJ, Sweet AM. (2021). To flip or not to flip? A meta-analysis of the efficacy of flipped learning in higher education. Review of Educational Research.
317本の研究から、学力面・対人面・満足度の3領域を分析した結果、8つの成果のうち7つで反転授業が講義形式より有利でした(効果量は 0.20 から 0.53)。ただし著者らは、効果のばらつきが大きく、有効性を左右する変数がいくつもあることも報告しています。ヒュー(Hew)らが15本のメタ分析(のべ156,722名)をまとめた二次メタ分析も、チェン(Cheng)らによる55本の分析も、条件による違いの大きさを指摘しています。
ここで注意が必要です。反転授業で効いているのは、家で動画を見ることそのものではありません。動画で基礎を入れたあと、教室で議論し、問題を解き、教師が誤りを見つけて直す時間があることが本体です。家庭で映像授業だけを見ている状態は、反転授業の前半だけを取り出したものにすぎません。
したがって、映像授業を使うなら後半にあたる工程を自分で用意する必要があります。この記事の「見終わったあとの再生テスト」と「その場で1問解く」は、そのための最小限の代用です。学校の授業、塾、あるいは友人との確認が使えるなら、そちらのほうが強い代用になります。
学年別の使い方
| 学年 | この時期の課題 | 手順の調整 |
|---|---|---|
| 小学生 | 視聴時間そのものの管理 | 速度は 1.0 倍のまま。1本を短く区切り、見終わったら口頭で「何の話だった?」に答える。ノートは取らなくてよい |
| 中学生 | 止める習慣をつける | 速度は復習のときだけ 1.25 倍。止める回数を数えて記録する。再生テストは白紙に書く形式で行う |
| 高校生 | 本数が多く、消化が目的になりやすい | 速度は 1.5 倍を上限。視聴時間の3割を再生テストに固定で確保する。見た本数ではなく、解けた問題数で進み具合を測る |
高校生でとくに多い失敗は、受講数を進み具合の指標にしてしまうことです。受講記録は増え、模試は動かない。指標を「その単元の問題が解けたか」に置き換えてください。
この記事で言えないこと
第一に、速度についての結論は、対象と教材に依存します。メタ分析が扱ったのは主に大学生と大学レベルの講義動画です。中学生が初めて習う単元で同じことが言えるかは分かっていません。この記事が「初見は 1.0 倍」としているのは、研究の数値ではなく安全側の判断です。
第二に、「視聴時間の3割を再生テストに」という配分は、研究が検証した数値ではありません。途中や前後にテストを挟むことに効果があるという知見から作った、実務上の目安です。
第三に、反転授業の効果量を、家庭での映像授業に当てはめることはできません。比較されているのは「反転授業」と「講義形式の授業」であり、「映像授業を家で見ること」と「何もしないこと」ではありません。効果量 0.20 から 0.53 という数字は、教室側の設計を含んだ数字です。
第四に、流暢さの錯覚についての実験は、講師の話し方を操作したものです。市販の映像授業の質そのものを評価したわけではありません。上手な講師が悪いのではなく、上手さを自分の理解の証拠にしてはいけないということです。
第五に、映像授業が向かない生徒はいます。一人で画面に向かうと注意が続かない、質問が出ないまま止まる、見たことにして進める。こうした状態が2週間続くなら、形式を変えることを検討してください。
当塾の立場
この記事の手順は、塾に来なくても実行できます。必要なのは、動画を閉じる操作と、白紙1枚と、10分です。とくに「見終わったら画面を閉じて、何も見ずに書く」という一手は、今日の受講から使えて、効果がすぐ分かります。書けなければ、その動画はまだ学習になっていません。まずここだけ、1週間試してみてください。
そのうえで、通うことに意味がある部分もあります。反転授業の研究が示しているのは、動画で基礎を入れたあとに誤りを見つけて直す時間があるかどうかで結果が変わる、ということでした。家庭での映像授業には、その後半が欠けています。武蔵野個別指導塾では、生徒が見てきた映像授業の単元について、こちらからは教えず、まず解いてもらいます。解けなければ、視聴の仕方のどこが受け身だったかを一緒に探します。上手な講義を聞いた記憶と、自分で再現できることの差を、外から測って見せる——それが映像授業を使っている生徒に対してできることだと考えています。
関連する研究の解説
- 反転授業は何を変えるのか——「動画を家で見る」が本体ではない——この記事で手順の前提にした「効いているのは教室側の設計である」という判断を、研究の側から詳しく扱っています。
- 「わかった気がする」と実際の学習量はなぜずれるのか——上手な講義が自己評価だけを動かす現象を、研究の設計から解説しています。
- 「分かったつもり」はなぜ生じるか——メタ認知的モニタリングの研究——視聴中の感覚を指標にしてはいけない理由の背景です。
出典
- Toftness AR, Carpenter SK, Geller J, Lauber S, Johnson M, Armstrong PI (2018). Instructor fluency leads to higher confidence in learning, but not better learning. Metacognition and Learning.
- Tharumalingam T, Roberts BRT, Fawcett JM, Risko EF (2025). Increasing video lecture playback speed can impair test performance: a meta-analysis. Educational Psychology Review.
- Chen A, Kumar SE, Varkhedi R, Murphy DH (2024). The effect of playback speed and distractions on the comprehension of audio and audio-visual materials. Educational Psychology Review.
- Liu R, Jia H (2025). Effects of instructional video playback speed and pre-embedded questions on learning. Asia Pacific Education Review.
- Welhaf MS, Phillips NE, Smeekens BA, Miyake A, Kane MJ (2022). Interpolated testing and content pretesting as interventions to reduce task-unrelated thoughts during a video lecture. Cognitive Research: Principles and Implications.
- Zhou SS, Taylor AG, Tuer A, Breithaupt S, Pan S, Wammes JD (2026). Concurrent testing improves attention generally and selectively during video lectures. Journal of Educational Psychology.
- Bredow CA, Roehling PV, Knorp AJ, Sweet AM (2021). To flip or not to flip? A meta-analysis of the efficacy of flipped learning in higher education. Review of Educational Research.
- Hew KF, Bai S, Huang W, Dawson P, Du J, Huang G, Jia C, Khongjan T (2021). On the use of flipped classroom across various disciplines: insights from a second-order meta-analysis. Australasian Journal of Educational Technology.
- Cheng L, Ritzhaupt AD, Antonenko P (2019). Effects of the flipped classroom instructional strategy on students’ learning outcomes: a meta-analysis. Educational Technology Research and Development.
- Ahn D, Chan JCK (2025). What drives student engagement and learning in video lectures? An investigation of instructor visibility, playback speed, and student preferences. Applied Cognitive Psychology.
- Bühler B, Bozkir E, Goldberg P, Deininger H, D’Mello S, Gerjets P, Trautwein U, Kasneci E (2025). Temporal dynamics of meta-awareness of mind wandering during lecture viewing. Journal of Educational Psychology.
- Rees GL, Graham R, Yee RS, Guzman JA (2026). Video playback speed impacts and attitudes in a soil science course. Natural Sciences Education.
