心配が浮かんだ後に、条件を読み直す、印をつけて先へ進むなどの行動を短い演習で試します。気持ちの強さと答案上の動作を分けて残すことで、再開しやすい手順を選ぶ材料がそろいます。

本番の不安と向き合う—心配が点数を下げる経路と対処
会場の入口で足が止まったとき
よくあるのは、模試会場の入口で、周囲の受験生が開いているノートを見た途端、自分だけ準備が足りないように感じるという場面です。家では解けた問題まで思い出せなくなり、「最初から失敗したらどうしよう」と考えます。保護者が「いつもどおりで大丈夫」と声をかけても、その「いつもどおり」に戻る方法が見つからないことがあります。
共通テストに向けて勉強を続けていても、本番の不安が残るのはつらいものです。努力しているからこそ、結果が気になります。ただ、心配が浮かぶたびに「自信が足りない」と自分を責めると、問題を解く前に、自分の気持ちを採点し始めてしまいます。
ここで準備したいのは、不安がある状態から、目の前の作業へ戻るための行動です。何を見直すか、どこでいったん離れるか、どう再開するかを、普段の演習で試します。「落ち着けたか」だけで練習を評価せず、「心配しながらも条件を読み直せたか」を確かめると、次に練習する内容が具体的になります。

心配が答案に届くまでの道筋を分ける
試験不安を考えるときは、心配の内容と、その後に起きた行動を分けてみましょう。「失敗したらどうしよう」という考えが浮かんだことと、問題文を途中で読むのをやめたことは、別々に記録できます。気持ちを直接変えるのが難しい日でも、読む場所を決める、条件を紙に書く、といった行動には手をつけられます。
試験の心配と成績の関係を調べた研究では、心配が強いほど本番の点が低く、試験前に使う対処方略の少なさが、その関係の一部を説明していました。また、立ち直る力が弱いほど影響が強いという結果でした(Putwainほか・2016)。この結果から考えたいのは、心配の強さを尋ねることに加えて、困ったときの対処を本人が持っているかを確かめることです。
「対処方略」は難しく聞こえますが、ここでは、困った場面で取る行動の選択肢と考えてください。手が止まったら何を読むのか、解けない問題をどう扱うのか、演習後に何を調べるのか。その選択肢が「もっと頑張る」だけだと、すでに頑張っている受験生には次の一手が見えません。「問いの最後を読み、求められているものに線を引く」まで具体化して初めて、実行する行動になります。
もう1つ注意したいのは、不安のある人が皆、同じ困り方をするわけではないことです。試験不安への対処の型は、完璧主義の強さによって異なることが報告されています(Genc・2022)。たとえば指導を組み立てる際にも、答えを何度も確かめて進めない人と、間違いを見るのがつらくて採点を先延ばしにする人に、同じ課題を渡してよいかを考える必要があります。この例は、自分の行動を見分けるための問いとして使えます。
Putwainらが対象としたのは英国の最終学年325名、Gencが対象としたのは学生263名であり、これらの知見だけで日本の高校生一人ひとりへの対処の効果まで決めることはできません。そこで、研究を対処の選択肢に目を向ける手がかりにし、具体的な方法は自分の演習で確かめていきます。
心配から失点までの間には、観察できる出来事があります。設問から目が離れる、同じ行を読み続ける、確かめずに答えを変える、残りの問題を見ないまま粘る、といった動きです。それぞれに対して「問いを読み直す」「判断の根拠を書いてから変更する」「保留の印をつける」という練習を対応させられます。気持ちの名前だけで終わらせず、答案に現れる動きを探すのが出発点です。
一方で、知識が抜けているために解けなかった問題もあります。解説を読んでも意味がつかめない箇所は、学習内容の補い直しが必要です。答え合わせをして初めて「不安のせいだと思っていたけれど、この用語が曖昧だった」とわかることもあります。不安への対処と学習内容の確認を並べて進めることで、必要な練習を選びやすくなります。
短い演習で戻り方を練習する
まずは、今使っている問題集、解答解説、書き込み用の紙を用意します。新しい教材を増やすより、すでに扱った範囲から始めると、知識の不足と対処の難しさを見分けやすくなります。授業や自習の予定に合わせて短くして構いません。最初から全部を行う必要はなく、今日は心配を書き出すところまで、次は演習まで、と分けられます。
最初の3分で心配を行動に訳す
紙を左右に分け、左に「心配」、右に「そのときの行動」と書きます。「点が悪かったらどうしよう」だけでは、どの場面で対処するかが曖昧です。「最初の問題が解けず、同じ行を何度も読む」と、起こりそうな場面まで絞ります。右側には「求めるものを囲む。それでも方針が立たなければ印をつけて次へ進む」と書きます。
ここで書くのは、自分に向けた励ましより、目と手をどこへ動かすかです。「絶対にできる」と思えなくても、「設問の最後を読む」なら始められるかもしれません。心配がいくつも浮かぶときは、最近の演習で困った場面を1つ選びます。全部への備えを一度に作ると、使いたい手順を探す作業が増えてしまいます。
準備ができたかは、紙の左側を見て、右側の行動を自分の言葉で言えるかで確かめます。言いにくければ短くします。「読む、印をつける、進む」のように、手順の順番が見える言葉にしてもよいでしょう。その言葉が自分に合うかどうかは、次の演習で判断します。
次の10分で既習問題を解く
すでに学んだ範囲から、短い問題を選びます。始める前に、今回試す行動を紙の上端に書きます。途中で心配が浮かんだら、用意した行動へ移ります。不安を感じた回数をその場で数え続ける必要はありません。解き終えた後、どこで手が止まったかを思い出せるよう、問題の脇に小さな印を残す程度で十分です。
時間が来たら、途中でもいったん区切ります。採点前に「戻る行動を使った場所」と「使えなかった場所」を指で示してください。正答できたかとは別に、問いを読み直せたか、条件を書けたか、保留にできたかを確かめます。今回の目的は、心配のある場面で実行可能な行動を探すことです。正解でも行動を使う場面がなければ、その日は対処を試す機会が少なかったと整理します。
既習問題で答えを覚えている場合は、答えだけを書いて終えず、条件や根拠を書き添えます。記憶している答えに飛びつくと、手順を試したかがわかりにくくなります。問いのどの言葉を読んで、何を判断したかを残してください。問題集は、解けるかを測る道具に加え、困ったときの動作を練習する場所として使えます。
答え合わせの5分で止まった理由を分ける
解答解説を開き、止まった箇所を確認します。「知識が出てこなかった」「知識はあったが何から始めるか決められなかった」「心配が続いて設問を読めていなかった」のどれに近いか、短く書きます。複数が重なっていれば両方を書いて構いません。原因を1つに断定するためではなく、次の練習を選ぶためのメモです。
知識の不足が見つかったら、解説の該当部分を読み、閉じてから必要な用語や式を紙に戻します。方針が決まらなかったなら、解説の最初の一手を確認し、「この条件を見たので、この処理から始める」と書きます。読み始められなかったなら、次は問題文全体へ戻るのではなく、求めるものが書かれた部分だけを読む手順に変えてみます。
自分で確かめるときは、解説を閉じて同じ問題の入り口を再現してください。説明を見ながら「なるほど」と感じることと、自分で最初の行動を選べることを分けて扱います。再現できなければ、戻る場所が広すぎるのか、用語が曖昧なのかをもう一度調べます。この確認を終えたら、同じ問題を際限なく続けず、その日の練習を区切ります。
少し長い演習で保留と再開を試す
短い練習で行動が使えるようになったら、次の機会に20分程度の演習へ広げます。まだ解いていない問題を含め、既習範囲の中で、すぐに方針が立つものと迷いそうなものを組み合わせます。始める前に「方針が言えずに読み返していると気づいたら保留する」と、いったん離れる合図を決めておきます。
保留した問題には、戻るときの足場を残します。「条件の整理まで」「選択肢をここまで絞った」と一言書いておけば、戻った際の出発点になります。進んだ先でも心配が続くなら、新しい設問で何を問われているかを短く書きます。前の問題への考えが浮かんでも、手元の紙には今の問題の情報を増やしていく練習です。
演習後は、保留した場所へ戻れたか、戻ったときにどこから再開したかを確認します。保留が増えすぎたら、問題が難しすぎたのか、離れる判断が早すぎたのかを答案から検討します。反対に、同じ場所にとどまり続けたなら、保留の合図をもっと見つけやすい言葉へ変えます。
やり方を変えるのは一度に1つにすると、次の記録と比べやすくなります。たとえば、保留の合図を変えた回は、問題の難しさや演習の長さをなるべくそろえます。解きやすい問題へ替えたことと、対処を使えたことを混同しないためです。条件をそろえにくい場合は、「今日は既習問題が多かった」とメモに添え、その違いも含めて振り返ります。結果の良し悪しだけで方法を採用せず、どんな場面で使えたかを残してください。
答えを何度も変更する癖が気になる場合は、変更したくなった理由を短く書く練習もできます。「別の選択肢が正しそう」という感覚だけなのか、「問題文のこの条件を読み落とした」という根拠があるのかを分けます。根拠が見つかったら、その箇所へ戻って判断します。不安になった回数に合わせて答えを動かすのではなく、問題の情報に照らして変更する手順を作ります。
採点後は、変更した問題だけを見て、理由と結果を並べます。正解へ直せたかに加え、条件を読み直して判断したかを確かめてください。変更後に誤答した場合も、変更そのものを禁止するより、どの根拠を取り違えたかを調べます。見直しをしすぎる人にとっては、何を確かめ終えたら次へ進むかを決める練習にもなります。
練習の最後に次の一手だけ残す
ノートの末尾に「困った場面」「試した行動」「次に試すこと」を1行ずつ書きます。「不安が強かった。問いを囲むことはできた。次は保留の印も使う」という記録で十分です。気持ちが軽くならなくても、解く作業へ戻れたなら、その行動は次の候補として残します。逆に気持ちが落ち着いていても、知識の穴があったなら復習を予定に入れます。
翌日の短い演習では、前のメモを読んでから始め、同じ行動が使えるかを確かめます。使えなければ失敗と決めず、問題の種類や止まった場所の違いを調べます。紙に書いた指示が長かったなら短くし、使う場面が曖昧だったなら合図を具体化します。持ち込みのできない場面でも使えるよう、最後は紙を見ずに自分の手順を思い出せるか確認してください。
模試で試す際は、普段の練習から使う行動を選び、始まる前に頭の中で順番を確かめます。新しい方法をいくつも追加するより、使ったことのある短い手順を持っておく方が、何を試すかが明確です。試験中は会場の指示に従い、許された範囲で問題冊子などに目印を残します。準備用のメモを試験中に見られる前提にはせず、練習の段階から自分で思い出せる形に整えます。
試験が終わったら、その日のうちに覚えている場面を短く残し、細かな分析は答案や結果が手元にそろってから行います。「前半は戻れたが、後半は保留を忘れた」と書ければ、次は少し長い演習で保留を試す課題が見えます。試験直後の手応えだけで全部を評価せず、実際に取れた行動と答案を合わせて振り返ってください。

塾と家庭で持つ役割を明確にする
個別指導で扱いたいのは、不安の有無を繰り返し尋ねることより、本人が困った瞬間と、そのときの答案です。言葉では「全部だめだった」と表現していても、紙を見ると条件の整理までは進んでいることがあります。その続きで知識が足りなかったのか、判断に迷っていたのかを、一緒にたどる余地があります。
武蔵野個別指導塾の学習相談では、心配の内容だけで話を終えず、演習のどこで手が止まったかを確かめることを重視します。本人の説明と答案を合わせ、取り組む範囲、解説へ戻る箇所、再開するときの行動を整理します。「もっと自信を持とう」と伝えるだけでは、次の演習で何をするかが決まりません。練習に移せる言葉まで具体化することが必要です。
塾が持つ課題は、つまずきの分析と練習の設計です。用語や基本事項が曖昧なら補い、問題の入り口が見つからないなら、どの条件に注目するかを教えます。時間を区切った途端に手順が抜けるなら、短い範囲で同じ動きを試せるようにします。本人の気持ちだけに理由を求めず、課題の難しさや指示の量も調整の対象にします。
講師がそばにいると解けても、一人では始められない場合があります。そこで、声をかけた回数や内容にも目を向けます。「次は何を読むのですか」と尋ねれば動ける段階と、本人が自分で読む場所を選べる段階は違います。最初は講師と戻り方を確かめ、次は本人の短いメモを使い、その後はメモなしで試すなど、助けを減らす順番を考えます。
進み具合は、点数と行動を別の欄に残すと見やすくなります。正誤の欄には学習内容の到達を、行動の欄には「条件を書いて再開した」「保留後に戻れた」「答えを変えた根拠を説明した」と記します。これなら点が変わらなかった回にも、使えるようになった行動と、まだ補う知識の両方を話せます。
記録を本人に見せる際は、できたことを大きく飾るより、次に再現できる形で返します。「頑張れた」だけでなく、「迷った後に設問へ戻り、求めるものを囲めた」と伝えます。そのうえで、「次は同じ行動を、解いたことのない問題でも使ってみる」と次の課題をつなぎます。過去の自分の答案が、次の練習を選ぶ資料になります。
家庭が持つ役割は、本人が決めた練習を実行しやすい環境と、相談できる余地を整えることです。保護者が毎晩答案を分析したり、心配の理由を聞き出したりする必要はありません。「今日は話を聞いてほしいか、準備を手伝ってほしいか」と尋ねると、その日に必要な支えを本人が選びやすくなります。
たとえばお子さまが「模試が怖い」と話したら、すぐに結果を予測して励ます前に、「いちばん困りそうなのは始まる前、それとも解いている途中かな」と場面を確かめます。話したくない様子なら、その日は詳しく聞かず、相談したくなったときに時間を取れることを伝えます。不安を話した後に毎回長い指導が始まると、本人が話す内容を選びにくくなる場合も考えられます。
演習後に家庭へ伝える一言は、本人と選んだ再開の動作に絞ります。「問いを囲むと読み返しから抜けて再開できました」と伝えたら、家庭で同じ動作を試すかは本人と相談します。次の授業で別の問題でも使えたか確かめ、その結果を改めて知らせます。保護者には、本人が練習後に話し始めたときに聞いていただくよう頼み、連絡のたびに新たな声かけを増やさずに見守れる形を整えます。
共有する内容は本人とも確かめます。書き出した心配の文章をそのまま家庭へ渡す必要はなく、学習上の行動と次の練習に絞ることもできます。お子さまが何を伝えてよいと考えているかを聞き、支えに必要な情報を整理します。相談したことが自分の知らないところで広がる心配まで増やさずに済むよう、連絡の範囲も支援の一部として扱います。
不安で勉強に取りかかれない日が続くときは、演習量を増やす前に負担を確かめます。眠れない、食べられない、登校が難しいなど生活にも支障がある場合は、一人で対処の練習を抱え込まず、保護者や学校の相談窓口、医療機関などに相談してください。塾では学習面の調整を担い、必要な相談につながる余地を残します。
不安への対処で迷いやすい3つのこと
Q1. 不安が消えてから本番形式の練習をした方がよいですか
練習の始めやすさを、不安が消えたかどうかだけで決めなくても構いません。まず短い既習問題で、読む、条件を書く、いったん保留する、といった動きを試せます。長い演習が負担なら、扱う範囲を狭めて始めましょう。終えた後に負担が大きく残るときは、次の長さや難しさを調整します。
ただし、無理に怖さを強める必要はありません。わざと厳しい言葉をかけたり、失敗を想像し続けたりすることを練習の条件にしないでください。確認したいのは、今の負担の中で使える行動です。短い練習でも始められないときは、困っていることを身近な大人に伝えるところから進められます。
Q2. 心配を紙に書けば、それだけで点が上がりますか
ここでの書き出しは、対処する場面と次の行動を選ぶために使います。書いたことを、そのまま得点の変化と結びつける必要はありません。「失敗が怖い」で終えず、「読み返しが続いたら問いを囲む」までつなぎ、演習で使えたかを確認します。書くほど考えが広がってつらいときは、出来事と行動だけの短いメモに変えても構いません。
また、対処を使えたのに誤答した場合は、解説へ戻って知識と解き方を確かめます。心配への備えと、教科の学習はそれぞれ必要です。気持ちが整えば準備が終わると考えず、答案から次の復習も選びましょう。
Q3. 保護者は「大丈夫」と言わない方がよいのでしょうか
その言葉に安心するお子さまもいるため、言葉を一律に禁止する必要はありません。本人が困っている場面に、もう少し具体的な応答を添えられるかがポイントです。「最初の問題で止まるのが心配なのだね。練習している戻り方はあるかな」と尋ねれば、話が行動につながります。
反対に、今は方法を考えるより聞いてほしいこともあります。「今は聞くだけでよいかな」と確認してもよいでしょう。保護者が毎回正しい助言を用意する必要はなく、方法の検討を塾で扱うと決めることもできます。家庭で話すたびに課題が増えないよう、助言を終える区切りも意識してください。
不安のある日の自分にも使える準備を
本番への心配が残っていても、準備の手がかりは見つけられます。どの場面で止まり、何をすると作業へ戻れたか。その記録をもとに、次の短い演習を選んでください。使えた行動があれば残し、使いにくければ言葉や手順を変えます。
今日行うことは、今使っている問題を開き、心配しそうな場面と、そのときの行動を紙に書くところからで十分です。保護者は、その行動を本人が話したときに耳を傾けられます。不安を感じたときにも読む条件が決まっていれば、その箇所へ目を戻せます。心配を抱えたまま再開できた経験こそ、本番へ持っていく対処の土台になります。
参考文献
- Putwainほか(2016)Educational Psychology. https://consensus.app/papers/details/e226806605615ac8abbccd7773f6a4c1/
- Genc(2022)https://consensus.app/papers/details/ac82445602fe54559cc5ccd5cba07aed/





