連載「単元別のつまずき研究——その単元で、生徒は実際に何をどう誤るか」全50回の第30回です。学習の仕方の目次を見る
「先生、恐竜がいたのって、氷河期のあとですよね」——中学1年生のその言葉に、講師は一瞬、何から直せばよいのか迷います。恐竜と氷河期はどちらも「大昔」という大きな箱に入っていて、前後関係が問われると急にあいまいになるのです。
地層の単元では、堆積のようすや化石の種類とともに、地質時代の流れを扱います。ところが生徒の多くは、示相化石と示準化石の区別以前に、「億年」という時間の長さそのものにつまずいています。古生代と中生代の順番を丸暗記しても、それが自分の知っている時間の感覚とつながらないため、テストが終われば混ざってしまいます。
今回は、地質時間に関する研究をもとに、生徒が「億年」をどのようにとらえているのかを整理します。そのうえで、1対1の指導で使える具体的な問いかけと、学年別の注意点をまとめます。
要点(結論から)
- 生徒は「大昔」を、極端に古いものと、それほど古くないものの2つに大きく分けてとらえる傾向があります。そのため、古生代と中生代の前後が入れ替わっても、本人はあまり違和感を持ちません。
- 地質時間の理解には、できごとを順番に並べる力と、かかった時間の長さを判断する力の両方が必要です。この2つは、ふだんの時計や暦の感覚と地続きです。
- 「億年」を実感できない原因は、数の大きさだけではありません。身近な時間の感覚を、そのまま地質時間に応用する経験が不足していることにあります。
結論——地質時間のつまずきは暗記不足ではなく時間感覚の未接続から生じる
- 生徒は「大昔」を、極端に古いものと、それほど古くないものの2つに大きく分けてとらえる傾向があります。そのため、古生代と中生代の前後が入れ替わっても、本人はあまり違和感を持ちません。
- 地質時間の理解には、できごとを順番に並べる力と、かかった時間の長さを判断する力の両方が必要です。この2つは、ふだんの時計や暦の感覚と地続きです。
- 「億年」を実感できない原因は、数の大きさだけではありません。身近な時間の感覚を、そのまま地質時間に応用する経験が不足していることにあります。
- 示準化石の暗記に進む前に、まず「どのできごとが先か」を自分の言葉で説明できる状態を作ることが大切です。順番の根拠を持たない暗記は、すぐに崩れます。
- 地質時間の指導では、長さを正しく言い当てることよりも、できごとの前後関係と「なぜそう言えるか」を重視すると、その後の理解が安定します。
理由——地質時間は身近な時間の延長としてとらえられていない
子どもは地質のできごとを2つの時間帯に分けて考える
地質時代の説明を聞いた生徒に「氷河期と大陸の移動、どちらが先だと思うか」と尋ねると、答えは大きく分かれます。しかし、その分かれ方には共通の型があります。できごとを「極端に古いもの」と「それほど古くないもの」の2つのまとまりに分け、その中での細かい順番には注意を向けないのです。
この傾向は、イギリスの10歳から11歳の子どもを対象にした研究でも報告されています。子どもたちは氷河期や大陸の移動といった大きなできごとの存在は知っていますが、それらを時間軸に沿って正しく並べることはほとんどできませんでした。
Trend R. An investigation into understanding of geological time among 10‐ and 11‐year‐old children. International Journal of Science Education. 1998;20(8):973-988.
ここで重要なのは、子どもが「何も知らない」わけではないという点です。氷河期という言葉も、大陸が動くという考えも、断片的には知っています。ただ、それらが一つの時間の流れの上に置かれていないのです。頭の中では、いくつかのできごとが「大昔」という同じ引き出しに入っていて、引き出しの中の順番は問われないままになっています。
授業で「古生代」「中生代」「新生代」と板書しても、生徒の頭の中では3つの言葉が同じ「大昔」の引き出しに収まることがあります。言葉としては覚えても、順番を問う問題で入れ替わるのは、このためです。
地質時間には「順番」と「長さ」の2つの判断が必要になる
地質時間の理解は、一つの能力だけで成り立つものではありません。できごとを時間の流れに沿って並べる力と、それぞれのできごとにかかった時間の長さを判断する力の、少なくとも2つが必要です。たとえば「ある地層が堆積するのにどれくらいの時間がかかったか」を考えるとき、私たちは順番と長さの両方を使っています。
この2つは、実は地質時間に限った特別な力ではありません。1日の予定を立てるときも、歴史上のできごとを並べるときも、私たちは同じように「順番」と「長さ」を考えています。つまり地質時間の理解は、日常的な時間の理解と無関係ではないのです。
Cheek K. Exploring the Relationship between Students’ Understanding of Conventional Time and Deep (Geologic) Time. International Journal of Science Education. 2013;35(11):1925-1945.
この研究では、13歳から24歳の学習者を対象に、日常的な時間と地質時間の課題を比べる面接調査が行われました。その結果、できごとの順番を並べる課題では多くの学習者が成功しましたが、長さを判断する課題では答えのばらつきが大きくなりました。順番はできても、長さの感覚が追いつかないのです。
教室で見られる「古生代は長い、新生代は短い」という知識も、この長さの判断に関わります。しかし、長さの判断は数字を覚えるだけでは身につきません。身近な時間の感覚を、大きな時間の尺度にどう重ねるかという経験が必要です。
空間のイメージは助けにもなれば妨げにもなる
地質時間を説明するとき、私たちはよく長いテープや巻物、年表のような空間的なイメージを使います。これは有効な手立てですが、同時に注意も必要です。空間のイメージを時間に当てはめる考え方は、正しい答えを導くこともあれば、そうでないこともあります。
Cheek K. Exploring the Relationship between Students’ Understanding of Conventional Time and Deep (Geologic) Time. International Journal of Science Education. 2013;35(11):1925-1945.
たとえば「長い線の上にできごとを置く」という作業は、順番を考える助けになります。一方で、線の長さと時間の長さを無理に対応させようとすると、かえって混乱する場面もあります。地層の厚さと堆積時間を単純に比例させて考える誤りは、その一例です。
指導では、空間的な補助を使うこと自体をやめるのではなく、それが「たとえ」であることを意識させることが大切です。長いテープは時間そのものではなく、時間を考えるための道具にすぎません。この区別があると、生徒はイメージに振り回されにくくなります。
誤答の例——地質時代の順番と長さで何が起きているか
| よくある誤答 | その子が考えていること | 確かめる問いかけ |
|---|---|---|
| 「恐竜が絶滅したあとに、三葉虫が現れた」 | どちらも「大昔の生き物」で、古い順の手がかりを持っていない | 「三葉虫の化石が出る地層と、恐竜の化石が出る地層では、どちらが下にあると思う?」 |
| 「古生代と新生代の間に中生代がある」と言えない | 3つの時代名は知っているが、真ん中がどれかという位置の感覚がない | 「古い・中くらい・新しいの3つに分けるとしたら、名前の『中』はどこに入りそう?」 |
| 「地球ができてから、すぐに恐竜がいた」 | 地球の歴史と恐竜の時代を、同じ「最初のころ」としてまとめている | 「地球ができてから恐竜が現れるまで、海はあったと思う? では海の時代はどこに入る?」 |
| 「地層は1年で1枚ずつできる」 | 身近な時間の感覚をそのまま地層に当てはめ、堆積の長さを短く見積もる | 「では、この厚さの地層ができるまで、どれくらいの年数がかかるか、長い目で考えてみよう」 |
| 「示準化石は、その地層ができた場所を教えてくれる」 | 示相化石と示準化石の役割を逆に覚えている | 「その化石が『時代を指す』のか『環境を指す』のか、漢字の意味から考えてみよう」 |
机の前で1対1で確かめるときは、次の手順が有効です。
- まず「大昔のできごと」を3つ挙げさせ、それらを古い順に並べてもらいます。正誤は問わず、並べた理由を言葉にさせます。
- 次に、長い紙テープを1本用意し、左端を「地球ができたころ」、右端を「現在」とします。挙げたできごとをテープのどこに置くかを考えさせます。
- 置いた位置について「なぜそこに置いたのか」を尋ねます。このとき、正しい位置を教えるのではなく、判断の根拠を引き出します。
- 教科書の地質年表と見比べ、置いた位置とのずれを一緒に確認します。ずれの大きさを「間違い」ではなく「感覚の差」として扱います。
- 最後に、もう一度3つのできごとを並べ直し、最初の並べ方と何が変わったかを話してもらいます。
小学生では、地質時代の名前を覚えることよりも、「大昔にも順番がある」という感覚を持つことが先です。恐竜の図鑑や化石の話を入り口に、できごとの前後を並べる活動が適しています。中学生では、示相化石と示準化石の区別とあわせて、地質年表の見方を丁寧に扱います。年表の目盛りが等間隔ではないことに気づかせるだけでも、長さの感覚が変わります。高校生では、堆積速度や放射性年代測定の考え方に触れるため、順番と長さの区別がより重要になります。長さを判断する課題でばらつきが出やすいという研究結果は、高校生を含む幅広い年齢で見られるため、基礎の確認を省かないことが大切です。
よくある誤読——研究結果をどう使わないか
「子どもは地質時間を理解できない」と決めつける誤用
研究で「順番を並べるのが難しい」という結果が出ると、それを「この年齢では地質時間を教えても無駄だ」と読んでしまうことがあります。しかし、これは研究の読み方として正確ではありません。子どもたちは氷河期や大陸の移動といったできごとの存在を認識しており、まったくの無知ではありません。問題は、知識がないことではなく、知識が時間軸に沿って整理されていないことです。
Trend R. An investigation into understanding of geological time among 10‐ and 11‐year‐old children. International Journal of Science Education. 1998;20(8):973-988.
つまり、指導の出発点は「何も知らないから教える」ではなく、「断片的に知っていることを時間の流れに置き直す」ことにあります。この読み方をすると、授業の組み立ても変わってきます。最初から年表を暗記させるのではなく、すでに知っているできごとを並べる活動から始めるのが自然です。
「順番ができれば十分」と短絡する誤用
一方で、順番を並べる課題の成功率が比較的高いことだけを取り上げて、「順番さえ覚えれば地質時間は理解できる」と考えるのも誤用です。長さを判断する課題では、答えのばらつきが大きくなるという結果があります。
Cheek K. Exploring the Relationship between Students’ Understanding of Conventional Time and Deep (Geologic) Time. International Journal of Science Education. 2013;35(11):1925-1945.
順番と長さは、地質時間を支える2本の柱です。順番ができても、長さの感覚が伴わなければ、「古生代は長い」という知識が「ではどれくらい長いのか」という問いに答えられないまま残ります。指導では、順番の確認と長さの実感を、別々の活動として用意することが必要です。
今週やること——地質時間の感覚を作る3つの手順
- 生徒が知っている「大昔のできごと」を3つ挙げさせ、古い順に並べてもらいます。正誤をすぐに言わず、並べた理由を必ず聞きます。
- 長い紙テープを用意し、左端を「地球ができたころ」、右端を「現在」として、挙げたできごとを置かせます。置いた位置の根拠を言葉にさせます。
- 教科書の地質年表と見比べ、ずれを確認します。そのうえで、もう一度並べ直し、最初の考えと何が変わったかを短く書いてもらいます。
この記事で言えないこと
第一に、ここで紹介した研究は、特定の国と年齢層を対象にしたものです。イギリスの10歳から11歳の子どもを対象にした研究と、アメリカの13歳から24歳の学習者を対象にした研究であり、日本の教室にそのまま当てはまるとは限りません。教育課程や日常で触れる地学の情報量が異なれば、つまずきの現れ方も変わります。
第二に、これらの研究は地質時間の理解の一部を面接や課題でとらえたものであり、授業実践の効果を測ったものではありません。どのような教え方が有効かについては、この記事の手順が一つの提案ではあっても、研究によって効果が確かめられたわけではないことを断っておきます。
第三に、生徒のつまずきには個人差があります。地質時間の感覚がすでに身についている生徒もいれば、時間の順番以前に「大昔」という言葉自体があいまいな生徒もいます。この記事の内容は、あくまで典型的な傾向として読み、個々の生徒の反応に応じて調整することが前提です。
当塾の立場
地質時間の感覚を作る第一歩は、家庭でもできます。図鑑や動画で恐竜や化石に触れたあと、「どっちが先だと思う?」と親子で話すだけでも、時間の順番を意識するきっかけになります。紙テープにできごとを置く活動も、特別な道具は必要ありません。まずは家庭でできることを試していただくのがよいと考えます。
そのうえで、塾が担える部分があるとすれば、生徒の誤答をその場で言葉にさせ、整理し直すことです。たとえば「恐竜が先、三葉虫があと」と並べた生徒に、地層の上下関係を一緒に確認しながら「では、三葉虫の化石が出る地層は恐竜の地層より上にあるはずだね。本当にそうなるかな」と問いかける手順は、1対1の対話でこそ機能します。当塾では、このような誤答の理由を聞き取る対話を、地層の単元に限らず大切にしています。
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出典
- Trend R. An investigation into understanding of geological time among 10‐ and 11‐year‐old children. International Journal of Science Education. 1998;20(8):973-988.
- Cheek K. Exploring the Relationship between Students’ Understanding of Conventional Time and Deep (Geologic) Time. International Journal of Science Education. 2013;35(11):1925-1945.

