家では解けるのに本番で手が止まるときに備え、問題文の条件に印をつけるなど、緊張が残っていても試せる動作を整理しました。3週間前からの練習と前夜の声かけを通じて、親子で本番への備えを進められます。

テストで頭が真っ白になる子—不安の仕組みと前日の過ごし方
1. 前日の「まだ心配」を、勉強不足と決めつけない
よくあるのは、テスト前日の洗面所で、お子さまが歯ブラシを手にしたまま「明日、全部忘れていたらどうしよう」と立ち止まる場面です。保護者が「昨日は解けていたでしょう」と答えても、本人はうなずけません。歯磨きを終えた後も、終えたページを開き直し、同じ答えを確かめています。
家では解けるのに本番で頭が真っ白になる。そんな経験があると、次のテストでは問題の難しさに加えて、「また止まるかもしれない」という心配も抱えることになります。周囲には十分に準備したように見えても、本人にとっては、勉強を終える判断さえ難しい夜です。
ここで必要なのは、安心できるまで問題を増やすことだけではありません。何が心配なのかを分け、手が止まったときの行動を決め、前日に終える範囲を用意することです。緊張を感じながらでも、問題に戻る道筋を持てるようにします。
個別指導で不安への備えを考えるときは、追加の課題を選ぶ前に、本番のどの瞬間で困ったのかを確かめます。学習内容の不足と、取り組む場面での困難では、準備することが変わります。

2. 「頭が真っ白」の中身を分けて考える
「何も思い出せなかった」という言葉の中には、いくつかの困り方があります。問題文を読んでも意味が入ってこなかったのか、公式は浮かんだのに使い方を決められなかったのか、残り時間を見て途中の計算を飛ばしたのか。まず本人の言葉を、実際に起きた行動に近づけます。
たとえば、「最初の問題で迷った。周りが書いている音が気になった。遅れていると思って、問題を読み直せなくなった」という順序なら、最初のつまずきの後に心配が重なっています。これをすべて「覚えていないから」と説明すると、練習でも暗記だけを増やすことになってしまいます。
不安の仕組みを考えるときは、出来事、頭に浮かんだ予想、その後の行動を分けると整理しやすくなります。「答えがすぐに出なかった」は出来事です。「このまま全部できない」は予想です。「同じ行を何度も読んだ」は行動です。予想を事実として扱わず、次の行動を選び直す余地を探します。
「失敗したらどうしよう」と考えながら、問題の条件や解く順番にも注意を向けるのは、本人にとって負担のある状態です。説明するときは、「心配の確認と問題を解く作業が重なっていたのかもしれないね」と伝えられます。意志の弱さや性格に結びつけず、どこで作業が止まったかを一緒に見ます。
思春期の不安については、主に認知行動療法を含む心理療法が症状を減らしたというメタ分析があります(Bakerほか・2021)。症状を扱った分析の対象は思春期の766名で、定期テスト前の声かけの有効性まで示すものではないため、以下では日常の学習行動を整える教育上の工夫に範囲を絞ります。この知見から受け止めたいのは、不安をただ我慢させるのでなく、必要に応じて専門的な支援につなぐ視点です。
以下の手順は、日々の学習を進めるための工夫として提案するものです。本人の困り方に合わせて、問題を小さく区切ったり、迷った後の動きを決めたりします。「これで必ず緊張しなくなる」という約束ではなく、何があれば取り組めたかを確かめるために使ってください。
内容が身についているかも、別に確かめます。時間を区切らず、答えを閉じて解いても途中から進めない問題は、理解や練習を補う候補です。一方、落ち着いていると自分で説明できるのに、時間を意識したときに読み飛ばすなら、条件を拾う手順や時間の使い方も見直します。どちらか一方に決めつける必要はありません。
保護者が尋ねるなら、「どうしてできなかったの」より、「止まる直前は何をしていたの」が具体的です。本人が思い出せなければ、無理に答えを求めず、次の短い練習で一緒に観察します。本人にも説明できない経験を、後から整った理由にさせないことが、次の相談のしやすさにつながります。
また、不安があることと、毎回同じ失敗になることは別です。「緊張しているから今日は無理」と結論を出す前に、今なら読める問い、書ける式、選べる問題があるかを確かめます。気持ちの評価を続ける代わりに、目の前の作業を小さくするのが、ここでの出発点です。
3. テスト3週間前から、前日と本番の動きを準備する
3週間前:困る場面と、ひとりでできる範囲を確かめる
最初の日は10分を目安に、前回困った場面を紙に書きます。「開始直後」「難しい問題に当たった後」「終了が近づいたとき」のうち、思い当たるものを選ぶだけでもかまいません。横に「問題を読み直せなかった」など、止まった作業を短く添えます。点数や反省の長文は必要ありません。
次に、学校の範囲表、教科書、授業ノート、学校で使うワークをそろえます。まだ範囲表が出ていなければ、授業で扱ったところを仮の範囲として使い、配られてから修正します。不安になったときに探す教材を増やすより、解き方を確かめる場所を決めておくと、作業を始めやすくなります。
ワークから、授業で扱った基本問題を3問選びます。まずは時間を気にせず、解答を閉じて取り組んでください。解けた問題には「自力」、説明を見て進めた問題には「説明あり」、説明を読んでも困った問題には「質問」と書きます。正解したかだけでなく、どの助けが必要だったかを残す方法です。
「説明あり」の問題は、ノートや教科書で該当する箇所を探し、どこから考えればよいかを確認します。その後、説明を閉じて最初の1行を書いてください。「質問」の問題は、止まった行に印をつけ、先生に尋ねる候補にします。わからないところを抱えたまま、本番形式だけを繰り返さないようにします。
勉強の終わりには5分を使い、今日解いた中から1問をもう一度選びます。「答えを覚えているか」だけでなく、「なぜこの式を使うのか」「問題のどの言葉を手がかりにしたか」を声に出すか、短く書いて確かめます。説明が途切れたところが、翌日戻る場所です。
2週間前:小さな範囲で、時間と迷い方を練習する
基本問題に自力で取り組める範囲が見えてきたら、その中から短い練習を作ります。最初は10分程度を目安に、無理なく扱えそうな量を選んでください。実際の授業や本人の取り組みやすさに合わせて変えます。
開始前に、「問題文を最後まで読む」「求めるものに印をつける」「迷った問題には戻る印をつける」という動きを確認します。問題用紙への書き込みは、学校の指示に従ってください。家では、どこに何を残せば再開しやすいかを試し、自分に合う形を選びます。
途中で手が止まったら、まず今の問題で求められているものを読み直します。使えそうな条件が見つかれば、その条件だけを書きます。それでも進まなければ、戻る目印を残して次の取り組める問題へ移ります。「止まったら終わり」ではなく、止まった後にも選べる動きを用意しておくのです。
終了後の5分では、正答の数と一緒に、予定した動きを使えたかを確かめます。「条件に印をつけた」「次の問題へ移れた」「戻る問題を見失った」のように記録してください。全部を細かく分析する必要はありません。次回変えることを1つ選べれば、練習を閉じられます。
時間を区切った途端に強くつらくなる場合は、同じ条件を押し通さず、時間を測る練習をいったん外します。問題の量を減らし、終わった後にかかった時間だけ見る方法もあります。本人が相談できる余地を残しながら、内容の確認と本番の手順を別々に進めてください。
1週間前:自分の「止まった後の手順」を決める
ここからは、問題を解く順番と見直しの動きを確かめます。学校で示された出題形式や時間があれば参考にし、練習用の問題を選びます。情報がなければ、難しそうな形式を想像して増やす必要はありません。今ある範囲の中で、取り組める問題を見つける練習をします。
教科によって戻り方も変えられます。数学なら「わかっている数と求めるものを書く」、英語なら「指示を読み、文のどこを答えるか確かめる」、国語なら「問われた箇所と本文の対応を探す」といった形です。どれも一度に実行させず、本人が使えたものを残してください。
手順は、家で見る小さなメモにまとめます。「止まる→求めるものを読む→書ける条件を書く→難しければ移る」のように、動詞を中心にすると確認しやすくなります。これは練習用です。試験会場への持ち込みを前提にせず、学校の決まりに従い、普段の練習で思い出せる形にします。
この時期には、前日に見る問題も選んでおきます。ワークの中から、自力で進められる基本問題、間違いの理由を説明できた問題、最後に確かめたい用語を絞ります。前日の不安の強さで量を決めると終わりが見えにくいため、比較的落ち着いている日に終了地点を作っておきます。
予定どおり進まない日も、翌日に全部を上乗せする前に、残った内容を分けます。基本事項の確認が残ったのか、時間を区切る練習が残ったのかで、次にすることは異なります。基本事項が曖昧なら説明に戻り、内容は扱えるなら短い練習を予定し直します。計画の遅れを、そのまま本人の努力不足という評価にしないでください。
練習を変えた理由も、本人が読める言葉で残します。「昨日できなかった分」ではなく、「条件を読む練習をもう一度」と書けば、その日の目的を確かめられます。終わったときには、問題文の条件を拾えたかを自分で見ます。課題が減った日でも、確かめることが明確なら、何を準備したかを説明できます。
苦手な問題ばかり残っていると感じた場合は、すでに自力で解けた範囲も記録で見直します。未完成の部分と準備できた部分を同じ紙で確かめ、次に手をつける問題を選んでください。
前日:新しい課題を足す前に、終わりを決める
前日の確認は、選んでおいた範囲を20分程度で見直すなど、終える時刻と作業をセットにします。予定した問題を解き、間違いがあれば必要な説明を確かめます。さらに学習が必要な問題が見つかった場合も、今夜扱うものと、テスト後に戻るものを分けてください。
「今夜やらない問題」を決めるのは、本人だけでは難しいことがあります。そのため、塾や家庭では前日より前に、優先する基本事項を確認しておきます。前夜に初めて「もうやめなさい」と言うより、約束した範囲を終えたかという共通の基準で話せるようにします。
持ち物、翌日の時間割、出発の予定は、勉強と分けて確認します。筆記具や必要な提出物は一度そろえ、確認した印を残します。その後また心配になったら、最初から全部を調べ直す前に、何を確かめたいのかを言葉にします。勉強の心配と準備の心配を混ぜないための手順です。
心配が浮かんだときは、「数学が全部できないかも」とだけ書くのでなく、「計算で止まったらどうするか」と行動につながる問いに直します。答えは「途中式を1行ずつ書く」「進まなければ印を残して移る」など、練習で使ったものにします。新しい必勝法を探し続ける夜にしないことが目標です。
保護者からは「心配なんだね。明日は、止まったらどこに戻る予定だったかな」と短く尋ねられます。本人が確認を終えたら、勉強を閉じる予定を尊重してください。寝る支度に入ってから口頭で問題を出したり、忘れていないか試したりすると、決めた終了地点がなくなってしまいます。
当日:落ち着いたかではなく、何をするかを確かめる
試験の開始前には、周囲の進み具合を想像する代わりに、問題が配られた後の最初の動きを思い出します。指示を聞き、開始後に問題全体や解答欄を確認するなど、学校の進行に沿ってできる行動を選びます。緊張が残っていても、決めた手順を使ってかまいません。
途中で頭が真っ白になったと感じたら、練習した戻り方のうち、できるものを1つ使います。それも難しく、体調が悪いときには、我慢を続けず先生へ知らせてください。試験が終わった直後は、できなかった問題をすべて追いかけず、次の教科の準備や休憩へ切り替えることも予定に入れます。

4. 個別指導では、課題量だけでなく止まる過程を見る
個別指導でまず扱いたいのは、「不安が強い子」という大きな分類ではなく、本人が困る具体的な条件です。計算は進むのに文章題で止まるのか、答えが合っているか気になって消してしまうのか、時計を見た後から急ぐのか。同じ点数でも、確認する場所は変わります。
塾が持つ役割は、学習内容の整理、練習条件の調整、結果の読み取りです。範囲表と普段の解き方を照らし合わせ、自力で取り組める範囲と説明が必要な範囲を分けます。家庭に「もっと練習させてください」と量だけを渡すのではなく、何を確かめる課題なのかを明らかにします。
指導中は、答えを教える前に少し待ち、本人がどこまで自分で進めたかを見ます。すぐ説明すれば解ける問題でも、本番ではその助けがありません。「先生と一緒ならできた」と「ひとりで最初の1行を書けた」を分けて記録し、自宅で取り組む問題は後者を手がかりに選びます。
時間のある練習と、時間を意識する練習で違いがあれば、その差を本人にも伝えます。「焦りやすいね」で終えず、「残り時間を見た後、問題の最後の条件を読まずに書き始めた」と行動で説明します。次の練習では、その条件を確かめてから書くという変更を試せます。
進み具合を共有する紙は、項目を増やしすぎないようにします。「取り組んだ範囲」「自力でできたこと」「止まったところ」「次に試すこと」を短く残せば、家庭でも状況を追えます。不安があった日の記録も、できなかった印だけにせず、戻れた作業があれば一緒に書きます。
本人が「前より緊張した」と言っていても、問題を選び直して最後まで取り組めたなら、その行動は確認できます。反対に、落ち着いて見えても、解答を何度も見ながら進めていたなら、ひとりで解く準備は別に必要です。表情だけで準備の程度を判断せず、答案や取り組み方と合わせて見ます。
家庭が持つ役割は、約束した学習時間と生活の予定を整え、困ったときに話せる相手でいることです。教科の説明や誤答の分析まで毎晩引き受ける必要はありません。「今日はどの問題をしたの」より、「今日終える予定のところまで進んだかな」と聞くほうが、終了の判断を共有しやすい場合があります。
ただし、質問されること自体が負担になる日もあります。本人と相談し、記録を見せるだけの日、口頭でひと言伝える日など、報告の形を選んでください。保護者への説明が新たなテストにならないようにし、困っていることだけ伝えられる形も残します。
保護者が不安になった場合は、その心配を本人への追加課題に変える前に、塾へ確認する内容に直せます。「このままで大丈夫でしょうか」を、「基本問題は自力で解けていますか」「時間を区切ると何が変わりますか」にすると、具体的な材料で話せます。塾側も、単に安心を求めるのでなく、確認したことを返します。
テストの後は、点数に加えて準備した動きが使えたかを振り返ります。最初の問題を飛ばせた、条件を書き出せた、終了前に解答欄を見直せた。こうした行動を確認したうえで、学習内容の不足を次の計画へ戻します。点数が振るわなかったときも、すべてを不安のせいにして終えません。
学校との共有が必要な場合は、本人の意向を確かめながら、保護者から担任や相談先に具体的な困り方を伝えます。「試験が苦手です」だけでなく、「開始後に問題が読めなくなり、体調も悪くなる」といった内容です。配慮の内容は学校と相談し、家庭や塾だけで決めた方法を本番で使えると約束しないようにします。
不安が強く、眠れない、登校や食事に支障がある、つらさが続いている場合は、学習計画の調整だけで抱え込まないでください。学校の相談担当や医療機関などに相談する選択肢があります。塾では困り方や学習中の様子を整理し、相談時に伝えられる材料を用意できます。
5. よくある誤解Q&A
Q1. 「緊張しなくていい」と繰り返し伝えれば安心しますか
安心させたい気持ちは伝えてかまいません。ただ、本人が今も緊張しているなら、気持ちを変えることだけを目標にしないほうが話を進めやすくなります。「緊張しているんだね」と受け止めた後で、「最初に読むところは決めてあるね」と確認できる行動へ戻してください。
「これだけ勉強したのだから大丈夫」という言葉も、結果の約束として受け取られないようにします。「この問題は自分で説明できた」「昨日は止まってから次へ進めた」と、実際に確認したことを伝えます。本人がまだ心配していても、説得を続けず話を終えてかまいません。
Q2. 前日に不安が残ったら、納得するまで勉強させるべきですか
まず、具体的な未学習の内容があるのか、終えた内容を繰り返し確認したくなっているのかを分けます。前者なら今夜扱う基本事項を絞り、後者なら決めておいた終了範囲を確認します。「安心したら終える」だけでは、終わりを決めにくくなります。
保護者だけで突然打ち切ると、本人は心配を置き去りにされたと感じることもあります。前もって終える時刻と確認項目を話し、残った疑問を書く場所を作っておきます。翌朝に見るものも決めたら、それ以上増やすかどうかは、心配の強さだけを基準にしないようにします。
Q3. 毎日本番と同じテストをすれば慣れますか
本番に近い練習を入れる場合も、本人が何につまずくかを見ながら調整します。解き方がまだわからない問題を並べ、毎回時間切れになるだけでは、次に使える手順が残りません。まず自力で扱える内容を使い、短い範囲で解く順番や止まった後の動きを確かめます。
練習後に「どこへ戻れたか」を本人が言えるなら、その動きを次も試せます。負担が強ければ、問題数や時間の条件を変えてください。練習に耐えられたかを評価するのではなく、何を用意すると取り組めたかを、次の準備の材料にします。
6. 前夜までに、止まった後の道筋を手渡す
テストへの不安があるお子さまには、覚える内容とともに、迷ったときに使える行動を用意してください。3週間前に困る場面を整理し、小さな練習で戻り方を試し、前日は決めた範囲を確認して終える。その流れを本人が説明できるところまで、準備を具体的にします。
保護者が見る目印も、「もう心配していないか」だけでなく、「困ったときに何をするか決まっているか」に広げられます。相談の際は、点数と一緒に、手が止まった瞬間の様子を伝えてください。そこから、学習内容の確認と本番の動きの両方を組み立てられます。「迷ったら条件に線を引く」と言える本人の言葉が、本番で手を動かす支えになります。
参考文献
Bakerほか(2021). 思春期の不安への心理療法を検討したメタ分析. Clinical Child and Family Psychology Review. https://consensus.app/papers/details/bf1fd213992c54eb8dd42b6d0981dfa1/





