「音楽を聴きながらのほうが集中できる」と子どもが言い、保護者は半信半疑でやめさせる——この一往復は、どの家庭でも起きています。どちらが正しいのかを研究で決めたい、というのが自然な願いですが、結論から申し上げると、研究は「聴くな」とも「聴いてよい」とも言っていません。言っているのは、音の種類と、いま何をしているかと、その人がどういう人かによって、邪魔の大きさが変わる、ということです。
ただし、方向だけははっきりしています。読解の課題に限れば、背景の音は平均して成績を下げます。しかも下げ幅がいちばん大きいのは、歌詞つきの音楽と、意味の分かる話し声でした。つまり多くの中高生が実際に流しているものが、いちばん不利な条件に当たります。
この記事では、まず研究が測った数字を見ます。次に、なぜ歌詞が問題になるのかを説明します。そのうえで、家庭で自分の条件を確かめるための手順を書きます。他人の平均ではなく、自分の記録で決めるのがこの記事の立場です。
この記事の結論
- 65本の研究をまとめたベイズ流のメタ分析では、背景の音は読解の正答率を平均して下げました。効果量は Hedges の g で -0.21。小さいが、ほぼ確実にマイナスという水準です(ヴァシレフ(Vasilev)ら)。
- 下げ幅は音の種類で違います。話し声 -0.26、雑音 -0.17、音楽 -0.19。さらに細かく見ると、歌詞つきの音楽 -0.35 と、意味の分かる話し声 -0.34 が最大でした。歌詞のない音楽と、意味の分からない音の妨害は、これよりずっと小さい値です。
- 子どもと大人で妨害の大きさはほとんど変わりませんでした(差は g = 0.05、しかも本当に差がある確率は73%)。「子どもだから特に気が散る」という前提は、この分析からは支持されません。
- 個人差は実在します。作業記憶の容量が大きい人ほど、音楽ありでも理解がよかったという結果があり(レーマン(Lehmann)ら)、ふだんから音楽を流して読む習慣のある人は妨害が小さいという結果もあります(サン(Sun)ら)。ただしどちらも「効かない人がいる」という話であって、「効く人がいる」という話ではありません。
- 「集中できる音楽」をうたう主張のうち、モーツァルト効果は再現に失敗し続けており、バイノーラルビートは脳波が同調するという前提そのものが研究間で一致していません。商品や再生リストではなく、自分の記録で判断してください。
まず、どれだけ邪魔になるのかを数字で見る
この話題は主張が割れやすいので、いちばん大きな証拠から始めます。読書中の聴覚的妨害を扱った65本の研究を集め、ベイズ統計でまとめ直した分析があります。ベイズ統計というのは、「差がある確率は何%か」という形で結果を出す方法です。
Vasilev MR, Kirkby JA, Angele B. Auditory Distraction During Reading: A Bayesian Meta-Analysis of a Continuing Controversy. Perspectives on Psychological Science. 2018;13(5):567-597.
結果は次のとおりでした。数字は Hedges の g という効果量で、マイナスは成績が下がったことを意味します。0.2 前後は「小さい」と呼ばれる大きさです。
| 背景の音 | 読解への効果量(g) |
|---|---|
| すべての音をまとめた平均 | -0.21 |
| 話し声 | -0.26 |
| 音楽(全体) | -0.19 |
| 雑音 | -0.17 |
| 歌詞つきの音楽 | -0.35 |
| 意味の分かる話し声 | -0.34 |
読み取るべき点は3つあります。第一に、平均の下げ幅は小さい。「音楽を消せば劇的に伸びる」という話ではありません。第二に、歌詞つきの音楽だけが突出している。歌詞のない音楽と歌詞つきの音楽の差は g で -0.19 あり、本当に差がある確率は95%と見積もられました。第三に、意味の分かる話し声と歌詞つきの音楽には差がありませんでした。歌詞つきの曲を流すのは、隣で誰かが喋っている部屋で読むのと、ほぼ同じことだと考えてよいわけです。
年齢についても触れておきます。子どもと大人で妨害の大きさが違うという通念は、この分析では確かめられませんでした。差は g = 0.05 とごく小さく、その差が本当にある確率も73%にとどまります。
なぜ歌詞だけが特別に邪魔をするのか
歌詞が問題になるのは、音が大きいからでも、うるさいからでもありません。言葉の意味が、読んでいる文章の意味と同じ回路を使うからだと考えられています。読むという作業は、文字から意味を取り出す作業です。そこへ別の意味が流れ込むと、処理が二重になります。
これを直接調べた実験があります。中国の大学生90名(うち女性50名)を、ふだん音楽を聴きながら読む人45名と、そうでない人45名に分け、さらに母語(中国語)の歌詞のポップス、第二言語(英語)の歌詞のポップス、音楽なしの3群(各30名)に割り付けて、中国語と英語の文章を読ませました。
Sun Y, Sun C, Li C, Shao X, Liu Q, Liu H. Impact of background music on reading comprehension: influence of lyrics language and study habits. Frontiers in Psychology. 2024;15:1363562.
結果は、歌詞つきの音楽で読解成績が下がり、読んでいる文章と同じ言語の歌詞のときに、いちばん下がりました。日本の中高生に置き換えれば、国語や英語長文を読むときに日本語の歌詞を流すのが、最も不利な組み合わせということになります。逆に、意味を取り出す作業をしていないとき——たとえば計算練習や漢字の書き取り——では、この理屈は当てはまりにくくなります。
ここで大事な但し書きを付けます。この研究は大学生を対象とし、群の人数も30名ずつです。日本の中学生・高校生でそのまま同じ数字が出るかは分かりません。また「ふだん聴きながら読む人」は妨害が小さかったのですが、これは観察された習慣の違いであって、無作為に割り付けたものではありません。ふだん音楽を流して読む人は、読解力そのものや、もともとの気の散りにくさが違う可能性があります。「慣れれば平気になる」と読むのは早すぎます。
「音が変わること」が邪魔をする——無関連発話効果
もう少し細かい仕組みの話をします。認知心理学には無関連発話効果という現象があります。覚えるべき情報とまったく関係のない音が流れているだけで、短期記憶の成績が落ちる、というものです。
この効果の中身として有力なのが変化状態仮説です。音の大きさではなく、音が次々と変化することそのものが記憶の維持を邪魔する、という考え方です。一定の「ザー」という音より、音程やリズムが変わり続ける音のほうが邪魔になります。歌詞つきの曲が邪魔になりやすいのは、意味に加えてこの変化も持っているからです。
最近の実験では、数字の系列を順番どおりに思い出す課題で、意味のある話し声のほうが、意味のない音声より大きく成績を下げました。エルメルト(Ermert)らの報告です。また、カトナー(Kattner)とブライス(Bryce)は、課題の負荷を上げても聴覚的な妨害は減らなかったと報告しています。「難しい課題に集中していれば音は気にならなくなる」という直感は、実験では支持されませんでした。
ただし、慣れは生じます。同じ妨害音を繰り返し聞かせると、8回の繰り返しのあとで妨害は明らかに小さくなりました。4つの実験すべてで同じ結果です。
Röer JP, Bell R, Buchner A. Evidence for habituation of the irrelevant-sound effect on serial recall. Memory & Cognition. 2014;42(4):609-621.
これは実務的に意味のある知見です。毎回ちがう曲を流すより、同じ曲・同じ再生順を繰り返すほうが、妨害は小さくなる見込みがあります。新曲やおすすめの自動再生は、変化が大きく、慣れも起きません。
人によって違う、課題によって違う
平均の話をしてきましたが、平均から外れる人は必ずいます。どこで外れるのかが、いくらか分かっています。
大学生81名を、ポップス2曲を流しながら学ぶ群と、静かな環境で学ぶ群に分けた実験では、作業記憶の容量が大きい人ほど、音楽ありのときの理解が良いという交互作用が見つかりました。単純な再生(覚えて言えるか)には音楽の影響が出ず、理解のほうにだけ出ています。
Lehmann JAM, Seufert T. The Influence of Background Music on Learning in the Light of Different Theoretical Perspectives and the Role of Working Memory Capacity. Frontiers in Psychology. 2017;8:1902.
課題の難しさも効きます。英語を専攻する学生の眼球運動を測った研究では、速いテンポの音楽のほうが文章を速く読めた一方、テンポの影響は易しい文章で大きく、難しい文章では小さいという交互作用が出ました。そして、音楽を好まない人が、遅いテンポの音楽を流しながら難しい英文を読むのは不利だと報告されています。スー(Su)らの研究です。
まとめると、こうなります。やさしい作業・単純な反復では音楽の害は小さく、意味を取り出す難しい作業では大きい。そして同じ人でも、課題が変われば答えが変わります。「自分は音楽があったほうが集中できる」という一言で全部を決めないでください。
「集中できる音楽」の主張を検証する
商品や動画の説明文には、強い言い方が並びます。代表的なものを3つ、研究の側から確かめます。
モーツァルト効果
特定のソナタを聴くと能力が上がる、という話です。追試の失敗が続いてきました。大学生206名を3つの手順に割り付けた実験では、空間課題の成績に群間の差はまったく出ませんでした。スティール(Steele)らの報告で、著者自身が「他の研究室での失敗と一致する」と書いています。
近年のメタ分析はさらに厳しい結論です。8本の研究(合計207名)を集めた分析で、要約効果量は g で 0.09 から 0.43 の範囲にとどまり、いずれも有意ではありませんでした。
Oberleiter S, Pietschnig J. Unfounded authority, underpowered studies, and non-transparent reporting perpetuate the Mozart effect myth: a multiverse meta-analysis. Scientific Reports. 2023;13(1):3175.
なお、この分析が扱ったのはてんかんなどの医学的な指標であって、学習成績そのものではありません。それでも、「特定の曲に特別な力がある」という主張の土台が弱いことを示しています。
バイノーラルビート
左右の耳にわずかに違う周波数の音を入れて、脳波を目的の周波数に同調させる、という説明で売られているものです。ここは正直に両論を書きます。効果を集めたメタ分析は、22本の研究・35個の効果量から、記憶・注意・不安・痛みへの効果量を g = 0.45 と報告しました。
Garcia-Argibay M, Santed MA, Reales JM. Efficacy of binaural auditory beats in cognition, anxiety, and pain perception: a meta-analysis. Psychological Research. 2019;83(2):357-372.
一方で、その説明の前提である「脳波が同調する」という部分を調べた系統的レビューは、14本の研究のうち5本が仮説どおり、8本が反対の結果、1本が混在という、ばらばらの状況を報告しています。研究ごとに音の作り方も測り方も違い、比較すらできないというのが結論でした。インゲンドー(Ingendoh)らの報告です。効果があるという分析と、仕組みが確かめられていないという分析が並んでいる状態で、勧める根拠にはなりません。
「勉強用」の器楽曲・環境音
歌詞のない音楽が、歌詞つきより妨害が小さいことは先の数字が示しています。ただし「静かな状態より良い」ことを示した証拠はありません。メタ分析の平均は、音楽なしを基準にしてマイナス側です。器楽曲は「害が小さい選択肢」であって、「静かより有利な選択肢」ではない、と理解してください。
自分で確かめる手順
ここからが本題です。平均が小さい以上、自分に当てはまるかは自分で測るしかありません。次の順で試してください。道具は要りません。
- 課題を1種類に固定する。英語長文、現代文、数学の計算、漢字の書き取りのどれか1つです。種類を混ぜると比較になりません。
- 量と時間を決める。たとえば「20分ずつ」「長文2題」のように、毎回同じにします。
- 条件を3つ用意する。(a) 無音、(b) 歌詞のない音楽、(c) いつも聴いている歌詞つきの曲。
- 条件を日替わりで回す。同じ日に続けてやると、後のほうが疲れていて不利になります。3条件を順に回し、これを3巡します。
- 毎回2つだけ記録する。正答数と、途中で手が止まった回数です。手が止まった回数は、自分でその場に「正」の字を書き足していくだけで足ります。
- 9回分そろってから見る。1回ごとの差は、その日の体調と問題の難しさで簡単にひっくり返ります。
- 読解系だけは別枠で見る。研究がいちばんはっきり差を出したのは読解です。計算では差が出ず読解では出る、という結果は十分にありえます。
判断の基準はこうです。3条件の差が記録の上で見えないなら、好きな条件で構いません。見えるなら、その科目についてだけ条件を固定します。全科目を一律に決める必要はありません。
もう1点、音量について。研究が測ったのは学習成績であって、耳の健康ではありません。長時間・大音量のイヤホン使用については別の懸念があり、この記事では扱えません。耳鳴り、聞こえにくさ、耳の痛みがあるときは、自分で判断せず耳鼻科を受診してください。
学年別の考え方
小学生
音読・読み取り・書き取りが中心で、意味を取り出す作業の比重が高い時期です。まず無音を既定にし、音楽は「ご褒美の時間」に分けるほうが、記録を取る手間もかかりません。本人が試したがるなら、上の手順を保護者が一緒にやってください。記録をつけること自体が学習になります。
中学生
科目ごとに答えが割れる年齢です。定期テスト前の暗記や計算の反復と、国語・英語の読解を、同じ条件で扱わないでください。歌詞つきの曲は読解系から外す、という一点だけでも運用として成立します。
高校生
勉強時間が長く、音楽が生活に組み込まれている場合が多いので、全面禁止は現実的ではありません。「同じ再生リストを、同じ順で、読解以外のときに」という形にすると、慣れの効果が働き、変化による妨害も小さくなります。模試の過去問など、本番に近い形で解くときは無音で揃えるのが理屈に合います。本番の試験会場に音楽はないからです。
この記事で言えないこと
第一に、「聴いてよいか」という問いに一般の答えはありません。平均としては読解にマイナスですが、その大きさは小さく、個人差と課題差のほうが大きい可能性があります。この記事は禁止も推奨もしていません。
第二に、観察された習慣の差は、因果ではありません。「ふだん聴きながら読む人は妨害が小さい」という結果は、慣れの効果かもしれませんが、もともと気が散りにくい人が音楽を流す習慣を持ちやすい、という説明も同じくらい成り立ちます。無作為に割り付けた研究ではないので、区別できません。
第三に、対象者の偏りがあります。ここで引いた実験の多くは大学生を対象にしています。メタ分析では子どもと大人の差は小さいと報告されていますが、日本の中高生が学校の課題をやる場面をそのまま測った研究ではありません。
第四に、測っているのは短時間の課題成績です。数か月にわたる成績や、勉強を続けられるかどうかへの影響は、ここからは分かりません。音楽があることで机に向かう時間が延びるなら、小さなマイナスを上回る可能性もありますが、それを確かめた研究を見つけられませんでした。
第五に、健康については何も言えません。音量・使用時間と聴覚への影響は本記事の範囲外です。不調があれば医療機関にご相談ください。
当塾の立場
この記事の内容は、塾に通わなくても全部できます。課題を固定し、3つの条件を日替わりで回し、正答数と手が止まった回数を記録するだけです。必要なのは紙とペンだけで、アプリも器具も要りません。むしろ、この判断を他人に委ねると意味が薄れます。決めるべきなのは「一般にどうか」ではなく「あなたの、この科目ではどうか」だからです。
そのうえで、武蔵野個別指導塾を勧める理由を、この回の研究に即して書きます。この題材でいちばん厄介なのは、本人の実感と実際の成績がずれることです。カトナー(Kattner)とブライス(Bryce)の実験では、妨害音は成績も「できた感じ」も同じように下げましたが、その自信の正確さは上がりませんでした。つまり、どれだけ邪魔されたかを本人が正しく見積もれるとは限らない、ということです。だからこそ記録が要るのですが、自分一人で条件を変えずに9回続けるのは、大人でも難しいことです。個別指導は、同じ課題を同じ形で出し、結果を横で数えられる形式です。条件をそろえる係を外に置ける、という一点に意味があります。
関連する研究の解説
出典
- Vasilev MR, Kirkby JA, Angele B. Auditory Distraction During Reading: A Bayesian Meta-Analysis of a Continuing Controversy. Perspectives on Psychological Science. 2018;13(5):567-597.
- Sun Y, Sun C, Li C, Shao X, Liu Q, Liu H. Impact of background music on reading comprehension: influence of lyrics language and study habits. Frontiers in Psychology. 2024;15:1363562.
- Ermert CA, Yadav M, Marsh JE, Schlittmeier SJ, Kuhlen TW, Fels J. Serial recall in spatial acoustic environments: irrelevant sound effect and spatial source alternations. Scientific Reports. 2025;15(1):32473.
- Kattner F, Bryce D. Attentional control and metacognitive monitoring of the effects of different types of task-irrelevant sound on serial recall. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance. 2022;48(2):139-158.
- Röer JP, Bell R, Buchner A. Evidence for habituation of the irrelevant-sound effect on serial recall. Memory & Cognition. 2014;42(4):609-621.
- Lehmann JAM, Seufert T. The Influence of Background Music on Learning in the Light of Different Theoretical Perspectives and the Role of Working Memory Capacity. Frontiers in Psychology. 2017;8:1902.
- Su Y, He M, Li R. The effects of background music on English reading comprehension for English foreign language learners: evidence from an eye movement study. Frontiers in Psychology. 2023;14:1140959.
- Oberleiter S, Pietschnig J. Unfounded authority, underpowered studies, and non-transparent reporting perpetuate the Mozart effect myth: a multiverse meta-analysis. Scientific Reports. 2023;13(1):3175.
- Steele KM, Brown JD, Stoecker JA. Failure to confirm the Rauscher and Shaw description of recovery of the Mozart effect. Perceptual and Motor Skills. 1999;88(3 Pt 1):843-848.
- Garcia-Argibay M, Santed MA, Reales JM. Efficacy of binaural auditory beats in cognition, anxiety, and pain perception: a meta-analysis. Psychological Research. 2019;83(2):357-372.
- Ingendoh RM, Posny ES, Heine A. Binaural beats to entrain the brain? A systematic review of the effects of binaural beat stimulation on brain oscillatory activity, and the implications for psychological research and intervention. PLoS One. 2023;18(5):e0286023.
