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作文の書き出し—会話、音、問いから始める|武蔵野個別指導塾

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「ぼくは」で止まった下書きを、会話、音、問いの三つの入口から動かす手順です。1行目と2行目の型、原稿用紙1枚を2行、7行、7行、4行に分ける配分、書き出しの直し方まで自作の例で示します。

書き出しで止まったら、「ぼくは」「わたしは」を消して、次の三つのどれかを 1 行目に置きます。

  1. 会話から始める。その日にだれかが言った一言を、かぎかっこに入れて書く。
  2. 音から始める。その場面で聞こえた音を、聞こえたままの字で書く。
  3. 問いから始める。そのとき頭に浮かんだ疑問を、そのまま書く。

2 行目で「いつ、どこで、だれが」を足せば、読む人は場面に入れます。書き出しは 2 行で終え、3 行目から出来事を順に書きます。

よくあるのは、「ぼくは」と書いたまま、その先が 20 分止まっている下書きという場面です。消しゴムで「ぼくは」を消し、また「ぼくは」と書く。原稿用紙の 1 行目だけが黒くにじみ、2 行目から下は白いままです。運動会のことを書くと決めているのに、何から書けばよいかが決まりません。本人は「書くことがない」と言いますが、話を聞くと、リレーで靴がぬげかけたことも、ゴールのあとで友だちに言われた一言も、はっきり覚えています。足りないのは出来事ではなく、最初の一文の形です。

書く前にすること

書き出しが決まらないのは、頭の中の出来事がまだ言葉になっていないからです。原稿用紙とにらみ合う前に、裏紙を 1 枚用意して、出来事を三つの入口に分けて書き散らします。かかる時間は 5 分です。この 5 分を省くと、1 行目で 20 分止まります。

メモは図1のように、紙を縦に三つに区切って作ります。左の欄は「言われたこと、言ったこと」です。その日、だれかが自分に言った言葉と、自分が口に出した言葉を、短いまま書きます。「もう一回走れる」「大丈夫」「早く」のような、三つか四つの字でよいのです。長い言葉を覚えていなくても、聞いた瞬間に体が動いた一言なら、たいてい短く残っています。

真ん中の欄は「聞こえた音、見えたもの」です。ピストルの音、スピーカーのざわめき、靴の底が砂をける音、風で旗がばたつく音。見えたものも同じ欄に入れます。白い線、ゴールのテープ、先生の帽子。ここは名詞だけを並べればよく、文にしなくてかまいません。

右の欄は「そのとき思った疑問」です。「なんで足が重いんだろう」「どうして負けたのに笑えたんだろう」「来年も選手になれるかな」のように、答えの出ていない問いをそのまま書きます。疑問は作文の中で一番強い材料です。問いがあると、作文の終わりに向かって答えを探すという流れが自然にできます。

図1 書く前のメモ、会話と音と問いの三つの欄

三つの欄がうまったら、その中から 1 行目にする物を一つだけ選びます。選ぶ基準は「その言葉を見ると、場面が頭に浮かぶか」です。「がんばった」は浮かびません。「もう一回走れる」は、だれかが自分の顔をのぞきこんでいる場面まで浮かびます。浮かぶ方を選びます。

選べないときは、三つの欄から一つずつ候補を出して、声に出して読み比べます。会話で始めると、その人との関係が作文の中心になります。音で始めると、その場の空気が中心になります。問いで始めると、自分の心の動きが中心になります。何を一番書きたいかで、入口が決まります。

メモの欄が一つも埋まらない日もあります。そのときは出来事の中の一番短い時間を思い出します。走り出す直前の 3 秒、ゴールした直後の 3 秒。短い時間ほど、音と言葉がはっきり残っています。「一日のことを書く」と考えると何も出てきませんが、「3 秒のことを書く」と考えると、たいてい何か出てきます。

書き方の手順

書き出しが決まったら、原稿用紙の上での配分を先に決めます。図2のように、400 字詰めの原稿用紙 1 枚(20 行)なら、書き出し 2 行、場面 7 行、気持ちと理由 7 行、結び 4 行です。この配分を鉛筆で薄く原稿用紙のはしに書いておくと、途中で「あと何行書けばよいか」で迷わなくなります。

図2 原稿用紙1枚の配分、書き出し2行から結び4行まで

1 行目と 2 行目、書き出し

1 行目は、メモから選んだ会話、音、問いのどれかを置きます。会話なら、かぎかっこの中だけで 1 行を使ってよいのです。「もう一回、走れる。」と書いて、行を変えます。音なら「パン。」のような短い音でも、「ざわざわ、ざわざわ。」のような続く音でもかまいません。問いなら「どうしてあのとき、足が止まったんだろう。」と、問いのまま書きます。

2 行目で、「いつ、どこで、だれが」を補います。「運動会のリレーで、わたしがバトンを落としたあと、となりにいた田中さんが言った言葉です。」のように、1 行目の言葉や音がどこから来たかを説明します。1 行目で読む人を引きこみ、2 行目で場所に連れていく。この 2 行が書き出しの型です。

3 行目から 9 行目、場面

書き出しのあとは、出来事を起きた順に書きます。ここで大事なのは、一つの場面に絞ることです。朝の開会式から閉会式まで全部を書こうとすると、どれも 1 行ずつで終わり、作文が「〜しました。〜しました。」の並びになります。リレーの 1 周だけ、バトンを受け取ってから渡すまでだけ、と決めて、その中の動きを細かく書きます。

細かく書くとは、体の動きと目に見えた物を書くことです。「一生けんめい走りました」は、読む人には何も見えません。「バトンをにぎった右手が、汗でぬるぬるしていました」なら見えます。「ゴールが近づくと、白い線が思ったより太く見えました」なら、走っている本人の目になれます。7 行のうち、少なくとも 3 行は、こうした目と手と耳の記録に使います。

10 行目から 16 行目、気持ちと理由

場面を書き終えたら、そのとき自分がどう思ったかを書きます。ここでも「うれしかったです」「くやしかったです」の一言で終わらせません。気持ちには必ず理由があります。「くやしかったのは、負けたからではなく、自分の番だけ順位が下がったからです」のように、なぜそう思ったのかまで書くと、同じ「くやしい」でも、その人にしか書けない文になります。

気持ちが変わった瞬間があれば、そこを書きます。走る前の気持ちと、走ったあとの気持ちが同じなら、作文に書く意味がうすくなります。「走る前は選手に選ばれたことがうれしかった。走ったあとは、選ばれたことが重く感じた」のように、前と後の差を 2 文で示します。この差が、作文の中身です。

17 行目から 20 行目、結び

結びは、書き出しに戻ります。会話で始めたなら、その言葉に対して今どう思うかを書きます。音で始めたなら、その音を今も覚えているかを書きます。問いで始めたなら、問いへの答えを書きます。答えが出ていなければ、「まだわからない」と書いてもよいのです。書き出しと結びがつながると、作文は一つの輪になり、読む人は「終わった」と感じます。

「これからもがんばりたいです」で終える結びは、どの作文にもつく言葉なので、その作文のための結びになりません。代わりに、出来事のあとに実際にしたこと、次の日に変わったことを 1 文で書きます。「次の日、朝の練習でバトンの受けわたしを 10 回やりました」のような、小さくて本当のことで十分です。

2 枚のときの配分

800 字(2 枚、40 行)なら、書き出し 2 行はそのままで、場面 16 行、気持ちと理由 16 行、結び 6 行にします。書き出しを長くしないのがこつです。長い作文ほど、書き出しは短く、場面と気持ちを厚くします。行の数をふやすときは、新しい場面を足すのではなく、同じ場面の中の動きと見えた物をふやします。

例文で見る

例文は型を見るためのものです。そのまま写さず、自分の出来事に置きかえて使います。どちらも原稿用紙 1 枚の、はじめの 6 行ほどにあたる長さです。

会話から始める例

「もう一回、走らせて。」

運動会のリレーで、わたしがバトンを落としたあと、先生に言った言葉です。落としたバトンは白い線の外に転がって、拾うまでに三人にぬかれました。ゴールしたとき、足より先に、のどがかわいていました。

この例の良いところは三つあります。一つ目は、1 行目が会話だけで終わり、読む人が「だれが、なぜ」を知りたくなるところです。二つ目は、2 行目で「いつ、どこで、だれが、だれに」をすべて補っているところです。三つ目は、3 行目からすぐに場面に入り、「三人にぬかれました」「のどがかわいていました」のように、数と体の感じで書いているところです。「くやしかったです」とは一度も書いていないのに、くやしさが伝わります。

音から始める例

カン、カン、カン。

給食の時間が終わる合図のチャイムではなく、校庭のすみの工事の音でした。四年生の九月、わたしたちの教室は校庭に面していて、理科の授業のあいだじゅう、その音が窓から入ってきました。先生は「気にしないで」と言いましたが、わたしは音の数を数えていました。

この例の良いところは、1 行目の音が何の音かを 2 行目で説明し、しかも読む人の予想(チャイム)を一度はずしているところです。予想がはずれると、読む人は先を読みます。「音の数を数えていました」という最後の文は、その子だけの行動です。ここから「なぜ数えていたのか」という問いが生まれ、気持ちと理由の段落へ自然につながります。

問いから始めるときの形

問いから始めるときは、「どうして〜のだろう。」の 1 文を 1 行目に置き、2 行目でその問いが浮かんだ場面を書きます。「どうして、負けたのに笑っていたんだろう。閉会式で順位が読み上げられたとき、わたしの組は最下位でした。」のような形です。問いで始めた作文は、結びで必ずその問いに戻ります。戻らないと、読む人は問いを宙に浮かせたまま読み終えることになります。

まちがえやすいところ

「ぼくは」が毎行の頭にある

誤り: ぼくはリレーを走りました。ぼくは転びました。ぼくはくやしかったです。

どこが違うか: 主語が同じなのに、毎回「ぼくは」から書き始めています。日本語は主語がわかっているとき、二度目からは省けます。「ぼくは」が続くと、文が同じ長さ、同じ調子になり、読む人は 3 行目で飽きます。

直した文: 「もう一回。」転んだあと、ぼくは先生にそう言いました。くやしかったからです。

図3のように、会話を頭に出して、場面、気持ちの順に並べ直すと、主語は 1 回で済みます。「ぼくは」で始めること自体が悪いのではなく、「ぼくは」しか書き出しの形を知らないことが問題です。

図3 「ぼくは」の繰り返しを、会話と場面と気持ちに直す

1 行目に全部を詰めこむ

誤り: ぼくは十月十二日に学校の運動会で赤組の代表としてリレーの第三走者を走りました。

どこが違うか: 日付、場所、組、役目、順番を一文に入れています。読む人は情報を受け取るだけで、場面が浮かびません。書き出しの役目は説明ではなく、読む人をその場に立たせることです。

直した文: パン。ピストルの音で、ぼくの前の走者が飛び出しました。十月の運動会、赤組のリレーで、ぼくは第三走者でした。

音を 1 行目に出し、2 行目で場面を、3 行目で役目を書くと、同じ情報でも読む順番が整います。日付は、作文の中で意味があるときだけ書きます。

会話で始めたのに、だれの言葉かを書かない

誤り: 「がんばれ。」ぼくは走りました。足が重かったです。

どこが違うか: 「がんばれ」とだれが言ったのかが最後までわかりません。会話で始める書き出しは、2 行目で「だれが、だれに」を補う約束です。補わないと、1 行目の会話が宙に浮きます。

直した文: 「がんばれ。」バトンを渡してくれた山田さんの声が、背中から聞こえました。足が重かったのは、その声に追いつきたかったからです。

だれの声かを書くと、その人との関係が作文に入ります。「足が重かった」の理由もそこから出てきます。会話で始めたら、その人を作文の最後にもう一度出すと、輪が閉じます。

よくある質問

「ぼくは」で始めてはいけないのですか

いけなくはありません。「ぼくは、走る前にバトンを三回にぎり直しました。」のように、「ぼくは」の直後に具体的な動きが来るなら、よい書き出しです。問題なのは、「ぼくは」の先が「運動会がありました」「楽しかったです」のような、だれにでも書ける言葉になることです。「ぼくは」の次に、自分にしか書けない動きが続くかどうかで判断します。

会話は本当に言われた言葉でないといけませんか

一字一句同じでなくてかまいません。作文は記録ではないので、意味が変わらない範囲で短くしてよいのです。「もうちょっとだけがんばって走ってみようよ」と言われたのなら、「もう一回。」と短くしても、うそにはなりません。ただし、言われていない言葉を作って入れるのはやめます。作った会話は、読む人がたいてい気づきます。

題名は先に決めますか、後に決めますか

後です。書き出しを決め、本文を書き、結びまで書いてから、作文の中で一番強かった言葉を題名にします。会話で始めたなら、その会話の一部を題名にできます。「もう一回」という題名は、「運動会の思い出」という題名より、読む人の目を止めます。先に題名を決めると、題名に合わせて中身を広げてしまい、場面が一つに絞れなくなります。

親の手伝い方と個別指導で確かめること

家で手伝うなら、書く前のメモの段階だけに手を出します。「そのとき、だれか何か言った」「何か音がした」「何が不思議だった」の三つの質問をして、お子さまの答えを裏紙に書き取ります。文にするのはお子さまの仕事なので、親は言葉を直しません。「それ、1 行目にしたら」と言えば、十分です。

個別指導では、書き出しの 2 行を本人に声に出して読んでもらい、場面が浮かぶかを講師が確かめます。浮かばなければ、メモに戻って別の候補を選び直します。書いた作文を直すのではなく、書き出しを選ぶ場面で一緒に考えるのが、作文が苦手なお子さまに一番効く手伝いです。

まとめ

「ぼくは」で止まった下書きは、裏紙のメモに戻ると動き出します。会話、音、問いのどれかを 1 行目に置き、2 行目で場面を補い、3 行目から出来事を書く。配分は 2 行、7 行、7 行、4 行です。最初の一文が決まれば、残りの 19 行はもう半分書けています。

読んで終わりにするか、ここから変えるか。

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