連載「単元別のつまずき研究——その単元で、生徒は実際に何をどう誤るか」全50回の第11回です。学習の仕方の目次を見る
「太郎さんはみかんを3個、花子さんは5個持っています。合わせて何個でしょう」。この問題で、子どもが「3」と「5」を見つけて「3+5」と書く。正解です。では、「太郎さんはみかんを3個持っています。花子さんは太郎さんより5個多く持っています。花子さんは何個持っていますか」となると、同じように「3」と「5」を拾って「3+5」と書く子がいます。これも正解です。ところが、数字の拾い方だけが身についていると、少し形が変わっただけで手が止まります。
文章題の指導では「キーワードを見つけよう」と言われることがあります。「合わせて」なら足し算、「残りは」なら引き算というようにです。この方法は短期的には正答率を上げますが、問題の構造を読まないまま数だけを操作する癖を作ることがあります。今回の主題は、文章題の立式で「数だけ拾って計算してしまう」というつまずきです。
この記事では、文章題で子どもが数字を拾って計算してしまう背景に、どのような読み方の癖があるのかを整理します。そのうえで、実際の誤答例と、机の前で1対1で確かめる手順を示します。研究知見を引きながら、指導の場で使える具体的な問いかけまで落とし込みます。
なお、ここで扱うのは「文章を読まずに数字だけを見る」という行動の質的な特徴です。特定の教材や学年に限定した数値的な効果を示すものではありません。読み方の癖を変えるための観点としてお読みください。
要点(結論から)
- 文章題で数だけを拾って計算する子は、「どの数とどの数をどう組み合わせるか」を、場面の理解ではなく、文中の手がかり語や数の出現順に頼って決めています。
- 「合わせて」「残りは」などの言葉は、演算を決める絶対の合図ではなく、場面を確認するための補助にすぎないと教える必要があります。
- 立式の前に、数量の関係を自分の言葉で言い直す段階を挟むと、数だけを拾う読み方から離れやすくなります。
結論——文章題の立式では、数値の拾い方と場面の読み方の順序を入れ替える必要があります
- 文章題で数だけを拾って計算する子は、「どの数とどの数をどう組み合わせるか」を、場面の理解ではなく、文中の手がかり語や数の出現順に頼って決めています。
- 「合わせて」「残りは」などの言葉は、演算を決める絶対の合図ではなく、場面を確認するための補助にすぎないと教える必要があります。
- 立式の前に、数量の関係を自分の言葉で言い直す段階を挟むと、数だけを拾う読み方から離れやすくなります。
- 誤答の多くは計算力の問題ではなく、問題文から状況を組み立てる段階での読み落としや読み誤りから生じています。
- 指導では、正しい式を教える前に「その式で何を求めたのか」を説明させる手順が有効です。
理由——数だけを拾う読み方は、文章題の読み方の癖として形成されます
手がかり語が演算の判断をゆがめることがあります
文章題には「合わせて」「残りは」「全部で」といった言葉がよく出てきます。これらの言葉は、問題を作る側が演算の方向を示すために置くことが多いのですが、読み手がそれを過度に頼りにすると、場面の意味を考えずに式を立てるようになります。たとえば「残りは」と書いてあれば引き算、というようにです。
このような手がかり語への依存は、問題文の表面だけをなぞる読み方と結びついています。文章の中で目立つ数字と、演算を示しそうな言葉だけを拾い、それ以外の情報を読み飛ばすのです。問題文が短く、数字が2つしか出てこないうちは正解できますが、数字が3つ以上になったり、不要な数が含まれたりすると、どの数をどう使うかの判断ができなくなります。
手がかり語がむしろ干渉要因として働くことを示した研究があります。
Nesher P, Teubal E. Verbal cues as an interfering factor in verbal problem solving. Educational Studies in Mathematics. 1975;6(1):41-51.
この研究は、文中の言葉が問題解決の手がかりとして機能するどころか、誤った演算の選択を誘発する場合があることを指摘しています。つまり、「この言葉があるから足し算」という教え方は、問題によっては正答を妨げる方向に働くのです。
現実的な場面を考えずに、数の操作として処理してしまうことがあります
文章題は、現実の場面を算数・数学の言葉で表したものです。ところが、数だけを拾って計算する子は、問題文を現実の場面として受け止めていません。登場人物が何をしていて、何が問われているのかを想像する前に、数字を操作する対象として見ています。
たとえば「バスに12人乗っています。7人降りました。また4人乗ってきました。今、何人乗っていますか」という問題で、「12」と「7」と「4」を拾い、出現順に「12−7+4」と計算するのは、まだ場面を追えている方です。しかし、場面を追わずに「12と7と4があるから、とりあえず全部足す」という子もいます。この子にとっては、数字は意味を持つ量ではなく、計算するための材料にすぎません。
文章題を現実的な場面として考えることの重要性は、算数教育の文章題研究の中で繰り返し論じられてきました。
Verschaffel L, De Corte E, Lasure S, et al. Realistic considerations in mathematical modeling of school arithmetic word problems. Learning and Instruction. 1994;4(4):273-294.
この研究は、学校の算数の文章題に対して、学習者が現実的な考慮をどの程度働かせるかを検討したものです。問題文を現実の状況として捉えるか、それとも単なる計算のための形式として捉えるかで、立式の質が変わることを示唆しています。
文章題を「意味を作る」活動として捉える視点が欠けると、数拾いが固定化します
文章題の指導では、答えを出すこと自体が目的になりがちです。しかし、文章題の学習で大切なのは、問題文から数量の関係を読み取り、それを式という形で表現する過程です。この過程を省略して「どの数を使うか」「どの演算か」だけを教えると、子どもは文章題を「数を見つけて計算する課題」として理解します。
文章題を意味のある活動として捉える視点は、文章題研究のレビューでも中心的な論点になっています。
Selter C. Verschaffel, L., Greer, B., and de Corte, E., Making Sense of Word Problems. Educational Studies in Mathematics. 2000;42(2):211-213.
ここで紹介されているのは、文章題を「意味を作る」過程として捉える立場です。子どもが問題文の状況を理解し、その状況を数学的な表現に変換するという一連の活動を、指導の中でどう支えるかが問われています。数だけを拾う読み方は、この「意味を作る」段階が抜け落ちた状態と言えます。
つまり、数だけを拾って計算してしまう背景には、手がかり語への依存、現実場面の無視、意味形成の省略という3つの要因が重なっています。これらは別々のものではなく、文章題を「読む」活動を「数字と演算の組み合わせを当てる」活動に縮めてしまった結果として現れます。
誤答の例——数だけを拾う読み方が式にどう現れるか
| よくある誤答 | その子が考えていること | 確かめる問いかけ |
|---|---|---|
| 「花子さんは太郎さんより5個多く持っています。太郎さんは3個です。花子さんは何個ですか」で「3+5=8」ではなく「5−3=2」と書く | 「より多く」の「多く」から足し算を連想せず、数字の並び順で「5−3」を選んでいる | 「5個多いのは、どちらの人ですか。多い方を求めるのに、引いてもいいのかな」 |
| 「1本80円の鉛筆を3本買いました。500円出しました。おつりはいくらですか」で「80+3+500」と書く | 問題文に出てきた数字を全部使わなければならないと思っている | 「この式で計算すると、何が出てきますか。おつりを求めるのに、どの数が必要ですか」 |
| 「兄は弟より6枚多くカードを持っています。弟は9枚です。兄は何枚ですか」で「9−6=3」と書く | 「多く」とあっても、小さい数から大きい数を引くという形に引きずられている | 「兄と弟、どちらが6枚多いのですか。9枚より6枚多いのは、9枚より多いはずですか、少ないはずですか」 |
| 「みかんが8個あります。りんごはみかんより3個少ないそうです。りんごは何個ですか」で「8+3=11」と書く | 「少ない」を読み落とし、「3個」という数だけを見て足している | 「りんごはみかんより多いのですか、少ないのですか。少ないなら、8個よりどうなりますか」 |
| 「バスに15人乗っています。7人降りて、6人乗ってきました。今、何人ですか」で「15+7+6」と書く | 「降りて」を「増える」と取り違えているか、言葉を確認せずに全部足している | 「7人はバスに乗ってきたのですか、降りたのですか。降りたなら、人数は増えますか、減りますか」 |
机の前で1対1で確かめるときは、次の手順が有効です。
- まず、式を消さずに残したまま「この式で何を求めたの」と尋ねます。式の意味を説明できない場合は、数拾いの可能性が高いです。
- 問題文を一文ずつ音読させ、それぞれの文が「増える話か、減る話か、比べる話か」を言わせます。数字を読む前に、場面の方向を言葉にさせます。
- 「この問題に出てくる数は、全部使う必要があるのか」を一緒に確認します。不要な数が含まれる問題を1問混ぜて、数の取捨選択を意識させます。
- 式を立てたあと、その式の答えが問題文のどの部分に対応するかを指ささせます。答えの単位や対象が問題文の問いと合っているかを確認します。
- 最後に、同じ場面で数字だけを変えた問題を1問出し、同じ手順で立式できるかを確かめます。
小学生では、まず「合わせて」「残りは」などの言葉に頼らない読み方を育てることが中心になります。問題文の場面を絵や図に描かせてから式を立てる段階を挟むと、数字を拾う前に状況を整理できます。中学生では、文字式や方程式の文章題で、数量の関係を「何をxにするか」と同時に「残りの数量はxを使ってどう表すか」を言葉で書かせることが有効です。高校生では、問題文に現れる数値のうち、立式に不要なものをあえて混ぜた問題で、条件の取捨選択を意識させると、数拾いの癖が残っているかどうかが見えやすくなります。
よくある誤読——研究知見を「手がかり語は教えるな」と単純化しないこと
誤読その1:手がかり語を一切使わない指導が正しい、と読むこと
手がかり語が干渉要因になりうるという研究は、「手がかり語を教えるな」という単純な結論を導くものではありません。問題は、手がかり語そのものではなく、手がかり語だけで演算を決めようとする読み方です。「合わせて」という言葉は、多くの問題で足し算の場面を示す手がかりとして機能します。それを否定する必要はありません。
正しい読み方は、手がかり語を「確認のための補助」として位置づけることです。式を立てたあとに「この言葉は、自分の式と合っているか」を確かめるために使うのです。最初に言葉で演算を決めるのではなく、場面を読んで演算を決めたあとで、言葉がその判断を裏付けるかどうかを確認する順序にします。
誤読その2:文章題はすべて現実的に考えさせるべきだ、と読むこと
文章題を現実的な場面として考えることの重要性を示す研究は、すべての問題で現実の細部まで考慮させるべきだという主張ではありません。学校の文章題には、学習のために単純化された設定が含まれます。たとえば、買い物の問題で消費税を考えない、速さの問題で信号待ちを考えない、といった単純化は、学習の段階では必要なものです。
ここで言う「現実的に考える」とは、問題文の場面を自分の経験に照らして「何が起きているか」を理解するということです。数値の操作に没頭する前に、登場人物や物の動きを思い浮かべる段階を指します。現実の細部をすべて持ち込むこととは区別する必要があります。
今週やること——数拾いの癖を検出して、場面を読む順序に切り替える
- お子さんに文章題を1問解かせたら、式と答えだけでなく「この式で何を求めたのか」を口頭で説明させます。説明できない場合は、数拾いの可能性を疑います。
- 問題文を音読させ、「この文は、増える話? 減る話? 比べる話?」と一文ずつ分類させます。数字を読む前に、場面の方向を言葉にさせることが目的です。
- 不要な数が含まれる文章題を1問作り、一緒に解きます。「この数は使わなくていい」と判断できるかどうかで、数の取捨選択ができているかを確かめます。
この記事で言えないこと
第一に、この記事で示したのは、文章題の立式における「数だけを拾う」という読み方の質的な特徴です。どのくらいの割合の子どもがこのつまずきを持つか、どの指導法がどの程度の効果を持つかといった数値的なことは、ここでは述べていません。指導の効果は、子どもの読解力や数量感覚、問題の難易度によって大きく変わります。
第二に、数だけを拾う行動は、文章題の経験不足から来る場合もあれば、読解そのものの困難から来る場合もあります。また、注意の向け方や作業記憶の容量といった認知的な要因が関わることもあります。この記事で扱ったのは、あくまで文章題の読み方の癖として現れる側面です。読解に困難がある場合は、国語の指導や別の支援が必要になることがあります。
第三に、ここで紹介した問いかけや手順は、すべての子どもに同じように有効とは限りません。特に、数拾いの癖が強く固定化している場合は、一度に多くの手順を入れず、場面を絵に描く段階だけをしばらく続けるといった調整が必要です。子どもの反応を見ながら、手順を取捨選択してください。
当塾の立場
数だけを拾って計算してしまう癖は、家庭でも十分に検出できます。問題文を音読させて「増える話か、減る話か」を言わせる、式の意味を説明させる、不要な数を混ぜた問題を出す——これらは特別な教材がなくてもできることです。まずは家庭で、お子さんが文章題をどう読んでいるかを観察してみてください。そのうえで、癖が強く出る場合に、塾での個別指導が選択肢になります。
当塾が担えるのは、数拾いの癖がどの段階で出ているかを、1対1の対話の中で特定することです。たとえば、問題文を音読させたあと、一文ずつ「この文は何を言っているか」を言い換えさせ、数字を拾う前に場面を言葉にできるかどうかを確認します。この手順を繰り返すことで、子ども自身が「自分は数字だけを見ていた」と気づく瞬間を作ることが、個別指導の役割だと考えています。
関連する記事
出典
- Verschaffel L, De Corte E, Lasure S, et al. Realistic considerations in mathematical modeling of school arithmetic word problems. Learning and Instruction. 1994;4(4):273-294.
- Nesher P, Teubal E. Verbal cues as an interfering factor in verbal problem solving. Educational Studies in Mathematics. 1975;6(1):41-51.
- Selter C. Verschaffel, L., Greer, B., and de Corte, E., Making Sense of Word Problems. Educational Studies in Mathematics. 2000;42(2):211-213.

