科学者が苦闘する話を読んだ高校生では、成功だけの話を読んだ群より学習によい結果が出ました。幼児の研究で測った粘り強さと、高校生の理科学習は分けて読みます。家では失敗のあとに何をしたかを本人の言葉でたどります。
「この人は天才だからできたんでしょう」。理科の教科書に出てくる科学者を見て、子どもがそう言います。偉業を紹介したつもりの保護者にとって、遠さだけが残る返事です。科学者の何を伝えるのでしょうか。完成した業績と、そこへ至る苦闘のどちらを教材にするかを、研究が比べています。
今回は家族の失敗談ではなく、科学者の人物像を学習内容として読ませた研究です。話を読んで励まされた感想だけでなく、理科の学習、物理の問題、難しい課題を続ける行動を見ます。伝記のよさをひとまとめにせず、どの話を誰が読み、何が変わったかを確かめます。
1. 論文を役割で並べる
Xiaodong Lin-Sieglerほか(2016)は、高校生に、科学者の知的な苦闘、生活上の苦闘、苦闘に触れない偉大な発見の話を読ませました。苦闘の話を読んだ群で介入後の理科学習が比較群より改善したと報告します。成績が低かった生徒で効果がより目立ち、科学者や話へのつながりを感じた生徒も多くなりました。人物紹介の内容を比べる中心の論文です。この比較の対象は402人の高校生です [1]。
Huang-Yao Hongほか(2012)は、高校生の物理学習で、科学者の苦闘、業績、人物の背景情報を付けない条件を比べました。苦闘の情報が科学者を努力する人として捉える見方、興味、時間を置いた概念の想起、複雑な問題を解く力を高めたと報告します。一方、業績の情報は科学者への見方に負の影響があり、興味や想起、問題解決には効果がありませんでした。成功紹介をそのまま励ましと扱わないための論文です。苦闘の情報を読んだ群はn = 90です [2]。
Amanda S. Haberほか(2021)は、幼児に科学者の絵本を読ませ、知的な苦闘や生活上の苦闘を含む条件では、業績だけの条件より課題を長く続けたと報告します。物語を読まない基準条件も設けましたが、ここで報告された比較は苦闘の条件と業績の条件です。高校生の教科学習とは異なる、粘り強さを測った論文として並べます [3]。
2. 成功の紹介だけでは何が抜けますか?
物理の研究で、業績を紹介した条件は背景情報を付けなかった条件に対して、興味や概念の想起、問題解決に効果がありませんでした。科学者への見方には負の影響もありました。この研究では、業績の紹介だけで興味が高まるという結果は出ませんでした [2]。
苦闘を紹介した条件は、努力して科学を進める人という見方につながりました。しかも対象は、物理でいま学んでいる内容を生み出した科学者の話です。人物の背景と教科内容の関係を持った教材として読まれています。好きな有名人の苦労話を聞くことと、同じ条件にまとめないようにします [2]。
家庭で読むときは、賞の名前を覚えたかより、何につまずき、どう取り組んだかを聞きます。これは話の読み方を確認する手順です。「あの科学者も苦労した、だから頑張りなさい」と結びを大人が先に決める前に、子どもが話のどこを自分の学習と結び付けたかを聞き取ります。
3. 理科の成績と粘り強さは同じ結果ですか?
高校生の研究は、話のあとに理科学習がどう変わったかを見ています。苦闘の話を読んだ群の結果がよかったことに加え、成績が低かった生徒で変化が目立ったと報告されています。この条件を消して、成績に関係なく同じ変化が起こるという説明にしないことが大切です [1]。
幼児の絵本研究は、難しい課題をどれだけ続けたかを見ています。課題を続ける行動と、物理の概念を思い出すことは、異なる測定です。読者が中高生の保護者でも、この違いを残したまま読むと、絵本の結果を受験の得点へ飛ばす誤りを避けられます [2][3]。
同じ苦闘という題材でも、研究が聞いた問いは違います。学習結果の改善、科学者への見方、課題を続ける行動という違いがあります。家で話を読み終えた場面でも、感想の言葉と実際の勉強の様子を別々に確かめるようにします。
幼児の研究では、業績の条件は受賞や評価を伝え、知的な苦闘の条件は成功までの間違いを伝えています。生活上の苦闘の条件も含め、話に何が書かれているかが違います。「科学者の話を読んだ」とだけ紹介すると、この違いが抜けます。教材の内容と比較相手を確かめてから、結果を読みます [3]。
生徒が科学者や物語とのつながりを感じた結果も、高校生の研究に含まれます。学習の改善とつながりの感覚を、別の結果として並べます。家の会話でも、「自分に近く感じた場面」と「教科で説明できる内容」をそれぞれ聞けば、感想の言葉を答案の代わりにせずに済みます [1]。
4. 失敗の場面だけを読めばよいのですか?
知的な苦闘の話は、間違えた科学者という紹介で止まっていません。失敗や問題に対し、努力を通じて乗り越えた過程を含みます。生活上の苦闘も、困難を乗り越えた話として提示されています。つらい出来事が書いてあるというだけで、今回の教材と同じにすることは避けます [1]。
物理の研究では、科学の知識を作る活動と科学者の苦闘が結び付いています。そこで家庭では、読み終えたあとに「途中で何を変えた?」を聞きます。本人が読んだ過程をたどる問いにします。科学者の努力を褒める言葉を大人が足すよりも、話にある出来事を本人がどう読んだかを確かめます [2]。
日本の家庭学習では、伝記の量より、いま学ぶ内容との接点に目を向けます。いま学んでいる内容と関係する人物を扱うなら、話と教科内容のつながりを確認します。教材に含まれる苦闘の過程を取り出し、本人が勉強でつまずいた場面の話も聞きます。読み物の感想で会話を閉じず、学習中の具体的な出来事へ戻ります。
【反証】この回が言えないこと
高校生に用いた教材の結果は、家庭で自由に選んだ伝記の効果を保証しません。幼児の粘り強さの比較から、中高生の成績の改善も言えません。また、科学者の失敗談なら内容を問わず効く、という結論ではありません。業績紹介に効果がなかった物理の所見も、人物紹介そのものが不要という意味には広げられません [1][2][3]。
実務——家でできる 3 つの確認
最初に、話の途中をたどります。うまくいかなかった場面と、そのあとに科学者がしたことを、本人の言葉で結んでもらいます。華々しい結末だけを言えたときは、途中へ読み戻します。
続いて、本を閉じて苦闘の過程を話す場を作ります。当塾が採用するアクティブリコールを、読んだ話の取り出しに使います。別の日に、その人物が学習内容とどう関係するかを聞き直すことを、間隔反復の場にします。
最後に、理科の問題で本人が止まった箇所を見ます。武蔵野個別指導塾の完全1対1では、人物への感想も、問題を解く途中の考えも講師が聞きます。「自分は天才ではない」で閉じた言葉の先に、解き直す具体的な箇所を置きます。
理科でつまずいた箇所を具体的に相談するなら、武蔵境の大学受験対策をご覧ください。
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よくある質問
Q. 科学者の受賞歴を教えるだけでも効果がありますか?
今回の物理の研究では、業績の情報に興味や概念の想起、問題解決への効果はありませんでした。苦闘を伝えた条件の結果と並べて読みます [2]。
Q. 小さい子の絵本の結果も中高生に当てはまりますか?
幼児の絵本研究は、中高生の理科学習への効果を調べていません。中高生の理科学習については、高校生を対象にした別の研究の結果を使って考えます [1][2][3]。
Q. 「努力すれば成功する」と言い聞かせればよいですか?
研究は「努力すれば成功する」と言い聞かせる効果を調べていません。高校生の研究が提示したのは苦闘を含む科学者の物語です。家庭では標語に置き換えず、話の出来事と勉強で止まった箇所を聞きます [1]。
出典
- Even Einstein Struggled: Effects of Learning About Great Scientists’ Struggles on High School Students’ Motivation to Learn Science(Xiaodong Lin-Sieglerほか、2016、Journal of Educational Psychology)
- How Learning about Scientists’ Struggles Influences Students’ Interest and Learning in Physics(Huang-Yao Hongほか、2012、Journal of Educational Psychology)
- Boosting Children’s Persistence through Scientific Storybook Reading(Amanda S. Haberほか、2021、Journal of Cognition and Development)



