現在完了が使えないのは時だけでなく相の観点が欠けるため|武蔵野個別指導塾が薦める学習の仕方

連載「単元別のつまずき研究——その単元で、生徒は実際に何をどう誤るか」全50回の第38回です。学習の仕方の目次を見る

「昨日、宿題を終わった?」と聞くと、中学生の生徒が「うん、終わった」と答える。日本語の会話としては自然に聞こえますが、英語の現在完了を学んだ直後の授業で、同じ場面を英語にさせると、多くの生徒が「I finished my homework yesterday.」と過去形で書いてしまいます。現在完了の形は覚えていても、いつそれを使うのかが腑に落ちていないのです。

この連載では、単元ごとに生徒が実際にどこでつまずくのかを、研究知見と教室での観察をもとに掘り下げています。今回は「時制と相」の中でも、特に現在完了が使えないという問題を取り上げます。現在完了は日本語の「〜した」「〜している」と一対一で対応しないため、学習者は形を覚えても意味と用法の結びつきに苦労します。

本記事では、まず現在完了が使えない理由を「形式・意味・用法」の三層から整理します。そのうえで、実際の誤答例と、机の前で1対1で確かめる手順を示します。最後に、研究結果をどう読むべきか、そしてこの記事で言えないことを明確にします。

要点(結論から)

  • 現在完了が使えない第一の原因は、学習者が「過去のこと=過去形」という単純な対応で済ませてしまう点にあります。現在完了は過去の出来事を「今とのつながり」において述べる形だという認識が育っていません。
  • 第二に、日本語の「〜した」が過去形にも現在完了にも対応するため、母語の干渉が強く働きます。「朝ごはんを食べた」をそのまま過去形に置き換える癖が、現在完了の使用を妨げます。
  • 第三に、現在完了の4つの用法(完了・経験・継続・結果)を別々の暗記事項として学ぶため、個々の用法は知っていても、文脈に応じて使い分ける力に結びつきません。

結論——現在完了が使えないのは、過去形との対立を「時」だけでなく「相」の観点から捉えられていないことが主因です

  • 現在完了が使えない第一の原因は、学習者が「過去のこと=過去形」という単純な対応で済ませてしまう点にあります。現在完了は過去の出来事を「今とのつながり」において述べる形だという認識が育っていません。
  • 第二に、日本語の「〜した」が過去形にも現在完了にも対応するため、母語の干渉が強く働きます。「朝ごはんを食べた」をそのまま過去形に置き換える癖が、現在完了の使用を妨げます。
  • 第三に、現在完了の4つの用法(完了・経験・継続・結果)を別々の暗記事項として学ぶため、個々の用法は知っていても、文脈に応じて使い分ける力に結びつきません。
  • 第四に、教科書や問題集では現在完了の形式練習が中心になりがちで、「意味」と「用法」に注意を向ける活動が不足しています。形は作れても、使う場面が判断できない状態が生まれます。
  • 第五に、現在完了と過去形の対比を明示的に扱わないと、学習者は両者を同じ「過去を表す形」として混同し続けます。過去形との違いを「時」ではなく「相」の違いとして教える必要があります。

理由——形式・意味・用法のずれと母語の干渉が現在完了の使用を阻みます

形式は作れても、意味と用法が結びつかない

現在完了の形式は「have+過去分詞」という比較的単純な構造です。規則動詞なら過去形と同じ形に「have」を付けるだけなので、形式面の習得は早い段階で進みます。ところが、形式が作れることと、その形式を適切な文脈で使えることは別の問題です。第二言語習得研究では、時制と相の習得において、形式・意味・用法の三つを区別して考える枠組みが用いられてきました。

Yang J. Review. Tense and aspect in second language acquisition: form, meaning, and use. K Bardovi-Harlig. Applied Linguistics. 2001;22(4):542-544.

この枠組みに照らすと、現在完了が使えない生徒の多くは、形式は知っているが意味と用法の段階でつまずいています。たとえば「I have lost my key.」という文を作ることはできても、なぜここで過去形ではなく現在完了なのかを説明できないのです。形式練習を繰り返すだけでは、この意味と用法のずれは埋まりません。

教室では、現在完了の導入時に「過去分詞を覚える」ことに多くの時間が割かれます。不規則動詞の過去分詞形を暗記し、肯定文・否定文・疑問文の形を練習します。しかし、形式の定着に偏ると、生徒は「現在完了は過去分詞を使う文」という表面的な理解にとどまり、過去形との機能的な違いに注意が向かなくなります。

母語の「〜した」が過去形と現在完了の両方に対応する

日本語を母語とする学習者にとって、現在完了の難しさの大きな要因は、母語との対応関係にあります。日本語の「〜した」は、単純過去と現在完了の両方の意味を担うことができます。「宿題をした」は、単に過去の事実として述べる場合にも、今終わった状態にあることを述べる場合にも使えます。このため、英語で現在完了を使うべき場面でも、過去形で済ませてしまう傾向が生じます。

また、日本語の「〜している」は現在完了の継続用法と対応するように見えますが、その対応も完全ではありません。「東京に住んでいる」は現在の状態を表し、英語では現在完了進行形や現在完了形が使われることがあります。しかし、学習者は「住んでいる」を現在形の「live」で表そうとすることがあります。母語のアスペクト感覚が英語の時制・相の選択に影響を与えるのです。

この母語の影響は、単なる知識不足ではなく、言語の捉え方そのものに関わります。学習者は無意識のうちに日本語の時間表現の枠組みで英語を理解しようとします。そのため、現在完了の用法を一つ一つ説明するだけでは不十分で、日本語と英語の時間の捉え方の違いに気づかせる指導が必要になります。

相の観点が育っていない

現在完了が使えない背景には、「相(アスペクト)」の観点そのものが学習者の中で育っていないという問題があります。時制が出来事を時間軸上の位置で捉えるのに対し、相は出来事をどのように捉えるか、つまり完了しているのか、進行中なのか、結果が残っているのかという見方を表します。現在完了は、過去の出来事を「今との関わり」において捉える相的な表現です。

Andersen R, Shirai Y. The Primacy of Aspect in First and Second Language Acquisition. Handbook of Second Language Acquisition. 1996:527-570.

この研究は、第一言語・第二言語の習得において、相の概念が時制に先立って発達する傾向を示しています。学習者はまず「完了しているか、継続しているか」といった相の区別を捉え、その後に時制の区別を精緻化していくというのです。しかし、日本の英語教育では時制の枠組みが先に導入され、相の観点は後回しにされがちです。その結果、学習者は過去形と現在完了の違いを「時」の違いとしてのみ捉えようとし、うまく整理できなくなります。

実際の指導では、過去形と現在完了の違いを「過去の一点を表すか、今につながる幅を表すか」というイメージで示すことが有効です。過去形は過去の一時点を指し、現在完了は過去から現在までの幅を持った見方を表します。このイメージができると、生徒は「yesterday」や「last week」などの過去を特定する表現と現在完了が共起しにくい理由も理解しやすくなります。

誤答の例——現在完了を使うべき場面で過去形を使ってしまう典型的なパターンです

よくある誤答 その子が考えていること 確かめる問いかけ
I lost my key. (今も見つかっていないのに) 鍵をなくしたのは過去の出来事だから、過去形でよいと思っている。 「今、鍵は見つかっているの? それとも、なくしたことが今も関係しているの?」
I finished my homework yesterday. (現在完了の練習問題で) 「終わった」は過去のことだから、過去形が自然だと思っている。 「yesterday があると、過去の一点を指すことになるね。今終わったところだと言いたいときは、どう言えばいいかな?」
I have visited Kyoto last year. (現在完了に過去の時点を付けてしまう) 現在完了は「経験」を表すと覚えたので、過去の時点を付けてもよいと思っている。 「現在完了は今までの経験を表すけど、last year は過去の一点を指すね。過去の一点を言うときは、どの形を使う?」
I am living in Tokyo for three years. (継続を現在形で表す) 「住んでいる」は今の状態だから、現在形で表せると考えている。 「3年前から今まで続いていることを表すには、現在形でよいかな? それとも、今までの幅を表す形がある?」
She has gone to Osaka. (彼女が今ここにいないことを言いたいのに) 「行った」という過去の事実を表すのに、現在完了の経験用法だと思って使っている。 「彼女は今どこにいるの? 大阪に行ったままなのか、行って帰ってきたのか、どちらを伝えたい?」

机の前で1対1で確かめる手順は、次のように進めます。

  1. まず、生徒に日本語の文を一つ示し、「これは過去の一点の話か、今につながる話か」を判断させます。たとえば「宿題を終えたところだ」と「昨日宿題を終えた」を比べさせます。
  2. 次に、それぞれの日本語文を英語にするとき、過去形と現在完了のどちらを使うかを選ばせ、選んだ理由を言葉で説明させます。正解かどうかより、判断の根拠を言語化させることが重要です。
  3. そのうえで、現在完了を使う文に「yesterday」や「last week」を付けられるかどうかを試させます。付けられない理由を「過去の一点」と「今までの幅」という言葉で説明できるようにします。
  4. 最後に、同じ動詞で過去形と現在完了の文を並べて書き、意味の違いを日本語で言い分けさせます。たとえば「I lost my key.」と「I have lost my key.」の違いを、今鍵が見つかっているかどうかで説明させます。

小学生の場合、現在完了は学習指導要領の範囲外ですが、「〜したところだ」「〜したことがある」という日本語の表現に触れる機会はあります。無理に英語の現在完了を教えるのではなく、日本語で「過去の一点」と「今につながる感じ」の違いに気づかせる活動が有効です。たとえば「昨日遊んだ」と「今遊んだところだ」の違いを絵で描き分けさせると、後の学習の土台になります。

中学生の場合、現在完了は3年生で学ぶことが多い単元です。過去形との違いを「時」ではなく「今とのつながり」で捉えられるかが分かれ目になります。現在完了の4用法を別々に暗記させるのではなく、まず「過去から今までの幅」という共通イメージを作り、そのうえで用法ごとの焦点の違いを整理すると、混乱が減ります。

高校生の場合、現在完了進行形や過去完了との対比が加わります。現在完了が使えない生徒は、過去完了や未来完了でも同じつまずきを繰り返す傾向があります。完了形の共通原理である「基準時より前に起きたことを、基準時との関わりで述べる」という考え方を、現在完了の段階でしっかり作っておくことが、後の学習の負担を軽くします。

よくある誤読——研究結果を「相が先に習得されるから時制は後でよい」と読むのは誤りです

誤読その1:相の優位性を「時制の指導を遅らせてよい」と解釈する

相の優位性に関する研究は、学習者が自然な習得過程で相の区別を先に捉える傾向があることを示しています。しかし、これを「時制の指導は後回しでよい」「現在完了を教える前に相だけを教えればよい」と読むのは誤りです。この研究は習得の順序に関する記述であり、指導の順序を直接指示するものではありません。

Andersen R, Shirai Y. The Primacy of Aspect in First and Second Language Acquisition. Handbook of Second Language Acquisition. 1996:527-570.

むしろ、教室では時制と相を対比させながら教えることが有効です。過去形と現在完了を並べて示し、同じ出来事を異なる見方で表現できることを体験させる活動は、相の観点を育てると同時に時制の理解も深めます。研究結果を「何かを省く根拠」にせず、「何を対比的に扱うか」の手がかりとして読むことが大切です。

誤読その2:形式・意味・用法の区別を「形式は軽視してよい」と解釈する

形式・意味・用法の三層を区別する研究は、形式ができても意味と用法が自動的には身につかないことを示しています。しかし、これを「形式練習は不要だ」と読むのも誤りです。形式が安定していなければ、意味や用法に注意を向ける余裕は生まれません。問題は形式練習だけに偏ることです。

Yang J. Review. Tense and aspect in second language acquisition: form, meaning, and use. K Bardovi-Harlig. Applied Linguistics. 2001;22(4):542-544.

正しい読み方は、形式・意味・用法のそれぞれに段階的に注意を配分するということです。まず形式を導入し、次に意味の違いを対比させ、最後に文脈の中で使う活動へ進む。この順序を意識するだけで、現在完了の指導は大きく変わります。形式を軽視するのではなく、形式を土台にしながら意味と用法へ注意を移していくのです。

今週やること——現在完了と過去形の対比を、短い活動で毎日続けます

  1. 1日1回、身の回りの出来事を「過去の一点」と「今につながる」の2通りで言い分ける練習をします。たとえば「朝、財布を忘れた」と「財布を忘れてしまって、今困っている」を英語で言い分けます。
  2. 現在完了の文を作ったら、必ず「今とのつながりは何か」を一文で説明します。「I have lost my key.」なら「今も見つかっていないから」と理由を添える習慣をつけます。
  3. 過去を表す語句(yesterday, last week, ago など)と現在完了が一緒に使えない理由を、自分の言葉で説明できるようにします。「過去の一点を指すから」という説明ができれば、理解は定着しています。

この記事で言えないこと

第一に、本記事で参照した研究は、特定の学習者集団を対象とした第二言語習得研究の知見です。日本の教室で学ぶ中学生・高校生にそのまま当てはまるとは限りません。学習環境、母語、年齢、指導方法の違いが習得過程に影響を与えるため、研究結果は傾向として捉えるべきです。

第二に、現在完了が使えない原因は、本記事で挙げた母語の干渉や相の観点の不足だけではありません。個々の生徒の語彙力、読解力、学習意欲、これまでの文法知識の定着度によって、つまずきの様相は大きく異なります。ある生徒には形式の不安定さが主因であり、別の生徒には用法の判断が主因であることもあります。

第三に、本記事で示した指導手順は、すべての生徒に同じ効果をもたらすとは限りません。1対1の対話を通じて生徒の考えを引き出す方法は有効ですが、それだけで現在完了の使用が安定するわけではありません。長期的な反復と、多様な文脈での使用経験が必要です。本記事はあくまで一つの出発点としてお読みください。

当塾の立場

現在完了と過去形の区別は、家庭でもできることが多くあります。本記事で示した「過去の一点か、今につながるか」を日常の出来事で言い分ける練習は、保護者の方との会話の中でも可能です。まずは家庭で、日本語の文を二つの見方で言い分けることから始めてみてください。それだけでも、時間の捉え方に対する意識は変わります。

そのうえで、塾が担えるのは、生徒が自分では気づかない誤用のパターンを観察し、その場で修正する対話です。たとえば、生徒が現在完了を使うべき文脈で過去形を使ったとき、「今も関係している?」と問いかけ、生徒自身に判断をやり直させる手順を繰り返します。この即時のフィードバックと再判断の積み重ねは、一人での学習では再現しにくい部分です。

出典

  1. Yang J. Review. Tense and aspect in second language acquisition: form, meaning, and use. K Bardovi-Harlig. Applied Linguistics. 2001;22(4):542-544.
  2. Andersen R, Shirai Y. The Primacy of Aspect in First and Second Language Acquisition. Handbook of Second Language Acquisition. 1996:527-570.

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