連載「武蔵野個別指導塾が薦める学習の仕方」全50回の第13回です。全50回の目次を見る
単語カードを何百枚も作ったのに、テストの点が変わらない。暗記アプリを入れてはみたものの、毎日の山が崩れて放置している。どちらも、よくある詰まり方です。原因はたいてい熱意の不足ではなく、カードの設計と回し方にあります。
カードという道具そのものは、学習法の研究がもっとも支持してきた「思い出す練習」と「間隔をあけた復習」の両方を、同時に実装できる数少ない仕組みです。ただし条件があります。粒度を間違えれば思い出す練習になりませんし、山の分け方を間違えれば間隔がゼロになります。
この記事では、カードの作り方と回し方だけを具体的に書きます。1枚に何を書くか、正解したカードをどう扱うか、山をどう分けるか、アプリの設定をどこまで触ってよいか、そしてカードが向かない教材はどれか。英単語そのものの覚え方ではなく、カードという道具の使い方が主題です。
この記事の結論
- 1枚1項目。表には手がかりを1つだけ。長い定義の丸写しや、両面に情報を詰めたカードは、思い出す練習になりません。
- 一度正解したカードを山から抜かない。正解後に読み直しを続けても遅延後の成績は伸びず、正解後も思い出し続けた条件だけが大きく伸びた実験があります。
- 山を小さく分けない。大きい1つの山で回した条件が、4つの小さい山に分けた条件より良い結果でした。小分けは間隔を潰します。
- カードを作る時間は学習時間ではありません。作成に時間を吸われて回す回数が減るなら、既製のものを使ったほうが有利です。
- 向かない教材があります。英単語・漢字・用語・化学式には向き、数学の解法・現代文の読解・英作文には向きません。
カードの設計——粒度と表裏
最初に決めるのは粒度です。1枚のカードで問う対象は1つだけにします。「光合成とは何か」を1枚にまとめると、答えが長くなりすぎて、思い出せたのかどうかの判定ができません。判定できないカードは、回しても効果が測れません。
表裏の設計は次の規則で足ります。
- 表には手がかりを1つだけ書きます。単語、用語、式の左辺、年号の出来事名など。ヒントを2つ以上書くと、思い出す負荷が下がって効果が薄れます。
- 裏には答えと、最小の補足だけ書きます。補足は1行まで。教科書の説明をそのまま写しません。
- 選ぶ形にしません。「次のうち正しいものはどれか」の形は作らないでください。テスト効果のメタ分析では、選んで答える形式(認識)より、自分で思い出して答える形式(再生)のほうが効果が大きいと報告されています。
- 1枚に1つの問い方だけを入れます。英単語で「英語→日本語」と「日本語→英語」の両方を練習したいなら、カードを2枚にします。1枚で両方をやると、どちらができたのか記録できません。
Rowland CA. The effect of testing versus restudy on retention: a meta-analytic review of the testing effect. Psychological Bulletin. 2014;140(6):1432-1463.
作ってはいけないカードの例も挙げておきます。(1) 教科書の1段落をそのまま裏に書いたカード。(2) 表に説明、裏に用語を書いた逆向きのカード(手がかりが長すぎます)。(3) 「重要」と印を付けただけで問いの形になっていないカード。この3つは、作った時点で回す意味がありません。
「カードを作ること」を勉強と勘違いしない
カード作りには独特の落とし穴があります。作業そのものが目に見える成果を生むため、進んでいる感覚が得られてしまうことです。しかしカードを作っている時間は、思い出す練習をしている時間ではありません。100枚作って1回も回さなければ、学習としては何も起きていません。
判断の基準を先に決めておきます。
| 状況 | 自作するか、既製を使うか | 理由 |
|---|---|---|
| 英単語・古文単語・漢字 | 既製(単語帳・アプリの既成デッキ) | 項目が標準化されており、自作の付加価値が小さい |
| 学校の定期テスト範囲の用語 | 自作 | 出題範囲が教科書・プリント固有で、既製が存在しない |
| 自分が間違えた問題 | 自作(ただしコピーを貼る) | 書き写す時間を削る。問題文はコピーして貼り、答えだけ裏に書く |
| 理科・社会の一般的な用語 | 既製を土台に、足りない分だけ自作 | ゼロから作ると量に押し潰される |
自作する場合の時間の上限も決めます。1回のカード作りは15分まで、作った枚数の3倍の回数を回すまで次を作らない。この2つを守るだけで、作成に偏る事故はほぼ防げます。
正解したカードを、山から抜かない
もっとも多い誤りがこれです。1回正解した項目を「もう覚えた」として外してしまうと、そこで学習が止まります。外国語の単語を覚えさせた実験では、一度正解した項目について、その後も思い出す練習を続ける条件・読み直しだけを続ける条件・両方やめる条件が比較されました。
Karpicke JD, Roediger HL. The critical importance of retrieval for learning. Science. 2008;319(5865):966-968.
正解後に読み直しを繰り返しても、遅延後の再生には効果がありませんでした。大きな効果が出たのは、正解後も思い出す練習を続けた条件だけです。さらに、学習者自身の成績予想は実際の成績とほとんど対応していませんでした。「もう覚えた」という感覚は、外す根拠になりません。
実務上の手順はこうします。
- 正解したカードは山から抜かず、後ろへ回します。
- 3回連続で正解したカードだけを「休止」の袋へ移します。1回や2回では移しません。
- 休止の袋は、テストの2週間前に1度だけ全部通します。ここで間違えたものは山へ戻します。
- 間違えたカードは、その場で答えを見て、すぐにもう一度答えを隠して言い直します。
「3回連続」という基準には理由があります。1回の正解は、直前に見た記憶が残っているだけのことが多く、翌日には消えています。間隔をあけて3回正解した項目は、少なくとも短期の記憶だけで答えているのではない、と判断できます。ここで大事なのは回数そのものより、外す条件を自分の感覚以外の場所に置くことです。感覚で外すと、必ず外しすぎます。
もう一つ、間違えたカードには「なぜ間違えたか」を裏の隅に一言だけ書き足しておきます。「つづりのeを落とした」「反応式の係数を合わせ忘れた」程度で十分です。同じカードを何度も間違えるとき、原因が記憶ではなく手順にあることが見えてきます。その場合はカードを直すのではなく、手順のほうを直します。
山を小さく分けない——間隔が消える
カードを扱いやすくするために、50枚ずつなど小さな束に分ける人は多くいます。しかしこの分け方は、同じカードが短い間隔で何度も出てくることを意味し、間隔をあけた復習の利点を消します。
大学生に単語対を覚えさせ、1つの大きな山で回す条件と、4つの小さな山に分けて別々に回す条件を比べた実験があります。
Kornell N. Optimising learning using flashcards: spacing is more effective than cramming. Applied Cognitive Psychology. 2009;23(9):1297-1317.
結果は大きな山のほうが良く、参加者の90%で間隔をあけた条件が有利でした。にもかかわらず、最初の学習を終えた時点で72%の参加者が「まとめてやったほうが効果があった」と考えていました。手応えと結果が反対を向くため、放っておくと小分けのほうへ流れます。
もう一つ、間隔の取り方そのものについての実験もあります。覚えた項目を3回の再テストで復習させ、テストとテストのあいだの間隔を変えた研究では、間隔を合計として長く取った条件は、間隔をまったく取らない条件に比べ長期の保持が200%改善しました。一方で、間隔を少しずつ広げる配置と等間隔の配置のあいだには、はっきりした差は認められませんでした。
Karpicke JD, Bauernschmidt A. Spaced retrieval: absolute spacing enhances learning regardless of relative spacing. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition. 2011;37(5):1250-1257.
つまり、配置の細かい形より、合計としてどれだけ間隔を確保したかが効きます。山を分けるかどうかの判断は、この一点で決めてください。分けるなら教科ごと・単元ごとにし、枚数で機械的に分けないことです。
アプリの設定を、どこまで触ってよいか
Anki のような間隔反復アプリは、正解したら次に出す間隔を伸ばし、間違えたら短く戻す、という考え方で動いています。上で見たとおり、配置の細かい形より合計の間隔のほうが効くので、計算式そのものを触る必要はほとんどありません。
- 最初の3か月は、1日の新規カード枚数だけを調整します。毎日終わらないなら、新規を半分に減らします。既定は他を触りません。
- 復習の上限枚数を下げるのは、溜まったときの一時的な避難措置としてだけ使います。恒常的に下げると、いつまでも回りません。
- 間隔の伸び方(ease)を触るのは、半年以上同じ設定で回して、特定の教科だけ明らかに合わないと判断できた場合に限ります。
- アプリを使わない場合は、封筒を「毎日」「3日ごと」「2週間ごと」の3つに分け、正解したら一つ上へ、間違えたら「毎日」へ戻す運用で同じことができます。
「毎日やる」ことが前提の設計である点にも注意が要ります。数日空けると、その日にやるべきカードが積み上がります。そうなったときは、全部やろうとせず、その日にできる枚数の上限を決めて、古い順ではなく試験に出る順で消化します。そして新規カードの追加を一時停止します。
紙とアプリ、どちらを選ぶか
どちらが優れているかを直接比べた決定的な研究はありません。選ぶ基準は効果ではなく、続けられるかどうかに置きます。次の観点で決めてください。
| 観点 | 紙のカード | アプリ |
|---|---|---|
| 間隔の管理 | 自分で箱を分ける必要がある | 自動。ここは明確にアプリが有利 |
| 作る手間 | 書く時間がかかる | 入力は速いが、既成デッキを探す時間がかかる |
| 集中の妨げ | 通知が来ない | 同じ端末に通知・動画・SNS がある |
| 進み具合の把握 | 束の厚さで見える | 数字で見えるが、実感は薄い |
| 向く学年 | 小学生・中学生の導入期 | 高校生・受験期の大量運用 |
アプリを選ぶ場合、注意すべきは端末そのものです。同じ画面に通知が届く環境で毎日20分を確保するのは、想像よりも難しいことです。対策は単純で、カードを回す時間だけは通知を切る、あるいは学習用の端末を分ける——このどちらかを最初に決めておきます。決めないまま始めて崩れた場合、原因はカードではなく端末にあります。
紙を選ぶ場合の注意は、間隔の管理を自分でやらなければならない点です。上に書いた3つの封筒の運用は、それを最低限の手間で回すための形です。封筒を開く日をカレンダーに書き、書いていない日は開かない。この「開かない日を作る」ことが、紙で間隔を確保する唯一の方法です。
向く教材と、向かない教材
カードは万能ではありません。向き不向きは、「1つの手がかりに対して、答えが1つに決まるか」で判定できます。
| 向く | 向かない |
|---|---|
| 英単語・古文単語・漢字の読み書き | 数学の解法(手順が長く、答えが1つに定まらない) |
| 理科・社会の用語、化学式、化学反応式 | 現代文の読解(同じ文章は2回目に覚えてしまう) |
| 年号・人名・地名のうち、単独で問われるもの | 英作文・自由英作(表現の選択肢が複数ある) |
| 英文法の語形変化、不規則動詞 | 理科の因果の説明(1枚に収まらない) |
向かない教材にカードを使うと、「カードは作れたが解けない」という状態になります。数学は問題集の周回で、現代文は別の文章での解き直しで、英作文は添削の往復で管理します。道具を替えることが解決で、カードの枚数を増やすことは解決になりません。
学年別の運用
小学生
- 枚数の上限を1日20枚にします。終わらない量を積まないことが最優先です。
- カードは保護者が作ってかまいません。回すのは本人です。
- アプリではなく紙のカードから始めます。手で触れる量が見えるほうが続きます。
中学生
- 定期テスト範囲の用語は自作、英単語は既製、と最初に分けます。
- 自作は「間違えた問題」から始めます。最初から網羅しようとしません。
- テスト2週間前に、休止の袋を1度だけ全部通す日をカレンダーに入れます。
高校生
- アプリを使うなら、受験までの残り期間を考えて新規枚数を決めます。逆算せずに増やすと最後に破綻します。
- 科目をデッキで分け、1日の順番を固定します(英単語→古文単語→用語の順など)。
- 模試の直前は新規を止め、復習だけに切り替えます。
効かない条件
第一に、見て分かることと、思い出して書けることは別です。裏を見て「ああ、これか」と思った時点で正解にしてしまうと、認識の練習にしかなりません。カードを回すときは、必ず先に声に出すか書くかしてから裏を見ます。この一手を省くと、枚数だけが増えます。
第二に、カードで覚えた知識が、そのまま応用問題に使えるとは限りません。テストを使った学習が形を変えた課題へどれだけ転移するかを調べたメタ分析では、全体としての転移は認められたものの、その大きさは d = 0.40(95%信頼区間 0.31〜0.50)でした。とくに、刺激と反応を入れ替えた項目や例題形式の問題への転移は弱いと報告されています。英単語カードで語彙を覚えても、長文の中で使えるかは別の練習が要ります。
Pan SC, Rickard TC. Transfer of test-enhanced learning: meta-analytic review and synthesis. Psychological Bulletin. 2018;144(7):710-756.
第三に、多くの学習者は間隔の重要性を理解していません。学生374人に自己テストのやり方を尋ねた調査では、「何回まで正解させるか」という基準の重要性は理解されている一方、「間隔を長く取る」ことは実行されておらず、その利点も理解されていないことが示されました。カードを配っただけでは、この部分は改善しません。
Wissman KT, Rawson KA, Pyc MA. How and when do students use flashcards? Memory. 2012;20(6):568-579.
この記事で言えないこと
引用した実験の大半は、大学生を対象に、単語対や外国語語彙のような単純な材料で行われたものです。中学生・高校生が学校の教材でカードを使った場合に、同じ大きさの効果が出るかは確認されていません。とくに「3回連続正解で休止」「1回15分まで」といった数字は、研究から導いた値ではなく、回し方を決めるための運用上の目安です。
アプリの内部アルゴリズムについても、断定は避けます。Anki をはじめとする間隔反復ソフトの計算式は、製品ごとに異なり、改訂も続いています。上に書いたのは「正解したら伸ばし、間違えたら戻す」という共通の考え方だけで、特定の製品の設定値が最適だという根拠は示せません。
学習法の調査研究にも限界があります。ハートウィグ(Hartwig)とダンロスキー(Dunlosky)の調査では、自己テストの利用も読み直しの利用も、どちらも成績(GPA)と正の関連を示しました。ただしこれは観察された関連であって、因果ではありません。同じ調査では、成績の低い層ほど深夜に勉強する傾向が見られましたが、これも「深夜勉強が成績を下げる」ことの証明ではありません。カードを使えば成績が上がる、と保証する記事ではないことを明記しておきます。
当塾の立場
ここまでの手順は、塾に通わなくても実行できます。必要なのはカードか無料のアプリだけで、費用はほとんどかかりません。まずは自作をやめて既製の単語帳に戻し、山を分けずに1周する——この2つだけでも回り方は変わります。
その上で塾を使う意味があるとすれば、判定と設計の部分だと考えています。この記事の研究から分かるのは、カードの失敗が「本人には見えにくい」ということです。Karpicke らの実験が示すとおり、覚えたかどうかの自己判断は当てになりません。Wissman らの調査が示すとおり、間隔の重要性は自然には身につきません。武蔵野個別指導塾では、カードの粒度を最初の1回だけ一緒に決め、あとは月に1度、休止の袋を抜き打ちで通して判定をこちらで行っています。設計と抜き打ちの判定を外に預けたい方には、この使い方を勧めます。
関連する研究の解説
- 語彙はどう増えるか——教えた語は増え、語彙力は増えないという不都合——カードで覚えた語と、実際の語彙力の関係を扱っています。
- 検索練習——思い出す作業が記憶を作る——カードが効く理由そのものの研究を整理しています。
- 分散学習と交互学習——同じ時間の配り方で結果が変わる——山の分け方が効く理由の背景です。
出典
- Karpicke JD, Roediger HL (2008). The critical importance of retrieval for learning. Science, 319(5865), 966-968. doi:10.1126/science.1152408
- Kornell N (2009). Optimising learning using flashcards: spacing is more effective than cramming. Applied Cognitive Psychology, 23(9), 1297-1317. doi:10.1002/acp.1537
- Karpicke JD, Bauernschmidt A (2011). Spaced retrieval: absolute spacing enhances learning regardless of relative spacing. Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 37(5), 1250-1257. doi:10.1037/a0023436
- Wissman KT, Rawson KA, Pyc MA (2012). How and when do students use flashcards? Memory, 20(6), 568-579. doi:10.1080/09658211.2012.687052
- Hartwig MK, Dunlosky J (2012). Study strategies of college students: are self-testing and scheduling related to achievement? Psychonomic Bulletin & Review, 19(1), 126-134. doi:10.3758/s13423-011-0181-y
- Rowland CA (2014). The effect of testing versus restudy on retention: a meta-analytic review of the testing effect. Psychological Bulletin, 140(6), 1432-1463. doi:10.1037/a0037559
- Pan SC, Rickard TC (2018). Transfer of test-enhanced learning: meta-analytic review and synthesis. Psychological Bulletin, 144(7), 710-756. doi:10.1037/bul0000151
- Dunlosky J, Rawson KA, Marsh EJ, Nathan MJ, Willingham DT (2013). Improving students’ learning with effective learning techniques: promising directions from cognitive and educational psychology. Psychological Science in the Public Interest, 14(1), 4-58. doi:10.1177/1529100612453266
