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将棋やチェスで算数は伸びるのか—「遠くへの転移」をめぐる研究と家庭での受け止め方|武蔵野個別指導塾

対局で考える力と算数の問題を解く力を分け、研究の結果を家庭の判断につなげます。習い事を楽しむ時間を守りながら、文章題の読み方や解き直しを具体的に整えてみませんか。

将棋やチェスで算数は伸びるのか—「遠くへの転移」をめぐる研究と家庭での受け止め方
盤面では先を読めるのに、文章題で手が止まる
よくあるのは、縁側に置いた盤を挟んで、お子さまが次の手をじっと考えていたのに、帰る前に開いた算数の宿題では「何算かわからない」と鉛筆を置くという場面です。あれほど先を読めるのだから、文章題も解けるはず。保護者がそう感じるのも自然です。本人にも「考えるのは好きなのに、どうして算数だとできないのだろう」という戸惑いがあるかもしれません。
将棋やチェスには、候補を比べ、相手の応手を考え、選んだ手を振り返る楽しさがあります。その姿を見て、算数にも役立ってほしいと思うこと自体は無理な期待ではありません。ただ、盤上でできたことが、別の教科でもそのままできるのかは、分けて考える必要があります。
習い事の価値を算数の点数だけに預けると、成績が動かないときに、好きだった対局まで評価の対象になってしまいます。まずは研究が比べたものを読み解き、そのうえで「対局を続ける理由」と「算数の困りごとへの対処」をそれぞれ言葉にしましょう。両方が見えると、続けるかやめるかの二択だけで悩まずに済みます。

「考える」という共通点だけではつながらない
ある場面で学んだことを別の場面で使えるようになることを、学習の「転移」と呼びます。同じ計算の仕方を数字の違う問題で使う場合と、チェスで身につけた力が算数の文章題に役立つ場合では、場面の隔たりが違います。後者のように離れた領域への広がりが「遠くへの転移」です。どちらにも考える時間があるからといって、必要な知識まで同じとは限りません。
たとえば、文章題で代金を求めるには、単価と個数の関係を読み取り、式に表し、答えの単位を選ぶ必要があります。盤上で有力な手を探すことに慣れていても、「1個あたり」という言葉を取り違えれば式は変わります。「集中力があるか」という大きな問いだけでは、こうした小さなつまずきが隠れてしまいます。
学校でのチェス指導を集めたメタ分析は、24研究をまとめ、チェス群2,788人と対照群2,433人を比較しました。全体の効果量はg = 0.338、数学はg = 0.382、読解はg = 0.248でした(Sala・Gobet、2016)。効果量は、異なる尺度の結果を比較しやすく表した差の大きさです。数学の数値を「得点が38.2%上がる」と読んだり、本人の次のテストの上昇幅に置き換えたりすることはできません。
別の研究では、算数の問題解決と、自分の考え方を捉えるメタ認知を調べるため、活動をする対照群を含む2つの実験が行われました。小3〜4年生233人などを対象とし、チェス25時間の指導と、チェッカーや囲碁の活動をする群、何もしない群が比較されています。これらの実験では、チェス群と対照群の間に算数の問題解決やメタ認知の統計的に有意な差はありませんでした(Sala・Gobet、2017、Learning & Behavior)。「対局のある生活」と「算数が伸びる生活」をすぐ同じものとは扱えない結果です。
これらを読む際の留保は、学校での指導を集めた24研究では別の活動をする対照群がほとんどなく、小3〜4年生233人などを調べた実験の結果も日本の全学年や将棋の習い事にそのまま当てはめられないことです。活動のある群を比較相手にするのは、新しいことを教わる経験や注目を受けることと、チェスそのものの働きを区別したいからです。有意な差がないという結果も、すべての本人について何の変化も起きないという宣言ではありません。反対に、囲碁が比較相手だったことを、囲碁の算数への効果が証明されたという意味にも取れません。
チェス・音楽・作業記憶の訓練を扱ったメタ分析の検討でも、研究デザインの質が高いほど小〜中程度の効果は小さくなり、離れた領域への転移はまれだと整理されています(Sala・Gobet、2017、Current Directions in Psychological Science)。家庭での受け止め方は、「好きな活動を楽しみつつ、算数は算数の知識を使って練習する」が穏当です。対局での成長を喜ぶことと、算数の学習時間を確保することは両立します。
今日の算数につなぐ、短い練習の組み立て方
ここからの時間や問題数は、家庭で試す手順の例です。長く取り組めたかを競うための基準にはせず、宿題の量や帰宅時刻に合わせて変えてください。用意するものは、学校で使っている教科書、取り組んだ問題、解き直し用の紙です。対局の教材と算数の教材を机の上で分けるだけでも、今何をする時間なのかをはっきりさせられます。
最初の3分で、困っている場所を選ぶ
まず、直近の宿題から、途中で止まった問題を1問選びます。難しそうな問題を新たに探す必要はありません。問題文の意味がわからないのか、式が作れないのか、計算で間違うのかを見て、自分が止まった行に小さく印をつけます。「算数が苦手」と紙全体をまとめるより、次に確かめる場所が具体的になります。
次に、その問題で求めるものを短く書きます。「全部の代金」「残った長さ」のような言葉で十分です。続けて、与えられた数の横に単位を書きます。最後に、その数が何を表しているかを声に出して読みます。数だけを拾って計算を始めていなかったか、自分で点検する準備になります。
この段階で問題文を自分の言葉にできなければ、すぐ解答を写さず、わからない言葉に線を引いておきます。「ここを説明してほしい」と示せることも、学習を進めるための成果です。中高生が数学で行う場合も、「割合の基準がどれか」「式の文字が何を表すか」のように、止まる場所を狭めてみてください。
次の8分で、式の前に関係を表す
文章題は、わかっていることと求めることを分けてから、図や表に移します。長さなら線を引き、個数なら簡単な丸を並べるなど、関係が見える形を選びます。絵をきれいに仕上げる必要はありません。教科書の似た例題を開き、どの言葉をどの部分に置いているかを比べてください。
手順は、問題文を読む、図や表にする、式の理由を一言書く、の順です。たとえば「1個120円の品を3個買う」という練習なら、120円が3つ分であることを表してから、120 × 3と書きます。答えだけでなく「同じ代金が3つ分だから」と添えられるかを見ます。数字を変えたときも同じ説明が使えるか、という確認につなげられます。
対局で使っている「候補を比べる」という言葉が本人に伝わりやすければ、式の候補を比べる合図に使ってもよいでしょう。ただし、候補の選び方は算数の内容で確かめます。足す式とかける式を並べたなら、それぞれが図のどこに対応するかを説明します。「将棋と同じように考えて」だけで終わらせず、手元の数や単位に戻ることが要点です。
時間が来ても式が作れなければ、途中の図を残して区切ります。できるまで粘るという約束だけでは、対局の日に終わりが見えなくなります。残した図に「全部の数なのか、1つ分なのかで迷った」と書けば、翌日も途中から再開できます。
5分の解き直しで、答えを隠して確かめる
答え合わせでは、正誤の印だけで終わらず、自分の式と解答の式が分かれた場所を探します。解答を見る前の紙を消さずに残し、別の場所に直した式を書きます。間違いを消して正解だけを残すと、どこを直したのかが自分でも見えなくなります。
教科書の例題は、説明を読んだあとで閉じ、自分の言葉で式の理由を言うために使います。宿題の問題は、最初の考えと修正後の考えを比べるために使います。解き直し用の紙は、翌日に答えを見ずに再挑戦するために使います。教材を増やす前に、手元の教材の役割をこの3つに分けてみてください。
確かめ方も3つ用意します。まず、答えを隠して式を作れるか。次に、数を入れ替えた類題でも理由を言えるか。最後に、別の日に同じ考え方を使えるかです。すべてを同じ日に確認する必要はありません。答えを見た直後の「わかった」と、後で自分で再現できたことを別に記録します。
翌日の確認では、前日の紙を裏返してから問題を開きます。すぐに思い出せなくても、まず求めるものと単位を書き、前日と同じ入口を作ってみてください。それでも止まったら、例題のどこを見たかを記録します。答えまで見たのか、図だけ見たのかでも、必要だった助けは違います。自分でできた部分と借りた部分を分けておくと、次は図だけ隠すなど、確認の仕方を選べます。
解き直しが重く感じるときは、全部を最初から書き直す代わりに、間違えた理由を選ぶところから始める案もあります。「求めるものを読み違えた」「式を選ぶ理由が曖昧だった」「計算の途中でずれた」のどれに近いかを考え、該当する行を指します。理由がまだわからなければ、そのまま質問にします。原因を無理に決める必要はなく、次に誰かと確かめる場所を残すことが目的です。
対局の日と、対局のない日で終わり方を変える
対局のある日は、始める前に「宿題のどこまで終え、残りをいつするか」を紙に書きます。帰宅後に疲れている日は、止まった問題を選び、質問を書くところまでにする案もあります。残りを翌日のどの時間に回すかまで決め、未完了の問題が毎日積み重なっていないかを見てください。
対局のない日は、前に残した問題と、その類題を組み合わせます。前の問題が解けたらすぐ難問へ進むのではなく、解き方の理由まで言えたかを確認します。中高生なら、教科書の例題から練習問題へ進み、途中式のどこで条件を使ったかを書き込むやり方に置き換えられます。学年が上がっても、自分が使った知識を特定するという目的は同じです。
対局そのものを毎回算数の課題に変える必要はありません。勝敗のあとに何度も「勉強にも生かして」と言われれば、遊びの感想を話しにくくなることもあります。対局の振り返りは本人が話したいことを聞き、算数の振り返りは算数の紙を見ながら行う、と場を分ける案があります。
練習用の問題を選ぶときは、最初から異なる単元を混ぜず、今確かめたい関係が使えるものを選びます。類題で答えが合っても、前の数字を置き換えただけなら、単位や図との対応をもう一度言葉にします。一方で、理由まで説明できた問題を何度も追加する必要はありません。手順が自分で使えたところで終え、残った時間を休息や対局に戻すことも、予定を守る練習の一部にできます。
週末には記録を見て、続ける手順を1つ選びます。「図を描くと関係が見えた」「単位を書いたら式を選べた」など、実際に使えた行動を残してください。できなかった欄を埋めるために勉強を追加するのではなく、次の週も使う手順と、助けが要る場所を整理するための見直しにします。

個別指導では、盤上の強さより答案の途中を見てもらう
個別指導を検討する際は、「将棋をしているので思考力を伸ばしたい」という希望に、算数の具体的な困りごとを添えてください。「文章題では数字を全部使おうとする」「式は合うが単位を落とす」「解説を読むと納得するが翌日には止まる」といった情報があると、何を確かめたいかが伝わります。武蔵野個別指導塾についても、こうした途中の考え方をどう扱うかは体験授業や面談で確かめてください。
指導側に求めたいのは、必要な知識の切り分け
算数の支援として求めたいのは、問題を読めるか、関係を表せるか、計算できるかを分けて見ることです。同じ誤答でも、言葉の意味が曖昧な場合と、計算の手順が定まっていない場合では、練習する内容が変わります。「もっと集中する」でまとめず、答案のどの行から一緒に確かめるのかを相談しましょう。
たとえば、かけ算を使う理由が言えないときは、計算問題を増やすだけで足りるのかを検討したいところです。反対に、図も式も合っているのに計算でずれるなら、関係の説明を毎回長く繰り返すより、途中計算を見てもらう方が相談の焦点は合います。対局の経験は会話の入口にできますが、必要な練習は実際の答案から選びます。
体験授業では、説明を聞いた直後の反応に加え、似た問題を一人で考える時間がどう扱われるかも確かめてください。すぐ答えが出たかだけでなく、どんな助言で考え直せたかを尋ねると、家庭で同じ場面になったときの相談につながります。本人にも「どの説明で、どこがわかったか」を短く聞いてみましょう。
家庭が持つのは、時間と本人の言葉
家庭で担う範囲は、学習内容をすべて教えることに広げず、生活の中で実行できる時間と本人の希望を整理するところから始められます。対局のある日、帰宅後に取り組める量、寝る前に残って困る課題を書き出します。そのうえで「今の宿題をどの日に分けられるか」を相談する材料にしてください。
保護者が隣で採点し続ける必要はありません。本人が止まったところに印をつけたら、その紙を残す。予定した範囲まで進めたら、残りの扱いを一緒に確かめる。この程度に役割を絞る案があります。教える内容まで抱え込んで毎晩衝突するなら、家庭で何を見て、何を相談に回すかを改めて決めましょう。
対局を続けたい理由も、本人の言葉で書いておくと役立ちます。「次の相手とまた指したい」「前に読めなかった手を考えたい」という理由があるなら、それは算数の記録とは別の欄に置きます。好きな理由を成績向上の説明に言い換えなくても構いません。生活の配分を決めるときに、本人が守りたい時間として扱えます。
予定を変えるときは、一度に対局の回数と宿題の量と学習時刻を全部動かすより、困っている場面に合わせて変更点を絞る案があります。帰宅後には始められないなら、出かける前に問題を選んでおく。終わるまでに時間がかかるなら、同じ種類の課題をどこで区切れるか相談する。毎回同じ言葉で止まるなら、その言葉の理解を確かめる。生活の調整で扱うことと、説明が必要なことを混ぜずに整理します。
本人との話し合いでは、「続けたいなら勉強を頑張って」という広い条件だけを置かず、今週の行動に直します。「出発前に図まで描く」「わからない問題を残して相談する」といった約束なら、守れたかを同じ紙で見られます。予定どおりにならなかった場合も、帰宅が遅かったのか、問題で迷ったのかを聞いてから直せます。活動を続けたい気持ちの強さを、宿題の出来で測らないようにしましょう。
進み具合は、できた条件まで残す
進み具合を見えるようにするなら、日付、問題の種類、手助け、次に確かめることを簡単に書きます。「文章題ができた」だけでなく、「図は一人で描けた。式は例題を見て作った。次回は例題を閉じる」と残す形です。助けを受けたことを失敗扱いせず、今どこまで一人でできるかを共有できます。
相談に持参するメモも長文にする必要はありません。「対局の日は最初の1問まで」「割合で基準の量を選べない」「次は図に基準を書いてみたい」のように、生活上の条件、学習のつまずき、次の行動を並べる案があります。実際にどの形で相談できるかは面談で確かめてください。特定の連絡方法を前提に準備するより、答案と短いメモで説明できる状態にしておくとよいでしょう。
見直す際には、対局の勝敗と算数の正答数を一つの評価にまとめないことも大事です。対局では満足していても宿題が残るなら、算数を始める時刻や課題の分け方を直します。宿題は終わっていても本人が対局を負担に感じているなら、活動について話し合います。どちらの困りごとなのかを分けることで、必要な相談を選びやすくなります。
よくある疑問を、続け方の判断につなげる
Q1. 算数に直接つながらないなら、習わせる意味はありませんか
意味を算数の得点だけに限定する必要はありません。本人が対局を楽しみ、工夫した手を振り返り、また挑戦したいと思っているなら、その活動を続けたい理由になります。「役に立ったか」を尋ねる前に、「どんなところが面白かったか」を聞いてみてください。保護者が期待した成果と、本人が得ている楽しさは、別々に話せます。
始めるときに学力への期待が大きかった場合も、今から目的を整理できます。「算数のために続けよう」から「対局は楽しむ。算数は困っている単元を練習する」へ、家庭での説明を変える案があります。そのうえで、睡眠や宿題を含めて無理のない配分になっているかを点検します。
Q2. 将棋、チェス、囲碁では、どれが算数に向いていますか
算数への効果を順位にして選ぶより、本人が興味を持ち、ルールを学びたいと思えるものから考えてみてください。見学や体験ができるなら、終わったあとに「もう一度やりたいか」「どこが難しくて面白かったか」を聞きます。上手にできたかだけを選択の条件にしない方が、本人の希望を話しやすくなります。
算数の苦手を理由に活動を選ぼうとしている場合は、先に答案を見て困りごとを特定しましょう。計算の手順を練習したいのか、文章を図にしたいのかが決まれば、必要な学習を直接組み立てられます。活動選びと教科の相談を別に進めることもできます。
Q3. 対局を始めてから点数が上がりました。効果と考えてよいですか
上がったことは本人と喜んでください。そのうえで、同じ時期に何を変えたかも振り返ります。宿題の解き直しを始めた、授業で扱った単元が得意だった、問題文を読む手順を変えたなど、本人が続けられる行動を探してみましょう。点数だけから理由を一つに決めるより、次にも使える工夫が残ります。本人が工夫を思い出せないときは、前の答案と今の答案を並べ、書き方が変わった場所を探してください。点数以外にも話し合う手がかりを持てます。
「対局を続ければ次も上がる」と新しい約束を背負わせず、「図を描いて考えた問題が解けたね」と具体的に伝える案があります。結果が下がったときにも同じ紙を見直せるようにしておけば、好きな活動をすぐ原因として責めず、問題ごとの手直しに戻れます。
好きな対局と、必要な練習にそれぞれ場所をつくる
将棋やチェスを続ける理由を、算数の成績だけで説明する必要はありません。盤上で考える面白さを認めながら、文章題では言葉を読み、関係を表し、式の理由を確かめる時間を取る。その組み合わせから、家庭の予定を考えてみてください。
今夜始めるなら、止まった問題を選び、どこで迷ったかに印をつけるところまでで十分です。次に使う手順が見えたら、対局の日にも実行できる形に小さく整えます。武蔵野個別指導塾で相談する場合は、その答案をもとにどんな練習を選ぶのか、体験授業や面談で確かめてください。答案の一行で「この数は何を表すか」を尋ねると、対局の上手さからは判断できない、算数で補うべき知識が見えてきます。
参考文献
- Sala・Gobet(2016)学校でのチェス指導と認知・学業のメタ分析。https://doi.org/10.1016/j.edurev.2016.02.002
- Sala・Gobet(2017)算数の問題解決を調べた、活動のある対照群を含む2実験。https://doi.org/10.3758/s13420-017-0280-3
- Sala・Gobet(2017)チェス・音楽・作業記憶の訓練と遠くへの転移の検討。https://doi.org/10.1177/0963721417712760
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