【最終回】50回の結論を1枚に——学びの意思決定のまとめ|武蔵野個別指導塾が薦める学習の仕方

連載「学びの意思決定——行動経済学・社会学・認知心理学から考える」全50回の第50回(最終回)です。学習の仕方の目次を見る

50回かけて、行動経済学、教育社会学、認知心理学、学習科学の知見を扱ってきました。最終回では、それらを1枚に収まる形にまとめます。覚えておくべきことは、思ったより少なく済みます。

この連載の一貫した立場は単純でした。人の意志や性格を変えようとせず、判断と環境の設計を変える。 50回の内容は、すべてこの一文の具体化として読めます。

要点(結論から)

  • 手応えを信じない。 その場でできた感覚は、数日後の再現を予測しない。
  • 判断の回数を減らす。 環境と手順を先に決め、疲れた自分に判断させない。
  • 閉じて、書き出す。 練習テストと分散学習は、最も評価の高い2つである。

結論——覚えておくのは5つでよい

  • 手応えを信じない。 その場でできた感覚は、数日後の再現を予測しない。
  • 判断の回数を減らす。 環境と手順を先に決め、疲れた自分に判断させない。
  • 閉じて、書き出す。 練習テストと分散学習は、最も評価の高い2つである。
  • 記録して、時間を空けて確かめる。 方法の評価も、自分の実力も、記録でしか測れない。
  • 条件は外側にもある。 情報、相談相手、場所。本人の努力の外にある要因を点検する。

5つのブロックが答えていた問い

第1ブロック——なぜ決めたとおりにできないのか

先延ばし、計画の外れ、やめられない教材、選べない参考書。これらの背景には、人の判断に共通する歪みがありました。目の前を重く見る、自分の所要時間を短く見積もる、過去の投資に引きずられる。

対処は一貫していました。歪みを直そうとせず、歪んだままでも動く形を作る。 締切を細かく前へ、環境の初期状態を変え、終わり方を設計する。

第2ブロック——努力の外にある条件

家庭が渡す言葉、相談できる相手、貼られる札、比べる相手、届く情報、見られている目。これらは本人の努力とは別の次元にあり、しかも結果を左右します。

ここでの立場は、諦めるためではなく手を入れる場所を特定するためでした。会話の型、相手の配置、確認の作業、過ごす場所。いずれも動かせます。

第3ブロック——頭の中の制約

一度に扱えるのは3〜5項目。切り替えには費用がかかる。忘却は時間ではなく混み合いによる。読めないのは背景知識の不足。自分で作ったものは残る。

これらは制約ですが、知っていれば設計できます。手順を分割し、条件を紙に出し、似たものを離し、答えを見る前に書く。

第4ブロック——練習をどう組み立てるか

誤りには種類がある。困難は後で効く。見積もりは甘くなる。反復には限界がある。支援は減らす計画が要る。段階によって正解が変わる。

そして最後に、10の学習方略が有用性の順に並べられました。上位2つは、練習テストと分散学習でした。

Dunlosky J, Rawson KA, Marsh EJ, Nathan MJ, Willingham DT. Improving Students’ Learning With Effective Learning Techniques: Promising Directions From Cognitive and Educational Psychology. Psychological Science in the Public Interest. 2013;14(1):4-58.

第5ブロック——状態と行動の管理

緊張は消せないが、影響は減らせる。意志力の残量を前提にしない。目標は具体的に、進捗は見える形に。合図を決めておく。習慣は文脈の反復から生まれる。不安は外に出す。身体の変化は解釈を変える。休憩は注意を奪わないものを。記録は、それ自体が介入である。

1つの手順に収まる

50の知見は、実務上は次の一続きの作業に収まります。

  1. 前夜に、翌日の1問目を開いて置く。 判断を1つ消す(第7回・第44回)。
  2. 机の上を、今日の1冊だけにする。 容量と誘惑の両方を減らす(第7回・第21回)。
  3. 範囲全体から、できなかった項目を選ぶ。 偏りを防ぐ(第27回)。
  4. 答えを見る前に、閉じて書き出す。 生成・手がかり・深い処理を同時に満たす(第24回・第25回・第29回)。
  5. 関係を図にして、言葉を添える。 経路を2本にする(第30回)。
  6. 区切って、確実にできることで終える。 翌日の抵抗を下げる(第9回・第26回)。
  7. やった範囲を1行記録する。 較正と配分の材料にする(第33回・第49回)。
  8. 数日空けて、同じ項目を確かめる。 分散と練習テスト(第34回・第40回)。

8段階に見えますが、実際には1回の勉強の流れそのものです。追加の時間はほとんどかかりません。順序と形式を変えているだけです。

どこから始めるか

50回分を一度に導入することはできません。始める順序を示します。

1週目——環境だけを変えます。机の上を今日の1冊にする。前夜に翌日の1問目を開いて置く。スマホを別の部屋に置く。勉強の中身は変えません。この週の目的は、取りかかりの回数を増やすことです。

2週目——終わり方と記録を足します。最後の10分を確実にできることに充て、やった範囲を1行書く。まだ勉強法そのものは変えません。

3週目——練習の形を変えます。答えを見る前に閉じて書き出す。これが最も効果が大きく、同時に最も手応えが悪い変更です。前の2週で土台ができていないと続きません。

4週目以降——間隔を空けた確認を足します。前週にやった内容を、予告なしに確かめる。ここまで来ると、上位2つの方略が日課に組み込まれた状態になります。

この順序には理由があります。最初に手応えの悪い変更を入れると、続く前に脱落します。環境の変更は手応えを悪くしないので、入口として安全です。第32回で述べたとおり、効く方法でも続かなければ結果は出ません。

それでも動かないとき

設計を整えても行動が変わらないことがあります。そのときに確認する順序を示します。

  1. 前提が欠けていないか。 内容が難しすぎて手が出ない状態では、どんな方法も働きません(第21回・第38回)。
  2. 合図が消えていないか。 生活が変わると、実施意図は働かなくなります(第44回)。
  3. 睡眠と体調はどうか。 意志や方法の問題として扱う前に、確認すべき部分です(第42回)。
  4. 相談できる相手がいるか。 詰まりが長く残る原因の多くは、聞ける相手の不在です(第13回)。
  5. 情報が届いているか。 進路や制度の情報が無いために、目標が立たない場合があります(第19回)。

1から5へ進むにつれて、本人の外側の要因になります。学習法の工夫は1と2の範囲を扱いますが、3以降は別の手当てが必要です。

「やる気がない」という説明で止まらないことが、この連載を通じての提案でした。止まらずに、この5つを順に見る。どれかに当たれば、対処が具体的に決まります。

なぜ、これが難しいのか

ここまでの内容に、特殊な道具も費用も出てきませんでした。それでも実行されないのはなぜか。理由は連載の中で繰り返し出てきました。

第一に、効く方法ほど手応えが悪いこと。閉じて書き出すのは苦しく、再読は気持ちがよい。

Soderstrom NC, Bjork RA. Learning Versus Performance: An Integrative Review. Perspectives on Psychological Science. 2015;10(2):176-199.

観察できるのは遂行であり、それは学習が起きたかどうかの指標として当てになりません。この構造がある限り、良い方法は選ばれにくいままです。

第二に、効果が見えるまで時間がかかること。差が出るのは数週間後です。その間、手応えの悪さだけが続きます。

第三に、先延ばしが起きること。課題が嫌であること、締切が遠いこと。これらは性格ではなく、課題の設計に属します。

Steel P. The nature of procrastination: A meta-analytic and theoretical review of quintessential self-regulatory failure. Psychological Bulletin. 2007;133(1):65-94.

691の相関を集めたメタ分析が示したのは、まさにこの点でした。動かせるのは、意志ではなく設計の側です。

情報の読み方として残るもの

この連載では、知見の紹介と同じくらい、読み方に紙幅を割いてきました。最後にまとめます。

  1. 誰を対象に、何を測ったか。 動物実験か、大学生か、教室か。対象が違えば結論も変わります。
  2. 比較の相手は何か。 「効果があった」は、何と比べてかを言わなければ意味を持ちません。
  3. 再現されているか。 有名な結果ほど、後の検証で縮むことがあります。
  4. 測ったのは遂行か、学習か。 直後の成績と、数週間後の保持は別物です。

この4つの点検は、学習法に限らず使えます。そして、点検を通らない情報でも、頭ごなしに退ける必要はありません。前提として使わないという扱い方ができれば十分です。

これは処方箋ではない

最後に、この連載の限界について書いておきます。ここに書いたのは手順であって、成果の保証ではありません。同じ手順を実行しても、結果は人によって違います。

違いを生むのは、前提知識の量、使える時間、周囲の条件、そして扱う内容の性質です。研究の知見は平均としての傾向を示すもので、個人の結果を予測するものではありません。第6回で述べたとおり、平均がゼロでも条件によっては大きく出る現象があり、その逆もあります。

したがって、この連載の使い方としては、候補の一覧として扱うのが正確です。どこを見るべきか、何を試す価値があるか。試した結果は、自分の記録で判断する。

そして、うまくいかなかった方法があっても、それは失敗ではありません。自分の条件に合わなかったという情報が得られたことになります。第31回で述べたとおり、誤りは仕組みから起きるので、仕組みを変えれば次があります。

保護者へ——50回の要点

家庭でできることを、3つに絞ります。

  1. 状態ではなく行動を問う。 「頑張ってる?」ではなく「どこまで進んだ?」。前者は気分を、後者は事実を扱います。
  2. 環境と情報を用意する。 場所、時間、進路の要件。本人には整えにくい部分です。
  3. 評価しない場面を1つ持つ。 記録を見るときも、説明を聞くときも、採点をしない。正確な情報が入ってくる経路を保ちます。

逆に、効果が薄いと分かっているのは、意志や性格への働きかけです。「もっとやる気を出して」「集中力をつけて」。いずれも、実行できる行動を指していません。

まとめた考え方を別の場面に当てはめる——進路と日常

この連載で扱った考え方は、試験の準備だけでなく、日々の学習の組み立てにも当てはめられます。たとえば、長期の課題に取りかかるときです。範囲を分け、進み具合を確かめ、行き詰まったときの対処をあらかじめ決めておく、という流れは、試験前と同じ形で使えます。

部活動や課外の活動でも、似た進め方が成り立ちます。目標を小さく区切り、その都度ふり返り、うまくいかないときの手順を用意しておくことで、行き詰まりが続きにくくなります。特別な道具は要らず、手元のノートで足ります。

時間帯でいえば、一日の始まりにその日の見通しを短く書き、終わりに実際に進んだ範囲を確かめる、という使い方があります。朝と夜の短い確認が、その日の学習の進み方に影響することがあります。

まとめを覚えること自体が目的になる——一枚に収まらない

まとめを読んで、すべてを同時に始めようとすると、かえって動けなくなることがあります。扱った内容は互いに関係していますが、一度に全部を実践する必要はありません。まず一つを選び、それが定着してから次に移る順序が現実的だと考えられます。

次に、うまくいかない日が続いたときに、まとめ自体が合わなかったと判断してしまう場合があります。日によって調子が違うことは前提としてあり、続かないことと合わないことは別だと考えられます。数日置いて、同じ手順に戻ってみる余地を残しておくことが助けになります。

また、手順を守ること自体が目的になってしまうこともあります。手順は状況に合わせて調整するものであり、守れない日があっても構いません。机の上に置くものを一つ減らす、確認の回数を変える、といった小さな調整で続けられる形に近づけていくことが大切です。

この連載で言えなかったこと

研究の知見は、平均としての傾向です。個々の生徒に当てはまるかどうかは、試して記録するしかありません。この連載が示せたのは、どこを見るべきかであって、何が正解かではありません。

また、扱った研究の多くは英語圏のものです。日本語の学習、日本の入試制度、日本の学校文化に固有の部分は、別の検討が要ります。各回の「この記事で言えないこと」に、そのつど書いてきたとおりです。

そして、効く方法を知ることと、それを続けることは別の問題です。50回のうち、半分近くが「続けるための設計」に費やされたのは、そのためでした。

当塾の立場

この連載で紹介した方法の大半は、家庭で、無料で、今日から実行できます。各回の末尾にそう書いてきました。それは方針ではなく、研究を読んだ結果です。

そのうえで、武蔵野個別指導塾が担えるのは、一人では維持しにくい部分です。継続して同じ担当が見ること質問できる相手が確実にいること進路の要件を一次情報で確認すること決まった曜日と席という文脈の一貫性。いずれも、構造で担保できる部分です。

意志や性格に働きかけることは、指導の仕事ではないと考えています。設計できる部分を設計し、測れる部分を測る。この連載は、その考え方を50回かけて説明したものでもあります。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。第1集から第4集までの目次から、必要な回に戻ってお使いください。

出典

  1. Dunlosky J, Rawson KA, Marsh EJ, Nathan MJ, Willingham DT. Improving Students’ Learning With Effective Learning Techniques: Promising Directions From Cognitive and Educational Psychology. Psychological Science in the Public Interest. 2013;14(1):4-58.
  2. Soderstrom NC, Bjork RA. Learning Versus Performance: An Integrative Review. Perspectives on Psychological Science. 2015;10(2):176-199.
  3. Steel P. The nature of procrastination: A meta-analytic and theoretical review of quintessential self-regulatory failure. Psychological Bulletin. 2007;133(1):65-94.

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