心配が残るときにも使える、条件を囲む・最初の1行を書く・次の設問へ移る動作を練習します。答案の記録と相談先を整理することで、本人だけで抱え込まずに備えられます。

高校受験の不安と本番―心配で手が止まるときの備え方
会場の入口で足が止まったら
よくあるのは、模試会場の入口で受験票を出したあと、かばんに戻してはまた取り出し、周りの受験生を見て動けなくなるという場面です。昨夜まで解けていた問題を思い出そうとしても、「自分だけできなかったら」という考えが先に浮かびます。付き添う保護者も、励ましたいのに「昨日やったでしょう」と言ってしまい、お子さまはうなずいたまま黙り込みます。
高校受験が近づくと、勉強の内容に加えて、本番で力を出せるかどうかが心配になります。そこで「落ち着けばできる」と言われても、落ち着く方法が見えなければ困ってしまいます。必要なのは、安心できるまで待つことだけでなく、心配が残っているときにも使える小さな行動を用意することです。
不安がある日にも、問題の条件に線を引けた、次の設問へ移れた、相談したい箇所を残せた。こうした動きは、学習を続けるための手がかりになります。ここでは、心配と成績の関係を研究から読み取り、準備の段階と試験中の両方で使う手順を考えます。ご家庭も、お子さまを励ます言葉に加えて、何を一緒に整えるかを選んでみてください。

心配が準備と解答の間に入り込む
試験への不安を考えるときは、まず本人の言葉を具体的に聞きます。「数学が怖い」だけでは、何を支えるか決まりません。問題文が長いと読み始められないのか、間違いを見つけると全部だめだと感じるのか、試験後に家で結果を聞かれるのがつらいのか。似た表情でも、止まっている場所は違います。心配の内容と、そのとき実際に起きた行動を分けることが出発点です。
英国の最終学年の生徒325名を対象とした研究では、心配の強さが本番の低い点と結びつき、その関係の一部は、試験前に有効な対処方略を使うことの少なさで説明されました。また、日常的な学習上のつまずきから立ち直る力が弱いほど、この間接的な関係が強くなっていました(Putwainほか・2016)。英国で見られた関連だけでは日本の受験での因果を決められないため、心配を聞くときは、その前後にどの動作で止まったかも確かめます。準備の仕方や、つまずいたあとに試せることを相談する材料にしましょう。
ここでいう対処は、気合を入れることだけを指しません。学習場面に置き換えるなら、困っている単元を特定する、取りかかれる課題を選ぶ、質問する箇所を残す、といった行動として考えられます。たとえば「全部忘れた気がする」と思って問題集を次々に開き、どれにも取り組めない状態なら、心配に加えて、着手する課題が決まらないことも課題です。今ある教材のどの問題から始めるかが決まれば、次に試す行動が見えます。
本番を想像して怖くなり、間違いを確かめるのを避ける。すると苦手な箇所が曖昧なまま残り、その曖昧さがまた心配になる。このような場合は、「不安をなくそう」と考えるだけでは学習のどこを変えるか定まりません。一方で、答案を見て、知識が足りなかったのか、条件を読み落としたのかを区別できれば、取り組む内容を絞れます。これは、ご家庭や塾で観察するための整理の仕方です。
心配を聞いた後には、課題のどこを調べるかまで決めておきます。「時間が足りないのが怖い」なら、前回の答案で長く止まった問題を開きます。「覚えたことが出ない」なら、すでに学んだ範囲から短く答える問いを選びます。本人の訴えをそのまま書き留め、その横に確認する問題を添えると、次の授業で相談を続けやすくなります。
また、「立ち直る力が弱い」という言葉を性格の評価に使わないでください。間違えたあとに解説を読む、次に解く問題を選ぶ、講師に質問する。こうした具体的な動きに分けて考えれば、今どの助けが必要かを話せます。「もっと強くなって」では返事が難しくても、「止まったところに印を付けて見せてください」なら、行動の相談になります。本人を評価する言葉から、手順を確かめる言葉へ移すのです。
今日の練習に戻れる手順を作る
1. 心配と、今できる用事を分ける
最初の3分で、紙に「気になること」と「今日すること」の欄を作ります。気になることは短い言葉で構いません。「最初の問題が解けないかも」「途中で時間が足りなくなるかも」のように書きます。次の欄には、「最初に読む条件を決める」「途中で移る問題に印を付ける」など、自分で動かせることを置きます。気持ちをうまく説明する作文にする必要はありません。
「落ちたらどうしよう」のように、今日だけでは答えが出ない心配もあるでしょう。その場合は、無理に明るい言葉へ書き換えず、「今夜、保護者に心配だと伝える」「次の授業で学習の優先順を聞く」と、相談の用事に変えます。自分で解決できないことを、自分だけの課題として抱え込まないための欄です。書くほどつらくなるときは紙を閉じ、話せる大人に伝えてください。
ここで自分に確かめるのは、「今日することを、実際の動きとして言えるか」です。「頑張る」だけなら、まだ広すぎます。「英語の問題文で、何を答えるかを囲む」まで小さくします。書いた用事が多すぎるなら、今日の学習で試すものを1つ選びます。気になることをすべて片付けてから机に向かう、という順番にしなくて構いません。
2. 使い慣れた教材で、止まる場所を見つける
次の10分は、普段使っている問題集から、以前取り組んだ範囲の問題を選びます。初めから難しい問題だけを集めると、知識の不足と、心配で着手できないことの区別がつきにくくなります。まずは読める問題文、見覚えのある形式を使い、問題を読むところから答案を書くところまで、自分の動きを追ってみてください。解答は伏せ、途中の式や考えた言葉も残します。
手が止まったら、その位置に小さな印を付けます。数学なら、条件から式を作るところなのか、式はできたのに計算へ進めないのかを分けます。英語なら、単語の意味なのか、問われている内容なのかを確かめます。国語なら、本文に戻る場所が見つからないのか、答え方が決まらないのかを見ます。教材を替える前に、同じ問題のどこで止まったかを残すのです。
10分が来たら、正誤と一緒に「始めるまで」と「途中で止まったところ」を振り返ります。問題が解けなかったとしても、条件を読み取れたなら、その先から相談できます。反対に正解していても、何度も最初から読み直して疲れたなら、その読み方を見直す余地があります。正解数だけで練習の価値を決めず、自分が使った手順も確かめてください。
3. 手が止まったときの動作を短く決める
試験中のために覚える言葉は、短い方が使いやすいでしょう。たとえば「問われていることを見る、使える条件に印を付ける、最初の1行を書く」という順にします。問題文を全部理解し直そうとして止まったとき、まず何を探すかを決めておくためです。式を書く問題なら関係する数量を拾い、記述なら答えに必要な箇所へ戻るなど、教科に合わせて動作を選びます。
何も浮かばない場合の動きも用意します。問題番号に戻るための印を付け、次に取り組めそうな設問へ移ります。移った先では、前の失敗を採点し続けず、その設問が何を求めているかを読みます。あとで戻るときにわかるよう、どこまで考えたかを短く残しておくと、同じ箇所を探し直す手間を減らせます。本番では、答案や問題用紙の使用について示される指示に従ってください。
この動作を、先ほど印を付けた問題で試します。確かめるのは「気持ちが完全に落ち着いたか」よりも、「止まったあとに何か書けたか」「別の設問へ移れたか」です。うまく使えなければ、言葉が長すぎないか、最初の動作に必要な知識があるかを見ます。問題の解き方そのものがわからない場合には、気持ちの切り替えだけで補おうとせず、解説や講師の説明に戻ります。
途中で答えの間違いに気づいたときも、試す順番を決めておきます。まず、間違いが確かめられた箇所を見つけ、その先に影響があるかをたどります。答案全体を消して初めからやり直す前に、残せる式や読み取った条件がないかを見ます。訂正が大きくなりそうなら、いったん他の設問へ移る選択もあります。「間違えた」という事実と「もう全部できない」という予想を分け、今直せる箇所を扱ってください。練習では、訂正の跡も講師に見せる材料になります。
4. 見直しと休憩にも終わりを置く
解いたあとの5分は、間違えた問題を「知らなかった」「読み違えた」「途中で止まった」に分けます。複数に当てはまっても構いません。知らなかった内容は教科書や問題集の解説で確認し、読み違えた箇所には必要な条件を書き添え、止まった箇所には次に試す動作を残します。丸付けのたびに「自分は本番に弱い」と結論を出す代わりに、答案の事実で整理します。
そのあと5分ほど席を離れ、休憩にします。休憩中まで答案の点を数え続けるようなら、教材を閉じて置く場所を決めてください。戻ったら、新しい問題を増やす前に、今直した問題の最初の手順を説明してみます。時間の区切りは、ここで提案する練習の目安です。学校や塾の課題の量、その日の負担に合わせて短くし、終わりを決めたうえで始めます。
自分で確かめたいのは、解説を読んで納得したことと、自分で動けたことの違いです。「条件に線を引く」と言えても、実際にはどこに引くか迷うなら、まだ練習する箇所があります。答えを伏せ、どの条件を使うかを指で示してから書き始めます。そこまでできたら、練習の記録には「落ち着けた」だけでなく、「条件を選んで式を書けた」と残してください。
5. 少しずつ本番に近い条件を試す
短い問題で手順を使えるようになったら、次は15分程度のまとまりで、時計を見ながら取り組みます。過去問を使うときも、最初から全体を通すことだけにこだわらず、練習したい形式のまとまりを選べます。今回は時間の区切り、次回は複数の設問を行き来すること、と試す条件を絞ると、何が負担になったかを振り返りやすくなります。
始める前に、「詰まったらどの動作を使うか」「終了後に何を確かめるか」を決めます。終了後は、手が止まった箇所と再開できた箇所を照らし合わせます。時計が気になって何度も見たなら、次の練習では確認する区切りを決めます。見直しの時間が残らなかったなら、長く留まった問題を特定します。課題が見つかった日は、次の練習で変える点を選んだところで終えて構いません。
本番の持ち物や会場までの動きも、学習とは別の紙にまとめておきます。受験票をどこに入れるか、困ったとき誰に尋ねるかを、保護者と確認します。試験の制度や必要な手続きについては、自治体と志望校の最新の要項を保護者と確認しておきましょう。前夜に心配が増えたときは、その紙で確認できる用事と、今は答えの出ない心配とを分け、学習課題を際限なく追加しないようにします。
試験中に周りの筆記音が気になった場合には、他の人がどこまで進んだかを想像しても、自分の次の解答は決まりません。そこで、今開いている問題の番号と、答える内容を確かめる動作に戻ります。練習の際にも、集中できなかったことを責めるより、何を見れば再開できたかを記録します。体調が悪くて続けられないときには、一人で我慢する手順にせず、会場の指示に従って係の人へ申し出ます。解くための備えと、助けを求めるための備えを、両方用意してください。

塾は答案の動きを見て、家庭は休める土台を守る
個別指導では、お子さまが「本番が怖い」と話したとき、すぐに問題量を増やす前に、答案を書く過程を一緒に確認します。問題を読む、条件を拾う、解き方を選ぶ、書く、確かめるという流れのうち、どこで止まるかを見ます。講師の説明中はうなずけても、自分で始めると止まるなら、その間を埋める練習が必要です。理解の確認と、着手の確認を分けて扱います。
塾が持つのは、課題の難しさと量の調整、解き方の指導、試験中に使う手順の練習です。たとえば条件を選べない場合には、講師が最初から最後まで説明して終えるのではなく、本人が条件を選ぶところをもう一度確かめます。計算で止まる場合には、必要な知識を確認し、その知識を使う短い問題へ戻ります。「不安だからできない」という言葉だけで、教えるべき内容を見落とさないようにします。
声かけも、本人が次に動ける形へ整えます。「落ち着いて」だけではなく、「今は何を答える問題ですか」「使えそうな条件を指してください」と尋ねます。ただし、講師が毎回先回りすると、一人で使う手順の確認ができません。助けを入れた箇所を記録し、次には本人だけで始められるかを見ます。支えを減らす過程も、授業で確かめる内容に含めます。
進み具合は、点と気持ちを別々に記録すると整理しやすくなります。学習面は「問題文を読んで着手できた」「止まったあとに移れた」「戻って続きを書けた」といった行動で残します。気持ちは、本人が話せる範囲で「始める前がつらかった」「途中から取り組めた」などと言葉にします。無理に細かな数値へ置き換えたり、毎回前向きな感想を書かせたりする必要はありません。
家庭への連絡は、「止まった場面」「使った手順」「次に確かめること」「家庭にお願いすること」の順にすると、役割が伝わります。たとえば、文章題の条件を選ぶところで止まり、条件を囲んで式へ進めたので、次回は助言なしで同じ動きを確かめる、と伝えます。家庭には、解法の追加指導より、決めた時間で学習を終えられるよう声をかけてほしい、と依頼します。何を任せればよいかが具体的になります。
記録を比べるときは、問題の難しさや助言の有無も添えます。簡単な問題で再開できた日と、初めての難しい問題で止まった日を並べて、後退したと決めないためです。次に確認する際は、似た難しさの課題で、講師の声かけを減らしても動けるかを見ます。そこでまた止まれば、前に使えた手順へ戻して構いません。進み具合を見えるようにする目的は、本人を毎回判定することではなく、次の授業でどの助けを残すかを決めることにあります。家庭への連絡にも、その判断を短く添えます。
ご家庭が持つのは、食事や休息を取りやすい生活、必要な準備の確認、困ったことを話せる時間です。答案を細かく採点し直す役割まで引き受けなくて構いません。「何点だった」から会話を始める日ばかりにせず、「困ったとき、決めた動きを使えた」と尋ねてみます。本人が話したくないときは、「話せるときに聞くね」と伝え、次に相談できる機会を残します。
保護者自身が心配なときは、お子さまへの質問を増やす前に、塾へ確認したいことをまとめます。「今の課題の優先順」「家庭で声をかける場面」「次の見直しの時期」がわかると、家庭がその場で判断することを絞れます。お子さまが相談した内容を共有するときも、何を保護者へ伝えるかを本人と確認します。つらさを打ち明けたらすべての会話が監視に変わる、と受け取られない関わり方を考えます。
一方、眠れない、食事が取りにくい、登校や日常生活が難しいといった状態が続く場合は、学習の工夫だけで抱え込まないでください。思春期の不安症に対する心理療法をまとめた16研究・766名の分析では、主に認知行動療法を用いた治療によって症状の減少が示され、効果量はSMD 0.45、寛解率は治療側36%に対し比較側9%でした(Bakerほか・2021)。治療を受けた側でも、寛解したのは3人に1人強でした。この心理療法は塾で行う解答手順の練習とは別の支援です。専門的な支援は、本人の努力が足りないときの罰ではなく、困りごとを扱うための選択肢です。
塾が整えるのは答案上の動作や課題の時間配分であり、心理療法を実施したり治療の方法を指示したりする立場ではありません。生活への支障が続くときは、保護者と相談し、学校の相談担当者や医療機関につながる道を考えます。相談のためには、いつから、どの場面で、何が難しくなったかを、話せる範囲でまとめておくと伝えやすくなります。その間の学習は、課題の期限や量を再検討し、支援を受ける時間も予定に入れます。
不安への向き合い方で迷ったときの3問
Q1. 緊張していると口にすると、かえって不安が強まりませんか
「緊張している」と言ったこと自体を失敗にしないでください。言葉にできたなら、「どの場面が気になる」と短く尋ね、話せる範囲を聞きます。そのあとに、今できる準備を選びます。何度も気持ちを詳しく説明させる必要はありません。本人が「今は問題をやりたい」と言うなら、その選択を尊重できます。
反対に、明るく振る舞っていることだけで心配がないとも判断しません。本人の言葉と、学習や生活で困っている事実の両方を見ます。保護者は気持ちを言い当てようとするより、困ったときに話を聞く用意があることを伝えてください。
Q2. 本番に慣れるため、難しい試験を何度も受けるべきですか
何を練習するかを決めずに回数だけ増やすと、同じ困り方を繰り返したままになることがあります。まず、始めるところで止まるのか、難問から移れないのか、見直しができないのかを絞ります。その動作を短い課題で試してから、まとまった演習で使えるかを確かめます。
試験形式の練習をしたあとは、次の練習までに直すことを選びます。毎回すべての条件を厳しくする必要はありません。本人が何を試し、何を持ち帰るかを説明できる練習にしてください。つらさが強い場合には、負担のかけ方そのものを講師や相談先と見直します。
Q3. 「絶対に大丈夫」と励ましてはいけませんか
励ましたい気持ちは、そのまま伝えて構いません。ただ、結果を言い切る言葉だけだと、本人が「大丈夫と思えない」と話す余地が小さくなる場合があります。「心配なんだね。今できる準備を一緒に確かめよう」と、気持ちを受け止める言葉と具体的な用事を組み合わせてみてください。
励ます内容も、結果から行動へ移せます。「止まった問題に印を残せたね」「質問するところを決められたね」と、実際に見たことを伝えます。保護者が安心したいから前向きな返事を求めるのではなく、お子さまが次に相談しやすい会話を目指します。
心配を抱えた日にも、次の動作を選べるように
受験の不安に向き合う準備は、強い言葉を自分に言い聞かせることだけではありません。心配の内容を分け、問題のどこで止まるかを見つけ、そこから再開する動作を練習します。家庭は休める生活と相談の機会を守り、塾は課題と解答の手順を調整します。必要に応じて専門的な支援につながることも、その準備に含まれます。
今日は、使い慣れた問題で、手が止まった位置に印を残すところから始めてください。お子さまが一人で使えた動作と、助けが必要だった動作がわかれば、次の相談が具体的になります。受験準備の一歩は、答案に戻る最初の1行に刻まれます。
参考文献
- Putwainほか(2016)心配、試験前の対処方略、学習上のつまずきから立ち直る力と試験成績の関連。Educational Psychology。 https://consensus.app/papers/details/e226806605615ac8abbccd7773f6a4c1/
- Bakerほか(2021)思春期の不安症に対する心理療法のメタ分析。Clinical Child and Family Psychology Review。 https://consensus.app/papers/details/bf1fd213992c54eb8dd42b6d0981dfa1/





