「もし〜したら、〜する」——実施意図という最も簡単な仕掛け|武蔵野個別指導塾が薦める学習の仕方

連載「学びの意思決定——行動経済学・社会学・認知心理学から考える」全50回の第44回です。学習の仕方の目次を見る

目標を立てても行動に移せない。この断絶を埋めるために提案されたのが、実施意図という単純な仕掛けです。形は一つだけ。「状況xが生じたら、行動yを開始する」。それだけを、あらかじめ決めておきます。

前回、具体的で難しい目標が効くと書きました。しかし目標は「何を達成するか」を決めるだけで、「いつ、どこで、どうやって始めるか」は決めません。その部分を担うのが、この仕掛けです。

要点(結論から)

  • 実施意図とは、予期される状況と目標に向けた反応を、あらかじめ結びつけておく計画である。
  • 形は「状況xが生じたら、反応yを開始する」。この形であることが要点になる。
  • この形にすると、行動の制御の一部が自動的な処理に委ねられる。その場の判断が要らなくなる。

結論——「もし〜したら、〜する」の形で決めておく

  • 実施意図とは、予期される状況目標に向けた反応を、あらかじめ結びつけておく計画である。
  • 形は「状況xが生じたら、反応yを開始する」。この形であることが要点になる。
  • この形にすると、行動の制御の一部が自動的な処理に委ねられる。その場の判断が要らなくなる。
  • 目標を行動へ移す段階でのつまずき——始められない、気が散る、悪い習慣に戻る——に対応する。
  • 実務的には、始める合図を、時間ではなく出来事で決めるのが扱いやすい。

理由——なぜこの形が効くのか

制御を状況に委ねる

ゴルヴィツァーは、目標を行動へ移す段階の問題に対して、実施意図という方法を提示しました。

Gollwitzer PM. Implementation intentions: Strong effects of simple plans. American Psychologist. 1999;54(7):493-503.

目標を持っていても、始められない、気が散る、以前の習慣に戻るといった形でつまずきます。そこで、自動的な処理を戦略的に利用する。「状況xが生じたら、目標に向けた反応yを開始する」という形の計画が、予期された重要な状況と、目標に向けた反応を結びつけます。

この形の利点は、行動の制御を、意図から状況へ移すことにあります。その場で「やるかどうか」を判断する必要がなくなります。第1回で述べたとおり、判断の時点で人は目の前を重く見ます。判断そのものを消せるなら、そのほうが確実です。

効果と過程の検討

ゴルヴィツァーとシーランは、実施意図が目標達成に与える効果と、その過程についてメタ分析を行っています。

Gollwitzer PM, Sheeran P. Implementation Intentions and Goal Achievement: A Meta-analysis of Effects and Processes. Advances in Experimental Social Psychology. 2006:69-119.

この総合的な検討が扱っているのは、効果の大きさだけでなく、どういう経路で効くのかという問題です。実務的には、合図の具体性が鍵になると理解しておくと運用できます。曖昧な状況では、結びつきが働きません。

具体例——目標と実施意図を並べる

目標 実施意図
毎日ワークを3ページ進める 夕食の食器を下げたら、机のワークを開く
スマホを見すぎない 勉強を始めるとき、スマホを玄関の充電器に置く
分からない問題を放置しない 5分考えて手が止まったら、印をつけて次へ進む
復習を続ける 朝、かばんを持ったら、単語帳を1ページ見る

右列に共通しているのは、合図が出来事であることです。「夕食の後」「かばんを持ったら」。時刻ではなく、必ず起きる出来事を合図にすると、見逃しにくくなります。

今日からできること

  1. 目標を1つ選び、実施意図を1つ書く。 紙に「もし〜したら、〜する」の形で書きます。
  2. 合図は、毎日必ず起きる出来事にする。 帰宅、食事、入浴。時刻より確実です。
  3. 行動は、最初の一手だけにする。 「勉強する」ではなく「ワークを開く」。第1回で述べた粒度です。
  4. 紙を、合図が起きる場所に貼る。 冷蔵庫、玄関、机。第7回の環境設計と組み合わせます。
  5. 妨害への対策も同じ形で作る。 「通知が鳴ったら、画面を伏せる」。

学年で変えるところ

  • 小学生——既にある習慣の直後に置くのが最も確実です。「おやつを食べ終わったら音読」。
  • 中学生——部活の有無で生活が変わるため、平日と休日で別の実施意図を作ります。
  • 高校生——自習室や移動時間など、場所の変化を合図にできます。「電車に乗ったら単語帳」。

既にある習慣の後ろに置く

合図を選ぶとき、最も確実なのは既に定着している行動です。歯を磨く、靴を脱ぐ、かばんを置く、食器を下げる。これらは意識せずに実行されており、しかも毎日起きます。

新しい行動を、この既存の行動の直後に置く。この配置には2つの利点があります。第一に、合図を覚えておく必要がないこと。第二に、その時点の状況が毎回ほぼ同じであること。第24回で述べた文脈の一致が、実行の側でも働きます。

逆に避けたいのは、日によって起きたり起きなかったりする出来事を合図にすることです。「部活が早く終わったら」「時間が空いたら」。合図が来ない日があると、連鎖が途切れます。

実務的な選び方としては、昨日も今日も明日も必ず起きることを条件にします。生活の中でこの条件を満たす出来事は、案外少なく、数えれば5つか6つです。その中から、勉強に近い時間帯のものを選びます。

場所も合図になる

合図は、出来事だけでなく場所でも作れます。「図書館の席に座ったら、まず単語帳を開く」「自習室に入ったら、前回の間違い直しから始める」。

場所を合図にする利点は、他の刺激が少ないことです。家の中は、合図と競合するものが多くあります。第7回で述べたとおり、視界に入るものが行動を決めます。

さらに、場所の合図は第17回で述べた可視性とも組み合わせられます。同じ場所に同じ時間に行けば、そこにいる人も同じになります。行動の合図と、周囲の規範が同時に働きます。

実務的には、家庭と外の両方に実施意図を用意しておくと、どちらの日でも実行できます。家用と外用で行動を変えても構いません。合図と行動の組が決まっていることが要点です。

始めるための計画と、やめるための計画

実施意図は、行動を始める場面だけでなく、妨害に対処する場面でも使えます。

始めるための形は「もしAが起きたら、Bを始める」。やめる、あるいは切り替えるための形は「もしCが起きたら、Dをする」。後者の例としては、「動画を見たくなったら、まず水を飲みに立つ」「友人から連絡が来たら、区切りまで進めてから返す」といったものがあります。

妨害への対策を事前に作っておく利点は、妨害が起きた瞬間に判断しなくて済むことです。誘惑に直面してから対処を考えると、その時点では目の前の魅力が大きく見えています。第1回で述べた現在バイアスが働く場面です。

したがって、実施意図は2つ作るのが実務的です。始める合図と、妨害への対処。どちらも紙に書いて、起きる場所に置きます。

なぜ「if-then」の形でなければならないのか

「毎日勉強する」という決意と、「夕食の後にワークを開く」という計画の違いはどこにあるのでしょうか。

前者には、実行の合図がありません。いつ始めるかは、その都度の判断に委ねられます。判断は、疲れているとき、気分が乗らないときに行われるため、実行されない確率が高くなります。

後者には、合図があります。夕食は必ず起き、しかも毎日同じ時間帯に起きます。合図と行動が結びついていれば、判断の回数が減ります。

この違いは、第2回で扱ったコミットメント装置の議論とも重なります。冷静なときに決めておき、疲れた自分の選択肢を減らす。実施意図は、その中でも最も簡単で、費用のかからない形です。紙1枚と1分で作れます。

いくつまで作ってよいか

効くと分かると、生活のあらゆる場面に実施意図を作りたくなります。しかし、数を増やすと管理の負担が生じ、どれも実行されなくなります。

実務的な上限は、同時に3つまでです。始めるための合図が1つ、妨害への対処が1つ、就寝前の確認が1つ。この程度であれば、覚えていられます。

3つが定着してから、新しいものを1つ足す。第45回で扱うとおり、行動が自動化するには時間がかかります。定着する前に次を足すと、どれも中途半端になります。

そして、定着したものは実施意図として意識する必要がなくなります。既に習慣になっているからです。意識から外れた分だけ、新しいものを足せる。この入れ替えの運用が、長期的には最も効率的になります。

生活が変わったら作り直す

実施意図は、生活の構造に依存しています。合図となる出来事が変われば、計画も働かなくなります。

作り直しが必要になる場面は、ある程度予測できます。学年が変わる、部活が始まる・終わる、長期休みに入る、通学経路が変わる。いずれも、日々の出来事の並びが変わる時期です。

この時期に「急に勉強しなくなった」という現象が起きることがあります。意欲が落ちたのではなく、合図が消えただけという場合があります。原因を意欲に求める前に、生活の構造が変わっていないかを確認する価値があります。

実務的には、学期の変わり目と長期休みの前に、実施意図を書き直す時間を取ります。5分で終わります。新しい生活の中で、毎日必ず起きる出来事を選び直すだけです。第7回で述べたデフォルトの点検と同じで、定期的な見直しが要る種類の仕組みです。

よくある失敗——合図が曖昧

実施意図が機能しない場合、多くは合図の問題です。「時間があるときに」「気が向いたら」「学校から帰ってしばらくしたら」。いずれも、いつ発動するのかが決まりません。

点検の基準は単純です。その合図が起きた瞬間が、外から見て分かるか。 分かるなら具体的、分からないなら曖昧です。「帰宅してかばんを置いたら」は分かります。「落ち着いたら」は分かりません。

もう一つの失敗は、行動の側が大きすぎることです。「ワークを3ページやる」を実施意図に入れると、合図が来たときの心理的な負担が大きくなります。第1回で述べたとおり、最初の一手だけにしておくと、実行の確率が上がります。

保護者ができること——一緒に1行書く

家庭でできることは、この1行を一緒に作ることです。所要時間は数分です。

  1. 毎日必ず起きる出来事を挙げてもらう。 帰宅、食事、入浴。本人の生活から選びます。
  2. そのどれかと、最初の一手を結びつける。 「〜したら、〜を開く」。
  3. 紙に書いて、合図の場所に貼る。 貼る場所まで決めて終わります。紙は小さくて構いません。付箋1枚で足ります。

注意点として、守れたかどうかを毎日確認しないほうがうまくいきます。確認が監視になると、第2回で述べたとおり、関係の摩擦が先に生じます。週に一度、記録を一緒に見る程度で足ります。

なお、実施意図は目標の代わりにはなりません。何を達成したいのかが決まっていない状態で合図だけ作っても、行動は続きません。前回の目標設定と、この回の実施意図は、順に使うものです。何を(目標)、いつどう始めるか(実施意図)。2つが揃って初めて、計画は行動になります。

実施意図を別の場面に当てはめてみる——起床と提出物

この記事で扱った仕掛けは、試験勉強だけでなく、朝の支度や部活の自主練にも当てはめて考えることができます。たとえば、朝、なかなか起きられないとします。「早起きする」という目標ではなく、「目覚ましを止めたら、カーテンを開ける」と決めておく形です。状況と行動を一組にしておくと、起きてからの判断が減ることがあります。

また、英語のリスニング練習を続けたい場合、「夕食の皿を洗い終えたら、机に向かって音声を流す」という形が考えられます。皿洗いという既にある行動の後ろに置くことで、新しく覚える合図を増やさずに済みます。場所と時間帯が固定されているほど、合図として働きやすくなります。

さらに、やめたい行動にも同じ形が使えます。「スマートフォンを手に取ったら、まず通知を切る」といった具合です。ただし、やめるための計画は、始めるための計画より合図が多く、うまくいかないこともあります。一つの形で全てを解決しようとしないほうが安全だと考えられます。

状況の合図が曖昧になる——きっかけが機能しない

この記事の内容を実際に使おうとすると、いくつかのつまずきが生じます。まず、合図が曖昧なまま決めてしまう点です。「時間があったら」「やる気が出たら」では、いつ始めるのかが定まりません。合図は、時計の時刻や、目の前にある物など、はっきり分かるものにする必要があります。

次に、計画を作りすぎる点です。一つの教科について多くの実施意図を並べると、どれを実行すればよいか分からなくなります。まずは一つか二つに絞り、しばらく続けてから足すほうが、定着しやすいことがあります。

また、生活の変化に合わせて作り直さない点もつまずきになります。部活の時間が変わった、塾の曜日が変わった、といった変化があると、以前の合図が働かなくなります。うまくいかないときは、自分の意志ではなく、合図と行動の組み合わせを見直すことが有効だと考えられます。

この記事で言えないこと

実施意図の研究は、健康行動や運動の領域で多く行われてきました。学習行動に同じ大きさの効果が出るかは、条件によります。また、効果の大きさは、目標への関与の強さにも左右されます。そもそも本人がやりたいと思っていない目標には、効きにくいことが指摘されています。

さらに、合図と行動の結びつきは、生活が変わると壊れます。学期の変わり目、部活の引退、長期休み。生活の構造が変わったら、実施意図も作り直す必要があります。

当塾の立場

「もし〜したら、〜する」を1行書く。紙と鉛筆だけで、1分でできます。塾は必要ありません。

武蔵野個別指導塾では、授業の最後に次回までの実施意図を1行だけ決めることを手順にしています。「何ページやる」だけでなく、「いつ、何をきっかけに始めるか」まで決める。第1回で述べたとおり、決める時点を疲れていないときに置くことが要点です。授業の終わりは、その条件を満たす数少ない時点です。

出典

  1. Gollwitzer PM. Implementation intentions: Strong effects of simple plans. American Psychologist. 1999;54(7):493-503.
  2. Gollwitzer PM, Sheeran P. Implementation Intentions and Goal Achievement: A Meta-analysis of Effects and Processes. Advances in Experimental Social Psychology. 2006:69-119.

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