勉強を続けた記録と、自力で解けた答案を分けて見ると、目標を直す箇所が定まります。取り組む課題と振り返る時刻を、今夜のノートに書き添えましょう。

目標を書くと努力は増えるが点は保証されない—目標設定の研究の本当のところ
目標を書いた紙と、目の前の答案がつながらない
よくあるのは、返却された成績表の封筒を開けたあと、手帳に書いた目標を見返して黙ってしまうという場面です。「毎日勉強する」と決め、実際に机に向かう日も増えました。それなのに、思っていたほど点が動いていません。お子さまは「目標なんて書いても意味がない」と感じ、保護者は「もっと高い目標なら頑張れたのだろうか」と考えます。同じ結果を前にして、次に何を変えるかが見えなくなります。
このとき、目標を捨てるか、さらに厳しくするかだけで判断を急ぐ必要はありません。取り組みが増えたことと、問題を自力で解けるようになったことは、別々に確かめられます。勉強を始めるところまでは目標が役立っていても、その先の練習が苦手の原因に届いていないことがあります。
高校受験の目標は、未来の得点を約束する紙ではなく、今日の選択を決めるために使えます。目標を書いたあとに何をし、何を見て直すのか。そこまで決めると、成績表は努力への判決ではなく、学び方を調整する資料として読めるようになります。

努力への効果と成績への効果を分けて読む
目標設定を考えるうえで、まず押さえたい研究があります。タンザニアの18,281名を対象とした無作為化比較試験では、自分で目標を決める取り組みによって勉強時間と自制は増えましたが、試験の点数に統計的に有意な上昇は見られませんでした。取り組みの効果は中位の生徒で大きいとも報告されています(Islam et al.・2024)。「目標を決めると行動が変わる」という期待と、「だから点も上がる」という期待を、ひと続きに扱わないための根拠です。
無作為化比較試験とは、取り組みを受ける側と比較する側への振り分けに無作為な方法を使い、取り組みの影響を調べる研究です。一方、ケニアの高校生380名を調べた研究では、学業の目標設定と成績の間に中程度の正の相関があり、相関係数はr=.55でした(Soi et al.・2026)。目標設定がよくできている生徒ほど成績も高いという関係が見られた、という意味です。この数字は、目標を書けば得点が55%上がることを表していません。
目標の記録には「実行したこと」と「自力で解けたこと」を別々に残してください。相関から目標設定の効果を決めることも、海外の実験から日本の高校受験での得点上昇を見込むことも避け、行動だけが変わった場合を記録で見分けるためです。答案を並べれば、目標を続けるか、取り組み方を直すかの相談ができます。
ここで、実際の勉強を順に分けてみましょう。目標を決める。取り組む内容を選ぶ。机に向かう。問題を解く。間違いの理由を確かめる。手助けなしで解けるかを試す。試験で出題された問いに答える。この途中には、目標を書くことだけでは処理できない作業がいくつもあります。「勉強時間は増えたのに点が動かない」というときは、この流れのどこまで進んでいるかを見る必要があります。
たとえば、「数学を頑張る」と決めて問題集を開いても、解答を写す時間が長く、式を自分で立てる機会が少ないなら、学習時間の記録だけでは式を立てる力を判断できません。「英語を毎日やる」と決めても、読める単語を眺めることと、必要な語を自分で書けることは異なります。取り組みを否定せず、何が増えたのかを具体的に見ることが出発点です。
目標には役割の違いもあります。「次の試験で目指す状態」は行き先を示します。「今週扱う課題」は進む範囲を決めます。「今日、何をどこまで確かめるか」は机に向かったときの行動を決めます。遠い目標だけでは、教材を開いたあとに迷う余地が残ります。反対に、毎日の課題だけでは、何のための練習かが見えなくなることがあります。行き先と今日の課題を、途中の目標でつないでおきましょう。
また、点数は自分の行動だけで直接決められるものではありません。問われる内容や、その日に解けた問題によって結果が変わります。「絶対にこの点を取る」と自分を追い込む前に、「問題文の条件を式に使えるようにする」など、取り組みの中で確かめられる目標を置きます。結果への希望は持ったまま、今日扱える部分をはっきりさせる考え方です。
今日の目標を、解いて確かめるところまで作る
ここからは、手元の教材とノートで試せる手順です。時間や問題数は、始めるときに迷わないための目安として示します。全部を一度にこなそうとせず、まずは苦手の気になる教科を選んでください。目標の立派さを比べる必要はありません。自分で読んだときに、最初の動作がわかる言葉にすることから始めます。
手順1 最近の答案から、扱う場所を選ぶ
最初の5分で、最近解いた答案を見ます。全部の間違いを並べず、「手が止まった問題」「解答を見ると理解できた問題」「正解したが説明できない問題」に印を付けます。それぞれが同じ苦手とは限りません。手が止まった問題なら、言葉の意味で止まったのか、使う式が浮かばなかったのかまで、短く書いてください。
次に、その中から今日扱う箇所を選びます。「文章題全部」では広すぎるなら、「何を文字で表すかを決めるところ」まで狭めます。「英語が苦手」なら、「文の主語と動詞を見つけるところ」のように、紙に残せる作業にします。選びきれないときは、解答の最初の説明がわからなかった問題を選び、わからない語や行を囲んでおきましょう。問題番号も添えれば、相談するときに同じ箇所をすぐ開けます。
手順2 結果・行動・確認を別の行に書く
ノートに、目指す状態、今日すること、最後に確かめることを書きます。たとえば、目指す状態は「文章題で条件を式にできる」。今日することは「教科書の例題を読み、数と関係をノートに書き出す」。最後の確認は「解答を閉じ、同じ関係を自分の言葉で説明して式を書く」です。こうすると、ページを終えることと、できるようになることを分けて記録できます。
「集中する」「本気を出す」だけでは、終わったときに達成したかを確かめにくくなります。気持ちの言葉を消す必要はありませんが、その隣に「設問の条件に線を引く」「途中式を残す」「間違えた語を書き直す」などの動作を添えてください。あとからノートを見て、実行したかどうかが判断できる形にします。
自分で選ぶ余地も残しましょう。扱う教科まで決まっている日でも、始める問題や確かめ方は選べます。「今日は計算から始める」「説明を声に出すのは難しいので、短い文で書く」と決めてもかまいません。誰かの言葉をきれいに写すより、自分が何をするつもりなのかを説明できる目標にしてください。
目標にする教科がいくつもあるときは、今日の記録では何を主に確かめるのかを決めます。数学も英語も理科も、すべてを「完璧にする」と書くと、終わりの判断がつきません。ほかの宿題に取り組む日でも、目標の確認に使う課題は絞れます。「今日は数学の立式を確かめ、英語は指示された範囲に取り組む」と役割を分ければ、計画全体を細かな目標で埋めずに済みます。
手順3 教材は用途を決めて使う
教科書は、必要な語句や考え方を確かめるために使います。例題を読んだら、どの説明が今の疑問に答えているかを指で示し、短く書き留めます。最初から章全体を読み直すのではなく、答案で止まった箇所と結び付けて開きます。説明の言葉そのものがわからないなら、その言葉を次の質問として残してください。
問題集は、目標に合う問題を解くために使います。同じページでも、計算を確かめたいのか、式の立て方を確かめたいのかで選ぶ問題は変わります。目標と関係の薄い問題をたくさん解いても、今回の目標を確かめる材料にはなりません。まず例題に対応する基本問題を選び、解答を見た問題には印を付けておきます。
返却された答案は、以前の自分と比べるために使います。点数だけを見るのではなく、前は空欄だった箇所に式を書けたか、同じ条件を見落としていないかを確かめます。教材を次々と増やす前に、教科書、問題集、答案にそれぞれの役割を持たせましょう。今日開く場所まで決まれば、始めるときの迷いを減らせます。
手順4 取り組みと確認の時間を分ける
次の15分は、選んだ課題に取り組みます。例題を読んでから基本問題を解く場合も、どこで解答を見たかが残るようにします。途中で長く止まったら、ただ待つのではなく、「この式になる理由がわからない」と書いて教科書に戻ります。時間内に終わらない問題があっても、止まった場所が残れば次に扱う材料になります。
そのあとの5分は確認に使います。解答を閉じて式を立て直す、使った言葉の意味を説明する、条件を少し変えた基本問題を解く。この中から今日の目標に合う方法を選びます。読み返して納得したかではなく、何を自分でできたかを記録してください。正解でも途中の理由を説明できなかったなら、「答えは合った、理由は要確認」と両方残します。
最後の3分で、取り組みと確認を別々に振り返ります。「予定の問題に着手した」「解答なしでは式を書けなかった」という組み合わせも、そのまま書いてかまいません。翌日の最初の5分には、その式をもう一度書いてみます。前日に理解したつもりの箇所を、次の取り組みの出発点として確かめるためです。
手順5 結果に応じて、次の目標を直す
確認までできたら、次は少し違う問いでも同じ考え方を使えるかを調べます。説明が途中で止まったら、扱う範囲を小さくし、止まった部分に対応する例題へ戻ります。着手できなかった場合は、いきなり問題数を増やさず、始める時刻と開くページが決まっていたかを確かめます。できなかった理由によって、直す場所を変えましょう。
予定が崩れた日のために、短い版も決めておくと使いやすくなります。「今日は答案の間違いを選び、わからない行に印を付けるまで」としておけば、次に何をするかは残せます。ただし、短い版を実行したことと、理解を確認できたことは区別します。「準備まで」「練習まで」「確認まで」のどこで終えたかを書けば、再開するときの位置がわかります。
週末には10分ほど取り、残した記録を見比べてください。見たいのは、目標を守れた日の数だけではありません。以前より自力で進める箇所が増えたか、解答を見る場所が変わったか、質問が具体的になったかも見ます。次の週の目標は、その記録から選びます。変化が見えない場合も、「もっと頑張る」で閉じず、問題の選び方や確認のしかたを直す材料にできます。
振り返りでは、条件もそろえてみましょう。昨日は解答を見ながら解き、今日は閉じて解いたなら、正解数が減っても単純に後退したとはいえません。比較する欄に「解答を見た」「途中で助言を受けた」などを書き添えます。前より難しい問題に進んだ場合も、そのことを残してください。数字だけを並べるより、どんな状態で解いたかを一緒に残したほうが、次に選ぶ課題を考えやすくなります。
別の日に同じ間違いが続いたら、「注意する」を目標に追加するだけで終えず、間違えた直前の動作を調べます。問題文の条件を使っていないなら、式を書く前に条件を列挙する。計算の途中で符号を落とすなら、どの行で変わったかをたどる。このように、反省の言葉を具体的な作業に置き換えます。自分で理由を絞れなければ、間違えた答案を残したまま質問することを次の行動にしてください。

塾は目標と答案の間を確かめ、家庭は生活を支える
個別指導で目標を扱うとき、塾が持つべきなのは、目標の数字を書かせて終える役割ではありません。お子さまが選んだ課題と、実際に解いた答案をつなげ、次の練習を具体化する役割です。「頑張ったのに伸びなかった」という報告を受けたら、何に取り組み、どこまで自力で進め、どこから助けが必要だったのかを、指導する側が一緒に確かめる必要があります。
まず、目標の大きさと現在地を照らし合わせます。「文章題を全部解けるようにする」という目標なら、条件の読み取り、文字の設定、立式、計算、答えの確かめ方のどこを先に扱うかを整理します。目標を小さくすることは、望む進路まで小さくすることではありません。今日の練習で扱える範囲を切り出し、どこから前に進むかを決める作業です。
課題の難しさの調整も塾が持つ部分です。解答を読んでも最初の説明がわからないのに、自宅で同じ難しさの問題を続ける計画になっていないかを確認します。反対に、すでに自力で説明できる課題だけを繰り返しているなら、別の条件でも使えるかを調べます。お子さまの努力不足という言葉で処理せず、教材の内容と学習の状態が合っているかを点検します。
ここでは、お子さま自身の判断も聞きます。「この課題なら始められそうか」「前回、どこから重く感じたか」を尋ね、必要なら選べる課題を提示します。自分で決めるといっても、何もわからないところから計画を全部任せる必要はありません。選ぶための情報と扱える選択肢を指導側が示し、選んだ理由を本人の言葉で確かめる形にします。
進み具合を共有するときは、「目標・実行・自力でできたこと・次の変更」という並びが使えます。たとえば、「条件を式にすることが目標。基本問題に取り組んだ。条件の書き出しはできたが、関係を式にする際に助言が必要。次回は関係を言葉で表すところから扱う」と伝えます。保護者は、努力を認める材料と、まだ支援が必要な箇所を同時に受け取れます。
この記録では、助けの有無を省かないことが肝心です。講師と一緒に正解した答案と、手助けなしで正解した答案は、その後に必要な練習が違います。「できた」という報告に、どんな条件でできたかを添えれば、家庭でも次に確かめることが見えます。毎回長い報告にする必要はありませんが、丸の数だけで理解したと扱わない記録にします。
また、試験の点が変わらないときには、授業内で確かめている内容と試験で問われた内容を照らし合わせます。練習した部分では解けたのか、時間がかかって途中で終わったのか、別の単元で失点したのかによって、次の目標は変わります。総得点だけを見て練習全体を取り替えると、すでに進んだ部分まで見えなくなります。答案のどこに変化があったかを、指導側が言葉にして返すことが必要です。
面談では、お子さまが望む結果と、指導側が提案する課題のつながりも説明します。「基礎をやりましょう」だけでは、本人には目標から遠ざかったように映るかもしれません。「この条件を読み取るために、まずこの語の意味を確かめる」と答案の箇所を示せば、戻る理由が具体的になります。本人が納得できない場合は、その疑問も聞いてから課題を決めます。計画を渡しただけで合意したと扱わず、次の授業で何を確かめるかを本人の言葉でも共有します。
家庭が持つのは、学習内容の採点者になる役割よりも、取り組める生活の条件を一緒に整える役割です。始める時間を確保できるか、食事や翌日の予定と無理なくつながるか、必要な教材が手元にあるかを確認します。保護者が毎晩すべての答えを見て、理解の不足まで見つけ出す必要はありません。内容への疑問は、印を付けた答案とともに塾へ渡せます。
声をかけるなら、「今日は目標に近づいたの」だけでなく、「自分でできたところを見せてもらえるかな」と具体的に尋ねます。うまくいかなかった日には、「どこで止まったか、次の授業で見てもらおう」と、次の確認先を示せます。お子さまが話したくないときは、その場で説明を求め続けず、記録を持参する約束だけにとどめる方法もあります。
塾と家庭の間では、計画を変える判断も共有しておきましょう。家庭からは、取り組めなかった時間帯や、課題に着手するまでの困りごとを伝えます。塾からは、課題の量や難しさをどう変えたかと、次回何を確かめるかを伝えます。「本人のやる気を待つ」という連絡だけでは、誰が何をするのかが曖昧なままです。動かせる条件をそれぞれが持つと、目標は家庭内の監視表にならず、指導を調整するための共通資料として使えます。
目標設定について迷いやすい3つのこと
Q1 高い目標を掲げたほうが、努力できますか
高い目標を掲げるかどうかだけで、日々の勉強の進め方までは決まりません。目指したい状態は率直に書き、その下に今日扱う課題を置いてください。遠い目標を見て動ける日もあれば、距離の大きさが気になって始められない日もあります。そんな日は遠い目標の価値を議論するより、最初の問題を選ぶところまで戻りましょう。
「今週はこの説明を自分でできるようにする」と近い確認地点を決めれば、今の取り組みを判断できます。近い目標が達成できたら、その先の課題を選び直します。高い目標を持つことと、今日できる範囲から始めることは、同じ計画の中に置けます。
Q2 目標を達成できなかったら、書き直してよいですか
書き直してかまいません。ただし、できなかった記録まで消さず、何を変えるかを残します。始める時間が取れなかったのか、課題が難しかったのか、確認に時間が必要だったのかで修正は異なります。「問題数を減らし、その分、式の意味を説明する時間を取る」など、次の行動が変わる書き直しにしましょう。
反対に、毎回達成できるように確認を省いてしまうと、理解の状態が見えなくなります。目標の達成印を増やすための変更ではなく、学習を進めるための変更かを考えてください。修正前と修正後を残すと、自分に合う量や取り組み方を相談しやすくなります。
Q3 自分から目標を書こうとしない場合はどうしますか
最初から立派な目標文を求めず、今困っている問題を選ぶところから始められます。「どの間違いなら先に直したいか」「解答のどの行なら質問したいか」を尋ねてみてください。選んだ内容を短く書けば、今日の課題の入口になります。保護者が望む言葉を言わせることより、本人が扱う課題を特定することを先にします。
何を選ぶか迷う場合は、塾で答案を整理し、候補を示す方法があります。書く欄を埋めることにこだわらず、まず選んだ課題を実行し、どこまでできたかを一緒に見ます。その経験を言葉にする形でも、目標と行動をつなげていけます。
目標の横に、確かめた事実を残す
目標を書いたあとに勉強が増えたなら、その変化は認めてよいものです。同時に、増えた取り組みが何をできるようにしたのかも確かめましょう。始められたこと、解答を見て理解したこと、自力で説明できたことを分けると、次に必要な支援が見えます。点数が思うように動かない時期にも、直す場所を具体的に選べます。
今日のノートには、目標だけでなく、確かめる問題と振り返る時刻も書いてみてください。計画どおりに進まなければ、その理由を次の計画に渡します。振り返りの欄には、明日の夕食後に今日の式を見直す、と書き足します。目標を書き終える時点で、努力の跡を読み返す約束も確定します。
参考文献
- Islam et al.(2024), Economics of Education Review. タンザニアの18,281名を対象とした目標設定の無作為化比較試験。 https://consensus.app/papers/details/a842007d670852d1b23cd85c51189b0c/
- Soi et al.(2026). ケニアの高校生380名を対象とした学業の目標設定と成績の研究。 https://consensus.app/papers/details/22fa6bd1df275bae935f7c73ca45cb7b/





