連載「単元別のつまずき研究——その単元で、生徒は実際に何をどう誤るか」全50回の第12回です。学習の仕方の目次を見る
「りんごを3個買って、みかんを2個買ったら、代金は全部で500円でした。りんご1個の値段は、みかん1個の値段より40円高いそうです。それぞれの値段はいくらでしょう」。この問題を前に、生徒が「500円から40円を引いて、それを5で割ればいいのかな」とつぶやいたとします。一見すると計算を始めているように見えますが、実はここに連立方程式のつまずきの芽があります。
連立方程式は、中学2年生で本格的に学ぶ単元です。それまで「1つの式を解けば答えが出る」という経験を積んできた生徒にとって、連立方程式は初めて「二つの条件を同時に扱う」ことを求められる場面です。ここで多くの生徒が、二つの式を別々に解こうとしたり、片方の条件だけを使って答えを出そうとしたりします。
今回の記事では、連立方程式の学習で生徒が実際に何をどう誤るのかを、研究知見と具体的な誤答例から整理します。そのうえで、教室や家庭でできる確かめの手順を示します。結論を先に言えば、連立方程式のつまずきの多くは「計算力の不足」ではなく、「二つの条件を同時に扱う」という思考の枠組みがまだ作られていないことに由来します。
この記事では、数値や統計的な効果量を示すのではなく、生徒の思考過程に焦点を当てます。なぜなら、連立方程式の誤りは、答えの正誤だけを見ていても見えにくいからです。式を立てる段階で何を考えているのか、その内面に目を向けることが、つまずきの理解につながります。
要点(結論から)
- 連立方程式のつまずきの中心は、計算の手順ではなく、二つの条件を一つの問題の中で同時に扱うという思考の枠組みがまだできていないことです。
- 生徒は、二つの式を別々に解いてそれぞれの答えを出そうとしたり、片方の式だけを使って答えを出してしまったりします。
- 「文字が二つある」こと自体に戸惑い、どちらの文字をどう扱えばよいのか分からなくなる生徒も多くいます。
結論——連立方程式のつまずきは「二つの条件を同時に扱う枠組み」が未形成なことから生じる
- 連立方程式のつまずきの中心は、計算の手順ではなく、二つの条件を一つの問題の中で同時に扱うという思考の枠組みがまだできていないことです。
- 生徒は、二つの式を別々に解いてそれぞれの答えを出そうとしたり、片方の式だけを使って答えを出してしまったりします。
- 「文字が二つある」こと自体に戸惑い、どちらの文字をどう扱えばよいのか分からなくなる生徒も多くいます。
- 文章題では、数量の関係を式に表す段階で、掛ける数と掛けられる数を逆にするなどの誤りが生じます。
- 指導では、答えの正誤を確認する前に、生徒が「どの条件を使ったか」「もう一つの条件はどうなったか」を問いかけることが有効です。
理由——なぜ生徒は二つの条件を同時に扱えないのか
一つ目の理由:それまでの「1つの式で解く」経験が強く残っている
小学校から中学1年生まで、生徒が解いてきた方程式や計算問題の多くは、一つの式を変形して答えを出すものでした。例えば「3x+5=20」のような一元一次方程式では、式は一つで十分です。この経験が長く続いたあとに連立方程式を学ぶと、生徒は「式が二つある」という状況そのものに戸惑います。
「二つの式があるなら、それぞれ解けばいいのではないか」と考えるのは、ある意味で自然な反応です。実際、連立方程式の導入で「x+y=10」と「x−y=4」のような式を提示すると、生徒はそれぞれの式を単独で見て「xとyはいろいろな値になる」と答えます。二つの式を組み合わせることで初めて値が一つに決まるという発想は、それまでの学習では必要とされなかったものです。
この移行の難しさは、単に「連立方程式の解き方を知らない」ということではありません。問題の構造が変わったことに気づくかどうか、つまり「今までとは違う種類の問題だ」と認識できるかどうかが問われています。ここを飛ばして加減法や代入法の手順だけを教えると、生徒は手順を覚えても、なぜその手順でうまくいくのかを理解しないまま進むことになります。
二つ目の理由:文字が二つになることで「変数」の意味が揺らぐ
連立方程式では、xとyという二つの文字を同時に扱います。しかし、生徒にとって「文字が二つある」ことは、単に数が増えたという以上の問題を引き起こします。一方の文字は「求める数」として理解できても、もう一方の文字が何を表しているのかが曖昧になるのです。
この問題は、変数という概念そのものの理解に関わっています。次の研究は、変数の概念についての誤解を指摘しています。
Rosnick P. Some Misconceptions Concerning the Concept of Variable. The Mathematics Teacher. 1981;74(6):418-420.
この研究が問いかけているのは、教師は変数を定義するときに十分に注意を払っているか、ということです。連立方程式の場面では、xとyがそれぞれ何を表すのかを明確にしないまま式を立てさせると、生徒は文字と数量の対応を見失います。例えば「xはりんごの値段、yはみかんの値段」と定義したはずが、途中でxとyを入れ替えてしまったり、xが個数を表すと思い込んだりすることがあります。
変数の理解が揺らぐと、式を立てる段階で混乱が生じます。計算の手順は正しくても、そもそも式が間違っていれば答えは合いません。連立方程式の指導では、計算練習と同じくらい、変数を定義する練習に時間をかける必要があります。
三つ目の理由:文章題では数量関係を式に変換する段階で誤りが生じる
連立方程式の文章題では、文章に書かれた数量関係を二つの式に変換する必要があります。この変換の段階で、生徒は特有の誤りをします。次の研究は、代数の文章題を解く際の誤りについて分析しています。
Clement J. Algebra Word Problem Solutions: Thought Processes Underlying a Common Misconception. Journal for Research in Mathematics Education. 1982;13(1):16-30.
この研究が示しているのは、文章題で式を立てるときに、掛ける数を逆の側に置いてしまうという誤りです。例えば「SはPの6倍」という関係を「6S=P」と書いてしまうような誤りです。これは、文章の語順に引きずられて式を書いてしまうことから生じます。日本語でも「りんごの値段はみかんの値段の2倍」という文を、そのままの順で「2x=y」と書いてしまう生徒がいます。
この種の誤りは、計算力の問題ではありません。文章を読んで数量関係を把握し、それを式の形に変換するという、記号化のプロセスに問題があります。連立方程式ではこの変換を二つの式について行う必要があるため、誤りが生じる余地がさらに広がります。
また、この研究は、誤った式を書く生徒が、その式の意味を確認しようとしない傾向も示しています。立てた式が文章のどの部分に対応するのかを振り返る習慣がないと、誤りに気づかないまま計算に進んでしまいます。連立方程式の指導では、式を立てたあとに「この式は文章のどの条件を表しているか」を確認する手順を組み込むことが重要です。
誤答の例——連立方程式で実際に見られる誤りと確かめ方
| よくある誤答 | その子が考えていること | 確かめる問いかけ |
|---|---|---|
| 「x+y=500」と「x−y=40」を別々に解いて、xとyにそれぞれ複数の値を当てはめてしまう | 一つの式だけでは値が決まらないことを、二つの式を組み合わせる必要があると気づいていない | 「そのxとyの組は、もう一つの式にも当てはまるかな」 |
| 「りんご1個の値段はみかん1個の値段より40円高い」を「40x=y」と書く | 文章の語順のまま式に書いている。掛ける数と掛けられる数の関係が逆になっている | 「xに具体的な数を入れて、文章の通りになるか確かめてみよう」 |
| 加減法で「x+y=10」と「x+y=14」を足して「2x+2y=24」としたあと、そこから進めない | 二つの式を組み合わせる操作は知っているが、文字を一つ消すという目的を理解していない | 「足したあとの式には文字がいくつ残っているかな。文字を一つにするにはどうしたらいいかな」 |
| 代入法で「y=x+40」を「x+y=500」に代入するとき、「x+x+40=500」ではなく「x+y+40=500」と書く | yをx+40に置き換えるという操作の意味がつかめていない | 「yの代わりに入れるものは何かな。yと書いてある場所を指で押さえてみよう」 |
| 答えが出たあと、xとyの値を逆にして答える | どちらの文字がどちらの数量を表していたかを見失っている | 「xは何を表すと決めたかな。問題文の最初に戻って確認しよう」 |
机の前で1対1で確かめるときは、次の手順が有効です。
- まず、生徒に問題文を声に出して読ませ、「この問題には条件がいくつあるか」を尋ねます。二つの条件があることを言語化できるかどうかを確認します。
- 次に、それぞれの条件を「〜は〜より40円高い」のように、式ではなく言葉で言い換えさせます。式を立てる前に、数量関係を言葉で把握できているかを確かめます。
- そのうえで、一つ目の式を立てさせ、「この式はどの条件を表しているか」を指で問題文の該当箇所と結びつけさせます。二つ目の式も同様に行います。
- 式が二つできたら、「この二つの式をどう使うと、文字が一つになるか」を尋ねます。加減法か代入法かを選ばせるのではなく、文字を一つにするという目的を先に確認します。
- 答えが出たら、必ず二つの式の両方に代入して確かめさせます。片方の式だけで確認して終わらせないようにします。
小学生の段階では、連立方程式そのものは扱いませんが、二つの条件を同時に考える経験は重要です。例えば「全部で10個、赤は白より2個多い」という問題を、式ではなく図や表で考える活動が、後の連立方程式の素地になります。この時期に「一つの条件だけでは決まらない」という感覚を養っておくことが役立ちます。
中学生では、連立方程式の計算手順を覚えることと、文章題で式を立てることの間に大きな隔たりがあります。計算練習を十分に行っても、文章題になると手が止まる生徒は少なくありません。式を立てる段階に時間をかけ、変数の定義と条件の対応を丁寧に確認することが必要です。
高校生になると、連立方程式はそれ自体が目的ではなく、他の単元を解くための道具になります。しかし、中学で「二つの条件を同時に扱う」という枠組みが作られていないと、高校の数学でも文章題のたびに同じつまずきが再現されます。高校で連立方程式の誤りが見られたら、中学の内容に戻って、式を立てる段階から確認し直すことが有効です。
よくある誤読——研究結果をどう使うべきか
誤読その1:「文章題の誤りはすべて語順のせいだ」と単純化する
先に紹介した研究は、文章題で式を立てるときに掛ける数を逆に書く誤りを報告しています。この結果だけを見て、「生徒は文章の語順に引きずられるから、語順に気をつけさせればよい」と短絡的に考えるのは誤読です。
この研究が示しているのは、誤りの背後にある思考過程を調べることの重要性です。誤った式を書く生徒は、単に語順に惑わされているだけでなく、数量関係を記号に変換するプロセスそのものが未熟な場合があります。語順に注意するよう伝えるだけでは、数量関係の把握ができていない生徒には十分な支援になりません。
正しい読み方は、式を立てる段階で生徒がどのように考えているかを観察し、その思考過程に応じた支援をすることです。語順の影響は誤りの一つの現れ方にすぎず、根本には記号化のプロセスへの理解不足があります。
誤読その2:「変数の定義を確認すれば連立方程式の誤りは防げる」と過度に期待する
変数の概念に関する研究は、教師が変数を定義する際の注意を促しています。このことから、「変数を丁寧に定義すれば、連立方程式のつまずきは解決する」と考えるのは、やはり単純化しすぎです。
変数の定義は確かに重要ですが、連立方程式のつまずきには、二つの条件を同時に扱うという構造の理解、式を組み合わせる操作の意味の理解、文章から数量関係を抽出する力など、複数の要素が関わっています。変数の定義を確認することは必要な手順の一つですが、それだけで全ての誤りが防げるわけではありません。
正しくは、変数の定義を含む複数の要素を、生徒の実態に応じて順に確かめていくことです。ある生徒には変数の定義の確認が有効でも、別の生徒には式を組み合わせる目的の確認が先に必要かもしれません。研究結果は、指導の優先順位を考えるための手がかりとして使うべきです。
今週やること——連立方程式のつまずきを見つけるための3つの行動
- 連立方程式の文章題を1問、生徒に解かせるときに、式を立てた段階で「この式は問題文のどの部分を表しているか」を指で示させます。二つの式のそれぞれについて、対応する箇所を特定できるかを確認します。
- 生徒が立てた式に、具体的な整数を代入して、文章の通りになるかを一緒に確かめます。例えば「xに100を入れてみよう。りんごが100円だとすると、みかんはいくらになるかな。文章の『40円高い』と合っているかな」と問いかけます。
- 答えが出たあと、二つの式の両方に代入して確かめる習慣をつけます。片方の式だけで確認して終わっていたら、「もう一つの式でも確かめてみよう」と声をかけ、二つの条件を同時に満たすことの意味を意識させます。
この記事で言えないこと
この記事で紹介した研究は、特定の場面で観察された誤りを報告したものです。そこから得られた知見は、すべての生徒に同じように当てはまるとは限りません。連立方程式のつまずき方には個人差が大きく、ここで挙げた誤り以外にも多様な誤りがあります。
また、この記事では数値的なデータを示していません。どのくらいの割合の生徒がどの誤りをするのか、どの指導法がどの程度の効果を持つのかといった量的な判断は、この記事の範囲を超えています。指導の効果を測るには、別の研究や実践の蓄積を参照する必要があります。
さらに、この記事で扱ったのは連立方程式の導入期から文章題にかけてのつまずきです。加減法や代入法の計算手順の習熟、複雑な文章題への応用、高校数学での活用など、連立方程式に関わるすべての段階を網羅しているわけではありません。生徒一人ひとりの状況に応じて、別の観点からの支援も必要になります。
当塾の立場
連立方程式のつまずきの多くは、家庭でも確かめられます。問題文の条件を言葉で言い換えさせたり、立てた式が文章のどの部分に対応するかを指で示させたりすることは、特別な教材がなくてもできることです。まずは家庭で、答えの正誤ではなく「式を立てるときに何を考えたか」を聞いてみることをお勧めします。
そのうえで、塾が担える部分があるとすれば、生徒の思考過程を継続的に観察し、つまずきのパターンを記録して、その生徒に合った確認手順を一緒に作ることです。当塾では、連立方程式の文章題を解く際に、生徒が立てた式をその場で確認し、誤りが生じた箇所に応じて「変数の定義を確認する」「条件との対応を指で示す」「具体的な数を代入して確かめる」のどの手順を使うかを、生徒と一緒に選びながら進めます。このように、つまずきの型を見極めて、その生徒に合った確かめ方を身につけてもらうことが、個別指導の役割だと考えています。
関連する記事
出典
- Clement J. Algebra Word Problem Solutions: Thought Processes Underlying a Common Misconception. Journal for Research in Mathematics Education. 1982;13(1):16-30.
- Rosnick P. Some Misconceptions Concerning the Concept of Variable. The Mathematics Teacher. 1981;74(6):418-420.

