連載「単元別のつまずき研究——その単元で、生徒は実際に何をどう誤るか」全50回の第9回です。学習の仕方の目次を見る
「食塩水の問題、いけると思ったのに、答えが合わない」。テスト直しの場面で、中学生がそう言って答案を差し出します。式を見ると、濃度をそのまま足して2で割っています。混ぜるのだから真ん中になるはずだ、という顔つきです。
この「混ぜたら平均になる」という直感は、小学生の比の学習から高校の化学計算まで、長く尾を引きます。食塩水に限りません。濃さの違うジュースを混ぜる場面でも、速さの平均でも、割合の合成でも、同じ形の誤りが現れます。生徒はでたらめを言っているのではなく、自分なりに筋の通った操作をしています。だからこそ、正しい説明を一度聞いただけでは直りにくいのです。
今回は、比と濃度の単元で「混ぜると平均になる」という直感がなぜ生まれるのか、研究が示すつまずきの構造を踏まえて整理します。そのうえで、机の前で1対1の指導のときに使える具体的な誤答例と確かめる手順を紹介します。
要点(結論から)
- 生徒は「2つの量を合わせる」という日常的な経験から、濃度や比も足して2で割ればよいと考えがちです。
- この誤りは、数量が連続量で示されるときより、個数などの離散量で示されるときに強く現れます。
- 「平均」は全体をならす操作ですが、濃度は「全体のうちの特定の部分」を表すため、同じ足し算・割り算では合成できません。
結論——混ぜる操作と平均の操作を、生徒は同じものとして扱ってしまう
- 生徒は「2つの量を合わせる」という日常的な経験から、濃度や比も足して2で割ればよいと考えがちです。
- この誤りは、数量が連続量で示されるときより、個数などの離散量で示されるときに強く現れます。
- 「平均」は全体をならす操作ですが、濃度は「全体のうちの特定の部分」を表すため、同じ足し算・割り算では合成できません。
- 誤りの背景には、数値が一致するかどうかに注目してしまう傾向があります。数が合いそうだと、比の同等性の判断を数値の一致にすり替えてしまいます。
- 指導では、誤りを否定する前に「何を同じと見ているか」を言葉にさせ、全体量と部分量を分けて考える手順を踏むことが有効です。
理由——「混ぜる」経験と「数が合う」手がかりが、平均への近道を作る
混ぜるという日常経験が、足し算と割り算を呼び込む
濃度の問題で「混ぜる」という言葉が出た瞬間、生徒の頭にはコップとコップを合わせる映像が浮かびます。ジュースでも絵の具でも、何かを混ぜるとき、私たちは量を足し合わせます。そして、混ぜた後の味や色は「ちょうど真ん中くらい」になることが多い。この経験則は強力です。だから、10%の食塩水と20%の食塩水を混ぜたら15%になる、という式を書く生徒は、何も考えていないのではなく、日常の知恵をそのまま使っています。
ところが、濃度は「食塩水全体」と「食塩」という2つの量の比です。混ぜるときに足し算できるのは、食塩水全体の量と食塩の量であって、濃度そのものではありません。濃度は、全体量が異なる2つの集団を合わせるときに、それぞれの重みが違うため、単純な平均にはならないのです。この「重み」の感覚は、日常生活ではあまり意識されません。
比の学習でも同じことが起きます。2対3と3対4を「混ぜる」と、生徒は5対7のような足し算をしたくなります。比は部分と部分の関係を表すので、土台となる全体の大きさが違えば、そのまま足せません。しかし、混ぜるという言葉が、比の各項をそのまま足す操作を自然に見せてしまいます。
離散量になると、数値の一致が判断を乗っ取る
研究では、子どもが比例の問題を解くとき、連続量で示された場合と、個数などの離散量で示された場合とで、正答率に差が出ることが報告されています。連続量とは、水の量やリボンの長さのように、切れ目なく続いている量です。離散量とは、おはじきの個数や人数のように、一つずつ数えられる量です。
Boyer T, Levine S, Huttenlocher J, et al. Development of proportional reasoning: Where young children go wrong. Developmental Psychology. 2008;44(5):1478-1490.
この研究の要旨では、子どもが離散量を含む比例の問題でつまずくのは、数値的な一致が可能なときに限られる、と指摘されています。つまり、子どもは比例的な同等性を判断すべき場面で、数値の同等性という別の概念を当てはめてしまうのです。たとえば、3個のうち2個が赤い場合と、6個のうち4個が赤い場合を比べるとき、2と4という数が目に入ります。このとき、比例の関係としては同じでも、数値が違うから違うと判断してしまう。あるいは、数値を合わせようとして、本来は比で考えるべきところを引き算や足し算で処理してしまいます。
濃度の問題でも、パーセントの数値がそのまま目に入ります。10と20という数値があれば、平均の15という数値がすぐに計算できます。この「数値が手元にある」ことが、混ぜるという日常経験と結びついて、平均への近道をいっそう魅力的に見せます。生徒は、全体量という見えない土台を無視して、目の前の数値だけを操作しているのです。
比例の理解は段階を経て進むため、平均との区別は後から身につく
比例の概念は、一度に完成するものではありません。段階を追って発達することが、古くから指摘されています。
Noelting G. The development of proportional reasoning and the ratio concept Part I ? Differentiation of stages. Educational Studies in Mathematics. 1980;11(2):217-253.
初期の段階では、子どもは2つの量の差に注目します。次に、半分や2倍といった単純な整数比を扱えるようになり、その後に複雑な比を扱えるようになります。この発達の途中では、比を「足し算できるもの」として扱う時期があります。濃度の平均も、この発達の途上にある操作として理解できます。生徒は、比の各項を独立した数値として見て、それを足したり割ったりしているのです。
また、濃度のような「単位あたりの量」を意識的に扱う学習が、比例の理解を支えるという研究もあります。
Howe C, Nunes T, Bryant P, et al. RATIONAL NUMBER AND PROPORTIONAL REASONING: USING INTENSIVE QUANTITIES TO PROMOTE ACHIEVEMENT IN MATHEMATICS AND SCIENCE. International Journal of Science and Mathematics Education. 2010;9(2):391-417.
濃度は、食塩水全体の量と食塩の量という2つの量の関係から生まれる、いわば「濃さ」という新しい量です。このような量は、長さや個数のように直接数えることができません。生徒は、目に見える数値だけを追うのではなく、2つの量の関係として濃度を捉える必要があります。この捉え方が育っていないと、濃度を単なる数値として扱い、平均の計算に流れてしまいます。
誤答の例——「10%と20%を混ぜたら15%」の内側を見る
| よくある誤答 | その子が考えていること | 確かめる問いかけ |
|---|---|---|
| 10%の食塩水と20%の食塩水を同じ量ずつ混ぜて「15%」と答える | 10と20の真ん中だから15でしょ、と考えている | 「同じ量ずつ」なら確かに15%です。では、10%を100g、20%を300g混べたらどうなりますか |
| 10%の食塩水100gと20%の食塩水100gを混ぜて「30%」と答える | 混ぜるのだから濃さも足し算で増える、と考えている | 30%の食塩水200gには食塩が何g入っていますか。混ぜる前の食塩は全部で何gですか |
| 2対3と3対4を「混ぜて」5対7と答える | 比の各項をそれぞれ足せば新しい比になる、と考えている | 2対3は全体を5つに分けたうちの2つと3つです。3対4は全体を7つに分けたうちの3つと4つです。土台の分け方が違うのに、そのまま足せますか |
| 濃度の問題で、食塩水の量を無視してパーセントだけを足して2で割る | 問題文の数値のうち、目につくパーセントだけを使えばよい、と考えている | 食塩水の量が変わると、同じ10%でも食塩の量は変わります。まず食塩水全体の量を確認してみましょう |
| 「3個のうち2個が赤」と「6個のうち4個が赤」を「違う割合」と判断する | 2と4という数値が違うから、割合も違う、と考えている | どちらも「全体の3分の2」と言えますか。数が違っても、全体に対する部分の関係は同じかもしれません |
机の前で1対1で確かめるときは、次の手順が有効です。
- まず、生徒が書いた式や答えをそのまま読んでもらい、「どこでこの計算を思いついたか」を説明してもらいます。このとき、正誤の判定はしません。
- 次に、食塩水全体の量と食塩の量を、別々の行に書き出します。10%の食塩水100gなら、全体が100g、食塩が10g。20%の食塩水100gなら、全体が100g、食塩が20g。混ぜた後は全体が200g、食塩が30gであることを確認します。
- そのうえで、「混ぜた後の濃さは、全体200gのうち食塩30gだから、30を200で割って100をかける」という手順を、生徒自身に計算させます。ここで15%という答えが出ます。
- 最後に、「同じ量ずつ混ぜたから15%になった。では、量が違ったらどうなるか」と問いかけ、10%を100g、20%を300gの場合を一緒に計算します。全体が400g、食塩が10gと60gで70g。70を400で割って100をかけると、17と2分の1%になります。この「17と2分の1」という数値は、10と20の平均ではないことを確認します。
小学生では、まず「同じ量ずつ混ぜる」という特別な場合だけを扱い、平均で正解になる場面と、そうでない場面を比べることが有効です。コップの絵を描き、水の量が同じか違うかを目で見て判断させます。中学生では、食塩水の量と食塩の量を表に整理する習慣をつけます。パーセントの数値だけを拾って計算していないか、表のどの行を使ったかを確認します。高校生では、化学の濃度計算でも同じ誤りが現れます。モル濃度や質量パーセント濃度を混ぜるとき、溶液の体積や密度を無視して濃度だけを平均する誤りです。この場合も、溶質の量と溶液の量を分けて書く手順がそのまま使えます。
よくある誤読——「子どもは比例ができない」でも「連続量なら簡単」でもない
誤読その1:離散量の問題ができないのは、比例の理解が未熟だから仕方ない
研究結果を「子どもは離散量の比例ができない」とだけ受け取ると、指導の手が止まります。しかし、要旨が示すのは、子どもが誤るのは数値的な一致が可能な場合に限られる、という点です。つまり、離散量そのものが難しいのではなく、数値を比べるという別の手がかりが入り込むことで、比例の判断が乱されるのです。
この読み方をすると、指導の焦点が変わります。離散量の問題を避けるのではなく、数値の一致に注目しそうな場面で「本当に数が同じかどうかが問題なのか」と問いかけることが重要になります。たとえば、3個のうち2個と6個のうち4個を比べるとき、2と4という数値に目が行きます。ここで「全体のうちのいくつ分か」という見方を先に作ってから、数値を確認する順番にすると、誤りが減ります。
誤読その2:連続量の問題ができれば、比例の理解は十分である
逆に、連続量の問題ができるからといって、比例の理解が完成しているとは言えません。連続量では、数値の一致という手がかりが少ないため、正答しやすいだけかもしれません。水の量や長さは、目で見て「同じ濃さ」「同じ傾き」を判断できる部分があります。しかし、その判断が数値の操作と結びついていなければ、離散量の問題や、数値が複雑になった問題で再びつまずきます。
指導では、連続量でできた問題を、あえて離散量に置き換えて確認することが有効です。水の量をコップの数に、長さをおはじきの数に変えて、同じ比例関係が保たれるかを見ます。この往復によって、見た目の判断と数値の操作がつながります。
今週やること——「混ぜる」を「全体と部分に分ける」に置き換える
- 生徒が濃度や比の問題で平均を使ったら、まず「混ぜる前の全体の量」と「混ぜる前の注目する部分の量」を、問題文から2列の表に書き出させます。パーセントや比の値は、この表ができてから計算に使います。
- 「同じ量ずつ混ぜる」場合と「違う量で混ぜる」場合の2問を並べて解かせ、答えが平均になる場合とならない場合を、生徒自身に言葉で説明させます。
- 比の問題では、「全体をいくつに分けたか」を毎回書かせます。2対3なら全体は5、3対4なら全体は7。この土台の数が違うことを確認してから、比の各項を足してよいかを考えさせます。
この記事で言えないこと
第一に、ここで紹介した研究は、特定の課題と特定の年齢層を対象にしたものです。今回の誤答例は、日本の教室でよく見られるものを説明のために構成したものであり、すべての生徒に同じ順序で現れるとは限りません。比例のつまずきには、言語の理解、問題文の読解、計算の熟练など、さまざまな要因が関わります。
第二に、研究が示すのは傾向であって、個人の理解の全体像ではありません。離散量の問題で誤る生徒が、日常の場面では適切に比例を使えることもあります。また、同じ生徒でも、問題の文脈や数値の組み合わせによって正答したり誤答したりすることがあります。一つの誤りから「比例ができていない」と決めつけることはできません。
第三に、この記事で提案した手順は、1対1の指導で生徒の考えを引き出すための一例です。集団授業や家庭学習では、また別の工夫が必要です。特に、表に整理する方法は、生徒が自分で表を作れるようになるまでに時間がかかります。急がず、生徒のペースに合わせて進めることが前提です。
当塾の立場
今回の内容は、家庭でも十分に取り組めます。食塩水を実際に作る必要はありません。コップの絵を描き、水の量と食塩の量を分けて書くだけで、混ぜる操作と平均の操作の違いは見えてきます。比についても、おはじきや積み木を使って全体の分け方を確認すれば、土台の違いに気づけます。まずはご家庭で、お子さんが「混ぜたら平均」と計算したとき、その式を否定せずに「全体の量はどうなっているかな」と問いかけてみてください。
そのうえで、塾が担える部分があるとすれば、誤りのパターンを記録し、次の問題で同じ誤りが出ないかを継続的に見ることです。当塾では、生徒が書いた式をそのまま残し、数週間後に似た問題を解いたとき、表の書き方や問いかけへの答え方がどう変わったかを確認します。この「誤りの変化」を追うことは、ご家庭では手が回りにくい部分です。必要なときに、その記録をもとに次の一手を一緒に考えることができます。
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出典
- Noelting G. The development of proportional reasoning and the ratio concept Part I ? Differentiation of stages. Educational Studies in Mathematics. 1980;11(2):217-253.
- Howe C, Nunes T, Bryant P, et al. RATIONAL NUMBER AND PROPORTIONAL REASONING: USING INTENSIVE QUANTITIES TO PROMOTE ACHIEVEMENT IN MATHEMATICS AND SCIENCE. International Journal of Science and Mathematics Education. 2010;9(2):391-417.
- Boyer T, Levine S, Huttenlocher J, et al. Development of proportional reasoning: Where young children go wrong. Developmental Psychology. 2008;44(5):1478-1490.

