習慣ができるまでに何が起きているか——文脈と反応の連合|武蔵野個別指導塾が薦める学習の仕方

連載「学びの意思決定——行動経済学・社会学・認知心理学から考える」全50回の第45回です。学習の仕方の目次を見る

「習慣にしてしまえば楽になる」。よく言われますが、楽になるまでにどれくらいかかるのか、そして何が習慣を作るのかは、あまり語られません。日常生活の中で習慣形成を追跡した研究は、この点について具体的な示唆を与えています。

結論を先に言えば、必要なのは意志ではなく同じ文脈での反復です。そして、定着までの期間には大きな個人差があります。

要点(結論から)

  • 習慣は、反応と、その反応に共変してきた文脈の特徴との連合の緩やかな学習から生じる。
  • いったん形成されると、文脈を知覚するだけで反応が起こる。目標を経由しなくなる。
  • 日常生活での追跡研究では、96名が同じ文脈で毎日行動を繰り返し、自動性の変化が測定された。

結論——同じ合図で繰り返す。期間は人によって大きく違う

  • 習慣は、反応と、その反応に共変してきた文脈の特徴との連合の緩やかな学習から生じる。
  • いったん形成されると、文脈を知覚するだけで反応が起こる。目標を経由しなくなる。
  • 日常生活での追跡研究では、96名が同じ文脈で毎日行動を繰り返し、自動性の変化が測定された。
  • 自動性の増加は直線的ではなく、非線形のモデルで記述された。
  • 実務的には、同じ合図・同じ場所で繰り返すことと、定着までの期間を長く見積もることが要点になる。

理由——習慣とは何か

文脈と反応の連合

ウッドとニールは、習慣の制御機構と、習慣と目標の関係を整理したモデルを示しました。

Wood W, Neal DT. A new look at habits and the habit-goal interface. Psychological Review. 2007;114(4):843-863.

習慣は、反応と、それに歴史的に共変してきた遂行文脈の特徴——物理的な場所、先行する行為など——との連合が、緩やかに学習されることで生じます。いったん習慣が形成されると、文脈の知覚が、目標を媒介せずに反応を引き起こします

この記述は、実務的に重要な含意を持ちます。習慣を作るために必要なのは、意志の強さではなく文脈の一貫性だということです。毎回違う場所、違う時間、違う手順で行っていると、連合が作られません。

日常生活での追跡

ラリーらは、実験室ではなく日常生活の中で習慣形成を追跡しました。96名の志願者が、食事・飲み物・活動のいずれかの行動を選び、同じ文脈で(たとえば「朝食のあと」)毎日12週間実行します。

Lally P, van Jaarsveld CHM, Potts HWW, Wardle J. How are habits formed: Modelling habit formation in the real world. European Journal of Social Psychology. 2010;40(6):998-1009.

参加者は毎日、自己報告の習慣指標に記入し、行動を実行したかどうかを記録しました。82名が分析に足るデータを提供し、自動性の増加が期間を通じて検討されています。

結果の記述に非線形のモデルが用いられた点が重要です。自動性は一定の速度で上がるのではなく、最初は速く、次第に緩やかになる形で増加しました。そして、定着までに要する期間には大きな個人差がありました。

具体例——習慣になりやすい形とそうでない形

設計 文脈の一貫性 習慣化
毎日、夕食後に食卓で単語帳 高い しやすい
その日の空き時間に、どこかで勉強 低い しにくい
平日は塾、休日は家、時間帯もばらばら 低い しにくい
決まった曜日に2度、自習室 高いが頻度が低い 時間はかかるが可能

2行目と3行目は、量としては勉強しているのに習慣にならない典型です。総時間ではなく、文脈の一貫性が習慣化を決めます。

今日からできること

  1. 場所と合図を固定する。 第44回の実施意図と同じ形です。同じ場所、同じきっかけ。
  2. 量より頻度を優先する。 毎日5分のほうが、週に一度の30分より連合が作られます。
  3. 定着までの期間を、長く見積もる。 数週間で自動化しないのは普通です。
  4. 途切れた日を、失敗として数えない。 1日の中断で連合が消えるわけではありません。
  5. 最初の数週は、記録をつける。 自動化する前は、記録が合図の代わりになります。

学年で変えるところ

  • 小学生——生活の型が安定しているため、習慣化しやすい時期です。保護者が場所と順番を決めれば足ります。
  • 中学生——部活で生活が変動します。平日と休日で別の習慣を作るほうが現実的です。
  • 高校生——自分で生活を設計できます。逆に、変動要因が多いため、場所の固定が効きます。

習慣になると、目標を経由しなくなる

ウッドとニールのモデルで最も示唆に富むのは、習慣が形成された後は目標を媒介せずに反応が起こるという点です。やる気があるかどうかとは無関係に、文脈が反応を引き出します。

これは、実務的には大きな意味を持ちます。習慣化された行動は、動機づけの変動に影響されにくくなるからです。気分が乗らない日でも、いつもの場所に座れば、いつもの手が動きます。

逆に言えば、習慣ができるまでの期間は、動機づけに頼らざるをえません。ここが最も脱落しやすい時期です。だからこそ、この期間には第1ブロックで扱った設計——記録、締切、環境、終わり方——が必要になります。

整理すると、次の順になります。最初は意志と設計で支える。反復のうちに連合が作られる。連合ができたら、意志の負担が下がる。習慣化とは、意志への依存を減らしていく過程だと考えるのが正確です。

悪い習慣も、同じ仕組みでできている

この枠組みは、望ましくない行動にも当てはまります。帰宅してソファに座る、机に着いたらまずスマホを見る。いずれも、文脈と反応の連合です。

意志で止めようとすると、毎回の判断が必要になり、消耗します。より確実なのは、文脈のほうを変えることです。ソファの位置を変える、スマホを別の部屋に置く。連合の入力側を消せば、反応は起きません。

第7回で述べた環境設計は、この観点からも説明できます。誘惑に耐える力を鍛えるのではなく、誘惑と結びついた文脈を作らない。すでに連合ができている場合は、文脈を変えるほうが速く効きます。

実務的には、置き換えの形が扱いやすくなります。「帰宅したらソファ」を「帰宅したらかばんを机に置く」に置き換える。同じ合図に、別の反応を結びつけ直します。合図そのものは日常の一部なので、消せません。反応の側を変えるのが現実的です。

「何日で身につくか」という問いの答え

習慣化の期間については、特定の日数が広く流布しています。しかし、日常生活での追跡研究が示したのは、個人差が非常に大きいということでした。

差を生む要因はいくつかあります。行動の複雑さ——コップ1杯の水を飲むことと、30分の演習では違います。文脈の安定性——生活が規則的な人ほど連合が作られやすくなります。実行の頻度——毎日か、週に数回か。

したがって、「何日続ければ楽になるか」という問いには、一般的な答えがありません。実務的に言えるのは、想定より長くかかるということと、途中で自動化を実感できなくても異常ではないということです。

この予備知識があるだけで、続けやすさが変わります。数週間で楽にならないと「自分には向いていない」と結論する人が多いためです。第14回で述べたラベルが、ここでも働きます。

1日抜けたらどうなるか

習慣形成の過程では、実行できない日が必ず出ます。体調、予定、疲労。このとき、連合が振り出しに戻るわけではありません。

実務的に重要なのは、抜けた日そのものより、その後の再開です。1日抜けて、翌日戻れば影響は小さい。抜けた日を理由に記録をやめてしまうと、そこで途切れます。

第9回で述べたとおり、崩れた翌日に立ち上がれるかどうかが、仕組みの価値を決めます。習慣化の設計でも同じで、復帰の手順を先に決めておくことが有効です。「抜けた翌日は、量を半分にして再開する」といった形です。

この一行があると、抜けた日が終わりの合図になりません。全か無かの構えを避けることが、長く続ける条件になります。

何を習慣にすべきか

習慣化には時間がかかるので、対象を選ぶ必要があります。この連載の結論に沿えば、優先順位は明確です。

  1. 机に向かう最初の一手。 最大の障壁である開始を自動化します。効果が最も大きい部分です。
  2. 前日の内容を確認する数分。 第40回で述べた練習テストと分散を、日課として組み込みます。
  3. 終わりの記録。 その日やった範囲を1行書く。第9回の終わり方と、第49回で扱う進捗の把握を兼ねます。

この3つは、いずれも短時間で、毎日実行でき、しかも効果が確認されている方法に対応しています。逆に、習慣化に向かないのは、日によって内容が変わる作業や、長時間を要する作業です。

「毎日ワークを3ページ」のような量の目標は、習慣ではなく目標として扱うほうが適切です。第43回で述べたとおり、量は状況によって調整すべきものだからです。習慣にするのは、量ではなく動作です。

習慣になったかどうかを確かめる

自動性の増加は、自分では気づきにくいものです。確かめる方法をいくつか挙げます。

第一に、やるかどうかを考えたか。合図が来たときに「やろうかな、どうしようかな」と考えているなら、まだ習慣ではありません。考えずに始まっていれば、連合が働いています。

第二に、やらなかった日に違和感があるか。習慣になった行動は、抜けると落ち着かない感じが生じます。何も感じないなら、まだ形成の途中です。

第三に、場所に来た時点で手が動くか。文脈の知覚だけで反応が起きているかどうかの確認です。

これらは主観的な指標ですが、記録と組み合わせれば精度が上がります。実行した日数の記録と、上の3つの感覚を、月に一度照らし合わせる。数字と感覚が一致してくれば、自動化が進んでいる合図です。

よくある失敗——大きな行動を習慣にしようとする

習慣にしたい行動として「毎日2時間勉強する」を選ぶと、ほぼ確実に失敗します。行動が大きいほど、実行の障壁が高く、抜ける日が増えるためです。

代わりに、最初の一手だけを習慣にします。「机に座ってワークを開く」。開いた後にどれだけやるかは、その日次第で構いません。開く行動が自動化すれば、続きは起きやすくなります。

この設計は、第1回で述べた取りかかりの負荷の話と一致します。最大の障壁は開始であり、開始さえ自動化できれば、量は後からついてきます。

保護者ができること——場所と順番を固定する

習慣形成に対して家庭ができる最大の貢献は、文脈の一貫性を保つことです。これは声かけより効きます。

  1. 勉強する場所を1か所に決める。 日によって変えない。
  2. 家庭の予定を、その時間帯に入れない。 中断が入ると連合が弱まります。
  3. 「今日はやった?」ではなく「いつもの時間だね」と言う。 合図の確認であって、実行の監視ではありません。

3つ目は、言い方の差が大きい部分です。監視として受け取られると、第2回で述べたとおり摩擦が生じます。合図の提示にとどめると、行動だけが促されます。

習慣形成の考え方を別の場面に当てはめる——歯磨きと片づけ

この記事で扱った考え方は、机に向かう勉強だけでなく、朝の身支度や部屋の片づけにも当てはめて考えることができます。たとえば、学校から帰ったらランドセルを決まった場所に置く、という行動があります。場所と順番が固定されると、置き忘れを探す時間が減り、その後の流れが滑らかになることがあります。

また、寝る前の歯みがきのように、毎日同じ時刻に同じ場所で行う行動は、習慣として定着しやすい形だと考えられます。一方で、曜日によって時間割が変わる教科の予習は、合図が一定でないため、習慣になりにくいことがあります。何を習慣にするかを選ぶ段階で、合図の安定性を確かめておくとよいと考えられます。

さらに、習慣は勉強の内容そのものだけでなく、準備の行動にも作ることができます。たとえば、夕食後に筆箱を開いて鉛筆を削る、という小さな行動です。この行動が定着すると、その後の学習に入りやすくなることがあります。内容より前段の行動に注目する視点も役立ちます。

続けば楽になると思い込む——日数にこだわる

この記事の内容を実際に使おうとすると、いくつかのつまずきが生じます。まず、習慣にしようとする行動が大きすぎる点です。「毎日二時間勉強する」ではなく、「机に座って教科書を開く」程度から始めるほうが、繰り返しやすくなります。最初の一歩を小さくすることが、結果的に続くことがあります。

次に、一日抜けただけで全体をやめてしまう点です。旅行や体調不良でできない日はあります。そのときに「もう習慣にならなかった」と結論づけるより、翌日また同じ合図で始めるほうが、定着につながりやすいと考えられます。

また、習慣になったかどうかを確かめずに、新しい行動を次々と足していく点もつまずきになります。一つの行動が、考えなくてもできるようになったかどうかを、しばらく観察する期間を置くことが役立ちます。確かめる前に次へ進むと、どれも中途半端になりがちです。

この記事で言えないこと

ラリーらの研究は、食事・飲み物・活動といった比較的単純な行動を対象としています。勉強のような複雑で負荷の高い行動に、同じ期間や同じ曲線が当てはまる保証はありません。おそらく、より長い期間が必要になります。

また、習慣化は行動の頻度を安定させますが、内容の質は保証しません。毎日机に向かう習慣ができても、そこで何をするかは別の設計が要ります。この連載の第3ブロックと第4ブロックが、その部分を扱っています。

当塾の立場

場所を固定する、最初の一手だけを習慣にする、復帰の手順を決めておく。いずれも費用はかかりません。

武蔵野個別指導塾が提供しているものの一つは、文脈の一貫性です。決まった曜日、決まった時間、決まった席。この一貫性自体が、習慣形成の条件を満たします。通うこと自体が習慣になれば、家庭での意志の負担が減ります。第7回で述べたデフォルトの話と、同じ構造の役割です。

出典

  1. Wood W, Neal DT. A new look at habits and the habit-goal interface. Psychological Review. 2007;114(4):843-863.
  2. Lally P, van Jaarsveld CHM, Potts HWW, Wardle J. How are habits formed: Modelling habit formation in the real world. European Journal of Social Psychology. 2010;40(6):998-1009.

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