教科書と問題集の使い分け|武蔵野個別指導塾が薦める学習の仕方

問題集は何周もしているのに点が伸びない。あるいは、教科書は読んでいるのに問題になると手が出ない。どちらの相談も、教科書と問題集を同じ道具として使っていることから起きています。この2つは中身の密度が正反対で、役割も違います。

教科書は説明が詰まっていて問題が少ない。問題集は問題が多くて説明が薄い。当たり前のようですが、この非対称を意識して使い分けている生徒は多くありません。教科書を「読み物」として通読し、問題集を「作業」として埋める。これだと、教科書からは手順が身につかず、問題集からは理由が身につきません。

この記事では、例題をどう使い、いつ自力に切り替え、答えをいつ見て、解説の何を読むかを手順にします。研究が示している数値も出しますが、目的はその紹介ではなく、机の上での動かし方を決めることです。

この記事の結論

  • 初めての単元では、いきなり解かずに例題を読むほうが効率的です。数学の学習について43本の論文(55研究、181の効果量)をまとめたメタ分析では、例題を使った指導の平均効果量は g = 0.48 でした。
  • ただしこの優位は、慣れてくると消えるか逆転します。知識がついた後も例題に頼り続けるのは損です。外す時期の判断基準をこの記事で示します。
  • 答え合わせで「正解か不正解か」だけを見るのは、ほとんど効果がありません。コンピュータ学習の40研究をまとめたメタ分析では、正誤だけを返す方式の効果量は 0.05、正解を示す方式は 0.32、説明つきの方式は 0.49 でした。
  • 間違い直しは「解き直し」ではなく「どこで曲がったかの特定」です。手順を5段階で示します。
  • 問題集を増やすより、1冊を間隔を空けて回すほうが条件が整います。ただし「1冊主義」そのものを検証した研究は見当たりません。この記事では根拠のある部分と実務上の判断を分けて書きます。

教科書と問題集は、密度が逆である

教科書には、なぜその公式が成り立つのか、なぜその語形になるのか、どういう流れで出来事が起きたのかが書かれています。そのかわり、練習できる問題はほとんど載っていません。問題集はその逆で、問題は大量にありますが、解説は1問あたり数行です。

ここから、使い分けの原則が出ます。「なぜ」を知りたいときは教科書へ戻る。「できるか」を確かめたいときは問題集へ行く。問題集の解説を何度読んでも分からないときは、解説の書き方が悪いのではなく、教科書の側にある前提が抜けていることがほとんどです。

実務的には、机の上に両方を開いておくことを勧めます。問題集だけを開いて「分からない」と止まる時間が、生徒の学習時間の中で最も長い無駄です。

教科書 問題集
密度が高いもの 説明・理由・用語の定義・図 問題数・出題形式の幅
薄いもの 練習量 理由の説明
向いている場面 初めて習うとき、間違いの原因を探すとき できるかを確かめるとき、速さを作るとき
失敗の型 読んだだけで分かった気になる 答えを写して埋めた気になる

例題から自力へ——順序と、例題を外す時期

初めての単元でいきなり問題を解こうとすると、頭の作業量が多すぎて、解けても何も残りません。先に完成した解答(例題)を読むほうが効率がよいことは、繰り返し確認されています。

Barbieri CA, Miller-Cotto D, Clerjuste SN, Chawla K. (2023). A meta-analysis of the worked examples effect on mathematics performance. Educational Psychology Review.

このメタ分析は、8033件の抄録を絞り込んで43本の論文(55研究、181の効果量)を採用し、数学の成績に対する例題の平均効果量を g = 0.48(p = 0.01)と報告しています。中程度の大きさです。

ところが、この優位は学習者の熟達度によって反転します。これは「熟達の逆転」と呼ばれ、初心者に効く支援が、知識のついた学習者には効かなくなる、あるいは邪魔になるという現象です。

Kalyuga S. (2007). Expertise reversal effect and its implications for learner-tailored instruction. Educational Psychology Review.

チェン(Chen)らは、複数の手順を踏む数学の問題を使って、例題を用いた学習が保持テストでも転移テストでも有利になり、学習中の認知的な負荷と難しさの感じ方も小さくなることを示しています。一方で、ニーフェルスタイン(Nievelstein)らは、法律の事例を推論する課題でこれを検証し、例題が有効なのは初心者の段階であり、前提知識がつくと自分で解くほうが学習に効くと整理しています。サルデン(Salden)らの研究では、例題を減らしていく速さを生徒の理解度に合わせて変えたほうが、決まった速さで減らすより学習の伸びが大きいという結果が出ています。

実際の手順に落とすと、次のようになります。

  1. 新しい単元の最初の1問は、解かずに例題として読む。解答を隠さず、最後まで読みます。
  2. 読んだ直後に、その例題を見ずに同じ問題を書き写すつもりで解く。途中で詰まったら例題を見てよい。見た行に印をつけます。
  3. 2問目は、途中まで解答が載っている状態にする。問題集の解説の前半だけ読み、後半は隠して自分で続けます。
  4. 3問目から自力で解く。ここで初めて時間を計ります。
  5. 2問続けて例題を見ずに解けたら、その単元の例題は外す。これが「外す時期」の判断基準です。以降は問題集だけで進めます。

5番が重要です。多くの生徒は例題を外すのが遅すぎます。解答を見ながら解くと手は動くので、できている感じが続いてしまうからです。2問続けて自力で通ったら、例題は閉じてください。

答えをいつ見るか

「すぐ見る」と「粘る」のどちらがよいかは、研究でもきれいには決着していません。フィードバックのタイミングを扱った古典的なメタ分析では、53本の研究をまとめた結果、実際の教室の小テストを使った研究では即時のほうが有効で、実験室で内容の習得を調べた研究では逆の傾向だったと報告されています。

Kulik JA, Kulik CC. (1988). Timing of feedback and verbal learning. Review of Educational Research.

また、ファン・ゴッホ(van Gog)とケスター(Kester)は、40名の学生を対象に、例題を読むだけを繰り返す条件と、例題を読んでは類題を解く条件を比べました。5分後の即時テストでは両条件に差がなく、1週間後の遅延テストでは「読むだけ」の条件のほうが成績がよかったという、予想と逆の結果でした。解く回数を増やせば必ず定着するわけではない、ということです。

この記事では、研究が一致していないことを認めたうえで、実務上の目安を置きます。以下は研究が検証した数値ではなく、当塾での運用の基準です。

状況 答えを見るまで 理由
初めての単元・例題の直後 すぐ見てよい 粘っても材料がない。手順を覚える段階
解き方の見当はついている 5分ほど粘る 取り出す練習になる時間帯
何を問われているか分からない 2分で見る 粘っても問題文の読み違いは直らない
入試の過去問・記述問題 本番の制限時間まで 時間内に判断する訓練そのものが目的

共通しているのは、「何も書けないまま10分以上止まっている時間は捨てている」ということです。止まったら見る。見たあとの処理で取り返します。

解説の読み方——正誤だけ見ると効果は小さい

ここがこの記事で最も実利のある節です。答え合わせのやり方で、同じ時間の価値が何倍も変わります。

Van der Kleij FM, Feskens RCW, Eggen TJHM. (2015). Effects of feedback in a computer-based learning environment on students’ learning outcomes: a meta-analysis. Review of Educational Research.

この研究は40本の研究から70の効果量を算出しました(-0.78 から 2.29 の範囲)。結果は明快です。正誤だけを返す方式の効果量は 0.05、正解を示す方式は 0.32、説明を伴う方式は 0.49。説明つきの方式は、とくに高次の学習成果で他より有効でした。また、数学で効果量が大きく、フィードバックが遅れると効果量は小さくなる傾向が示されています。

丸つけをして点数を出して終わり、という勉強は、この一番左の 0.05 の使い方をしていることになります。解説を読む工程を入れるだけで、同じ問題集が別の道具になります。

読み方の手順です。

  1. 自分の答案と解説を左右に並べる。解説を上から読むのではなく、突き合わせます。
  2. 最初に食い違った行を特定して丸で囲む。答えが違うことではなく、どこから違ったかを探します。
  3. その行で解説が使っている根拠を、教科書のどこに書いてあるか探す。見つけたらページ番号を問題集の余白に書きます。
  4. 解説を閉じて、その1行を自分の言葉で説明する。「ここで両辺を2乗してよいのは、両辺が正だと分かっているから」のように書きます。
  5. 正解した問題も、自信がなかったものは同じ処理をする。まぐれで合った問題は、次は外れます。

4番の「自分の言葉で説明する」は自己説明と呼ばれ、例題と組み合わせた研究が数多くあります。ただし万能ではありません。ヒルベルト(Hilbert)らが111名の学生教員を対象に行った実験では、自己説明を促す働きかけ自体は概念的知識も技能も高めた一方で、解答の一部を自分で埋めさせる形式は学習を妨げ、それは自己説明の働きかけと組み合わせたときに特に顕著でした。ムワンギ(Mwangi)とスウェラー(Sweller)の実験でも、自己説明を求めることに有意な効果は出ていません。やり方によっては足を引っ張るということです。

間違い直しの手順

間違い直しを「もう一度解いて正解を書く」ことだと思っている生徒が多いのですが、それではほぼ何も残りません。原因を分けてください。

  1. 間違いを3つに分類する。(1) 知らなかった、(2) 知っていたが気づかなかった、(3) 計算・書き間違い。印を3種類決めて問題番号の横に書きます。
  2. (1) は教科書へ戻る。該当ページを読み、例題を1問解いてから問題集へ戻ります。
  3. (2) は「気づくための合図」を1行で書く。「分母にxがあるときは、まず定義域を書く」のように、次に同じ場面で自分に出す指示の形にします。
  4. (3) は問題を解き直さない。同じ計算だけを3回やって終わりにします。ここに時間をかけるのは非効率です。
  5. 間違えた問題番号だけを別紙に控え、翌日と1週間後に解き直す。問題集に印をつけるだけだと、見返すときに探す手間で止まります。

誤答そのものを教材にする研究もあります。バルビエリ(Barbieri)とブース(Booth)は、中学の代数で125名を、問題を解く群、正しい例題を読む群、誤った例題を読む群に無作為に割り当てました。

Barbieri C, Booth JL. (2016). Support for struggling students in algebra: contributions of incorrect worked examples.

事前知識と誤答例の間に有意な交互作用が見られ、事前知識の低い生徒で誤った例題の効果が現れました。グローベ(Grobe)とレンクル(Renkl)も、正解だけの例題より、正解と誤答を混ぜたほうが学習成果を高めうるかを検証しています。自分の誤答を丁寧に見る作業には、それなりの根拠があるということです。

何冊も買わないほうがよい理由

まず正直に書きます。「問題集は1冊に絞るべきだ」という命題を直接検証した研究は、調べた範囲では見当たりませんでした。ですから以下は、別の研究から言える部分と、実務上の判断を分けて述べます。

研究から言えるのは、思い出す作業と、間隔を空けた反復に効果があるということです。新しい問題集を買うと、この2つの条件が壊れます。同じ問題に2度目が来ないからです。2冊目を買った時点で、1冊目の2周目が消える——これが実質的な損失です。

実務上の判断としては、次の基準を使っています。

  1. 1冊目の正答率が8割を超えるまで、2冊目を買わない。
  2. 買い足すのは「足りない形式」があるときだけ。記述問題が無い、図表問題が無い、といった欠落を確認してから買います。難易度を上げたいだけなら、今の1冊の後半が残っているはずです。
  3. 同時に進めるのは2冊まで。教科書準拠の1冊と、入試形式の1冊。3冊目からは、どれも中途半端になります。

学年別・教科別の配分

学年 教科書と問題集の比 この時期の注意
小学生 教科書3・問題集7 まず解ける経験を作る。間違い直しは(3)の計算ミスの扱いを覚えるところから
中学生 教科書5・問題集5 解説で分からなければ教科書へ戻る往復を習慣にする。定期テスト3週間前から間違い直しの別紙を作る
高校生 教科書4・問題集6 例題を外す時期が遅れやすい。2問続けて自力で通ったら閉じる基準を守る

教科による違いもあります。数学・理科の計算分野は例題中心で、上の手順がそのまま当てはまります。英語と国語は、教科書の本文そのものが素材なので、問題集に入る前に本文を音読し、訳と構造を確認する工程が要ります。社会は教科書が問題集を兼ねます——教科書の太字を隠して答える使い方が、別に問題集を買うより効率的な場面が多くあります。

この記事で言えないこと

第一に、例題の効果量 g = 0.48 は数学の成績についての平均値です。国語や社会にそのまま当てはまるとは言えません。またメタ分析の平均は、うまくいった条件と効かなかった条件をならした数字です。

第二に、「例題を外す時期」の具体的な基準(2問続けて自力で通ったら)は、研究が検証した数値ではありません。熟達の逆転という現象そのものには根拠がありますが、切り替えの閾値をどこに置くべきかは分かっていません。実際、サルデンらの研究が示すのは「個々の理解度に合わせて変えるほうがよい」ということであり、固定の基準が最善だとは言っていません。

第三に、答えを見るまでの時間の目安は、研究の数値ではありません。フィードバックのタイミングについて、教室での研究と実験室での研究は逆の傾向を示しており、決着していません。表の数字は当塾の運用上の目安です。

第四に、自己説明はやり方によって効かない、あるいは逆効果になります。ヒルベルトらの実験では解答を埋めさせる形式との組み合わせで学習が妨げられ、ムワンギとスウェラーの実験では有意な効果が出ませんでした。「説明させれば伸びる」と単純化しないでください。

第五に、1冊主義には直接の研究的裏づけがありません。上に書いたのは間隔反復と検索練習からの推論と、実務上の判断です。すでに複数冊を並行して回せている生徒に、やめるよう勧める根拠はありません。

当塾の立場

ここまでの手順は、塾に来なくても実行できます。必要なのは、今持っている教科書と問題集、それに間違えた問題番号を控える別紙だけです。とくに「解説の読み方」の5つの手順は、今日の宿題から使えて、効果が最も分かりやすい部分です。まず1教科、2週間だけ試してみてください。丸つけの時間が倍になり、解き直しの時間が半分になれば、正しい方向に動いています。

そのうえで、外から見る意味がある部分もあります。この記事の手順のうち、生徒が自力で最もできないのは「最初に食い違った行を特定する」ところです。自分の答案の、どこまでが正しくてどこから曲がったのかは、その内容が分かっている人には一目で見えますが、分かっていない本人には見えません。武蔵野個別指導塾では、答案を横に置いて、その1行を一緒に探します。説明を伴うフィードバックの効果量が 0.49 で、正誤だけを返す方式が 0.05 だったという結果は、1対1で見る時間を何に使うべきかを示しているとも読めます。点数を告げるためではなく、曲がった場所を指すために使う、ということです。

出典

  1. Barbieri CA, Miller-Cotto D, Clerjuste SN, Chawla K (2023). A meta-analysis of the worked examples effect on mathematics performance. Educational Psychology Review.
  2. Van der Kleij FM, Feskens RCW, Eggen TJHM (2015). Effects of feedback in a computer-based learning environment on students’ learning outcomes: a meta-analysis. Review of Educational Research.
  3. Kulik JA, Kulik CC (1988). Timing of feedback and verbal learning. Review of Educational Research.
  4. van Gog T, Kester L (2012). A test of the testing effect: acquiring problem-solving skills from worked examples. Cognitive Science, 36, 1532-1541.
  5. Kalyuga S (2007). Expertise reversal effect and its implications for learner-tailored instruction. Educational Psychology Review.
  6. Nievelstein F, van Gog T, van Dijck G, Boshuizen HPA (2013). The worked example and expertise reversal effect in less structured tasks: learning to reason about legal cases. Contemporary Educational Psychology.
  7. Salden RJCM, Aleven V, Schwonke R, Renkl A (2010). The expertise reversal effect and worked examples in tutored problem solving. Instructional Science.
  8. Barbieri C, Booth JL (2016). Support for struggling students in algebra: contributions of incorrect worked examples.
  9. Grobe CS, Renkl A (2007). Finding and fixing errors in worked examples: can this foster learning outcomes? Learning and Instruction.
  10. Hilbert TS, Renkl A, Kessler S, Reiss K (2008). Learning to prove in geometry: learning from heuristic examples and how it can be supported. Learning and Instruction.
  11. Mwangi W, Sweller J (1998). Learning to solve compare word problems: the effect of example format and generating self-explanations. Cognition and Instruction.
  12. Chen O, Retnowati E, Chan BKY, Kalyuga S (2023). The effect of worked examples on learning solution steps and knowledge transfer. Educational Psychology.

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