覚えるものと理解するものの見分け方|武蔵野個別指導塾が薦める学習の仕方

連載「武蔵野個別指導塾が薦める学習の仕方」全50回の第16回です。全50回の目次を見る

「丸暗記はだめ、理解しなさい」と言われる一方で、英単語や年号は覚えるしかありません。この矛盾したような助言に、多くの生徒が振り回されています。問題は暗記か理解かではなく、どの項目をどちらで扱うかの仕分けです。仕分けを間違えると、覚えるべきものに理屈をつけて時間を溶かし、理解すべきものを丸暗記して応用で崩れます。

研究の側から見ると、概念の理解と手続きの習熟は「どちらが先か」という対立ではなく、交互に育つものだと整理されてきました。つまり、どちらかを選ぶ問題ではありません。ただし、目の前の1項目をいま何で扱うかは決めなければなりません。

この記事では、その仕分けを3つの質問で機械的に行う手順を書きます。丸暗記が正しい領域とそのやり方、理解が先の領域とそのやり方、そして教科ごとの配分の目安までを扱います。

この記事の結論

  • 仕分けの基準は「理由から導けるか、導くのに何秒かかるか」。導けないもの、または導くのに時間がかかりすぎるものは、覚える側へ回します。
  • 丸暗記が正しい領域は確かにあります。英単語の意味、化学式、元素記号、年号の一部、用語の定義。これらは理由を辿っても短くなりません。
  • 手続きの理解が先の領域もあります。数学の解法、理科の計算、英文法の骨格。ここを暗記で通すと、初見の問題で崩れます。
  • 概念と手続きは交互に育ちます。小学5・6年生を対象にした実験では、片方が伸びるともう片方も伸びるという往復が観察されました。「理解してから」と待つ必要はありません。
  • 覚えたことは、そのままでは応用に移りません。テストを使った学習の転移を調べたメタ分析では d = 0.40 で、例題形式の問題への転移はとくに弱いと報告されています。

3つの質問で仕分ける

目の前の項目について、次の順に答えてください。判断は10秒で終わります。

  1. 「理由を知っていれば、その場で導けるか?」——導けないなら、覚える側です。「unique = 唯一の」は理由から導けません。「三角形の内角の和が180度」は導けます。
  2. 「導くのに何秒かかるか?」——導けても、試験中に30秒以上かかるなら、結果は覚えておきます。加法定理は導けますが、毎回導いていては間に合いません。
  3. 「間違えたとき、原因は『知らなかった』か『選べなかった』か?」——知らなかったなら覚える側、選べなかったなら理解側の問題です。

3つ目がいちばん実用的です。テストが返ってきたら、失点を2つの山に分けてください。「知っていれば取れた」失点と、「知っていたのに取れなかった」失点です。前者は暗記の量の問題、後者は理解と判断の問題で、対処がまったく違います。両者を混ぜたまま「勉強不足」とまとめると、次に何をすべきかが決まりません。

教科別の配分の目安

下の表は、教科ごとに「覚える側」と「理解側」のおおよその比率を示したものです。研究から導いた数値ではなく、出題の構成から逆算した実務上の目安です。

教科 覚える側 理解側 境界にあるもの
英語 単語・熟語・不規則変化(比重が大きい) 文構造の把握、文法の骨格 前置詞の使い分け(説明できるが、最後は例で覚える)
数学 公式の形、用語の定義(比重は小さい) 解法の選択、式変形の理由 頻出の解法の型(導けるが、覚えたほうが速い)
国語 漢字、語彙、文学史 本文の根拠の探し方、設問の要求の読み取り 古文単語(暗記だが、語源で減らせる)
理科 用語、化学式、元素記号、生物の名称 因果の説明、計算単元の立式 化学反応式(規則で書けるが、頻出は覚える)
社会 地名、人名、年号の一部 制度が生まれた理由、資料の読み取り 年号(流れで覚える部分と、単独で覚える部分に分かれる)

この表で伝えたいのは比率そのものではなく、どの教科にも両方が含まれているという点です。「数学は理解の科目だから暗記はしない」「社会は暗記科目だから理解は要らない」という切り分けは、どちらも失点を生みます。

丸暗記が正しい領域と、そのやり方

理由から導けない項目は、覚えるしかありません。ここで理屈をこねるのは時間の浪費です。やり方は、思い出す練習と間隔をあけた復習に尽きます。

  1. 1項目1カードにします。意味・読み・式のどれか1つだけを問う形にします。
  2. 正解しても外しません。一度正解した項目を読み直すだけに切り替えても、遅延後の成績は伸びませんでした。伸びたのは、正解後も思い出し続けた条件です。
  3. 間隔をあけて回します。まとめて何度も見るより、日をまたいで会う回数を確保します。
  4. やり込みすぎません。できるようになった項目に練習を積み増しても、効果は確認されていません。

Karpicke JD, Roediger HL. The critical importance of retrieval for learning. Science. 2008;319(5865):966-968.

4点目には根拠があります。大学生216人に数学の問題の解き方を教えた実験で、練習問題を3問にした群と9問にした群を比べたところ、追加の6問には1週間後にも4週間後にも効果がありませんでした。同じ実験で、練習を1週間あけて2回に分けた条件は、4週間後のテストで大きな差を生みました。増やすより、あけるほうが効きます。

Rohrer D, Taylor K. The effects of overlearning and distributed practise on the retention of mathematics knowledge. Applied Cognitive Psychology. 2006;20(9):1209-1224.

暗記領域では、混ぜないほうがよいという報告もあります。交互練習のメタ分析では、全体の効果は g = 0.42 でしたが、単語を材料とした研究では g = -0.39 と符号が逆転し、まとめて練習したほうが有利でした。英単語の暗記に、わざわざ他教科を混ぜる理由はありません。

Brunmair M, Richter T. Similarity matters: a meta-analysis of interleaved learning and its moderators. Psychological Bulletin. 2019;145(11):1029-1052.

語呂合わせや語のイメージを使う記憶術(キーワード法)についても、古くから検証があります。学習に困難のある中学生に14語の定義を覚えさせた実験では、キーワード法のほうが直接指導より成績が良く、しかも生徒自身にイメージを作らせた場合でも同じ結果でした。覚える領域では、意味づけの工夫が実際に効きます。

Mastropieri MA, et al. Mnemonic vocabulary instruction for learning disabled students. Learning Disability Quarterly. 1985.

手続きの理解が先の領域と、そのやり方

解法を選ぶ、立式する、根拠を探す——これらは暗記では通りません。やり方は、理由を言語化することと、選択の場面を練習することの2つです。

  1. 例題の解説を1行ずつ止め、「なぜ次の行へ進めるのか」を声に出します。説明できない行が、理解していない場所です。
  2. 正解した問題についても「なぜこの解法を選んだか」を1行書きます。ここが応用の分かれ目になります。
  3. 種類の違う問題を混ぜて解き、解く前にどの型の問題かを言い当てる練習をします。
  4. 間違えたら「知らなかった」のか「選べなかった」のかを分けて記録します。

例題を使う学習そのものの効果も測られています。小学校から大学までの数学を対象に、8033本の抄録を絞り込み、43本の論文・55の研究・181の効果量を統合したメタ分析では、例題学習の効果は g = 0.48(p = 0.01)でした。中程度であり、例題を眺めるだけで解けるようになるわけではありませんが、自力で解く練習と往復させる価値はあります。

Barbieri CA, Miller-Cotto D, Clerjuste SN, Chawla K. A meta-analysis of the worked examples effect on mathematics performance. Educational Psychology Review. 2023.

「理解してから覚える」を待たない

仕分けの話でいちばん誤解されているのが、順序です。「理解してから覚える」「基礎を理解してから応用へ」と言われますが、研究が示しているのはもう少し込み入った関係です。

小学5・6年生に小数の学習をさせた2つの実験では、概念的知識と手続き的知識が交互に発達し、問題の表し方が改善することがその橋渡しになっていることが示されました。つまり、手続きができるようになると概念の理解が進み、概念が分かると手続きが改善する、という往復です。

Rittle-Johnson B, Siegler RS, Alibali MW. Developing conceptual understanding and procedural skill in mathematics: an iterative process. Journal of Educational Psychology. 2001.

同じ研究者が小学2年生180人を対象に行った実験では、概念だけを教える授業と、概念と手続きの両方を教える授業を比べ、指導の順序(問題を解く前か後か)との組み合わせも検討されました。何をどの順で教えるかによって、伸びる側が変わります。

Rittle-Johnson B, Fyfe ER, Loehr AM. Improving conceptual and procedural knowledge: the impact of instructional content within a mathematics lesson. British Journal of Educational Psychology. 2016;86(4):576-591.

実務上の結論は単純です。理解が完成するのを待って暗記を始めないこと、暗記が終わるのを待って理解を始めないこと。同じ単元について、覚える作業と理由を言う作業を並行して回します。待つ設計にすると、どちらも始まりません。

学年別の配分

小学生

  1. 覚える側は漢字と計算の九九に絞ります。それ以外を暗記で処理しないでください。
  2. 理解側は「どうしてこの式にしたの?」を1日1回聞くだけで十分です。
  3. 覚える作業は1日10分まで。長くすると算数の考える時間が消えます。

中学生

  1. 英語と社会・理科の用語は、覚える側としてカードや一問一答で処理します。
  2. 数学は覚える側を最小限にします。公式は「導けるが時間がかかるもの」だけを覚えます。
  3. テストが返ってきたら、失点を「知らなかった」と「選べなかった」に必ず分けます。ここを分けないと、次の勉強の配分が決まりません。

高校生

  1. 科目ごとに、暗記の総量を先に見積もります(英単語2000語、古文単語300語など、数えられる形にします)。
  2. 数学・物理は理解側に寄せ、頻出の解法の型だけを「覚える側」に登録します。
  3. 暗記の作業は移動時間や隙間に寄せ、机に向かう時間は理解側に使います。時間帯で分けると配分が崩れにくくなります。

1週間の中での配分の決め方

仕分けができたら、次は時間の割り当てです。ここでも決め方を先に固定しておくと、その日の気分で崩れなくなります。

  1. 直近のテストの失点を「知らなかった」と「選べなかった」に分け、枚数を数えます。
  2. その比率を、そのまま週の勉強時間の配分にします。知らなかった失点が7割なら、覚える作業に7割を割きます。
  3. ただし、覚える作業は1回20分を上限に、日数を増やして確保します。1日にまとめると間隔が消えます。
  4. 理解側の作業は、まとまった時間が要ります。週に2回、40分の枠を先に取ります。
  5. 次のテストが返ってきたら、比率を測り直して割り当てを更新します。

この方式の利点は、配分の根拠が自分の答案になることです。「英語が苦手だから英語を増やす」ではなく、「英語の失点のうち8割が知らなかった分だから、英語の暗記を増やす」と決まります。教科ではなく、失点の種類で配分するのが要点です。

よくある誤り

第一に、「丸暗記は悪」という指導の行き過ぎです。理由から導けない項目に理屈をつけようとすると、時間だけがかかります。英単語の語源は覚えやすさを上げますが、語源を調べること自体が目的化すると、覚えた語数は増えません。

第二に、公式の導出を毎回やることです。導出は最初の1回か2回で十分で、そこからは結果を使えるようにします。試験中に導いている時間はありません。

第三に、覚えたことが応用に移ると期待しすぎることです。テストを使った学習が形を変えた課題へどれだけ転移するかを調べたメタ分析では、全体の転移は d = 0.40(95%信頼区間 0.31〜0.50)でした。とくに、刺激と反応を入れ替えた項目や例題形式の問題への転移は弱いと報告されています。覚える練習と、選ぶ練習は別に用意する必要があります。

Pan SC, Rickard TC. Transfer of test-enhanced learning: meta-analytic review and synthesis. Psychological Bulletin. 2018;144(7):710-756.

第四に、学習法の効果を一律に考えることです。ダンロスキー(Dunlosky)らが10種類の学習法の有用性を比較した報告では、方法ごとに評価が分かれ、同じ方法でも材料や条件によって有効性が変わることが示されています。仕分けをした上で、領域ごとに違う方法を当てるのが筋です。

第五に、「覚える側」を軽く見積もることです。英単語2000語、古文単語300語、理科と社会の用語を合わせると、覚えるべき項目は数千に達します。これを「すきま時間で何とかなる」と考えると、最後の数か月に全部が残ります。覚える側は量が数えられるので、早い時期に総量を出しておくのが有利です。

この記事で言えないこと

教科別の配分表は、研究から導いた数値ではありません。出題の構成から逆算した実務上の目安であり、学校・入試の種類によって変わります。同様に、「導くのに30秒以上かかるなら覚える」という基準も、試験時間から逆算した運用上の線引きです。

概念と手続きの関係についても、引用したのは数学(小数・等号)を材料とした研究です。英語の文法や国語の読解に同じ往復関係が成り立つかは、ここで示した研究からは言えません。教科をまたいで一般化するには材料が足りません。

キーワード法の研究は1980年代のもので、対象は学習に困難のある中学生、材料は14語の定義でした。現在の日本の生徒が英単語2000語規模で使った場合に同じ結果になるとは限りません。記憶術には、作るのに時間がかかるという固有の費用もあります。成績が上がることを保証する記事ではありません。

当塾の立場

ここまでの仕分けは、塾に通わなくても実行できます。必要なのは3つの質問と、返却されたテスト1枚だけです。今日できることとして、直近のテストの失点を「知らなかった」と「選べなかった」の2つに分けてみてください。どちらが多いかで、次の1か月に何をすべきかが決まります。

その上で塾を使う意味があるとすれば、仕分けの判定だと考えています。この記事の研究から分かるとおり、覚える練習と選ぶ練習は別物で、転移も限定的です。ところが、失点の原因が「知らなかった」のか「選べなかった」のかは、本人には見分けにくいものです。とくに、解法を選べなかった失点は「勉強不足」と自己申告されがちで、暗記量を増やす方向に誤って向かいます。武蔵野個別指導塾では、答案を1問ずつ講師が見て、この2つに仕分けたうえで次の課題を決めています。仕分けの判定を外に預けたい方には、この使い方を勧めます。

出典

  1. Mastropieri MA, et al. (1985). Mnemonic vocabulary instruction for learning disabled students. Learning Disability Quarterly.
  2. Rittle-Johnson B, Siegler RS, Alibali MW (2001). Developing conceptual understanding and procedural skill in mathematics: an iterative process. Journal of Educational Psychology.
  3. Rohrer D, Taylor K (2006). The effects of overlearning and distributed practise on the retention of mathematics knowledge. Applied Cognitive Psychology, 20(9), 1209-1224. doi:10.1002/acp.1266
  4. Karpicke JD, Roediger HL (2008). The critical importance of retrieval for learning. Science, 319(5865), 966-968. doi:10.1126/science.1152408
  5. Dunlosky J, Rawson KA, Marsh EJ, Nathan MJ, Willingham DT (2013). Improving students’ learning with effective learning techniques: promising directions from cognitive and educational psychology. Psychological Science in the Public Interest, 14(1), 4-58. doi:10.1177/1529100612453266
  6. Rittle-Johnson B, Fyfe ER, Loehr AM (2016). Improving conceptual and procedural knowledge: the impact of instructional content within a mathematics lesson. British Journal of Educational Psychology, 86(4), 576-591. doi:10.1111/bjep.12124
  7. Pan SC, Rickard TC (2018). Transfer of test-enhanced learning: meta-analytic review and synthesis. Psychological Bulletin, 144(7), 710-756. doi:10.1037/bul0000151
  8. Brunmair M, Richter T (2019). Similarity matters: a meta-analysis of interleaved learning and its moderators. Psychological Bulletin, 145(11), 1029-1052. doi:10.1037/bul0000209
  9. Barbieri CA, Miller-Cotto D, Clerjuste SN, Chawla K (2023). A meta-analysis of the worked examples effect on mathematics performance. Educational Psychology Review.

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