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代数的位相幾何 穴の数を代数で数える|武蔵野個別指導塾
三角形の輪郭と内部を埋めた三角形を計算で比べ、基本群・ホモロジー・オイラー標数の役割を学びます。正方形の点群から穴が生まれて消える過程も、境界行列とともにたどれます。

代数的位相幾何 穴の数を代数で数える
進路面談の後に残る、図形についての問い
進路面談の後の廊下で、数学の講師として、ノートの端に三角形を2つ描いて説明する場面を考えてみます。一方は輪郭だけ、もう一方は内部まで鉛筆で塗ります。「この2つは数学では同じ図形でしょうか」。辺の長さや角度だけを見れば、同じと答えたくなるかもしれません。しかし、輪郭上だけを動くことと、内部を通って動くことは違います。三角形の周囲を一周する道を、図形の外へ出さずに縮めていくと、この違いがはっきりします。
内部がある三角形なら、道全体を中央へ寄せて、最後には1点へ縮められます。輪郭しかなければ、中央を通ることはできません。この「縮められるか」を、絵の印象から証明できる性質へ移すのが、代数的位相幾何の入口です。長さを測る代わりに、道の変形や境界のつながり方を調べ、それを群やベクトル空間に変換します。
高校数学で身につける座標計算は、ここでも役立ちます。ただし、計算の目的が変わります。周の長さを求めることから、連続的に変形しても残る特徴を取り出すことへ進むのです。「穴がある」という言い方にも、道が囲む穴と、曲面が包む空洞との違いがあります。その違いを区別できる記号を作ること自体が、大学数学で学ぶ大切な内容です。
代数的位相幾何は、抽象的な証明と実際のデータ解析が接する分野でもあります。ここでは、輪郭だけの三角形を出発点として、円を回る道、境界行列、穴の誕生と消滅までを順に追います。最後には「穴を数える」が、何を数えて何を捨てる操作なのかを、自分の言葉で説明できるところを目指します。

円の方程式から、道を変える数学へ
高校の数学では、原点を中心とする半径1の円周を x²+y²=1 と表します。三角関数の恒等式 cos²θ+sin²θ=1 を使えば、この円周を動く点は次のように書けます。
γ(t)=(cos(2πt), sin(2πt)), 0≦t≦1
実際に代入すると、x²+y²=cos²(2πt)+sin²(2πt)=1 となります。t=0 と t=1 のときは、ともに (1,0) です。したがって、この式は同じ点から出発して戻る道を表し、t が増すにつれて反時計回りに一周します。円の方程式に三角関数を代入するという、高校で扱う計算がそのまま使われています。
円周を S¹、内部を含む閉円板を D² と書くことにします。具体的には、S¹={(x,y)∈R² : x²+y²=1}、D²={(x,y)∈R² : x²+y²≦1} です。どちらも平面に描けますが、動くことを許された場所が違います。D² の中なら、γ(t) に係数 1-s を掛け、s を0から1へ動かすことで、円周上の道を原点まで縮められます。
H(t,s)=((1-s)cos(2πt), (1-s)sin(2πt))
この点の原点からの距離の二乗は (1-s)² です。0≦s≦1 なら (1-s)²≦1 なので、変形中も閉円板から出ません。ただし、途中の道の出発点も動いています。出発点を固定するという条件を付ける場合には、別の変形を考える必要があります。また、s>0 では通常この道は円周上にないので、S¹ の中での変形にはなっていません。式が書けたかどうかだけでなく、式の値がどの空間に入るかを確認するのが重要です。
三角形の輪郭と円周の違いは、角があるかないかです。しかし、輪郭を切らずに丸く膨らませれば円周になります。この対応は、互いに逆な連続写像として表せます。このような対応がある空間を同相といいます。周の長さや角の数は変わっても、同相な空間の間で保たれる性質があります。
一方、輪郭を内部ごと埋める操作は、曲げたり伸ばしたりするだけの操作ではありません。新たに通れる場所を加えています。高校の図形問題では塗られた部分を面積計算の対象と見ますが、ここでは道を変形するための場所として見ます。同じ円の式から出発しても、問う対象を変えると、微分積分とは別の数学が立ち上がります。
変形する道と、境界として消える輪
まず、ホモトピーを正確に定義します。位相空間 X、Y の間の連続写像 f,g:X→Y に対し、連続写像 H:X×[0,1]→Y が存在し、すべての x∈X について H(x,0)=f(x)、H(x,1)=g(x) を満たすとき、f と g はホモトピックであるといいます。記号では f≃g と書きます。s∈[0,1] を変形の進み具合と考えれば、H(x,s) は変形中の写像を一度に記述しています。
ここで必要なのは、各時刻の写像が連続なだけでなく、x と s の両方を合わせて連続であることです。ある瞬間に道を別の場所へ飛ばす操作は許されません。また、始めと終わりの写像が同じ値を取る必要はなく、連続な変形で結べればよいという点も、写像の等号との違いです。
次に、空間 X の点 x₀ を固定します。x₀ を基点とするループとは、連続写像 γ:[0,1]→X で γ(0)=γ(1)=x₀ を満たすものです。ループどうしを同一視するときは、変形中も H(0,s)=H(1,s)=x₀ をすべての s について要求します。この条件を満たすホモトピーで同一視したループの類全体が、基本群 π₁(X,x₀) です。
群の積は、一方のループを通ってから、もう一方のループを通るという道の連結で定めます。動かずに基点にとどまるループが単位元であり、道を逆向きにたどったループが逆元になります。同じ道でも速さを変えた表示があり得るので、道そのものではなく変形の類を使うことが群を作るうえで効いています。一般の空間では、2つの道を通る順序を入れ替えても同じ類になるとは限りません。
円周では、基点を (1,0) とすると、基本群は加法群 Z と同型です。対応する整数は、符号を付けた巻き数です。反時計回りに2周してから時計回りに1周する道の巻き数は、2+(-1)=1 になります。この加法は道をつなぐ操作を表しています。ただし、巻き数が2だから円周に穴が2個あるという意味ではありません。同じ穴の周囲をどのように通ったかを記録しているのです。
この整数を理解する助けになるのが、被覆空間です。連続全射 p:E→X が被覆写像であるとは、X の任意の点 x が開近傍 U をもち、p の U 上の逆像が互いに交わらない開集合の合併になり、それぞれの開集合上で p が U への同相写像になることです。近くで見れば同じ形の写しが何枚も重なり、全体では別の空間につながっていると考えます。
円周には p:R→S¹、p(u)=(cos(2πu),sin(2πu)) という被覆があります。円周上の十分短い開いた弧の逆像は、実数直線上に整数間隔で並ぶ開区間です。小さな弧の中では1枚ずつ対応を見られますが、円周を一周すると、実数直線上では隣の区間へ進みます。円周上のループを、実数直線上で始点0の道として持ち上げると、終点は整数になります。これが巻き数であり、基点を保つホモトピーで変わりません。
もう一つの道具であるホモロジーに進むため、図形を部品に分けます。幾何学的な n 単体とは、アフィン独立な n+1 個の点の凸包です。0単体は点、1単体は線分、2単体は内部を含む三角形です。有限単体複体 K は、このような単体を有限個集めたもので、各単体のすべての面を含み、2つの単体の交わりが空集合または両者の共通の面になるものです。三角形を入れるなら、その3辺と3頂点も入れます。
以下では計算を有理数で行います。各 n 単体に向きを選び、それらを基底とする有理数係数のベクトル空間を Cₙ(K;Q) とします。その要素は、向き付き単体の形式的な線形結合で、n 鎖と呼ばれます。線分の境界は終点から始点を引いたものです。頂点を a,b,c と書くと、境界作用素 ∂ₙ は次の規則を線形に拡張したものです。
∂₁[a,b]=[b]-[a]
∂₂[a,b,c]=[b,c]-[a,c]+[a,b]
一般には、頂点を1つずつ除いて得られる面に、先頭から +,-,+,- と交互に符号を付けて足します。この規則の重要な性質は ∂ₙ∘∂ₙ₊₁=0 です。三角形で確かめると、各頂点が正負で1回ずつ現れて相殺されます。境界をさらに境界に移すと、何も残りません。
境界が0になる鎖の空間を Zₙ=ker ∂ₙ とし、一つ上の次元の鎖の境界として書ける鎖の空間を Bₙ=im ∂ₙ₊₁ とします。前の性質により Bₙ⊂Zₙ です。n 次ホモロジー群は、この包含を使った商として定義されます。
Hₙ(K;Q)=Zₙ/Bₙ
閉じた鎖のうち、図形の内部で埋められるものを0とみなす操作です。2つの閉じた鎖の差が境界なら、同じホモロジー類になります。有理数係数ではホモロジー群はベクトル空間でもあり、その次元 βₙ=dim Hₙ(K;Q) をベッチ数と呼びます。係数を整数にすれば、単なる次元だけでは表せない情報も残るため、どの係数を使っているかを省かないことが大切です。

三角形の行列計算と、不動点が存在する理由
三角形の輪郭だけからなる単体複体で、ホモロジーを実際に計算します。頂点の基底を [a],[b],[c]、辺の基底を e₁=[a,b]、e₂=[a,c]、e₃=[b,c] とします。C₀ と C₁ はどちらも次元3です。∂₁ の行列は、各辺の始点に -1、終点に1を置けば作れます。
D₁=((-1,-1,0),(1,0,-1),(0,1,1))
この表記では、内側の括弧が行を表します。各列の和が0なので階数は3になりません。一方、第1列と第2列は一次独立なので階数は2です。係数を x,y,z とする鎖 xe₁+ye₂+ze₃ の境界が0という条件は、次の連立方程式です。
-x-y=0, x-z=0, y+z=0
これを解くと (x,y,z)=x(1,-1,1) です。したがって ker ∂₁ は、e₁-e₂+e₃ で張られる1次元の空間になります。輪郭だけの複体には2単体がないため B₁=0 であり、H₁ は Q と同型、β₁=1 です。つまり、三角形を一周する閉じた鎖が、境界として消えずに1種類残ります。
同じ輪郭に内部の2単体 [a,b,c] を加えるとどうなるでしょうか。∂₂ の列は (1,-1,1) です。先ほど残った閉じた鎖そのものが、三角形の境界として書けるようになりました。Z₁ は変わりませんが B₁ が同じ1次元の空間になるので、H₁=0、β₁=0 です。辺や頂点を増やさなくても、面を加えることで穴が消えることが、商空間の計算として見えます。
0次も確認します。通常のホモロジーでは ∂₀=0 とし、H₀ は C₀/im ∂₁ です。どちらの三角形も dim H₀=3-2=1 となります。有限単体複体の β₀ は連結成分の個数を数えます。辺 [a,b] の境界 [b]-[a] を0とみなすことで、辺で結ばれた頂点が同じ類になるからです。辺をたどって移動できる範囲ごとに1つの独立な類が残る、という仕組みです。
ここで、計算結果を別の方法でまとめる定理を挙げます。有限単体複体 K の n 単体の個数を fₙ とし、有理数係数のベッチ数を βₙ とすると、オイラー・ポアンカレの公式は次の等式です。
χ(K)=f₀-f₁+f₂-⋯=β₀-β₁+β₂-⋯
有限個の単体しかないので、和は有限項で終わります。χ(K) をオイラー標数と呼びます。輪郭だけの三角形なら χ=3-3=0 で、ベッチ数側も 1-1=0 です。内部を埋めた三角形では χ=3-3+1=1 で、ベッチ数側も1になります。
この等式の要点は、線形代数の次元公式です。rₙ を ∂ₙ の階数とすると、dim ker ∂ₙ=fₙ-rₙ なので、βₙ=fₙ-rₙ-rₙ₊₁ です。この式を次元ごとに符号を交互に付けて足すと、階数の項が隣り合う次元の間で相殺され、単体の個数の交代和だけが残ります。「図形の数え上げ」と「連立方程式の自由度」が一致する理由は、この相殺にあります。
空洞の例として、四面体の表面も考えます。頂点4個、辺6本、三角形の面4枚なので χ=4-6+4=2 です。表面だけで内部の立体は含めません。この複体のベッチ数は β₀=1、β₁=0、β₂=1 です。1次の輪は表面上の2鎖の境界として消せますが、表面全体に対応する2次の鎖は、複体の中に3単体がないため境界として消せません。穴という言葉だけでは区別しにくい性質が、次元によって分かれます。
代数的な不変量は、存在を証明するためにも使えます。ブラウワーの不動点定理は、正の整数 n に対し、ユークリッド空間 Rⁿ の閉単位球 Bⁿ={x : ∥x∥≦1} からそれ自身への任意の連続写像 f:Bⁿ→Bⁿ が、不動点 x、すなわち f(x)=x を少なくとも1つもつという定理です。連続であること、内部と境界を含む閉じた球全体を定義域にすること、値がその球から出ないことが仮定です。
2次元で、なぜ穴と関係するのかを見ます。不動点がないと仮定すると、どの x∈D² でも f(x)≠x です。f(x) から x を通る半直線を伸ばし、円周と最後に交わる点を r(x) とします。この交点は x に連続に依存し、x が円周上なら r(x)=x です。したがって、閉円板を円周へ移し、円周の点はそのままにする連続写像が得られるはずです。このような写像をレトラクションといいます。
しかし、そのレトラクションは存在しません。包含写像 i:S¹→D² と合成すると r∘i は円周上の恒等写像になるはずです。一方、閉円板の基本群は自明で、円周の基本群は Z です。連続写像が基本群に誘導する準同型を考えると、Z から自明な群を経由して Z に戻る写像は零写像です。それが Z の恒等写像になることはありません。この矛盾が、2次元の場合の不動点の存在を支えます。
この議論は不動点の個数や探す速さまでは決めません。また、円周だけを回転させる写像には不動点がない場合があり、定理に反しません。たとえば円周上の (x,y) を (-x,-y) に移すと、固定されるには x=y=0 が必要ですが、原点は円周にありません。同じ写像を閉円板全体で考えると原点が固定されます。定理の定義域を正しく読むことが、結論を正しく使うための第一歩です。
図の直観を、定義の検討と計算へ進める
この分野が扱う根本の問いは、図形の細かな形を変えても残るものを、どう定義するかという問いです。曲線を滑らかにしたり、曲面を引き伸ばしたりするたびに座標の式は変わります。それでも残る特徴を、辺の長さとは別の数や代数的構造に移す必要があります。その際、図からもっともらしく見える関係が、そのまま定理になるとは限りません。
ベッチ数をめぐる歴史にも、定義と証明を点検し直す過程があります。ポアンカレの論文「Complément à l’Analysis situs.」に関する記述では、相補的な次元にあるベッチ数の等しさについて、先行する証明への批判を受け、数の定義を適切に整えることで関係を維持する問題が扱われています(Poincaré, 1899)。ここで注目したいのは、「穴を数える」という直観だけで進めず、何を同じものと数えるかを厳密にする必要があったことです。
現在の言葉で、閉じた、連結で向き付け可能な n 次元多様体の有理数係数のホモロジーを考えると、ポアンカレ双対性から βₖ=βₙ₋ₖ が成り立ちます。ここで閉じたとは、コンパクトで境界がないことです。向き付け可能という仮定や、係数の指定を落として、あらゆる図形に同じ等式が成り立つと言ってはいけません。四面体の表面は球面と同相であり、β₀=β₂=1 という先ほどの計算は、その関係と整合しています。
一方、実際の計算では、空間をどれほど細かく分けたかに結果が振り回されないことも必要です。1本の辺の途中に頂点を加えると、頂点も辺も1つずつ増えるので、頂点数から辺数を引いた値は変わりません。しかし、この数え上げの確認だけでは、あらゆる分割でホモロジーが保たれることの証明にはなりません。より一般には、空間の間の写像と、それが鎖やホモロジーに誘導する写像を調べ、何が不変なのかを証明します。
さらに計算機で扱う場面では、ただ1つの図形の穴を求めるだけでなく、図形を少しずつ成長させたときの変化が問題になります。「Topological Persistence and Simplification」という研究は、位相的な持続性と簡約を題目として扱っています(Edelsbrunner・Letscher・Zomorodian, 2002)。この観点につながるのが、次に見るパーシステントホモロジーです。ある段階で穴があるという情報に加え、どの段階からどの段階まで穴が残るのかを追います。
ここまでの流れで、代数の役割も変化しています。基本群では道の連結が演算となり、ホモロジーでは境界行列の核と像を計算しました。持続性を考える段階では、異なる段階のホモロジーを結ぶ写像も計算の対象になります。図形を数に置き換えて終わるのでなく、その数や空間が互いにどう対応するかまで保存することが、研究を先へ進める鍵になります。
点の集まりから、穴の寿命を読む
データとして与えられる点群には、最初から辺や面が付いているわけではありません。そこで距離のしきい値 r を決め、距離が r 以下の点どうしを辺で結ぶことを考えます。さらに、選んだ点のすべての組の距離が r 以下なら、それらを頂点とする単体を加えます。これがヴィートリス・リップス複体です。ここでは点の集合を頂点集合とする抽象的な単体複体として扱うため、もとのデータが平面にあっても3単体が現れることがあります。
r を増やすと、既にある単体は残ったまま新しい単体が加わります。この包含関係の列をフィルトレーションと呼びます。各段階のホモロジーを計算するだけでなく、包含写像でホモロジー類がどう送られるかを追うのが、パーシステントホモロジーの基本です。同じ次元が1と表示されていても、以前の類が生き残っているのか、以前の類は消えて別の類が生まれたのかは、次元だけでは区別できません。
具体例として、平面の4点 A=(0,0)、B=(1,0)、C=(1,1)、D=(0,1) を考えます。隣り合う頂点間の距離は1、対角の頂点間の距離は √2 です。したがって、0≦r<1 では辺がなく、β₀=4、β₁=0 です。1≦r<√2 になると正方形の4辺が入り、4点が1つにつながります。この段階では、どの3頂点を選んでも対角線が必要になるので三角形の面は入りません。よって β₀=1、β₁=1 です。
r≧√2 になると6本の辺がすべて入り、4枚の三角形の面と、それらを含む3単体も入ります。この複体は四面体の表面だけではなく、内部を含む四面体です。したがって β₀=1 で、正の次元のベッチ数はすべて0になります。正方形に対応する1次のホモロジー類は r=1 で生まれ、r=√2 で消えます。距離がしきい値以下なら単体を入れるという約束では、持続区間は [1,√2) です。
この計算には、注意すべき点が2つあります。まず、平面に対角線を描いたときの交点を、新しい頂点として自動的に加えてはいません。複体は、もとの4点と距離の条件から定めています。次に、r が大きいほどよいというわけではありません。大きくしすぎればすべてがつながって埋まり、区別したかった構造まで消えます。一つのしきい値だけを選ぶ難しさに対し、複数のしきい値を通して類を追うことに意味があります。
応用の一つが、金融データの構造を調べる研究です。シンガポールと台湾の株式市場を題材にした研究では、位相的データ解析の利用を論じ、位相変化を扱う3つのモデルで検出される特徴を説明したうえで、頂点と辺というネットワークの見方を超える扱いへ進んでいます(Yen・Cheong, 2021)。辺だけの関係に面や高次元の単体を加えることで、三角形が埋まっているか、輪として残るかという違いも対象になります。
実際のデータ解析に使うには、何を点とし、何を距離とするかを先に決めなければなりません。たとえば、複数の時点で測った値を並べて1つのベクトルにすれば、似た推移をもつ対象どうしの近さを定義できます。ただし、座標の単位や尺度を変えれば距離が変わり、持続区間も変わります。正方形の例でも、すべての座標を同じ正の倍率に拡大すれば、誕生と消滅のしきい値はその倍率で変化します。
そのため、長く残る穴を見つけたことと、現実の原因を特定したことは別の段階です。株式市場を対象とした研究から、そのまま個々の価格の予測精度や投資成果が保証されるわけではありません。この点を踏まえ、距離の選択を変えても特徴が残るか、観測の範囲を変えるとどうなるかを調べて初めて、計算した構造の解釈を進められます。
記号を読む順番を決めて、抽象化を支える
学び始めにつまずきやすいのは、図に描いた輪、向き付き辺の和、ホモロジー類を同じものとして扱ってしまうことです。図の輪は視覚的な対象ですが、鎖は係数を付けた形式的な和です。ホモロジー類は、その鎖をさらに境界の違いで同一視したものです。「同じ」と呼ぶ基準が段階ごとに変わるので、記号が増えるたびに、その記号が何の集合の要素かを書き添えると整理しやすくなります。
学習の手順は、次の順番で組み立てられます。
- 図形に含める部品を決めます。三角形の輪郭なのか内部を含むのかを書き、頂点・辺・面を列挙します。見た目が似ていても、ここが違えば後の計算は変わります。
- 頂点と辺の順番、辺の向きを固定します。境界行列を作ったら、各列の始点が -1、終点が1かを図へ戻って確認します。
- 核を連立方程式で求め、その解を辺の組合せとして読み直します。数字の列 (1,-1,1) が、どの向きに輪をたどるのかを説明します。
- 一つ上の次元の境界を求め、先ほどの核の中で何が0とみなされるのかを調べます。核の次元だけでベッチ数を答えず、像の次元を引くところまで進めます。
- 最後にオイラー標数で検算し、図の部品数とベッチ数の交代和が一致するかを確かめます。一致は有用な確認ですが、個々のベッチ数がすべて正しいことを単独で保証するものではありません。
もう一つのつまずきは、ホモトピーと同相の混同です。同相なら点どうしを連続な対応で行き来できます。ホモトピー同値は、連続写像 f:X→Y と g:Y→X があり、g∘f≃idₓ、f∘g≃idᵧ となることです。合成が恒等写像に等しい必要はなく、恒等写像へ変形できれば足ります。閉円板は1点とホモトピー同値ですが、1点と同相ではありません。情報をどの程度まで保つ関係なのかを区別すると、不変量の働きも見えてきます。
高校生のうちには、三角関数の媒介表示、ベクトルの一次結合、連立一次方程式、集合と写像の言葉を確実にすることが役立ちます。難しい用語を先取りして暗記するより、円周を1周する式を自分で書き、三角形の境界の境界が0になる計算を説明してみてください。数学Aの図形や数え上げ、数学Cのベクトルで考えた対象を、写像と演算の言葉へ置き直す練習になります。大学で線形代数を学ぶと、そこで扱う核・像・次元がこの計算に直接つながります。
塾で支えたいのは、計算の誤りと定義の読み違いを分けて見つける過程です。行列の符号だけを直しても、面を含むかどうかを取り違えていたら理解は進みません。図を描き、含まれる単体を確かめ、式に移し、最後に図へ戻る順番を一緒に点検します。進路面談の後の廊下で描いた2つの三角形についても、「なぜこちらだけ輪が消えるのか」を、鉛筆で塗った印象から境界の式へ言い直せるかが、一つの確認点になります。
家庭では、お子さまが新しい記号をすぐ説明できるかを急いで判定するより、「その図には内部も含めるのか」「何を同じと考えているのか」と、対象を確かめる問いを共有すると会話が続きます。答えの速さだけでは、定義を使って考える力は見えにくいものです。図を描き直す時間や、途中の式を残す余白を持てることが、自分で誤りを見つけるための足場になります。
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穴の数をめぐる3つの疑問
穴の数が同じなら、同じ図形ですか
一般にはそうではありません。ベッチ数は図形から取り出した一部の情報です。すべてのベッチ数が一致しても、空間が同相であるとは限りません。オイラー標数はさらに、それらを符号付きで足した1つの数です。異なる次元の寄与が相殺されるので、χ だけから各 βₙ を逆算することも一般にはできません。不変量が異なれば同じ種類ではないと判定できますが、一致したときにはさらに調べる必要があります。
基本群と1次ホモロジーは同じですか
役割が近くても、同じではありません。弧状連結な空間 X では、整数係数の1次ホモロジー群 H₁(X;Z) は基本群のアーベル化と同型です。アーベル化とは、すべての元の積の順序を交換してよいという関係を加えた商群を作ることです。したがって、基本群に含まれる道の順序に関する情報の一部が失われます。この記事の行列計算ではさらに有理数係数を使ったため、整数係数で現れる有限位数の情報もベッチ数には表れません。
図を描くのが苦手でも学べますか
図は考える助けになりますが、正確な計算は頂点と単体の一覧から進められます。正方形の点群の例でも、距離を比べて辺を決め、すべての組が辺で結ばれる頂点集合を選べば、複体が定まります。高次元の単体を無理に立体図として描く必要はありません。むしろ、絵に現れた交点を勝手に頂点とみなさないなど、図と定義を区別する姿勢が役立ちます。
代数的位相幾何を学ぶと、「形を調べる」という言葉の中に、異なる問いが入っていることに気づきます。道をどのように縮められるかを問うと基本群へ、閉じた鎖のうち何が境界になるかを問うとホモロジーへ、変化する図形の間で何が残るかを問うと持続性へ進みます。どの道具を使うかは、どの情報を残したいかで決まります。
最初の三角形に戻れば、必要だったのは特別な計算技巧ではなく、輪郭と内部を区別し、境界を二度取って0になる理由を確かめることでした。その小さな確認が、図形を代数で扱う仕組み全体につながっています。「穴がある」という直観は、何が閉じ、何が埋まり、何が残るかを式で言えたとき、数学の説明になります。
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あわせて読む(数学の地図・高校数学の単元解説)
参考文献
- Poincaré, H.(1899)「Complément à l’Analysis situs.」Rendiconti del Circolo Matematico di Palermo. https://doi.org/10.1007/bf03024461
- Edelsbrunner, Letscher, Zomorodian(2002)「Topological Persistence and Simplification」Discrete & Computational Geometry. https://doi.org/10.1007/s00454-002-2885-2
- Yen, P. T. W., Cheong, S. A.(2021)「Using topological data analysis (TDA) and persistent homology to analyze the stock markets in Singapore and Taiwan」Frontiers in Physics. https://doi.org/10.3389/fphy.2021.572216
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