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【化学】芳香族化合物を図解で総まとめ—ベンゼンの反応・フェノール・アニリン・サリチル酸・分離|武蔵野個別指導塾

ベンゼンの置換反応からフェノール・アニリンの性質まで、官能基を手がかりに整理します。分離の流れとサリチル酸の反応を図で追い、生成量の計算にも取り組めます。
よくあるのは、夕食を待つ台所で化学のノートを開き、六角形についた OH と NH₂ を見比べながら、「どちらもベンゼンの仲間なのに、なぜ一方は酸で、もう一方は塩基なのか」と手が止まる場面です。名前を順に覚えても、試薬が変わるたびに反応が別物に見えると、混合物の分離までつながりません。
芳香族化合物を読む手がかりは、共通するベンゼン環と、その環についている原子や原子団を分けて見ることです。環が保たれる反応なのか、環についた部分が変わる反応なのかを先に決めると、生成物を予想しやすくなります。さらに、酸・塩基の反応で電荷をもつ粒子になることを押さえると、水層へ移る理由も説明できます。
ここでは構造式の読み方から始め、代表的な製法と性質、生成量の計算、分離の順序までをつなぎます。台所の品物で実験するのではなく、紙の上で構造式と反応式をたどる学習です。
この単元で身につけること
- ベンゼン環の表し方を読めるようにします。六角形の頂点にある炭素と、省略されている水素を補い、分子式と構造式を対応させます。
- 置換反応と付加反応を区別します。何が入れ替わるのか、環の炭素どうしの結合がどう変わるのかを、反応式の前後で確認します。
- フェノールとアニリンを官能基で説明します。弱い酸と弱い塩基の違いを、塩をつくる相手の違いとして整理します。
- サリチル酸の2つの官能基を見分けます。どちらが反応したかを示し、サリチル酸メチルとアセチルサリチル酸を区別します。
- 芳香族化合物の分離を筋道立てて考えます。各段階で水層に移る成分と有機層に残る成分を書き分け、元の物質に戻す反応まで追います。
前の単元で学んだ炭化水素の置換・付加、カルボン酸の酸性、エステル化が土台になります。これらにベンゼン環という共通部分を組み合わせると、個々の物質を孤立した暗記事項にせず扱えます。
基本の考え方
ベンゼン環は単なる二重結合3個の輪ではありません
芳香族化合物は、高校化学ではベンゼン環をもつ化合物を中心に扱います。「芳香」という名前だけから、よいにおいがする物質の集まりと判断してはいけません。分類の基準は分子の構造です。炭素と水素だけからなるベンゼンやトルエンは芳香族炭化水素ですが、酸素や窒素を含むフェノールやアニリンは芳香族化合物であって、炭化水素ではありません。
ベンゼンの分子式は C₆H₆ です。6個の炭素原子は同じ平面内で正六角形の骨格をつくり、それぞれに水素原子が1個ずつ結合しています。六角形に二重結合を交互に3本入れた構造式を使いますが、実際の炭素間結合が長いものと短いものに固定されているわけではありません。電子が環全体に広がっており、6本の炭素間結合は同じ長さです。この特徴を表すため、六角形の中に円を描く表し方も使います。
ベンゼンの水素原子1個を取り去った原子団 C₆H₅- をフェニル基といいます。C₆H₅-CH₃ はトルエン、C₆H₅-OH はフェノール、C₆H₅-NH₂ はアニリン、C₆H₅-COOH は安息香酸です。ハイフンは結合を表し、陰イオンの負電荷を表す上付きの ⁻ とは意味が異なります。
ベンゼンの水素2個を置換すると、置換した位置の関係に違いが生じます。図1のように、1個目の置換基がつく炭素を1番として、隣なら1,2位でオルト、1個隔てるなら1,3位でメタ、向かい合うなら1,4位でパラです。それぞれ o-、m-、p- と略します。置換基とは、もとの水素などに代わって結合した原子や原子団のことです。

図1では X と Y を置換基の記号として使っています。六角形を回転したり裏返したりして一致する図は同じ構造です。1,6位は1,2位と、1,5位は1,3位と同じ位置関係なので、別に数えません。たとえばメチル基 CH₃ が2個ついたキシレンには、位置の違いによる3種類の構造異性体があります。
ベンゼンでは、環の安定な構造を保つ置換反応が代表的です。ニトロ化は水素をニトロ基 -NO₂ に置き換える反応で、濃硝酸と濃硫酸を用いる反応として学びます。硫酸は反応を進める役割を担い、次の総括反応式では省略しています。
C₆H₆ + HNO₃ → C₆H₅-NO₂ + H₂O
また、鉄などを触媒とする塩素との反応では、クロロベンゼンができます。
C₆H₆ + Cl₂ → C₆H₅-Cl + HCl
スルホン化はスルホ基 -SO₃H を導入する反応です。濃硫酸との反応を正方向に書けば、C₆H₆ + H₂SO₄ → C₆H₅-SO₃H + H₂O となります。ベンゼンスルホン酸ができる反応ですが、条件によって逆向きの反応も起こります。
ベンゼンはアルケンのように、通常の条件で臭素水を速やかに脱色する物質ではありません。ただし、「付加反応は絶対に起こらない」とするのも誤りです。触媒を用いた水素との反応では、C₆H₆ + 3H₂ → C₆H₁₂ によってシクロヘキサンができます。条件が示されたら、それが置換を起こす条件か、環の結合を変える条件かを確認します。
トルエンでは環に直接ついた CH₃ を側鎖と呼びます。環の置換と側鎖の反応は区別が必要です。たとえばトルエンの側鎖は、過マンガン酸カリウムなどによる酸化を経て、安息香酸の COOH に変わります。側鎖の炭素数が変わらないこの例では、C₆H₅-CH₃ → C₆H₅-COOH と骨格の変化を示せます。これは変化を示す略図であり、酸化剤まで含めた係数つきの反応式ではありません。
フェノールの酸性とアニリンの塩基性を対にします
フェノールは、ベンゼン環に OH が直接結合した化合物です。この OH をフェノール性ヒドロキシ基と呼びます。C₆H₅-CH₂-OH のように間に炭素が入る場合はアルコールで、フェノールではありません。官能基は物質の特徴的な性質を決める原子団ですが、どこに結合するかも性質に関わります。
フェノールは弱い酸で、水酸化ナトリウムと反応してナトリウムフェノキシドをつくります。ナトリウムフェノキシドは C₆H₅O⁻ と Na⁺ からなる塩です。
C₆H₅OH + NaOH → C₆H₅ONa + H₂O
一方、フェノールは炭酸より弱い酸なので、炭酸水素ナトリウム水溶液を加えても、安息香酸のような二酸化炭素の発生は起こりません。ナトリウムフェノキシドの水溶液に二酸化炭素を十分に作用させると、炭酸のはたらきによってフェノールが遊離します。
C₆H₅ONa + CO₂ + H₂O → C₆H₅OH + NaHCO₃
「遊離」とは、ここでは塩になっていた成分が、電荷をもたない元の分子として生じることです。生成した物質が必ず全部沈殿するという意味ではなく、見える状態は濃度や溶解度にも左右されます。
フェノールの確認では、塩化鉄(Ⅲ)水溶液による呈色反応を学びます。フェノールは紫色を示し、臭素水とは反応して2,4,6-トリブロモフェノールの白色沈殿を生じます。ベンゼン環に OH があるため、ベンゼン単独とは反応のしやすさが異なります。
C₆H₅OH + 3Br₂ → C₆H₂Br₃OH + 3HBr
工業的なフェノールの製法として重要なのがクメン法です。ベンゼンとプロペンからクメン C₆H₅-CH(CH₃)₂ をつくり、酸素による酸化でクメンヒドロペルオキシドにし、その酸による分解でフェノールとアセトンを得ます。全体の物質収支は C₆H₆ + C₃H₆ + O₂ → C₆H₅OH + CH₃COCH₃ です。1 mol のクメンからフェノールとアセトンがそれぞれ1 mol できる点も、計算問題で使います。
アニリンはベンゼン環にアミノ基 -NH₂ が直接結合した化合物で、弱い塩基です。塩酸と反応するとアニリンの窒素が H⁺ を受け取り、アニリン塩酸塩になります。
C₆H₅NH₂ + HCl → C₆H₅NH₃Cl
塩の中の陽イオンは C₆H₅NH₃⁺、陰イオンは Cl⁻ です。この塩は水に溶けやすく、水酸化ナトリウムと反応させるとアニリンが遊離します。
C₆H₅NH₃Cl + NaOH → C₆H₅NH₂ + NaCl + H₂O
アニリンはニトロベンゼンの還元によって得られます。すずと塩酸などを用いた還元では、酸性の溶液中でアニリンは塩として存在し、塩基を作用させて遊離させます。NO₂ が NH₂ に変わることと、酸性の溶液中では塩になることを、別々に押さえてください。水素による還元の物質収支で表せば、C₆H₅NO₂ + 3H₂ → C₆H₅NH₂ + 2H₂O です。
アゾ染料とサリチル酸は「反応する部分」で読みます
アニリンからアゾ染料へ進む道筋では、ジアゾ化とカップリングという2つの名前が出てきます。ジアゾ化は、アニリンに亜硝酸ナトリウムと塩酸を低温、通常0〜5 ℃で作用させ、塩化ベンゼンジアゾニウムをつくる反応です。ここでの温度は教科書で扱う反応条件であり、家庭で実施するための指示ではありません。
C₆H₅NH₂ + NaNO₂ + 2HCl → C₆H₅N₂Cl + NaCl + 2H₂O
塩化ベンゼンジアゾニウムの陽イオンは C₆H₅-N₂⁺ です。これをフェノールのアルカリ性溶液と反応させると、主に OH のパラ位で結合ができ、酸性に戻した形では p-ヒドロキシアゾベンゼン C₆H₅-N=N-C₆H₄-OH として表せます。このように芳香族の環どうしを結びつける反応がカップリングです。間にある -N=N- をアゾ基といい、アゾ基を含む染料をアゾ染料と呼びます。色は分子全体の構造によって変わるため、アゾ基があれば必ず同じ色というわけではありません。
サリチル酸は、ベンゼン環の隣り合う位置に OH と COOH をもつ化合物です。縮めた構造式は o-HO-C₆H₄-COOH、分子式は C₇H₆O₃ です。フェノール性ヒドロキシ基とカルボキシ基を1個ずつもつため、両方の特徴が現れます。塩化鉄(Ⅲ)水溶液で呈色し、炭酸水素ナトリウムとはカルボキシ基が反応して二酸化炭素を生じます。
サリチル酸は、ナトリウムフェノキシドと二酸化炭素を高温・高圧で反応させてサリチル酸ナトリウムにし、酸を加える方法でつくります。この生成過程では、フェノールの環に COOH になる部分が導入されます。フェノールの遊離に二酸化炭素を使う反応とは条件が違うので、出発物質と試薬名だけで同じ反応だと判断しないことが必要です。
サリチル酸の COOH をメタノールとエステル化すると、サリチル酸メチル o-HO-C₆H₄-COOCH₃ になります。これに対し、フェノール性 OH を無水酢酸でアセチル化すると、アセチルサリチル酸 o-CH₃COO-C₆H₄-COOH になります。アセチル化は、ここでは OH の水素がアセチル基 CH₃CO- に置き換わる変化です。サリチル酸メチルは外用薬の成分、アセチルサリチル酸は解熱鎮痛薬の成分として学びますが、学習の中心は用途の暗記より官能基の変化です。
例題で解き方を確かめる
以下の計算では、教科書で用いる近似値として原子量を H=1.0、C=12、N=14、O=16 とします。反応が完全に進むと示された場合は、損失や副反応を考えず、反応式の係数から物質量を求めます。質量の比を直接つくる前に、必ず mol に直すのが基本です。
例題1 同じ置換基2個の位置異性体を数える
ベンゼンの水素原子2個を、それぞれ塩素原子に置き換えたジクロロベンゼンについて、構造異性体の数と、それぞれの位置を答えます。図を描く向きの違いは区別しません。
- 塩素原子1個を1番の炭素につけて固定します。環を回転すれば最初の塩素の位置をそろえられるので、この固定によって種類を取り落とすことはありません。
- もう1個の塩素を2〜6番につけた場合を比べます。1番と4番を通る線に対して左右を反転すると2番と6番、3番と5番が対応するため、それぞれ同じ構造です。
- 残る代表を2番、3番、4番として並べます。図1の位置関係と照合すれば、オルト、メタ、パラの3種類に対応します。
分子式はどれも C₆H₄Cl₂ ですが、分子式だけでは位置を区別できません。名称を書くときは、1,2-ジクロロベンゼンのように番号を添えるか、o-ジクロロベンゼンのように略号を添えます。
答え:3種類で、1,2位のオルト、1,3位のメタ、1,4位のパラです。
例題2 ニトロ化の収率から生成物の質量を求める
ベンゼン7.8 g をニトロ化します。硝酸は十分にあり、ベンゼンからニトロベンゼンへの反応だけを考えます。収率が80 %のとき、得られるニトロベンゼンの質量を有効数字2桁で求めます。原子量は H=1.0、C=12、N=14、O=16 です。収率とは、理論上得られる量に対する実際に得られた量の割合です。
- ベンゼンのモル質量を求めます。12 × 6 + 1.0 × 6 = 78 g/mol なので、7.8 g ÷ 78 g/mol = 0.10 mol です。反応式の係数は分子数や物質量の関係を表すため、先に物質量へ直します。
- ニトロ化の反応式から1:1の関係を読み取ります。理論上できるニトロベンゼンは0.10 mol であり、水が一緒にできることを理由にこの量を半分にする必要はありません。
- ニトロベンゼン C₆H₅NO₂ のモル質量を求めます。12 × 6 + 1.0 × 5 + 14 + 16 × 2 = 123 g/mol より、理論上の質量は0.10 mol × 123 g/mol = 12.3 g です。
- 最後に収率を掛けます。12.3 g × 0.80 = 9.84 g を有効数字2桁にすると9.8 g です。途中の12.3 g を早く丸めすぎないようにします。
生成物の質量が出発物質より大きくても、質量保存に反していません。硝酸からニトロ基の原子が加わっており、ベンゼンだけの質量が生成物の上限になるわけではないからです。
答え:得られるニトロベンゼンは9.8 g です。
例題3 サリチル酸からつくる物質の理論収量
サリチル酸2.76 g と十分な量の無水酢酸から、アセチルサリチル酸をつくります。完全に反応するとして、アセチルサリチル酸の理論上の質量を有効数字3桁で求めます。原子量は H=1.0、C=12、O=16 です。
- 反応する部分を確かめます。アセチル化されるのはフェノール性 OH で、COOH は残ります。反応式は C₇H₆O₃ + (CH₃CO)₂O → C₉H₈O₄ + CH₃COOH です。
- サリチル酸のモル質量を求めます。12 × 7 + 1.0 × 6 + 16 × 3 = 138 g/mol なので、2.76 g ÷ 138 g/mol = 0.0200 mol です。無水酢酸は十分にあるため、生成量を決めるのはサリチル酸の量です。
- 係数1:1から、アセチルサリチル酸も0.0200 mol とします。モル質量は12 × 9 + 1.0 × 8 + 16 × 4 = 180 g/mol なので、0.0200 mol × 180 g/mol = 3.60 g です。
サリチル酸メチルなら分子式は C₈H₈O₃ で、計算に使うモル質量が変わります。「サリチル酸からできるエステル」とだけ覚えると、違う生成物の式を使う原因になります。試薬がメタノールか無水酢酸かを見て、変化する官能基を決めます。
答え:アセチルサリチル酸の理論収量は3.60 g です。
例題4 混合物から酸・塩基の性質で成分を分ける
アニリン、安息香酸、フェノール、ナフタレンを含む有機溶媒の溶液を考えます。ナフタレン C₁₀H₈ は、2つのベンゼン環が1辺を共有した構造をもつ芳香族炭化水素です。溶媒は水と混ざらず、各成分は塩になると水層へ十分に移るものとします。希塩酸、炭酸水素ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液をこの順に用いたとき、各水層に移る成分と最後に有機層に残る成分を答えます。これは分離原理を考える問題で、実際の薬品操作の手順ではありません。
- 希塩酸と塩をつくる塩基を選びます。アニリンが C₆H₅NH₃⁺ となり、塩化物イオンとともに水層へ移ります。他の3成分は、この段階では有機層に残ると考えます。
- 残った有機層で、炭酸水素ナトリウムと反応する酸を選びます。安息香酸は C₆H₅COOH + NaHCO₃ → C₆H₅COONa + CO₂ + H₂O により塩になるので、水層へ移ります。フェノールはこの反応を起こさないため残ります。
- 次に残った有機層で、水酸化ナトリウムと反応する物質を選びます。フェノールがナトリウムフェノキシドになって水層へ移り、酸・塩基とこのような塩をつくらないナフタレンが有機層に残ります。
- 回収の反応も確かめます。アニリンの塩には塩基を、安息香酸とフェノールの塩には酸を作用させると、元の分子が遊離します。どれも同じ薬品で元に戻せるわけではありません。
図2のように、中央の下向きの流れは残った有機層を追い、右へ分かれる枝はその段階の水層を示します。水層の式は移った成分のイオンだけを示しており、対になるイオンは省略しています。

図2は容器の上下を描いた図ではありません。水層が上か下かは有機溶媒の密度によって変わるため、「水層」という語を「下の層」と読み替えないでください。また、現実には分配や回収の損失があるので、図は設問で与えた十分に分離できる条件での整理です。
答え:各水層へ順にアニリン、安息香酸、フェノールが塩として移り、最後の有機層にはナフタレンが残ります。
つまずきやすいところと直し方
誤り1 フェノールは OH があるからアルコールと同じ
誤った書き方は「C₆H₅OH と C₂H₅OH はどちらも NaOH と反応して塩になる」です。どこが違うかというと、OH がベンゼン環に直接結合しているかどうかを見落としています。フェノールはエタノールより酸性が強く、NaOH 水溶液と反応して塩になりますが、エタノールは通常、このような中和によって塩にはなりません。
正しい書き方は「C₆H₅OH は NaOH と中和して C₆H₅ONa になる」です。なお、金属ナトリウムとの反応では、フェノールもエタノールも水素を発生します。「ナトリウム」と「水酸化ナトリウム」を同じものとして扱わず、試薬の化学式まで書けば区別できます。
誤り2 フェノールと安息香酸は最初にまとめて NaOH で分ける
誤った書き方は「混合物に NaOH を作用させると、安息香酸だけが水層に移る」です。どこが違うかというと、フェノールも NaOH と塩をつくるため、両方が同じ水層に移ってしまいます。酸であることを言えるだけでは、2種類の酸の分離には足りません。
正しい書き方は「NaHCO₃ で安息香酸を塩にして分け、その後で残ったフェノールを NaOH で塩にする」です。ここで使う酸の強さの関係は、安息香酸が炭酸より強く、炭酸がフェノールより強いことです。図2の各枝を読むときは、薬品名だけでなく、その薬品ではまだ反応しない成分も1つ挙げて確かめます。
誤り3 サリチル酸のエステル化ではいつも COOH が変わる
誤った書き方は「サリチル酸メチルもアセチルサリチル酸も、COOH がエステルになった物質」です。どこが違うかというと、サリチル酸には反応できる酸素を含む部分が2か所あり、生成物ごとに変わる場所が異なります。図3では上にフェノール性 OH、隣に COOH を置き、置き換わった部分を赤色で示しています。

正しい書き方は「メタノールとの反応では COOH が COOCH₃ になり、無水酢酸との反応では環についた OH が O-C(=O)-CH₃ になる」です。図3の OCOCH₃ は、この O-C(=O)-CH₃ を縮めた表記です。どちらもエステル結合を含みますが、サリチル酸メチルにはフェノール性 OH が残り、アセチルサリチル酸には COOH が残ります。
この違いは性質の予想にも使えます。サリチル酸メチルはフェノール性 OH による塩化鉄(Ⅲ)水溶液の呈色を示します。一方、純粋なアセチルサリチル酸は、加水分解する前にはフェノール性 OH がないので、同じ呈色を示しません。名前の長さではなく、反応後に残った官能基を確認するのが直し方です。
練習問題
練習では、答えだけでなく判断に使った官能基や反応式も書きます。計算に必要な原子量は H=1.0、C=12、N=14、O=16 とし、各反応は設問に示す範囲で完全に進むものとします。
練習1
ベンゼンからクロロベンゼンをつくる置換反応の反応式を書き、必要な触媒の例を1つ答えてください。また、この反応と C₆H₆ + 3H₂ → C₆H₁₂ の反応が、置換か付加かの点でどう違うか説明してください。
練習2
アニリン0.930 g をすべてアニリン塩酸塩にするには、HCl が何 mol 必要ですか。有効数字3桁で答えてください。塩になるとき、アニリン分子のどの部分が変わるかも書いてください。
練習3
フェノール、安息香酸、アニリンのいずれかである物質 A、B、C があります。A は NaHCO₃ 水溶液と反応して CO₂ を生じ、B は希塩酸と塩をつくり、C は NaOH 水溶液とは反応しますが NaHCO₃ 水溶液では CO₂ を生じません。A、B、C を同定し、C を含む塩の水溶液から元の分子を遊離させる反応式を、塩酸を使って書いてください。
練習4
サリチル酸1.38 g に十分な量の NaOH を作用させ、COOH とフェノール性 OH の両方の水素を Na に置き換えます。必要な NaOH の物質量を有効数字3桁で求めてください。また、サリチル酸メチルとアセチルサリチル酸のうち、加水分解する前にフェノール性 OH をもつのはどちらですか。
答えと解説
練習1:C₆H₆ + Cl₂ → C₆H₅Cl + HCl です。触媒の例は鉄です。環についた H が Cl に置き換わるので置換反応です。水素との反応では環の炭素に水素が加わってシクロヘキサンになるので付加反応です。付加に必要な触媒などの条件は、塩素による置換の条件とは区別します。
練習2:必要な HCl は0.0100 mol です。アニリン C₆H₇N のモル質量は12 × 6 + 1.0 × 7 + 14 = 93 g/mol なので、0.930 g ÷ 93 g/mol = 0.0100 mol となります。アニリンと HCl は1:1で反応し、NH₂ が H⁺ を受け取って NH₃⁺ になります。塩素原子がベンゼン環の水素と置き換わる反応ではありません。
練習3:A は安息香酸、B はアニリン、C はフェノールです。C の遊離は C₆H₅ONa + HCl → C₆H₅OH + NaCl で表せます。A と C はともに NaOH と反応しますが、NaHCO₃ への反応の違いで区別できます。B は酸を受け入れる塩基なので、希塩酸との反応が判定の手がかりです。
練習4:必要な NaOH は0.0200 mol、フェノール性 OH をもつのはサリチル酸メチルです。サリチル酸は1.38 g ÷ 138 g/mol = 0.0100 mol で、両方の水素を置き換える条件では1 mol 当たり2 mol の NaOH が必要です。構造に対応する反応式は C₇H₆O₃ + 2NaOH → C₇H₄O₃Na₂ + 2H₂O となります。「酸という名前だから1:1」と決めず、設問がどこまでの反応を求めているかを読み取ります。
次の単元へのつながりと家庭での確かめ方
芳香族化合物の官能基の見方は、合成高分子でも使います。たとえばテレフタル酸はベンゼン環のパラ位に COOH を2個もち、ジオールとの反応でポリエステルの材料になります。1個の官能基の反応を理解しておくと、2個ずつある官能基が分子を次々につなぐ様子へ進めます。フェノールが樹脂の原料になることも、ベンゼン環と OH の組合せから学ぶ内容につながります。
家庭では、5分でできる確認を2つ試せます。1つ目は、紙にベンゼン環を4個描き、OH、NH₂、COOH、何もつけない場合を並べることです。それぞれに NaOH、HCl、NaHCO₃ のどれが反応するかを書き、塩の式を1つ添えます。2つ目は、図3を隠してサリチル酸を描き、メタノールの場合と無水酢酸の場合に、変化する場所を別々に丸で囲むことです。薬品やにおいを使った確認は必要ありません。
個別指導で確かめるときは、分離表を暗記できているかだけでなく、酸・塩基の中和とイオンの式まで戻ります。計算で止まる場合は、構造式から分子式を読み取る段階と、g を mol に直す段階のどちらで止まったかを分けて見ます。
まとめ
六角形が同じでも、ついている官能基が違えば、反応する相手も水への移り方も変わります。解答を確かめるときには、生成物の名前を言えたところで止めず、構造式のどこが変わり、どこが残ったかを指せるかまで見てください。計算の係数、呈色の有無、分離の順序は、その構造の読み取りからつながっています。
芳香族の分離を説明する最後の根拠は、覚えた薬品の順番ではなく、各段階で分子がもつ官能基と電荷です。
本気になった日が、入塾の日。
お子様の教育、迷ったら「丸投げ」してください。必ず、期待以上の結果で返します。武蔵野で育む、武蔵境で学ぶ。
電話は年中無休。365日、24時間、お電話可能。




