暗記のために、わざと読みにくい字体を選ぶ根拠は弱いです。初期の成功研究に対し、メタ分析や子ども、第二言語の研究では記憶の改善が認められませんでした。家では字体を凝る前に、読める教材を閉じて、覚えたい語を取り出せるか確かめます。
子どもが単語帳の文字を変え、ノートの見た目をつくり直しています。「覚えやすくする工夫」なら工夫のねらいを聞きます。でも、保護者が知りたいのは、きれいにできたかではなく、翌日に語が出てくるかです。字体を変えることの効果は、努力した感じで決めず、研究の結果を読みます。
ここで扱うのは、わざと読みにくくした文字の効果です。文字を大きくする研究や、覚えたと思う感覚を測る研究もありますが、それぞれ問いが違います。「いつもと違う字体」「読みやすい字体」「大きい文字」を同じ工夫としてまとめないことから始めます。
1. 論文を役割で並べる
成功を報告した出発点です。Diemand-Yaumanほか(2010)は、実験室で読みにくい字体の情報が読みやすい情報よりよく記憶され、高校の教室でも結果を広げたと報告しています [1]。教材の表面的な変更で学習を改善するという着眼点を示しました。この結果を残した上で、後の検証と比べます。
全体の効果を問い直すメタ分析です。Xieほか(2018)は、25の研究論文、3135人をまとめ、文字の読みにくさが再生と転移に及ぼす全体の効果は認められなかったと報告しています [2]。一方、覚えられそうだという判断は下がり、学習時間は増えました。読みにくいから長く取り組んだことと、学習の結果がよくなったことを分ける研究です。
総括での再生への効果量は d = −0.01、転移への効果量は d = 0.03 でした [2]。いずれも読みにくさによる全体の効果が認められなかったという報告に対応します。学習時間が増え、覚えられそうだという判断が下がった所見とは測定する結果が違います。作業に時間をかけたことを、内容が残ったことの代わりにしない読み方が必要です。
子どもで反対方向の結果を示した実験です。Tsigemanほか(2026)は、若い学習者で、読みにくい字体による記憶への好影響がなく、読みにくい文章の再生はむしろ低かったと報告しています [3]。読みやすい字体と読みにくい字体を混ぜた条件では、成績の見積もりが正確になりました。見積もりの正確さの改善と、記憶そのものの改善は別の結果です。
第二言語への広がりを検証した実験です。Tsigemanほか(2024)は、第二言語の文章について、読みにくい字体が短い遅延と長い遅延の記憶、理解、学習の自己判断のいずれも改善しなかったと報告しています [4]。学習者の個人差も効果を変える要因として認められませんでした。母語で見つかった結果を、外国語学習へそのまま移すことへの反証です。
字体の大きさを別の問いとして扱うメタ分析です。Changほか(2022)は、大きい文字が学習の自己判断を高めるだけでなく、記憶にも小さいが有意な効果を持つと報告しています [5]。ただし、効果が安定して見られたのは文字の大きさの範囲、無関係な単語のリスト、判断の時点、短い学習時間などの条件がそろう場合でした。「大きい字なら何でも覚えられる」という結論ではありません。
2. 読みにくいほど、深く考えるのですか?
読みにくさが学習を深めるという初期の結果はありました [1]。しかし[2]では、再生や転移の全体の効果は認められませんでした。分析的な処理を促すのか、余分な負担を増やすのかについても、十分な証拠がないと著者らは述べています。「読みにくくしたので深く考えたはず」と、途中の仕組みを補ってはいけません。
家庭では、字体を読む負担と覚える内容を分けて扱います。教材を見ている時間が増えても、覚えた語を取り出せるかは別に確認します。[2]が示した学習時間の増加は、記憶の改善と同じではありません。子どもが「すごく頑張って読んだ」と話したら、その努力を聞いた上で、何が残ったのかを確かめます。
字体を変える作業を禁止する結論でもありません。自分が読めること、教材として扱えることを確かめるのは家庭の選択です。ただ、暗記を高める科学的な方法として、わざと読みにくい文字を勧める理由は、この研究の組み合わせからは得られません。工夫の見た目と、その工夫が狙う結果を分けます。
3. 覚えた気がすることと、本当に覚えたことは違うのですか?
[2]では、読みにくさによって学習の自己判断が下がりました。しかし再生と転移には全体の効果がありませんでした。「覚えにくそう」という判断と、実際に覚えていた結果を区別します。逆に、すらすら読めたという感触だけで、後で取り出せると判定することも避けます。
[3]の混ぜた字体は、成績の見積もりを正確にしましたが、記憶の改善を示す結果ではありません。ここには、学習を見積もる力と学習した内容を保持する力という、異なるものがあります。家庭の単語学習でも、「何語くらい言えそう?」と聞いた答えと、実際に言えた語を分けて見ます。予想が正確になったことを、そのまま暗記量の増加と呼ばないでください。
文字の大きさの研究[5]も、自己判断と記憶が常に完全に別々だとする見方を修正しています。条件によっては両方が高まりました。感覚と実際の答えを照合します。それが家庭でできる、結果に即した確認です。
4. 英単語や中高生の教材にも同じ結果を使えるのですか?
[1]には高校の教室の研究が含まれます。一方[3]は若い学習者を対象にし、読みにくい文章の再生が低いという結果でした。対象が違う研究の平均を混ぜて、「子どもには絶対に悪い」「高校生なら必ずよい」と言い切ることはできません。対象と測った内容を並べ、どの主張を支える結果なのかを確かめます。
第二言語の研究[4]が扱ったのは、文章の記憶と理解です。日本の英単語帳にある個々の語の暗記と、同じ課題ではありません。それでも、母語の文章で見つかった利点が外国語にも必ず広がるという主張を退ける材料になります。英語だから変わった字体を使う、という処方をこの記事では採りません。
また、文字を大きくする研究[5]は、字体の読みにくさを操作した研究と別です。無関係な単語リストでの結果を、長い教科書の文章にそのまま広げることもできません。家で教材をつくるなら、何を覚える教材かを先に考えます。文字の大きさを選ぶことと、覚えた内容を確かめることを別々に進めます。
【反証】この回が言えないこと
だから「読みやすいものは必ず錯覚を生む」とも結論づけられません。すべての教材で効果があるとは結論づけられません。
初期の成功研究[1]を、存在しなかったことにはしません。しかし、それだけで広く勧める結論には進めません。[2]は再生と転移の全体の効果を認めず、[3]では読みにくい文章の再生が低下し、[4]では第二言語で利点が認められませんでした。ひとつの印象的な結果を、後の検証の代わりに使わない読み方が必要です。
今回の研究は、家庭で使う具体的な字体の最適値や、日本の中高生の定期テストでの得点差を示していません。また、字体の研究から、すべての学習上の困難に効果がないと広げることもできません。扱った介入は文字の見た目であり、問題の内容を考える難しさとは分けます。どの字体なら何割覚えられる、といった数字も示せません。
実務——家でできる 3 つの確認
第一に、覚える内容を無理なく読めるかを確かめます。字体を工夫したら、本人が語を読めるかをまず確認します。第二に、教材を閉じた後、語を言えるか、書けるかを確かめます。第三に、日をあけた復習でも取り出せるかを確かめます。これらは家庭での確認方法です。
武蔵野個別指導塾は、アクティブリコールと間隔反復を採用し、完全1対1で指導します。ノートを仕上げた時間だけで判断せず、本人が何を取り出せるかを見ます。字体と復習を見直す相談は武蔵境の定期テスト対策へご相談ください。単語学習の進め方は英単語の覚え方と回数・間隔の設計でも扱っています。字体を選び終えたら、覚えたい語に戻りましょう。
よくある質問
Q. 変わった字体は使わない方がよいですか?
わざと読みにくい字体を選ぶ方法は、暗記の改善策として勧めません。この記事は、わざと読みにくくして暗記を高める方法を勧めません。本人が読めるか、後で内容を取り出せるかを確かめます。
Q. 大きい文字なら暗記が進みますか?
[5]では記憶への小さい効果がありましたが、文字の範囲や教材、時間などに条件があります。読みにくい字体の研究とは別に判断します。
Q. 読みにくい字体を混ぜればよいですか?
[3]で改善したのは成績の見積もりの正確さです。記憶そのものの改善と読み替えることはできません。暗記を増やす方法として混ぜた字体を採用する根拠にはしません。
出典
- Fortune favors the bold (and the Italicized): effects of disfluency on educational outcomes.(Connor Diemand-Yaumanほか、2010、Cognition)
- Null Effects of Perceptual Disfluency on Learning Outcomes in a Text-Based Educational Context: a Meta-analysis(He-Ping Xieほか、2018、Educational Psychology Review)
- Switching between fluent and disfluent fonts improves young learners' estimation of memory effectiveness but not memory itself(Elina S. Tsigemanほか、2026、Educational Psychology)
- Why Dysfluent Font Does Not Aid Second Language Learning(Elina S. Tsigemanほか、2024、The Journal of Experimental Education)
- Association and dissociation between judgments of learning and memory: A Meta-analysis of the font size effect(M. Changほか、2022、Metacognition and Learning)



