原子がイオンになる変化を粒子の図で確かめ、塩酸・塩化銅の電気分解とダニエル電池をたどります。電子の数や流れる向きを考える例題から、電池のしくみを説明できれば、この単元は怖くありません。
よくあるのは、部活帰りの自転車置き場で友達と理科のプリントを見直し、「電子はマイナスなのに、電子を失うとプラスになるのはなぜ」と手が止まる場面です。さらに電池の図には、電流と電子を表す逆向きの矢印も登場します。記号を一つずつ丸暗記すると、似た言葉がかえって混ざってしまいます。
ここで頼りになるのは、「何が、どこで、いくつ移動したか」という見方です。原子の中の電子、水溶液中のイオン、導線を移動する電子を場所ごとに分けると、一見ばらばらな実験がつながります。食塩水が電流を通す理由から、電気分解でできる物質、電池が電気を取り出すしくみまで、同じ粒子の考え方で追っていきましょう。多くの教科書では中3で学ぶ内容ですが、出発点は原子と電流の復習です。
この単元で身につけること
- 電解質と非電解質を区別します。水に溶けるかどうかに加え、水溶液が電流を通すかどうかに注目します。
- 原子とイオンの違いを説明します。陽子の数と電子の数を比べ、電気の偏りが生まれる理由を考えます。
- イオン式と電離の式を読みます。右上の電気を表す数字と、右下の原子の数を表す数字を区別します。
- 電気分解の両極でできる物質を予想します。イオンが電子を受け取る側と、失う側を分けて追います。
- 金属のイオンへのなりやすさから電池を説明します。導線の電子と、水溶液中のイオンの役割を結びつけます。
前に学んだ原子・化学式と、電流の向きが土台になります。新しい式に出会ったときも、まず元素の種類と原子の数を確かめ、その後に電気の正負を調べる順番にすると整理しやすくなります。
基本の考え方
電流を通す水溶液には何があるか
食塩や塩化銅のように、水に溶かしたとき、その水溶液が電流を通す物質を電解質といいます。一方、砂糖やエタノールのように、水に溶けてもその水溶液が電流をほとんど通さない物質は非電解質です。「水に溶けた」という見た目だけでは、この二つを区別できません。
電解質の水溶液には、電気を帯びて動ける粒子であるイオンがあります。水溶液に電圧を加えると、正の電気を帯びた陽イオンと、負の電気を帯びた陰イオンがそれぞれ移動し、電流を運びます。砂糖水では砂糖の分子が広がっていますが、砂糖は水に溶けてもイオンに分かれません。なお、純粋な水も電流をほとんど通しません。
実験では、調べる液以外の条件をそろえる必要があります。電極の材質、液に入れる深さ、電極間の距離、加える電圧を変えると、電流の違いの理由がわからなくなります。学校では先生の指示のもと、別の液が混ざらないよう電極を洗って比べます。電流の大小だけから、異なる物質の濃度を一律に決めることはできません。
電子の増減でイオンになる
原子の中心には原子核があり、その周りに負の電気を帯びた電子があります。原子核には正の電気を帯びた陽子と、電気を帯びていない中性子が含まれます。ただし、ふつうの水素原子の原子核には中性子がありません。陽子1個と電子1個がもつ電気の量は、符号が逆で大きさが等しいため、原子では陽子と電子が同数なら全体として電気を帯びません。
原子が電子を失うと、正の電気が余って陽イオンになります。反対に、電子を受け取ると陰イオンになります。このとき原子核の陽子の数は変わりません。元素の種類が変わるのではなく、電子の数が変わるのです。図1のように、陽子11個のナトリウム原子から電子1個が離れると、電子は10個になり、ナトリウムイオンNa⁺になります。

図1では粒子の実際の大きさや軌道を表さず、電気の数を比べています。塩化物イオンCl⁻は塩素原子が電子1個を受け取ったもの、銅イオンCu²⁺は銅原子が電子2個を失ったものです。1個分の電気では右上の1を省きますが、2個分なら2を残します。
電離の式は原子数と電気の両方で読む
電解質が水に溶けて陽イオンと陰イオンに分かれることを電離といいます。塩化ナトリウムの電離は NaCl → Na⁺ + Cl⁻、塩化水素の電離は HCl → H⁺ + Cl⁻ と表せます。塩化水素が水に溶けた水溶液が塩酸です。ここでは水溶液中の水素イオンをH⁺で表します。
塩化銅の電離は CuCl₂ → Cu²⁺ + 2Cl⁻ です。左のCl₂は塩素原子2個分を表し、右の2Cl⁻は塩化物イオン2個を表します。右側の電気は +2 と -1 が2個なので、合計は0です。Cu²⁺とCl⁻が同数になるわけではありません。
水溶液全体で正負の電気がつり合っていても、個々のイオンは電気を帯びています。動けるイオンがあることと、水溶液全体が電気を帯びることを区別しましょう。また、固体の食塩ではイオンが規則正しく並んでいて自由に移動できず、そのままでは電流を通しません。
例題で解き方を確かめる
例題1 電子の数からイオン式を決める
陽子12個、電子12個のマグネシウム原子が電子2個を失いました。できた粒子の電子の数とイオン式を答えましょう。
- 変化するのは電子の数なので、12 – 2 = 10より、電子は10個です。原子核の陽子12個はそのまま残します。
- 正の電気12個分と負の電気10個分を比べます。差が正の2個分なので、2価の陽イオンです。
- 元素記号Mgの右上に2+を付け、Mg²⁺と書きます。Mg₂とすると原子の数の意味になるため、位置まで確かめます。
答えは電子10個、Mg²⁺です。「電子を失ったからマイナス」ではなく、「負の電気が減った結果」を数えるのが判断の根拠です。
例題2 塩化銅水溶液の電気分解を読む
図2は、炭素棒を電極にして塩化銅水溶液に直流電源をつないだ模式図です。陰極と陽極でできる物質を答え、理由を説明しましょう。図の矢印は水溶液中のイオンの移動する向きです。

- 電源の-側につながる電極を陰極、+側につながる電極を陽極と決めます。最初に電源とのつながりを読むと、図の左右が入れ替わっても判断できます。
- 陽イオンCu²⁺は陰極へ向かい、電子2個を受け取って銅原子になります。陰極には赤色の銅が付着し、式は Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu です。e⁻は電子を表します。
- 陰イオンCl⁻は陽極へ向かい、電子を失います。塩素原子2個が結びついて塩素分子になるため、2Cl⁻ → Cl₂ + 2e⁻ と表します。
答えは陰極で銅、陽極で塩素です。全体の変化は CuCl₂ → Cu + Cl₂ となります。青色の原因である銅イオンが減ると、水溶液の青色は薄くなります。銅は固体として付着するので、「両極から気体が出る」とは書きません。
塩酸を電気分解した場合は、陰極で 2H⁺ + 2e⁻ → H₂ が起こり、水素が発生します。陽極では塩化銅の場合と同じく塩素が発生し、全体では 2HCl → H₂ + Cl₂ です。同じ温度・圧力で、理想的には生じる気体の体積比は水素:塩素 = 1:1ですが、塩素は水に溶けるため、集めた体積がそのまま等しくなるとは限りません。
これらは学校で保護眼鏡を着用し、換気と先生の管理のもとで行う実験です。塩素を直接嗅がず、発生した気体に勝手に火を近づけません。家庭で薬品や電池を使って再現する確かめ方には向きません。
例題3 金属の変化から電池の向きを決める
硫酸銅水溶液に亜鉛板を入れると、亜鉛が溶け、銅が現れました。逆に、硫酸亜鉛水溶液に銅板を入れても、同様の変化は見られません。この結果からイオンになりやすい金属と、ダニエル電池の負極を答えましょう。
- 亜鉛が溶ける変化を Zn → Zn²⁺ + 2e⁻ と読みます。銅イオンに電子を渡して自分がイオンになるので、亜鉛の方が銅よりイオンになりやすいと判断します。
- 比べる金属を増やすと、マグネシウム、亜鉛、銅では Mg → Zn → Cu の順にイオンになりやすいことが確かめられます。この矢印は順位を示し、化学反応式ではありません。
- ダニエル電池では亜鉛板と銅板を別の水溶液に入れ、導線でつなぎます。亜鉛板が電子を送り出す負極、銅イオンが電子を受け取る銅板が正極です。
答えは亜鉛の方がイオンになりやすく、負極は亜鉛板です。亜鉛が失う電子2個を銅イオン1個が受け取るので、反応する亜鉛原子と銅イオンの数の比は1:1です。元の実験では亜鉛板の表面で直接起きた電子の受け渡しを、電池では外の導線を通るように分けています。
つまずきやすいところと直し方
「イオンと電子は同じ粒子」ではありません
どちらも電気を運ぶので同じものだと考えることがあります。しかし、イオンは原子などが電子を失ったり受け取ったりして電気を帯びた粒子です。電子そのものとは区別します。導線の中では電子が移動し、水溶液の中では陽イオンと陰イオンが移動します。水溶液中を電子が端から端まで走る図にしないようにしましょう。
「電流と電子は同じ向き」ではありません
電子は負の電気を帯びているため、金属の導線を移動する向きは電流と逆です。図3のダニエル電池では、外部回路の電子は亜鉛板から銅板へ、電流は銅板から亜鉛板へ向かいます。図3の上側の矢印を読むときは、矢印だけでなく「電子」「電流」のラベルも読みます。

亜鉛板は硫酸亜鉛水溶液、銅板は硫酸銅水溶液に入れます。間の仕切りは、二つの液が急に混ざるのを抑えながらイオンを通します。亜鉛側ではZn²⁺が増え、銅側ではCu²⁺が減るため、イオンの移動が各側の電気の偏りを抑え、反応を続けられるようにします。図3では電極の変化に注目するため、硫酸イオンは省いてあります。
「電池は電気をためた箱」だけでは説明できません
ダニエル電池は、たまっていた電子を使い切るだけの装置ではありません。化学変化で電子の受け渡しが続き、化学エネルギーを電気エネルギーに変えます。亜鉛板は溶けて質量が減り、銅板には銅が付着して質量が増えます。電気分解は外から電気エネルギーを与えて化学変化を起こすので、エネルギーを変える向きにも注目しましょう。
燃料電池も化学変化から電気を取り出します。水素と酸素を使う燃料電池では、全体の反応は 2H₂ + O₂ → 2H₂O です。水素と酸素を供給して発電するしくみで、燃やした熱で発電機を回すわけではありません。使い切りの一次電池、充電して繰り返し使う二次電池とともに、電池は材料や使い方に応じて区別されます。
練習問題
練習1
食塩と砂糖をそれぞれ水に溶かしました。電解質はどちらですか。また、透明な水溶液であることだけでは区別できない理由を答えましょう。
練習2
陽子17個の塩素原子が電子1個を受け取りました。電子の数とイオン式を答えましょう。また、CuCl₂が3個分電離すると、Cu²⁺とCl⁻はそれぞれ何個できますか。
練習3
炭素棒を用いた塩酸の電気分解で、陰極と陽極に発生する気体を答えましょう。続いてダニエル電池で、外部回路の電子の向きと、質量が減る金属板を答えましょう。
答えと解説
練習1:食塩です。透明でも、食塩水には動けるイオンがあり、砂糖は水中でイオンに分かれません。見た目ではなく電流を通す性質を比べます。
練習2:電子18個、Cl⁻です。17 + 1 = 18となり、負の電気が1個分多くなります。Cu²⁺は3個、Cl⁻は6個です。電離の比1:2を3倍し、電気も +6 と -6 でつり合います。
練習3:陰極が水素、陽極が塩素です。ダニエル電池の電子は亜鉛板から銅板へ向かい、質量が減るのは亜鉛板です。電子を送り出した亜鉛原子がZn²⁺となって溶けます。
次の単元へのつながりと家庭での確かめ方
次に酸・アルカリを学ぶときは、H⁺やOH⁻のはたらきから水溶液の性質を説明します。中和でも、反応するイオンと水溶液中に残るイオンを分ける見方が役立ちます。
家庭では紙と鉛筆で、各5分の確認ができます。一つ目は、正の丸12個と負の丸12個を描き、負の丸2個を消して残る電気を説明する方法です。二つ目は、図3を見ながら亜鉛板と銅板だけを紙に写し、外部回路の電子と電流の矢印を別々に描く方法です。描いた後で元の図と照合し、向きの根拠も声に出します。
個別指導では、イオン式が書けなければ陽子と電子の数へ、電極を取り違えれば電源とのつながりへ戻って確かめます。お子さまの説明を聞くときも、正解の記号だけでなく、何が移動したのかを聞くと理解の位置が見えます。
まとめ
初めて見る装置図でも、電源が化学変化を起こしているのか、化学変化から電気を取り出しているのかを先に読みましょう。その上で、電極で増減する物質と、導線を通る電子を対応させると、見えない粒子の動きに説明が付きます。矢印を間違えたときは、記号を消す前に、その矢印が何を表していたかを確かめると直す理由が残ります。電池の正負は、電子を送り出す側と受け取る側の化学変化から決まります。





