連載「単元別のつまずき研究——その単元で、生徒は実際に何をどう誤るか」全50回の第41回です。学習の仕方の目次を見る
「私は昨日、新しい単語を覚えました」と書いた答案に、先生が「昨日、私は新しい単語を覚えました」と直しを入れる。生徒は「どちらも意味は同じなのに、なぜ直されるのか」と首をかしげます。文法の誤りがないのに減点される経験は、英語を学ぶ中学生や高校生にとって、もやもやした気持ちを残しがちです。
このもやもやの正体は、語順の背後にある「情報構造」という考え方です。英語は、文の先頭に何を置くか、文末に何を置くかによって、読み手の注意の向け方を細かく制御する言語です。主語・動詞・目的語という文型のルールを守るだけでは、英語らしい並べ方にはなりません。
今回は、学習者が「文法的には正しいのに、英語として不自然になる」語順の誤りを扱います。具体的には、既知の情報と新しい情報の並べ方、強調したい要素の置き場所、そして倒置や分裂文といった情報構造の手段を、実際の誤答例とともに見ていきます。
結論を先に述べると、英語の語順指導は「正しい文型」から「読み手にどう届くか」へ一歩進む必要があります。その一歩が、今回の主題です。
要点(結論から)
- 英語の自然な語順は、既知の情報を先に、新しい情報を後ろに置く「旧情報から新情報へ」の流れを基本とします。日本語の「は」と「が」の使い分けに近い感覚ですが、英語では語順そのものがその役割を担います。
- 学習者は「主語を文頭に置く」という文型のルールを優先しすぎて、情報構造に合わない語順を作ることがあります。文法的に正しくても、読み手に不自然さや誤解を与える場合があります。
- 倒置や前置き、it分裂文、wh分裂文は、特定の要素を強調したり、文の焦点を調整したりする手段です。上級学習者でも、これらの使用は母語話者に比べて限定的です。
結論——語順は文型の正しさではなく情報の流れで選ばれる
- 英語の自然な語順は、既知の情報を先に、新しい情報を後ろに置く「旧情報から新情報へ」の流れを基本とします。日本語の「は」と「が」の使い分けに近い感覚ですが、英語では語順そのものがその役割を担います。
- 学習者は「主語を文頭に置く」という文型のルールを優先しすぎて、情報構造に合わない語順を作ることがあります。文法的に正しくても、読み手に不自然さや誤解を与える場合があります。
- 倒置や前置き、it分裂文、wh分裂文は、特定の要素を強調したり、文の焦点を調整したりする手段です。上級学習者でも、これらの使用は母語話者に比べて限定的です。
- 語順の誤りは、単なる文法ミスではなく、情報をどう整理して提示するかという書き手の判断の問題です。そのため、誤りを直す際は「なぜその順番なのか」を問いかける指導が有効です。
- 英語らしい並べ方を身につけるには、文単位の練習だけでなく、前の文とのつながりの中で語順を選ぶ練習が必要です。文脈を離れた単文練習では、この感覚は育ちにくいと言えます。
理由——情報構造の視点から見た語順のつまずき
旧情報と新情報の区別が語順に反映されない
英語の書き言葉では、読み手がすでに知っている情報、つまり旧情報を文の前半に置き、読み手にとって新しい情報を文の後半に置く傾向があります。これは、読み手の理解の負担を減らすための工夫です。たとえば、前の文で「ある本」について述べたあとなら、次の文は「その本は…」ではなく「The book…」と、既知のものを主語の位置に置いて文を始めるのが自然です。
ところが、日本語を母語とする学習者は、日本語の「は」と「が」の感覚をそのまま英語に持ち込み、情報の新旧を語順で示すことに慣れていません。日本語では「その本は、私が昨日買いました」のように、助詞によって情報の役割を示せます。英語では助詞がないぶん、語順がその役割を引き受けることになります。
学習者の答案には、新しい情報を文頭に置いてしまう例がよく見られます。たとえば「A strange man knocked on my door last night.」と書くべきところを「Last night, a strange man knocked on my door.」と書くこと自体は誤りではありません。しかし、その後に続く文で「The man was wearing a black coat.」とすべきところを「A man was wearing a black coat.」と書くと、読み手は「別の男か」と混乱します。既知の人物には定冠詞を使い、文頭に置くという情報構造の原則が崩れているからです。
この種の誤りは、文法問題では検出されにくいものです。冠詞の選択と語順の選択が連動しているため、どちらか一方のルールだけを教えても、実際の文章では正しく使えないということが起きます。
強調のための語順操作が使えない
英語には、特定の要素を強調するために基本語順を変える手段がいくつかあります。倒置、前置き、it分裂文、wh分裂文などがその代表です。たとえば「I do not like his attitude.」という文の「his attitude」を強調したいとき、「It is his attitude that I do not like.」のようにit分裂文を使うと、焦点が明確になります。
しかし、学習者はこれらの構文を「難しい文法」として知識としては知っていても、実際の作文で使うことはまれです。母語話者の文章では、情報を強調したり対比したりする場面で自然に現れるこれらの構文が、学習者の文章ではほとんど姿を見せません。
Callies M. Information Highlighting in Advanced Learner English. Pragmatics & Beyond New Series. 2009.
この研究は、上級レベルの英語学習者であっても、倒置や前置き、it分裂文、wh分裂文といった情報強調の手段の使用が母語話者に比べて限定的であることを示しています。つまり、語彙や文法の知識が豊富でも、情報構造を操作する力はそれに追いついていないのです。
学習者がこれらの構文を使わない理由の一つは、学校の文法指導で「倒置は疑問文や否定語が文頭に来るとき」という限られた文脈でしか扱われないことにあります。修辞的な倒置や強調のための前置きは、読解では出会っても、作文で使う選択肢として意識されていません。
もう一つの理由は、誤りを恐れるあまり、安全な基本語順に固執することです。倒置や分裂文は、使い方を誤ると文全体が崩れるため、学習者はリスクを避けて無難な語順を選びます。結果として、文法的には正しいが、情報の焦点がぼやけた文章になります。
文脈を離れた単文練習が情報構造の感覚を育てない
学校の英語の授業では、語順は主に文型の練習として扱われます。主語、動詞、目的語、補語の順番を覚え、日本語の文を英語に直す練習を繰り返します。この練習は、英語の基本的な骨組みを身につけるうえで欠かせないものです。
しかし、単文の和文英訳では、情報構造を考える余地がほとんどありません。日本語の文を一つだけ提示されて、それを英語に直すとき、学習者は「与えられた要素を正しい文型に当てはめる」ことだけに集中します。前の文とのつながりや、読み手が何を知っているかという視点は、そもそも問題の中に存在しないからです。
Hinkel E, Hinkel E. Teaching Academic ESL Writing. 2003.
この文献は、学術的な英語を書く学習者にとって、文法と語彙の基礎が文章を作るための道具であると述べています。語順もまた、文型の正しさを超えて、文章全体の中で情報をどう配置するかという道具として捉える必要があります。
単文練習だけを積み重ねても、複数の文からなる段落を書くときに、どの情報を先に置き、どの情報を後ろに置くかという判断はできるようになりません。情報構造の感覚は、文脈のある文章を読み、書き、直すという活動の中でしか育たないのです。
誤答の例——情報構造を無視した語順の実際
| よくある誤答 | その子が考えていること | 確かめる問いかけ |
|---|---|---|
| I bought a book yesterday. A book was very interesting. | 「本を買った」という事実を先に言い、その本の感想を続けた。二つ目の文で「a book」と書いたのは、単数だからaをつけるというルールだけを意識したため。 | 「二つ目の文のa bookは、一つ目の文のa bookと同じ本? 読み手はどうやってそれがわかる?」 |
| My mother gave me a present. A present was a watch. | 「プレゼント」を文頭に置けば、そのプレゼントについて説明していることが伝わると思った。日本語の「プレゼントは時計でした」の語順をそのまま英語にした。 | 「英語では、すでに話題に出たものは文のどこに置くのが自然? 主語にするなら冠詞はどうなる?」 |
| It was my brother that broke the window. | 「窓を割ったのは弟だ」と強調したくて、習ったit分裂文を使った。しかし、この文は「窓を割ったのは弟であって、他の誰かではない」という対比の意味になることに気づいていない。 | 「この文は、誰か他の人を疑っている場面で使う形だよ。単に『弟が割った』と伝えたいだけなら、どんな語順で書く?」 |
| Never I have seen such a beautiful sunset. | 「決して見たことがない」という否定の意味を強調したくて、neverを文頭に置いた。否定語を文頭に置くと倒置が起きるというルールを思い出せなかった。 | 「否定の語を文頭に置いたとき、動詞の位置はどう変わる? 疑問文の語順と比べてみよう。」 |
| There are many reasons for this problem. The lack of sleep is one of them. | 「理由はたくさんある」と述べ、その一つを挙げようとした。文法的には正しいが、二つ目の文の主語「The lack of sleep」が長く、焦点がぼやけている。 | 「二つ目の文で一番伝えたいのは『睡眠不足』? それとも『理由の一つだ』ということ? 伝えたいものを文の後ろに置くとどうなる?」 |
机の前で1対1で確かめるときは、次の手順が有効です。
- まず、その文が置かれている段落全体を音読させます。一文だけを取り出さず、前後の文とのつながりを意識させます。
- 次に、各文の主語が「読み手がすでに知っているもの」か「初めて出てくるもの」かを、印をつけながら分類させます。既知のものには丸、新しいものには三角をつけると視覚的にわかりやすくなります。
- そのうえで、新しい情報が文の前半に置かれている箇所を探させ、「これを後ろに置くにはどう並べ替えるか」を一緒に考えます。
- 並べ替えた文と元の文を読み比べ、どちらが読み手にやさしいかを話し合わせます。正解を教えるのではなく、読み手の立場で判断させることが大切です。
- 最後に、同じ段落をもう一度書かせ、情報の流れが改善されたかを自分で確認させます。
小学生の場合、情報構造という抽象的な言葉は使わず、「最初に言ったものは、次の文では『それ』として扱うよ」という具体的な指示が有効です。日本語の「は」と「が」の違いに触れながら、英語では語順で示すことを、短い二文のつながりで練習します。
中学生の場合、教科書の本文を書き換える活動が効果的です。既知の情報を文頭に置くように本文の語順を変え、元の文と比べることで、情報の流れを意識させます。倒置や分裂文は、まず読解の中で「なぜこの語順なのか」を考えさせるところから始めます。
高校生の場合、自分の書いた英作文を、情報構造の観点から自己修正する活動が有効です。特に、意見文や要約文など、段落単位で書く課題の中で、旧情報から新情報への流れが守られているかをチェックリストで確認させます。
よくある誤読——研究結果をどう使わないか
「倒置や分裂文を使えば上級者になれる」という誤読
情報強調の手段に関する研究は、上級学習者でも倒置や分裂文の使用が限定的であることを示しています。この結果を「だから倒置や分裂文をたくさん使えるようにすれば、上級者になれる」と読むのは誤りです。
研究が示しているのは、情報強調の手段の使用が母語話者と学習者で異なるという事実です。母語話者は、強調したい情報があるときに、文脈に応じて自然にこれらの構文を選びます。学習者に必要なのは、構文の数を増やすことではなく、情報の焦点を意識して語順を選ぶ判断力です。
倒置や分裂文を「使えるとかっこいい」という理由で作文に盛り込むと、かえって不自然な文章になります。重要なのは、その構文が情報構造の中でどのような役割を果たすかを理解し、必要な場面で使えるようになることです。
「文法的に正しければ語順は自由」という誤読
英語の語順は、文型のルールさえ守っていれば、あとは書き手の自由だと思われがちです。しかし、情報構造の研究は、語順の選択が読み手の理解に直接影響することを示しています。
同じ内容を伝える文でも、語順が変われば、読み手がどの情報を重要だと受け取るかが変わります。文法的に正しい文を並べただけでは、書き手の意図した焦点が読み手に伝わらないことがあります。
この誤読は、「減点されない答案」を目指す学習者に特に多く見られます。文法の誤りがないことを最優先にし、情報の流れを考えない文章は、読み手にとって理解しにくいものになります。語順は、正しさだけでなく、効果の観点からも選ばれるべきです。
今週やること——情報の流れを意識する3つの練習
- 教科書の本文から、二文以上がつながった箇所を一つ選び、各文の主語が旧情報か新情報かを丸と三角で印をつけます。旧情報が文頭に来ているか、新情報が文末に来ているかを確認します。
- 自分の書いた英作文を一つ取り出し、新しい情報が文の前半に置かれている文を探します。見つけたら、その情報を文の後半に移すように書き換え、前後の文とのつながりを読み直します。
- 読解の際に、倒置やit分裂文、wh分裂文が出てきたら、「なぜこの語順なのか」「何を強調しているのか」を一文で説明するメモを書きます。構文の名前を覚えるのではなく、その構文が情報構造の中で果たす役割を言葉にすることが目的です。
この記事で言えないこと
今回の内容は、英語の書き言葉における情報構造と語順の関係に焦点を当てたものです。話し言葉では、イントネーションや強勢によって情報の焦点を示すことができるため、語順の役割は書き言葉とは異なります。今回の知見をそのまま会話指導に当てはめることはできません。
また、情報構造の研究は、特定の学習者集団を対象にしたものが多く、母語や学習環境によって傾向が異なる可能性があります。ここで述べた誤答の傾向は、すべての学習者に当てはまるものではなく、あくまで一つの典型的なパターンとして捉える必要があります。
さらに、語順の選択は、情報構造だけでなく、文体やジャンル、書き手の意図によっても左右されます。学術的な文章で好まれる語順と、物語文で効果的な語順は同じではありません。今回の内容は、主に説明的な文章を想定したものであり、すべての種類の文章にそのまま適用できるわけではありません。
当塾の立場
情報構造を意識した語順の練習は、家庭でも十分に取り組めます。教科書の本文に印をつける活動や、自分の作文を読み直す活動は、特別な教材がなくても始められます。まずは、お子さんが書いた英語の文章を一緒に読み、「この文の主語は、前の文に出てきたものかな?」と問いかけることから始めてみてください。塾に行かなければ身につかない内容ではありません。
そのうえで、当塾が担えることがあるとすれば、情報構造の判断を一人でできるようにするための対話です。具体的には、生徒が書いた段落を前に、旧情報と新情報の配置を一緒に確認し、「読み手はここで何を知っているか」を一文ずつ言葉にさせる手順を繰り返します。自分では気づきにくい語順の癖を、対話の中で可視化することが、個別指導の役割だと考えています。
関連する記事
出典
- Hinkel E, Hinkel E. Teaching Academic ESL Writing. 2003.
- Callies M. Information Highlighting in Advanced Learner English. Pragmatics & Beyond New Series. 2009.

