読める単語と書ける単語は別の記憶として育つ|武蔵野個別指導塾が薦める学習の仕方

連載「単元別のつまずき研究——その単元で、生徒は実際に何をどう誤るか」全50回の第42回です。学習の仕方の目次を見る

「さっき音読では読めていたのに、書かせると急に手が止まる」。英語の小テストのあと、そんな場面に出くわしたことはないでしょうか。読める単語と書ける単語のあいだには、思った以上に深い溝があります。

今回は「綴りと音」を主題にします。生徒が単語を読むときと書くとき、頭の中で何が起きているのかを整理し、読めるのに書けない理由を研究知見から考えます。そのうえで、教室や家庭でできる具体的な確かめ方まで落とし込みます。

読む力と書く力は、どちらも文字と音の結びつきに支えられています。しかし、その結びつき方が同じではありません。読むときは文字から音へ、書くときは音から文字へと向かうため、必要な手がかりの細かさが変わってきます。

この記事では、まず結論として「読める=書けるではない」ことを示します。次に、その理由を読みの記憶と綴りの記憶の両面から説明し、実際の誤答例と確かめる手順を紹介します。最後に、研究結果の誤用されやすい点と、この記事では言えない限界にも触れます。

要点(結論から)

  • 単語を読む力は、文字と音をつなぐ記憶が自動化することで伸びます。何度も目にするうちに、つづりを見た瞬間に音と意味へアクセスできるようになります。
  • 単語を書く力は、音を聞いたり思い浮かべたりしたときに、その音に対応する文字を順に引き出す力です。読むときとは逆向きの作業になります。
  • 読める単語でも、つづりの細部まで記憶していなければ書けません。特に、同じ音を表す文字が複数ある場合に、選択の手がかりが必要になります。

結論——読める単語と書ける単語は別の記憶として育つ

  • 単語を読む力は、文字と音をつなぐ記憶が自動化することで伸びます。何度も目にするうちに、つづりを見た瞬間に音と意味へアクセスできるようになります。
  • 単語を書く力は、音を聞いたり思い浮かべたりしたときに、その音に対応する文字を順に引き出す力です。読むときとは逆向きの作業になります。
  • 読める単語でも、つづりの細部まで記憶していなければ書けません。特に、同じ音を表す文字が複数ある場合に、選択の手がかりが必要になります。
  • 文字と音の対応についての知識は、読む力にも書く力にも土台として働きます。ただし、その知識が十分でも、単語ごとの記憶が育つまでには練習が必要です。
  • 読む練習と書く練習は、どちらか一方で済ませられません。読めて安心してしまうと、書く段階でのつまずきが見落とされやすくなります。

理由——読む記憶と書く記憶は向きが違う

読むときは、文字から音へ自動的に進む

単語を読むとき、学習者はまず文字のまとまりを目で捉えます。初めて見る単語なら、文字と音の対応を手がかりに一文字ずつたどることもあります。しかし、練習を重ねた単語は、そうした分解を経ずに、つづり全体から直接、音と意味へアクセスできるようになります。

このような読み方を、研究では「サイトワード読み」と呼びます。目にしたつづりを、いちいち音に変換せず、記憶の中から一気に引き出す読み方です。文章を読むときには、この自動的な読み方が最も効率的だとされています。

Ehri L. Learning to Read Words: Theory, Findings, and Issues. Scientific Studies of Reading. 2005;9(2):167-188.

ここで重要なのは、自動化した読みは「つづり全体の形」を手がかりにしているわけではない、という点です。文字と音の対応が記憶の中で結びつき、その結びつきが強まることで、つづりが音と意味に固定されていきます。つまり、読めるようになる過程では、文字と音の対応の知識が記憶の留め金として働きます。

読みの自動化が進むと、生徒は自分の読み方がどれだけ細かい手がかりに支えられているかを意識しにくくなります。読めているという実感だけが残り、書くときに必要な細部への注意が育っていないことがあります。

書くときは、音から文字を選び直す

書くときの出発点は、読みとは逆です。自分が書きたい単語の音を思い浮かべ、その音に対応する文字を順番に選んでいきます。ここで問題になるのは、一つの音に対して文字の候補が複数ある場合です。

たとえば英語では、同じ「イー」という音に対して「ea」も「ee」も「ie」も候補になり得ます。音だけを手がかりにしていると、どの文字を選ぶべきか決められません。単語ごとのつづりの記憶が、選択の決め手になります。

書く力の発達についての研究では、子どもはでたらめな文字列から始まり、音を手がかりにした独自のつづりを経て、次第に正しいつづりへ近づいていくことが示されています。

Treiman R. Learning to Spell Words: Findings, Theories, and Issues. Scientific Studies of Reading. 2017;21(4):265-276.

この過程で、音を聞いたままに書く段階は重要な通過点です。しかし、そこに留まっていると、同じ音を表す別の文字がある単語で誤りが続きます。書く力は、音の分解だけでなく、単語ごとのつづりの記憶が加わることで安定します。

読むときには、つづりを見れば音の候補を絞れます。ところが書くときには、音から文字の候補を絞りきれない場面が多くなります。この非対称性が、「読めるのに書けない」という現象の大きな理由です。

文字と音の知識は、読むにも書くにも土台になる

読みの研究では、文字と音の対応についての知識が、新しい単語を覚える力を高めることが報告されています。文字の体系を知っていると、つづりを音と意味に結びつける記憶が強まりやすくなります。

Ehri L. Learning to Read Words: Theory, Findings, and Issues. Scientific Studies of Reading. 2005;9(2):167-188.

同じ知識は、書くときにも働きます。音を文字に置き換えるには、どの文字がどの音に対応するかを知っている必要があります。ただし、それだけでは足りません。単語ごとのつづりを、音と意味と一緒に記憶することが、書けるようになるための鍵です。

つまり、文字と音の対応の知識は、読む力と書く力の共通の土台です。しかし、その土台の上に、読むための記憶と書くための記憶が別々に積み上がっていきます。指導では、この二つを分けて観察することが大切です。

生徒が音読でつまずかないと、文字と音の知識は十分だと判断されがちです。ところが、書く場面では同じ知識を逆向きに使う必要があります。逆向きに使う練習が不足していると、読める単語でも書けない状態が続きます。

誤答の例——読めるのに書けない単語で何が起きているか

よくある誤答 その子が考えていること 確かめる問いかけ
「make」を「mak」と書く 最後の「e」は音に出ないので、書く必要がないと思っている 「メイク」の「メイ」の部分は、どの文字がその音を作っていると思う?
「school」を「skool」と書く 「ク」の音に「k」を当てれば通じると考えている 「スクール」の「ク」の音を表す文字は、ほかに何があったかな?
「right」を「rite」と書く 「ライト」という音から、知っている「write」の仲間だと思っている 「right」と「write」は音が同じだけど、意味の違いはどこに出る?
「island」を「iland」と書く 読まない「s」は、書くときにも不要だと考えている この単語を初めて見たとき、読めなかった文字はどれ?
「stopped」を「stopt」と書く 過去形は「t」の音だから、文字も「t」でよいと思っている 「stop」に「ed」を付けると、音はどう変わる?

机の前で1対1で確かめるときは、次の手順が有効です。

  1. まず音読させて、読める単語と読めない単語を分けます。読めるのに書けない単語だけを集めます。
  2. 書けなかった単語を一つ選び、その単語の音をゆっくり言ってもらいます。音の区切りを意識させます。
  3. 音の区切りごとに、使える文字の候補を挙げてもらいます。候補が複数ある場合は、正しいつづりをどう覚えているかを尋ねます。
  4. 正しいつづりを見せて、音と文字の対応を確認します。読まない文字や、音が変わる部分に印を付けます。
  5. 翌日にもう一度、同じ単語を書かせて、定着したかを確かめます。

小学生では、音を聞いたままに書く段階がよく見られます。読まない文字や、一つの音に複数の文字が対応する単語で誤りが増えます。まずは音と文字の対応を一文字ずつ確認することが有効です。

中学生では、読める単語の数が増える一方で、書く練習の量が追いつかないことがあります。教科書の新出単語を音読できるようになっても、書かせてみるとつづりの細部が抜けている場合があります。読む練習と書く練習を別に設ける必要があります。

高校生では、抽象的な単語や長い単語で、つづりの記憶が曖昧なまま読めていることがあります。文脈から意味を推測して読めても、書く段階で正確なつづりを再現できないことがあります。自分の書いたものを見直す習慣をつけると、誤りに気づきやすくなります。

よくある誤読——研究結果をどう使わないか

「読めるようになれば、自然に書けるようになる」という誤用

読みの研究で示されているのは、練習を重ねた単語が自動的に読めるようになる仕組みです。ここから「読めるようになれば書けるようになる」と短絡すると、指導の順序を誤ります。読む自動化は、書くための記憶を保証しません。

読む力と書く力は、同じ文字と音の知識を使いながらも、向きの違う作業です。読める単語を書かせてみると、つづりの細部が抜けていることは珍しくありません。読めることをもって書けると判断しないことが大切です。

正しい読み方は、読む練習と書く練習を別々に観察し、それぞれのつまずきを把握するというものです。読める単語の中から、書けない単語をあぶり出すことで、指導の的が絞れます。

「音を聞いたまま書かせるのがよい」という誤用

書く力の発達研究では、子どもが音を手がかりにした独自のつづりを経ることが示されています。この事実を「音の通りに書かせておけばよい」と解釈するのは誤りです。音を手がかりにする段階は通過点であり、最終的な目標ではありません。

音を聞いたままに書く方法では、同じ音を表す文字が複数ある単語や、読まない文字を含む単語で行き詰まります。音への分解を促すことは重要ですが、それに加えて、単語ごとのつづりを記憶する練習が必要です。

正しい読み方は、音と文字の対応を教えつつ、単語のつづりを音と意味と一緒に覚えさせるというものです。音の分解は書く力の土台ですが、それだけでは正しいつづりに到達できません。

今週やること——読めるのに書けない単語を三つ見つける

  1. 教科書や単語帳から、生徒が音読できる単語を十個選びます。その中から、書かせてみて誤る単語を三つ見つけます。
  2. 誤った単語について、音の区切りごとに文字を確認します。読まない文字や、音が変わる部分に印を付けます。
  3. 翌日、同じ三つの単語をもう一度書かせます。正しく書けたら、別の単語に移ります。誤りが残っていれば、印を付けた部分だけを集中的に復習します。

持ち越されるつまずき——英作文と過去形で表面化する

読めるのに書けない単語の差は、その場のスペリングテストで終わりません。次の単元で「書く力」を前提にした課題が出たとき、同じつまずきが別のかたちで現れます。たとえば、自分のことを一文で書く英作文では、読めば意味が分かる単語を選べても、正しい綴りで書き切れずに空白や言い換えで逃げることがあります。また、過去形の規則変化を学ぶと、動詞の原形に「エド」をつける操作はできても、もとの綴りが曖昧なために「ストップト」や「プランド」のような揺れが生まれます。読む段階では気づかなかった文字の不確かさが、書く段階で初めて課題として見えてくるのです。

さらに、比較級や現在分詞のように語尾を重ねる規則を学ぶ単元では、音と文字の対応に加えて「短い母音かどうか」を判断する必要が出ます。ここでも、読める単語の記憶だけに頼っていると、文字を重ねる条件を音から思い出せず、規則を適用する前の段階で止まってしまいます。つまり、綴りと音のずれは、単語を書く課題が増えるたびに、少しずつ別の単元のつまずきへと姿を変えて持ち越されると考えられます。

家庭で見分けるときの問いかけ——書かせた後に音読させない

保護者が家庭で「この単語、書けるかな」と確かめるとき、よくあるのが単語を声に出して読み、それを聞かせて書かせる方法です。しかし、この方法では読む力と書く力の差をうまく見分けられません。なぜなら、音を聞いた瞬間に、子どもは文字から音へ向かう読みの記憶をたどるのではなく、音から文字を探す書きの記憶を使うからです。読めるのに書けない単語を見つけたいのであれば、まず書かせてから、その答えを声に出して読ませないことが大切です。書いた後に音読させると、読みの記憶が正誤の手がかりになってしまい、書く力だけを測れなくなります。

かわりに、保護者ができるのは「その単語、読まずに、ここに三回書いてみて」と伝えることです。書いている途中で「合ってる?」と聞かれても、読み方を教えずに「自分で最後まで書いてごらん」と返します。書き終えたら、答えを見せずに「今書いた文字を指でなぞりながら、心の中で読んでごらん」とだけ言います。このとき、なぞる手が止まったり、文字を飛ばしたりする単語があれば、それが読めるのに書けない単語の候補です。読みの記憶に頼らず、書く記憶だけで文字を再現できるかを見るには、音読をさせない問いかけが有効です。

この記事で言えないこと

この記事で紹介した研究は、主にアルファベットを使う言語での読み書きの発達を扱っています。日本語の漢字や仮名の学習にそのまま当てはまるとは限りません。特に、漢字のように文字と音の対応が一対一でない体系では、別のつまずき方が考えられます。

また、研究は集団の傾向を示すものであり、個々の生徒のつまずきを直接説明するものではありません。読めるのに書けない背景には、音の処理の苦手さや、注意の向け方の偏り、練習量の不足など、さまざまな要因があります。この記事の内容だけで、特定の生徒の困難を診断することはできません。

さらに、書く力の発達には長い時間がかかります。一度の指導で正しく書けたとしても、それが定着したとは限りません。数日後、数週間後に再び書けるかを確かめることが必要です。この記事で示した手順は、あくまで観察と練習の入り口です。

当塾の立場

読めるのに書けない単語を見つけて、音と文字の対応を確認する作業は、家庭でも十分にできます。単語を音読させたあと、書かせてみて、誤った単語を一緒に見直すだけです。特別な教材は要りません。まずはお子さんの教科書で、読める単語と書ける単語の差を探してみてください。

そのうえで、塾が担える部分があるとすれば、書けない単語のつまずきの型を整理し、その子に合った練習の順番を組むことです。たとえば、読まない文字で誤るのか、同じ音の別の文字で誤るのか、音の区切り自体が曖昧なのかを見分け、それぞれに応じた単語リストを作って、翌週に再テストするという手順を取ります。これにより、家庭での練習が続けやすくなります。

出典

  1. Ehri L. Learning to Read Words: Theory, Findings, and Issues. Scientific Studies of Reading. 2005;9(2):167-188.
  2. Treiman R. Learning to Spell Words: Findings, Theories, and Issues. Scientific Studies of Reading. 2017;21(4):265-276.

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